5、検死 立ち合い 皇帝の剣
「覚えていて頂き、光栄です。」
僕は敬礼した。
班長がみんなに僕を紹介した。
「そうそう、ごめんなさい、シセ。
この資料が抜けてたの。」
彼女は助手から書類を受け取り、
師団長に渡した。
書類にさっと目を通しながら師団長は言った。
「ありがとう。
神帝もきっとお喜びになるだろう。
ミオ、神帝の生誕祭の式典には
君も必ず出席するように。」
そして師団長は僕に近づき話かけた。
「マサ兵長。最高親衛隊のナンバーは
数席分空いている。
そこには10未満の数字持ちでも
実績を挙げれば登用される。
数字の6を持ち、
新たな帝国の歴史を刻んだ若き君にも
チャンスは充分にある。
日々励みたまえ。」
師団長は僕の肩をポンと軽く叩いた。
僕は再敬礼する。
師団長の言葉に心が震えた。
彼の言葉には心を揺り動かす力がある。
「ヒカ、君にも同じことを
ずっと言っている。
待ってるぞ。
また落ち着いたら飲もう。
君は酒なしだけどね。」
にこやかな笑みを見せて、
師団長は部下を連れ颯爽と立ち去っていった。
「シセとミオは同郷の同期なんだよ。
ミオは年下だが、シセは同じ年の幼馴染だ。
仲間内で会った時は、タメ口が許されてる。」
班長は僕に耳打ちした。
「検死は終わってるわ。
中に入って一緒に確認して。」
師団長を見送った後に、先生は言った。
僕らは検死室に向かった。
「例の容疑者はちゃんと見張ってたの?」
先生が歩きながら班長に聞いた。
「もちろんだ。
だがヤツは犯行の日、
俺たちの尾行を完全に巻いた。
まるで、こちらの情報が筒抜けのようにだ。」
班長は悔しさを滲ませていた。
検死室に着くと2体の遺体が横たわっていた。
先生が死体を前に説明を始めた。
「二人の手首、足首、
首元に紐で固定されたが痕があるわ。
この索状痕の深さを見ると、
相当踠いてるわ。
頭部の血の固まりを見ても、
多分二人は生きたまま、頭の皮を剥がれ、
頭蓋骨を切り取られ、
脳を入れ替えられたと思う。」
「‥‥‥」
僕は言葉を失った。
「でもね、今回はちょっと疑問があるの?
この頭蓋骨の切り取りは、
中の脳を移す目的で
中の脳に傷を負わせず、
そのまま頭蓋骨のみを切り剥がしている。
相当高度な技術がいるはずよ。」
「高齢の元提督は死期が近いらしい。
息子のヤツは、
何人もの医者を毎日入れ替わりで
屋敷に招いている。協力者がいるのかも。
ありがとう。
その線からもあたってみる。」
「実は、今度私も神帝の勅命で
元提督の屋敷に診察に行くの。
調べてあげるわ。
それと帝国医師学会でも探りをいれる。」
「ありがたいが、ミオは帝国の宝だ。
ゾロ目とはいえ無茶な事はしないでくれ。」
班長は言った。
帰り際に、広い中庭を通った時、
突然先生は僕を見て言った。
「ヒカ、このところ身体が少し鈍っているの。
ちょっとだけ、この子と立ち合っていい?。
帝国初の6の数字持ちの能力も気になるの。
これも研究よ。」
「そうだなー、少しならいいだろう。
まー俺も、こいつの実力を見てみたいと思ってた。
でも新人に怪我させないように
お手柔らかに頼むよ。」
班長は、あっさり了承した。
僕は慌てた。
「申し訳ございません。
私は本日配属されたばかりで
実践経験もありません。
とてもお相手できるとは思いません。」
「大丈夫。武器は使わないわ。
安心して。」
彼女は白衣の前ボタンを外し、
マントのようににひらめかせた。
ゾクっとする美しさだ。
白衣の下は、
胸元が空いた身体のラインがわかる服で、
長い素足が見えていた。
もう断りきれない。
僕は先生と向き合った。
対峙した瞬間に
先生が僕より圧倒的に強いことが
否応なしに分かる。
彼女の構えには全くの隙がなく、
そのオーラに圧倒された。
これが、最高親衛隊のゾロ目!
その時、彼女の目がキラッと光って風が流れた。
その瞬間、
僕はまた、
あの感覚に陥った。
全ての動きがスローに見える。
彼女は、一気に踏み込み距離を詰める。
そして反転しながら僕の顔に向かって、
いきなり右の上段回し蹴りを放ってくる。
僕は単純に一歩下がり、それをなんとかかわす。
彼女は、振り切った脚の勢いで
くるっと回転し、
振り返ると同時に左脚から踏み切り、
空中で右脚に入れ替え
右上段飛び回し蹴りを放つ。
僕は、また一歩下がって鼻先で何とかかわす。
彼女は着地と同時に更に速く、
白衣をひるがえしながら
くるっと回転して飛び跳ね、
もう一度右上段飛び回し蹴りを連続で放つ。
速い。
今度の彼女のステップは
的確に僕との間合いを調整している。
避けきれない。
しかし僕には、
彼女の蹴りの軌道がゆるりと見えた。
僕はピンポイントで肘の一番硬い部分を、
彼女の素足のスネの部分に角度を合わせて受ける。
鈍いコツって音が聞こえた。
「痛っ!」
彼女がうずくまった。
「えっ?」
瞬間、集中力が切れる。
「なんてねっ。」
うずくまったところから
反転し背を見せたかと思ったら、
彼女は近距離で下から伸び上がるような
強烈な後ろ蹴りを僕の腹に放った。
僕は5、6メートル吹っ飛んで、
うつ伏せの状態で地面に着地した。
「ミオ、手加減しろと言ったはずだ。
お前大丈夫か?」
班長が僕のところに飛んで来た。
「ヒカ、大丈夫よ。見えなかったの?
私の蹴りは入ってないわ。
彼は自分で後ろに飛んだのよ。」
「えっ、本当か?」
班長は信じられないといった表情だった。
僕は軽く頷く。
彼女は僕に近寄り顔を覗き込んで言った。
「君は武術の心得があるの?」
「訓練所での基礎訓練しか受けていません。」
「そう、君センスあるわ。」
そして助手に向かって言った。
「そうだウミ。彼に剣術を教えてあげたら?
彼、すごく強くなるかも。」
「私の剣は一子相伝。神帝親族以外の
他人には教えられません。」
ウミと呼ばれた若い女性の助手は答えた。
「そうだったわね。」
先生は笑った。
「ヒカ、いつもの薬は用意してあるわ。
ウミに貰ってね。じぁ私は研究に戻るわ。」
「ああ、助かるよ。ありがとう。」
先生はウミと呼んだ助手を残して立ち去った。
「薬って、どこか悪いところがあるのですか?」
僕は少し心配して、班長の顔を見た。
「まあ、大したことない。
気にするな。」
班長は笑って、そう答えた。
それから、助手のウミは建国の四勇者の家系。
彼女の祖父は、
初代最高親衛隊隊長で皇帝の剣の通り名を持つ、
神帝の剣術指南役だったと教えくれた。
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