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異世界ギルドのレビスパーダ 〜最大積載量測定不能の馬鹿力はいかがですか?〜  作者: 亜菜 三丁
1章.ギルドの新人

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9.変身

「色々聞きにきました。けど、先に一つ聞かせてください。ニコレスさんはなんで防衛隊にいるんですか?」


 ツバキの問いはまっすぐだった。

 その視線を正面から受けると、ニコレスはスーツの裾をそっと整え、短く息を吸った。


「まだ君には教えていなかったね。普段はギルドで働いているが、防衛隊の養成学校に通っていたよしみで、数年前からここで研究もしている」

「研究員? それでいつもスーツ姿って事ですか」


 そう言ってみて、ようやく腑に落ちる部分があった。

 ニコレスがギルドの制服を着ているところを見たことがない。そして周囲も当たり前のように受け入れていた。

 知らないのは自分だけだったのかもしれない。


「あの、俺がここに来たのは、俺がというより、この子が理由です」

「ご無沙汰してます……リーゼ・ミュイといいます」


 ご無沙汰と言う。そしてその名を聞いた瞬間、ニコレスの表情が揺れた。


「……やはりそうだ。君、サリスさんとラナさんのお子さんだね?」

「は、はい。お久しぶりです」

「え? 知り合いなの?」


 ツバキは驚き、視線を交互に移す。

 訓練場に漂う緊張とは裏腹に、その会話だけは奇妙に日常めいていた。


「私から説明するよ。リーゼさんの両親とは研究で長い間お世話になっていてね。何度か見学に来たこととあったか。……どうりでここの結界に引っかからないわけだ」


 説明しながらも、ニコレスの視線はリーゼの表情を探るように揺れている。

 本人の喪失も知っているからだ。


「お二人のことは、災難だったね」


 その同情の一言で、空気が硬く凍りついた。


「……っ!? あ、あなたなら、何か知らないんですか? 私、それのためにこんなことまでしてるんですよ!」


 リーゼの声が震え、拳がきつく握られる。

 ツバキは隣でその魔力の波を感じ取り、言葉にできない痛みを覚えた。


「ニコレスさん。リーゼのご両親の死因について、何か知りませんか」


 情緒が安定しないリーゼに変わって、隣でツバキは冷静に問いかける。


「すまない……。その頃は研究の調査で海外にいたから、私も詳しくは知らされていない。出勤の道中で交通事故に遭ったと。知っているのはそれくらいだ」


 ニコレスのその言葉に、リーゼは愕然とした。

 嘘らしい緊張を感じられない。それが一瞬の迷いと困惑を生んだ。


「え……? 研究中の事故じゃ、ないんですか?」

「え?」

「電話で、私はそう聞いています」


 その場に沈黙が落ちた。

 やがて、ニコレスの表情が険しいものに変わる。


「……なにが、どうなっているんだ」


 困惑するニコレスを見て、ツバキは察さざるを得なかった。この事態の大きさと複雑さ、そしてその根源にいるであろう人物も。


「ニコレスさん。今の状況、何かおかしいと思いませんか? Z計画だって、何をするのか本当にわかってるんですか?」

「…………むぅ」


 ニコレスの視線が一度だけ彷徨った。

 魔力がなくとも、明らかな迷いがあるとわかる。責任感のある人物が二つも役職を抱えては、答えが出せないのも当然だ。

 そして、ツバキの脳へ覚悟が流れてきた。


「……ツバキ君」


 今度は、きちんと目を合わせる。

 宣告するように、ハッキリと口にした。


「私に自由に喋ってほしいなら、それなりの状況にしてもらわなくては困る」

「……それなりの状況? 何言ってんですか」

「簡単だ。私に勝て」

「え? そんなの、意味ないですよ」


 反射的に否定する。

 戦いにきたわけではない。

 しかしニコレスは、一切目を逸らさなかった。


「首を掴まれた大人は弱いものさ。君が打ち負かしてみろ」


 上司の虚な目を見た。

 この言葉を覚悟の証として受け取ると同時に、どこか助けを求めるような感覚も捉えた。


「こちらは全力でやらせてもらう」


 ニコレスは手にしていたアタッシュケースを静かに床へ置く。

 その中から溢れるのは、日頃感じることの少ない異様な魔力。リーゼはそれだけで身を強張らせ、ツバキはその危険さを皮膚で悟る。


「変な魔力だ……なんなんですか」

「平和を守るための力さ。……少なくとも、そう祈っている」


 ニコレスはベルト状の装置を取り出し、自らの腰へ巻きつけた。

 バックル中央の赤い石が、心臓のように脈打つ。


「……ベルト?」


 それはどこか懐かしい形をしていた。

 昔テレビで見た、変身ヒーローの玩具のような外観。しかし、そこに宿る魔力は玩具のそれではない。


「マナグナムドライバーだ。Z計画で得られたデータを元に開発したシステムさ」


 ニコレスの顔つきが変わった。

 研究員でも上司でもない、覚悟を決めた“戦士”の顔。

 ドライバーのバックル部分に手をかざすと、中心に埋め込まれた石が赤い光を放つ。

 次の操作を待つように無機質な電子音が繰り返され、彼女は右手をしなやかに顔の前構えた。

 そして口から息を吸い、声に出す。


「“変身”」


 短く揺るぎのない声。

 ドライバーのレバーを押し込むと、中心の石が回転し、ベルトは機械的な駆動を始めた。


「一体、何が起こるんだ……」

「……変身だよ」


 リーゼが息を呑む。

 ツバキは一歩も動かず、ただその変化を見届けた。

 ソニックウェーブが唸りを上げ、光の網が収束していく。赤い血管のようなものがバックルを中心に全身にかけて広がり、頭から足の先まで、全身を侵食していった。


「ニコレス……さん?」


 リーゼの目は悍ましい化物を見る目に変わっていた。

 それもそのはずだった。

 体は溶けるように硬質な物体へ変化し、マナグナムドライバーだけを残して、そこに人の姿はなかったのだから。

 大きな複眼が赤く発光し、変身を完了とした。


「セルディーと名付けられている。防衛隊の、この国の、最高戦力とされている」


 装甲に覆われた身体。

 棘のようなフォルム。

 赤い複眼から流れる黒いラインが、壊れた顎のような部分を指し示す。

 息づくたびに微かに空気が唸る。


「それが、ニコレスさんの変身ですか……」


 ニコレスのしなやかな体はそこにはない。

 刺々しい装甲に変わった姿は、よく知る仮面の戦士というよりも、もはや怪人と呼ぶに相応しかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

セルディーのデザインは、子供が見たら泣くレベルの悍ましさを意識してます。


もし続きが読みたいと思っていただけたら、評価やブクマ、感想などをいただけると励みになります。

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