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古木のホラー短編集

給食の悪夢

作者: 古木花園

 ぼくは給食が嫌いでした。

ぼくは当時十二歳、小学六年生の頃でした。

当時は毎日給食を楽しみに6年間過ごしていました。

特に好きなのが八宝菜、うずらが苦手で食べれないのですが好きだったのは八宝菜なんです。


 少し変わった子どもだったのでしょうか。

周りはカレーやきな粉パン、揚げ焼売なんかが好きだと言い張る中、僕だけは八宝菜でした。



 ある日また八宝菜が給食のメニューになる日、その日は特に楽しみで給食室までのぞきに行ったのです。

理由は単純で誕生日だったからと言うだけで、

ワクワクと胸を躍らせてこっそりと覗いたのです。


 すると、なかには人っ子一人いないではないですか。丁度午前10時を指す前、この時間は忙しく皆の給食をこしらえている時間なはずでした。


 なのに一人も見当たらないのは変に思い、扉を押して中にはいりました。


 すると、ふわっっっと、強烈な香りが漂ってきたのです。八宝菜の香り——

湯気の向こうからふわりと立ちのぼるその香りは、どこか懐かしく、そして食欲をそそる。炒め油の熱が野菜の甘みを引き出し、シャキッと火を通した白菜や人参、きくらげがほのかに甘く、瑞々しい匂いをまとっている。その合間にふっと感じるのは、海老やイカの淡い潮の香り。豚肉の旨味が中華鍋でこんがりと香ばしさを帯び、全体にコクを与えている。片栗粉でとろみをつけた餡が、旨味を閉じ込めながら、熱気とともに柔らかい塩気と醤油の風味をふわりと漂わせる。

それはまるで、ひとときのご馳走の予感。鼻腔をくすぐるその香りだけで、ご飯を8合食べられそうなほど、豊かで奥深い……。


 大好きな八宝菜の香りに誘われて厨房に足を踏み入れました。


 するとその時です。


 ザクッ


 と、何かを切り裂き包丁がまな板を叩く音が聞こえたのです。周りを眺めるも誰もいない。誰もいないはずなのに鍋に水を入れる音や、厨房を走り回る音、鍋を振る音が厨房内に鳴り響き始める。


 しかし、誰も見当たりはしない。

 不気味に思って後退り、厨房に足を踏み入れたことを後悔しました。おとなしく待ってようと。


 「タスケテ」


 声が厨房から聞こえたのです。


 「マッテヨ、タスケテ」


 その声は同学年の生徒の誰かと同じくらいの声でした。慌てて見ようとしましたがなぜか振り付けなかったのです。子どもながらに本能が叫びました振り返ってはいけないと。


 その声と共に厨房の喧騒も音がだんだんと大きくなり、包丁が何かを切るたびにタスケテと喚くように絶叫するように叫ぶのです。


 ゆっくり、ゆっくりと足を進めながら厨房の扉までやっきた時です。

 またあの大好きな八宝菜の香りが強く、あまりにも食欲を刺激するように、まるで"真後ろから"漂ってきているかのように香るのです。

 

 「ハッポウサイスキ?」


 ぼくはその問いに答えることなく、厨房を抜け出すことに成功しました。


 走って走って教室に戻った時にはもうお昼で先生に理由を聞かれながら怒鳴られました。


 私は、今もあんなに大好きだった給食も八宝菜も食べれません。中華屋を通るたび、思うのです。

 またあの豊潤な香りに誘われるんじゃないかって……


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