3、別れ 出立式 配属
予感は当たっていた。
次の日になっても、
アサのよそよそしさは変わらなかった。
僕の胸はキューと締め付けられ、
切ない声をあげていた。
出会ったばかりだが、
僕は本当に彼女のことが
好きなのだと悟った。
僕はしっかり想いを伝えようと、
生まれて初めての告白をした。
「僕らの出会いは
普通じゃなかったかもしれないけど、
‥僕はアサの事が好きだよ。
これからも、ずっと付き合って欲しい。」
「ありがと‥」
アサの言葉は、それだけだった。
彼女は良いとも悪いとも返事はしなかった‥
そして僕のことを避けた。
同郷の3人には、アサのことを相談した。
「きちんとフラなかったのは、
彼女の優しさかもよ。
多分、純粋なマサを傷つけたくなかったのよ。」
ミホが言った。
「そうゆうこと。
元気出せよー。
世の中、いい女はたくさんいるぜ。
例えばミホとか。」
トシはいつも笑わせてくれる。
出立の日、
その日も美しい朝だった。
ムードメーカーのトシには、
数日で、たくさん友達ができていた。
別の訓練所に移動する同期の多くが、
トシに一声かけていた。
彼の人たらしの才能は本当にすごい。
ミホは同期の仲間から
既に帝国の女神様と呼ばれていた。
彼女の周りにも、たくさんの人が集まっている。
この後、彼女は最高親衛隊に入隊するが、
同時に士官学校にも入学する。
半年後に士官学校を卒業したら少尉になるそうだ。
そして一年以内には、
神帝と呼ばれる皇帝に謁見し騎士の称号を得る。
4人が揃ったところでトシが言った。
「俺たちは、全員生き残った選ばれし者だぜ!
訓練が終わって最前線に配属されても、
絶対生き残って、またみんなで集まろうぜ!」
僕ら4人は円陣を組んで気合いを入れた。
そしてお互いに笑いあった。
「整列っ!!」
教官の号令に空気が変わった。
僕は最前列の中央に並んだ。
出立式にて、
僕らの前に近衛師団長が立った。
彼は最高親衛隊隊長でもある。
初めて見る師団長は、
美しい翠色の目をした青年だった。
「諸君、まずは祝おう。
神帝の加護により、選ばれし者達たちよ。
しかし選ばれし者になったことが、
君たちの旅路の終わりではない。
ここから新たな始まりを迎えるのだ。
諸君、帝国の屋台骨となった者たちよ。
大義のため、共に戦う同朋よ。
我が背を預ける信頼の証しに、
我が名の真名を伝えよう。
我が名はシセ、真名はツテ。
シセ=ツテ、真名によってなす意味は、
至誠通天、誠に至り天に通じる者。
君たちは、もう二度と死を恐れる必要はない。
誠を尽くしたその魂は、
我が真名を持って必ず天に届けよう。
我らは神帝の名のもとに
大陸を統一する。
我らは神帝の名のもとに
戦乱なき平和な世を導く礎となるのだ!」
まさにカリスマ。
初めて会った新兵の僕らに、
聖なる真名まで明かした!
地響きのような歓声が上がり、
僕らは雄叫びをあげた。
演説が終わり師団長が
僕らに背を向けた瞬間、
僕の左横で風が流れた。
その時、僕は時間が止まったような感覚に陥った。
ろうそくの炎が揺らぐように、
全ての動きがゆらめく残像を残しながら
ゆっくりと見える。
同期兵の一人が師団長に襲いかかってる。
その右手に長い釘のような物を持ち、
師団長の首筋を狙っている。
師団長はゆるりと反転しながら、
左手で相手の腕を絡めて捌き、
そのままコマが回転するように、
相手の内側にすっと入り込み投げ飛した。
そして離さず掴んでいた
相手の右手を軽く引き上げ
浮かせた身体の肋骨に向かって蹴りを落とす。
さらに立ったまま相手の腕を軸に一回転し、
腕を完全にへし折りながら、
トドメに無防備な相手の顔面に向かって
二度目の蹴りを落とした。
師団長の動きを捉えた者は、
いったいどれだけいただろうか?
ほんの一瞬で師団長は、
剣を抜かずに刺客を完全に制圧した。
彼は人を殺すことに一切の躊躇がなかった。
「諸君、こういったことは度々起こる。
今回、敵の刺客は我を狙った。
しかし、もしもゾロ目を得ていたら、
騎士を賜る謁見式にて神帝を狙っただろう。
諸君、だが案ずるな。
君たちが訓練を受けている間に、
我々は君たちの身辺調査を厳格に行なう。
半年後に辞令によって共に戦う友は、
私の真名に誓い、真に選ばれし、
安心して背を任せ合う強い絆の同志である。
諸君、神帝は一代で国を起こし、
今や大陸の7割を治めている。
あの6年前の北部地方の大天災、
アマの山の大噴火が無ければ、
一気に大陸全土を治め
太平な世を迎えていただろう。
しかし今、再び準備は整いつつある。
決戦は近い。
諸君、楽な人生を追い求めるな。
与えらた力で帝国の為に
何ができるかを考えよ。
さあ、君たちの力を存分に示すのだ!」
再び大歓声が上がった。
半年後、
僕らは訓練を終え兵長に昇進した。
ミホを除けば、
ここまでが横一線で、
選択の日を乗り越えた者、
近衛兵になった者の特典だ。
これからは、自らの才覚や実績に
よって帝国軍での立ち位置も変わってくる。
そして僕らは配属辞令を受ける。
僕の配属先は最前線での直轄軍ではなかった。
近衛軍に籍を置いたまま、
僕は帝都警察部隊に配属された。
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