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パン屋開業します!え、いつもの食材たちが最強モンスター?なわけないっ(笑)  作者: もがみなち
まっくろパン ~黒トカゲのベーコンサンド~

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森のくまさん

「え、ごめんなさい。急いでたので」


栗毛のショートカットの少女――ブレッドは軽く謝罪すると、倒れている三人の冒険者に目を向けた。

彼女の背には、黒光りする巨大な卵が担がれている。


「お仲間ですか? かなりの重傷ですね」


「あ、はい...! リリアとノエルとアリアが...!」


ステラが指差す先には、血まみれで倒れている三人の女性冒険者がいた。

リリアは銀髪のヒーラー。回復魔法の使い手だが、自分自身を癒やす余裕もないほどの重傷を負っている。

ノエルは黒髪の魔法使い。攻撃魔法でパーティを支えていたが、キングベアーの一撃で意識を失っていた。

アリアは茶髪の弓使い。すばしっこさが持ち味だったが、逃げ切れずに腹部を裂かれていた。


「このままじゃ...!」


「大丈夫ですよ」


ブレッドは懐から小瓶を三つ取り出した。

中には透き通った青い液体が入っている。


「え、それって...」


「パン開発のついでに出来た回復ポーションです。実家でいろいろ試作してたらできちゃって」


ブレッドはあっけらかんと言う。


「すごく効くので、これ飲ませれば大丈夫だと思います」


「え、えっと...」


ステラは小瓶を見つめた。

この透明度、この輝き、そして漂う魔力の密度。


(これ、エリクサーじゃ...!?)


「はい、あーんしてくださいね」


ブレッドは躊躇なく三本のポーションを三人の口に流し込んでいく。

数秒後。


「...っ、はぁっ!」


「うっ...ここは...」


「ステラ...? 私たち...」


三人が次々と目を覚まし、傷が見る見るうちに癒えていく。

裂けた皮膚が繋がり、折れた骨が元に戻り、失われた血が満ちていく。


「リリア! ノエル! アリア!」


「ステラ...無事だったのね」


リリアがほっとした表情を浮かべる。


「私たち、確かキングベアーに...」


ノエルが周囲を見回すと、すでに絶命したキングベアーの死骸が転がっているだけだった。


「この方が...助けてくださったの」


ステラが示す先には、ブレッドが立っていた。


「あ、はじめまして。ブレッドと申します」


「え、えっと...ありがとうございます!」


「「「本当にありがとうございます!」」」


四人は深々と頭を下げた。


「いえいえ、どこかで強いモンスターと遭遇されたんですよね? 大変でしたね」

ブレッドはにこやかに笑う。


「あ、さっき野生のくまさんが邪魔だったので蹴っちゃいました。びっくりさせちゃってすみません」


「く、くま...」


四人は再び絶句した。

あのキングベアーを、くまさん...?


「それより、私も急いでまして。お店に戻らないと」


「あ、あの...その卵は...」


ステラが背負われている巨大な卵を指差す。


「あ、これですか? さっき黒オオトカゲさんからいただいたんです。新作パンの材料にするんですよ」


「黒オオトカゲ...」


四人は顔を見合わせた。

「もしかして、黒龍では...」


「え? 黒龍? いやいや、私が会ったのは黒オオトカゲですよ。森の奥の洞窟に巣があって」


「それ、黒龍です...この森の最深部に棲んでいるSランクモンスターの...」


「龍ってまさか。ただの黒オオトカゲさんですよー」


ブレッドはきょとんとした顔で首を傾げる。


「いえ、あの、本当に黒龍で...」


本人は黒龍と認識していないようだった。


「まあ、少し暴れてしまったので《《駆除》》してきましたけど」


「駆除...」


「それじゃあ、お店が忙しいのでこれで失礼しますね!」


ブレッドは満面の笑みで手を振った。


「ハジマーリ王国でパン屋を開業したばかりなんです。よかったら今度来てください! 新作ができたら、ぜひ食べに来てくださいね」


「は、はい...必ず...」


ステラは思わず返事をしていた。


「それでは、またお店で!」


次の瞬間。

ブレッドの姿が消えた。

いや、消えたのではなく、あまりに速く移動したため視界から消えただけなのだが。

しばらくの沈黙。


「...今の、何だったの」


アリアが呆然とつぶやく。


「わからない...」


ノエルも首を横に振る。


「でも、確実に言えることは」

リリアが立ち上がり、自分の体を確認する。

さっきまで瀕死だった体が、完全に回復している。

「あれはエリクサーだった。それも、最高純度の」


「エリクサーを...三本も...」


「しかも『パン開発のついでに出来た』って...」


三人が頭を抱える中、ステラだけは違っていた。

彼女は自分の胸に手を当てた。

心臓がまだ高鳴っている。

あの圧倒的な強さ。それでいて優しい笑顔。


「...もう一度、会いたい」


ステラの呟きを聞いて、三人が顔を上げる。


「ステラ...?」


「ハジマーリ王国のパン屋...行こう」


「え?」


「あの人に、もう一度会いに行こう。お礼も、ちゃんと言いたいし」


ステラの目には、強い光が宿っていた。

星空会の四人は、ただのパン屋を名乗る少女の背中を、確かにその目に焼き付けたのだった。

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