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閑話:花見で一盃

 ギルド『トーチ』の根城と化したセレノスの酒場『ルーイン・ゴート』。


「花見がしたいがね!」


 シャチョーの一言から計画は始まった。


「急になんだよ」

 ケンタが言うと、シャチョーは胸を張る。


「『お花見大作戦』だがね!」


 しかし、問題がひとつあった。


「桜はどこだがね?」


 ログ爺が手書きのマップを広げるが、首を振る。


「マッピングした範囲では見たことがないのお」


「旧EOFではどっかになかったがね?」

 シャチョーに聞かれ、ケンタも首を振った。


「覚えがないな……待てよ? 春のイベントがどっかであったような……」


「どこだがね! 思い出してちょーよ!」


 シャチョーがチビケンタの肩を掴んで激しく揺する。


「やめろって!」


「んー? どっかで桜餅見たことあるような……」


 その横で結が首を傾げる。

 今度は結に掴みかかろうとしたシャチョーの手を、結はするりと避けた。


「そうだ、渋澤さんがお茶と一緒に出してくれたことあるよ」


 勢い余ってこけたシャチョーが床から声を上げる。


「そうだがね! 和風のことなら裏通りだがね!」


 渋澤とは、セレノス裏通りに店を構える『渋澤弓具』の主人である。

 セレノス裏通りには、和風の弓具屋のほかに、和風の居酒屋『ボツ八』もある。


 シャチョーは起き上がると、一目散に裏通りを目指して走って行った。


* * *


 セレノスの市場通りは、今日も露店と屋台でぎっしりだった。


 焼き串の煙、揚げ物の匂い、果物を山と積んだ籠、色とりどりの布を垂らした店先。行き交う人の声まで浮き立っていて、街全体が春の陽気にふわふわしているように見える。


 だがシャチョーは、そんな賑わいを楽しむ間もなく駆け抜けていく。


 甘い匂いを振り撒く綿菓子の屋台を横目に見ながら、勢いそのまま路地へ飛び込んだ。


 市場通りの喧騒が、背中の向こうで少し遠のく。


 裏通りに入ると、石造りの建物が並ぶ中に、ぽつんと一軒だけ木造瓦葺きの店舗が見えてきた。

 入口の上には、彫り埋めの筆文字看板。


『渋澤弓具』


 セレノスで唯一、和弓を扱う店だ。


「まいどー! 『トーチ』のシャチョーだがね」


 声を張ると、店の奥から男が顔を出した。


 藍染めの作務衣に身を包み、頭にも藍染めの手拭いを巻いている。

 この店の主人、渋澤三郎である。


「いらっしゃい……」


 渋澤はそう言ってから、入口に立っているのがシャチョーひとりだけなのを見て、少し不思議そうな顔をした。


「突然ですまんけど、桜餅の入手先、教えてくれんかね?」


 挨拶の次にいきなり用件を叩きつけるシャチョーに、渋澤は一度だけまばたきをした。

 だが、特に問い返すこともなく、すっと奥へ引っ込む。


 やがて戻ってきたその手には、菓子箱がひとつ載っていた。

 箱の蓋には、跳ねる白い鹿の図案が入っている。


「港の『白鹿亭』です。お菓子はあそこが一番です……」


 そう言って、渋澤は箱ごとシャチョーに差し出した。


「おおっ、ええのかね?」


 返事を待つより早く、シャチョーは蓋を開けた。


 ふわりと甘い香りが立つ。

 中に収まっていた桜餅をひとつ摘まみ、そのまま遠慮なく頬張る。


「こりゃ確かにうまいがね!」


 目を丸くして叫ぶシャチョーを見て、無愛想な主人が、ほんのわずかに笑みを漏らしたような気がした。


* * *


 白鹿亭は、セレノス港の近くにある酒場だった。


 潮の匂いを含んだ風が通り抜け、店先には昼の賑わいがまだ残っている。料理屋らしいうまそうな香りが漂う入口をくぐると、白ローブのケンタが、カウンターの向こうにいた白いコックコートの男へ軽く頭を下げた。


「師匠、またお世話になります」


 男は振り向いた。

 白尽くめのその姿は、まるで料理人の精霊みたいに見える。

 この店のオーナーシェフ、ホワイト氏である。ミスリル・シェフの称号を持つ料理の達人だ。


「なんだてケンタ、このおっちゃんと知り合いかね?」

 シャチョーが目を丸くする。


「まあな、お菓子作りの師匠なんだ」


「子供アバターんなったら、味覚も子供んなったんかね?」


 シャチョーがにやにやしながらケンタをからかい、それからホワイト氏に向き直った。


「ほんじゃ、師匠さん、桜のありかご存知かね?」


 ホワイト氏は白い眉ひとつ動かさず、少しだけ考えるように顎に手を当てた。

 すると次の瞬間、その頭の上に金色の『?』マークがふわりと灯る。


 ケンタたちの目の前に、半透明のクエストウィンドウが開いた。


―――――――――――――――――

【桜葉の納品】

依頼者:ミスリル・シェフ ホワイト

目的地:動く森

依頼内容:

南エリス草原の北西部に動く森があ〜る。

そこの桜の老木より葉を採取するのであ〜る。

制限時間:なし

難易度:★★★

報酬:料理レシピ『甘味百菓』

―――――――――――――――――


 表示を見た瞬間、ケンタが声を上げた。


「思い出した! これ壊れてるクエストだ」


「クエストは壊れとってもええがね、要は花見できりゃええんだがね」


 だがケンタは首を振る。


「老木ってのが枯れ木で、花も葉っぱも見れないぞ」


「枯れ木見ながら一杯なんて、寂しすぎるがね……」


 シャチョーが肩を落として嘆く。


「でも、おかしくない? 取れない葉っぱを取ってこいなんて……」


 結がじっとホワイト氏を見つめた。


(沈黙)


 白尽くめのシェフは、ぴたりと動きを止めた。


「あ、目を逸らした!」


 結が指さすと、ホワイト氏は何事もなかったような顔で、すっと厨房の方へ逃げるように歩み去る。


「だから、壊れてるんだって」

 ケンタが呆れたように言う。


「ゼーったい何かあるって!」


 主人の消えた店内に、結の疑いだけが濃く残った。


* * *


「とりま、現地に行こまい!」


 シャチョーの一声で方針は決まった。


 『ボツ八』で酒とツマミを調達し、そのまま南エリス草原へ向かうことになった。


 グループゲートを使えば、隣の北エリス草原まではあっという間だ。


「チコリちゃん、フレイアさん、ありがとさん!」


 転送の光の中、シャチョーが手を振る。


 ハーフエルフのドルイド、チコリと、ヒューマンウィザードのフレイアが、ピストン輸送要員として駆り出されていた。


「えへへ、しっかりご馳走頂くからねー」


 チコリが重箱の包みを抱えたまま、にこにこと答える。


 セレノス在住の知り合いに片っ端から声をかけた結果、北エリスの転送陣には、ちょっとしたレイドグループ並みの人数がひしめいていた。


 転送の余韻を背に、一団は動き出す。


 春の日差しを浴びて輝く、白い石造りの橋。

 その上をぞろぞろと渡り、南エリス草原へ向かっていく。


「ねえ、ケンタ、この動く森ってどういう意味?」


 歩きながら、結がクエスト内容を覗き込む。


「ああ、それはトレントさんの森なんだ」


「トレントさん?」


「魔法生物の歩く樹木さ。動きはゆっくりだけどな」


「じゃあ、このクエストの桜の老木もトレントさん?」


 ケンタは少し考え、首をひねる。


「さあ? 動いてるところは見たことないな。どっちにしろ枯れてるんじゃないかな?」


 やがて、南エリスの北西部へとたどり着く。


 そこには、樹木の群れがゆっくりとうごめいていた。


 枝が揺れ、葉がざわつき、森そのものが生き物のように動いている。


「トレントさんは親密度が中立なんで、こちらから攻撃しなければ襲ってこないんだ」


 ケンタが説明しながら、すぐ近くを通り過ぎた一本の幹にそっと手を当てる。


 ざわり、と葉が鳴った。


「まあ、動く森で森林浴ってのもオツなもんだろ」


「花見をせんと、春が来んがね!」


 シャチョーが、悔しそうにトレントたちの群れを見渡して叫ぶ。


 その時だった。


 森全体が南寄りにゆっくりと移動したことで、ひときわ大きな木が、その場に取り残されているのが見えた。


 ねじれた太い幹が、天に向かって伸びている。

 だが、その枝には葉も、つぼみもない。


 黒ずんだ幹は、どこか沈み込むように、じっとそこにあった。


「あれかね……ん? 誰かおるがね」


 シャチョーが目をこらす。


 その根元に、ひとりの人物――いや、半身半馬の種族、ケンタウロスが立っていた。


 頭上には、金色の『?』マーク。


 クエストNPCのようだ。


 次の瞬間、視界にウィンドウが開いた。


―――――――――――――――――

【雪月花の試し(花の章)】

依頼者:ケンタウロスの長 ヤシチ

目的地:動く森

依頼内容:

鏑矢を用いて、いにしえの樹木を甦らせよ。

鏑矢は一矢のみである。心して射ることじゃ。

クエストアイテム:花咲の鏑矢

ヒント:生命力を蓄え、一気に放つのじゃ。

難易度:★★★★

報酬:花咲の鏑矢

―――――――――――――――――


「おお! こりゃいけそうだがね! 結ちゃんの出番だがね!」


 シャチョーが歓喜の声を上げる。


「いや、あれは無理だろう……」


 ケンタが低くうめいた。


 老木の上。

 そこに、小さな五色の的が浮かんでいる。


 その大きさは、ペットボトルのフタほどしかなかった。


* * *


「じゃあ、普通の矢で練習ね」


 そう言うと、結は弓を引き絞る。


「正射必中!」


「なるほど、的が小さくても必中スキルなら当たるかも知れないな」


 ケンタが感心したように頷く。


 だが、放たれた矢は、的に届くことなく――途中で弾かれた。


 見えない何かにぶつかり、くるりと軌道を変えて地面に落ちる。


「なんかバリアみたいなのある……」


「クエストアイテムの矢じゃないとダメってことか」


「この『生命力を蓄え』ってどうするの?」


「ソウルを使えってことじゃないかな?」


「よし、やってみる!」


 結はヤシチから受け取った『花咲の鏑矢』を弦に番えると、静かに弓を打ち起こす。


「むむむ、むっ!」


 ぐっと腹に力を込める。

 ソウルを集めようとするように、全身に意識を巡らせる。


「正射必……あれ? スキルが使えない」


 その時、ヤシチが両手で大きくバッテンのジェスチャーをした。


「スキル禁止みたいだな……」


 ケンタが苦笑する。


「スキル禁止で、どうやってソウル込めりゃええんだて」


 シャチョーがその場に崩れ落ちる。


「もう枯れ木で一盃って、渋く決めるしかないかね?」


「だからクエストが壊れてるんだって、仕方ないよ」


 ケンタがしたり顔でシャチョーの肩を叩いた。


「もー! さっきから、壊れてる、壊れてるって、最初から諦めすぎじゃない?」


 結がびしっとケンタを指さす。


「いつものソリューションはどうしたのよ! チビになってから弱気なんじゃないの?」


「う……そ、そうだな」


 ケンタはたじろぎながら、そーっと指を天に向ける。


「お、俺にソリューションがある……かも……」


 消え入りそうな声。


 だが、結のじっとした視線に押されて、言葉はそこで止まった。


 周囲に集まっていたセレノスの住民たちも、いつの間にか静まり返っている。


 期待とも、不安ともつかない沈黙。


 その中で――


 ざわ、ざわ、と。


 トレントたちの葉擦れだけが、どこかくすくす笑うように響いていた。


* * *


「その矢の先端、何か入れられそうじゃないか?」


 ケンタが矢尻を指さして言う。


「おお、ソウルポーションでも入れるかね?」


 すぐさま乗っかるシャチョー。


「EOFにそんな便利な薬があるわけないだろ」


 即座に切り捨てるケンタ。


「そうだったがね……ほいじゃどうするんだて?」


 シャチョーは肩を落とし、腕をだらりと下げた。


 ケンタは腕を組み、矢の先端をじっと見つめる。


(沈黙)


 周囲も息をひそめる。


 春のざわめきが遠く、場の中心だけが切り取られたように静まり返る。


 ケンタは考え続ける。


(沈黙)


 結も、ヤシチも、住民たちも、誰も口を挟まない。


 ただ、風に揺れる葉の音だけがかすかに響く。


「ダメだ何も思いつかん……」


 ぽつり、とケンタがこぼした。


「やっぱりダメかね……」


 シャチョーはその場に崩れ落ち、膝に手をつく。


 がっくりと項垂れ、花見どころではない顔だ。


 その時だった。


「あのー……」


 人だかりの中から、小さな声が上がる。


 ハーフエルフの少年が、おずおずと手を挙げていた。


「ユウタか、どうした?」


 ケンタが少年を見上げて問う。


「先日、僕らは、すぐそこのダンジョンで酷い目にあったんですけど……」


 ユウタは淡々と説明する。


「砂にソウルを吸われて、魔法が使えなくなっちゃって……」


 その言葉を聞いた瞬間――


 ケンタの目が見開かれた。


 まるで頭の上に『!』が浮かび上がったかのように、勢いよく右手人差し指を天に掲げる。


「それだ!それそれ!吸い取るってことは凝縮されるってことだ!」


 ぐいっとユウタの手を取り、ぶんぶんと上下に振る。


「うわっ、ちょ、ちょっと……!」


 振り回されながらも、ユウタは驚いた顔でケンタを見下ろす。


「ひとりが込めるんじゃない、みんなのを集めるんだ……!」


 ケンタの口元に、いつもの笑みが戻る。


 沈んでいた空気が、一気に動き出す。


「『バウワウ迷宮』はすぐそこだ――」


 その言葉に、場の全員が顔を上げた。


* * *


 シャチョーが入り口の橋から落ちるというお約束はあったものの、高レベルを含む大人数の前では、初中級ダンジョン『バウワウ迷宮』など、公園の砂場も同然だった。


 ノールたちが飛び出してきても、前衛が軽く受け止め、後衛がひょいひょい片づける。

 道に迷う暇も、罠に慌てる暇もない。


 そして問題の砂は、ほどなくして小麦袋に詰められ、枯れたトレントさんの前まで運び込まれた。


「うお、ほんとにすごいソウルが吸われる!」


 袋の口を開けた途端、ざらりとした青い砂が周囲のプレイヤーたちのソウルを吸い上げ始める。


 砂はみるみるうちに輝きを増した。

 淡い青だった光が、深く、濃く、脈打つような色へと変わっていく。


「よし、こいつはいけるぞ……」


 ケンタは慎重な手つきで、そのソウルに満ちた青い砂を『花咲の鏑矢』の先端へ注ぎ込んだ。


 鏑矢の先端で、青い光が小さく揺れる。


「結、頼む!」


 差し出された矢を、結はひとつうなずいて受け取った。


 そのまま静かに番え、呼吸を整える。


 周囲のざわめきが、すうっと遠のいていく。

 その場にいた全員の視線が、ただ一本の矢に集まっていた。


「でもスキルや魔法は使えないままなんだよね……」


 後ろで、チコリがそっとユウタにささやく。


「うん、ただ狙って中てる……とても難しい」


 ユウタはそう答えながら、胸の奥に不思議な確信が灯るのを感じていた。


「でも結さんなら……」


 その視線の先で、弓が打ち起こされる。


 煙が一筋、立ち上るかのように。


 ただ真っ直ぐに――。


* * *


(集中しなきゃ……)


 心の中で呟いたその言葉が、かえって心を揺らした。


 意識した途端、指先が気になり、肩が気になり、呼吸が気になり始める。

 まとまるはずだったものが、かえって散っていく。


 その時、ふと師の言葉が脳裏に浮かんだ。


『無心の射こそ目指すべき境地じゃ』


(無心……か……)


 その瞬間だった。


 これまでの記憶が、どっと頭の中を巡る。


 楽しかったこと、悔しかったこと、失敗したこと。

 その流れの中で、ひとつの感覚が鮮やかによみがえった。


 ルビー・アイでの出来事。


 チャームされ、自由意思を奪われた、あの時。


 思うようにならない自分の身体を、後方上空からもどかしく見ていた私。

 今、同じように自分を見下ろしている。


 でも、あの時とは違う。


 見下ろす自分が、そっと囁く。


(力みすぎ……肩を下げて……平らかに、ゆっくり……)


 呼応するように、身体の中の自分が従う。


 肩の力が落ちる。

 呼吸が静まる。

 弓と身体が、無理なくひとつに重なっていく。


 静かに、射が進行する。


 ゆっくりと会に至り、そこで止まった。


 ただ止まっているのではない。


 弓の抵抗力と拮抗した力、そのすべてが矢へと乗ろうとしていた。


 あたりを静寂が包む。


 ざわめいていたトレントたちも、いつしか動きを止めていた。


 ヤシチが満足げにうなずく。


 そして――


 澄んだ弦音とともに、矢は放たれた。


 スキルも何も載っていないはずのその矢は、青い光の尾を引きながら、狙い違わず的を射抜いた。


 次の瞬間、矢尻の砂が弾ける。


 青い光が虚空へ散り、きらめきながら老木へとゆっくり降り注いでいった。


「なんも変わらんがね……いや、なんか動いとる?」


 シャチョーの声に、誰もが老木を見上げる。


 枝が、わずかにひろがる。


 その隅々に、小さな蕾が見えた。


 そして、気づけばあちこちで蕾が緩み始める。


 ひとつ、またひとつ。


 やがて、あの淡い桜色が、空を埋めていった。


 ――満開である。


* * *


「ささ、結ちゃん! 功労者なんだから呑むがね!」


 満開の桜の下、シャチョーは上機嫌で杯を持ち、あちこち酌をして回っていた。


「はいはい、そっちも空いとるがね! 今日はめでたい日だで、遠慮はいらんがね!」


 枝いっぱいに咲いた淡い花の下で、集まった面々の顔もすっかりほころんでいる。

 重箱が開かれ、酒とツマミが並び、あちこちで笑い声が弾んだ。


「ケンタはチビだで、コーラだがね」


 ひょいと差し出された杯の代わりに、ケンタの前に置かれたのは炭酸の泡立つ黒い飲み物だった。


「なんでだよー! 中身は立派なおっさんだぞ」


 白ローブ姿のチビケンタが、ふくれっ面で抗議する。


 その姿に、周囲からどっと笑いが起きた。


「立派なおっさんって……」

「自分で言うなよ」

「見た目との落差がすごいんだけど」


 ケンタはますます不満そうに頬を膨らませ、コーラの入ったコップをむすっと持ち上げる。

 だがその仕草まで妙に小動物じみていて、余計に笑いを誘った。


「よーし、ノッてきたがね! 腹踊りいっとくがね!」


 シャチョーが勢いよく叫び、その場で鎧を脱ぎ捨てる。


「おおっ」と一瞬どよめきが走ったが、次の瞬間、


「腹が割れてる細マッチョアバターじゃ、面白くねーぞ」


 誰かの冷静なツッコミが飛んだ。


 一拍おいて、また笑いが広がる。


「いや、これはこれで……」


 そう言って誰かが、シャチョーの腹に顔を描いた。

 割れた腹筋の上に、妙に味のあるラクガキの顔が浮かび上がる。


 それを見た瞬間、今度こそ大爆笑だった。


「なんだがねこれ!」

「顔が妙に真顔なんだけど!」

「腹筋の谷間で鼻が立体的すぎる!」


 笑いの輪が大きくなり、そのまわりを取り巻いていたトレントたちも、まるでつられたように枝を揺らした。


 ざわり、ざわりと葉が鳴る。


 その時、さっと風が吹き渡った。


 満開の枝々が揺れ、あたり一面に淡い色合いの花びらが舞う。


 ひらひらと降る花びらを、集まった人々は見上げた。


 酒を持つ手も、笑いの余韻も、そのままに。


 誰もが、心からの微笑みを浮かべていた。


(おわり)


――閑話:花見で一盃 あとがき


 最後まで読んでくれて、ありがとさん。

 『トーチ』のギルマス、シャチョーだがね。


 いやー、ようやく花見ができたがね。

 桜ひとつ見るのに、裏通り行って、港行って、森行って、ダンジョンまで潜るとは思わなんだわ。

 どえらい遠回りだったけど、最後に満開になった時は、さすがにちょっとグッときたがね。


 結ちゃんはようやってくれたわ。

 あの一射、見とって鳥肌もんだったがね。

 ケンタもなんだかんだでソリューション出してくれたし、ユウタくんらのおかげも大きかったがね。

 みんなで咲かせた桜だと思うと、一盃どころか三盃はいけるがね。


 ……まあ、オレの腹踊りはちょいと不評だったけどな!

 なんでだがね。割れとる腹筋だって芸になる時代だと思っとったがね。

 ラクガキの顔まで描かれて、あれはあれで大ウケだったで、結果オーライだがね。


 次回の『マジチー』は、本編を来週火曜日のお昼頃に投稿予定だがね。

どうやら委員長の叙事詩クエストの続きになるらしいで、そっちも読んでもらえると嬉しいがや。


 もし少しでも楽しんでもらえたなら、ブクマや★なんかで応援してもらえると励みになるでね。


 それじゃあ読者のみなさんも、桜でも見ながら一盃……と言いたいとこだけど、飲みすぎには気をつけてちょーよ。

 ほいじゃ、また次の話で会おまい。


――シャチョー


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