おいしいの基準
「それで、みんなでアイディアを出し合いましょう!」
ブレッドの呼びかけに、モヒカン三人衆が集まった。
ちなみにモヒカン三人衆の名前は全員似ている。
リーダー格のモブ、そしてモバとモボ。
昨日完成した「まっくろパン」。
ただの黒い丸パンでは寂しい。具材を挟むなど、工夫が必要だという結論に至ったのだ。
「あ、そうだ。実は黒オオトカゲさんの肉も少し持って帰ってたんです」
ブレッドは嬉しそうに、腰の魔法袋から黒光りする肉の塊を取り出した。
「おお...これは...」
モブが固まる。
黒龍の肉、普通なら国宝級の食材だ。
「これを使って何か作れないかなって」
「サンドイッチとかどうですか?」
モバが提案する。
「あ、それいいですね! じゃあ早速作ってみましょう!」
◇◇◇
調理場で、ブレッドがパン作りを始める。
モブは少し離れた場所から、その工程を注意深く観察した。
(生地をこねる手つき...悪くない)
(発酵の時間...問題なし)
(成型も...普通だ)
(焼き加減も...特におかしいところはない)
工程に問題は見当たらない。
むしろ、基本に忠実で丁寧な作業だ。
「できました!」
ブレッドが焼き上がったパンを取り出す。
見た目は...普通だ。特に問題はなさそうに見える。
「モブさん、味見お願いします!」
「あ、はい...」
モブは緊張しながらパンをちぎって口に運ぶ。
「...」
味は、微妙だった。
焼きが甘く、生地のバランスも悪い。
工程は完璧なのに、なぜかまずい。
「ど、どうですか?」
「その...まあ...」
モブが言葉に詰まっていると、ブレッドも一口食べた。
「うん、おいしい! ちゃんとできてますね!」
「...え?」
モブは目を丸くした。
今、姉御は「おいしい」と言ったのか?
「姉御...本当に...おいしいですか」
「はい! とってもおいしいですよ?」
ブレッドは満面の笑みだ。
(まさか...味覚が...?)
モブの脳裏に、ある仮説が浮かんだ。
「姉御、ちょっと実験させてもらってもいいですかッ?」
「実験?」
「同じ材料で、俺がパンを作ってみますッ」
◇◇◇
モブが同じ材料で、同じ工程でパンを焼き上げた。
「姉御、お前ら。食べてみてくれッ」
三人が同時に一口食べる。
「「「めちゃおいしい!!!」」」
三人の声が揃った。
モバとモボは当然として、問題はブレッドだ。
彼女もまた「おいしい」と言っている。
「姉御...さっき姉御が焼いたパンも、おいしいって言ってましたよねッ?」
「はい、おいしかったですよ」
「じゃあ、俺が焼いたこのパンは?」
「もちろんおいしいです!」
モブは確信した。
(姉御は...自分の作ったパンがまずいことに気づいていない)
いや、正確には気づけないのだ。
おそらく、味覚センサーがおかしいのではないか。
「パンは出来たので、中身作りましょう! ベーコンとかいいかな!」
「あ、はい...」
モブは複雑な表情で頷いた。
◇◇◇
ブレッドは黒龍の肉を薄く切り、塩を擦り込み、燻製にする作業を始めた。
モブたちは期待していなかった。
パンがまずいなら、料理もまずいはずだと。
しばらくして。
「できました! 黒オオトカゲさんのベーコンです!」
ブレッドが差し出したベーコンを、恐る恐る口に運ぶモブたち。
「「「っ!!!」」」
「「「うっ、うまいッ!!!」」」
「「「めちゃくちゃうまいッ!!!」」」
驚愕だった。
パンとは打って変わって、滅茶苦茶美味い。
塩加減、燻製の具合、全てが完璧だ。
「本当ですか! よかった!」
ブレッドは嬉しそうに笑う。
モブは混乱した。
(パンは下手なのに、料理は上手い)
(一体、何が違うんだ)
しかし、今は考えている場合ではない。
「姉御、お願いがありますッ」
「はい、なんでしょう?」
「パン作りは...俺に任せてもらえませんかッ?」
「え?」
ブレッドが驚いた表情を浮かべる。
「姉御には、新作パンの開発に専念してほしいんですッ」
「新作の...開発...?」
「はいッ! 姉御の料理の腕は確かですッ。ベーコンもそうだし、きっと他の具材も素晴らしいものが作れるはずですッ」
「でも、パンは...」
「パンは俺が焼きますッ。姉御は具材の開発をお願いしますッ。その方が、お店のためになると思いますッ」
ブレッドは少し悲しそうな顔をした。
「...でも、私のパン屋なのに...」
「姉御ッ!」
モブは真剣な表情で言った。
「姉御のパンは...確かに特別ですッ。でも、お店を繁盛させるには、役割分担が必要」
「姉御は最高の具材を作る。俺はパンを焼く。それで、最高のサンドイッチができるんです」
ブレッドはしばらく考え込んだ。
そして、ゆっくりと頷いた。
「...わかりました。モブさんたちを信じます」
「「「ありがとうございますッ!」」」




