第五話:地獄の名シェフと呪術のレシピ
大陸東部、カオス陣営の辺境にある森の中。
静かに目を開けたのは、巨大な体躯と厳めしい顔つきをした怪物──その名はタクヤ。選んだ種族はトロール、職業は《シャーマン》だった。
古代より伝わる呪術を操るそのジョブは、攻撃・回復・補助と幅広い魔法を扱うことができるが、操作が複雑で上級者向けでもある。
しかし彼にとってはそれこそが「楽しい」──そして「挑む価値がある」ものだった。
「ログイン完了、っと……おいおい、入るやいなやデスゲーム宣告かよ。……やれやれだぜ」
「さて……カグラの奴、アシダリアにいるんだっけか。俺も行くか」
タクヤの目指すは、同じカオス陣営の都市アシダリア。
同じ大陸、同じサイドではあるが、その道中には一つ、避けられない難関があった。
中央大陸東岸で最大の“自由都市”──ヘスペリア。
領主も王も持たぬこの都市は、自由を掲げながらも、その実、秩序という名の鎖で住民すら縛っている。
カオス系の者にとっては、自由など存在しない。
見つかれば即座に襲撃される、それがこの街の“ルール”だった。
「正面突破は無理だな……だが、抜け道はある」
ヘスペリアの地下には、旧時代の遺産ともいえる複雑な《下水道網》が存在する。
公には語られないが、かつてのパッチノートの記述の端に「排水トンネルに通行判定あり」という一文があり、それを見逃さなかった者だけが知っている裏ルートだ。
「このためにシャーマンにしたんだよな……《霧歩き》、発動」
呪術《霧歩き》は、自身の姿を霧に変え、一部の視認判定と接触判定をすり抜けられる特殊スキル。
沼地側の排水口から滑り込み、石造りの管を這う。
腐臭と魔物の気配が混じる空間の中を、タクヤは迷わず突き進む。
ときに敵の巡回ルートを霧となって通過し、
ときに《鎮魂の祈念》で見張りの反応範囲そのものを狭めながら、
やがて彼の前に、ぬらりと這い出してきたのは巨大な《下水スライム》。
「うわ、出た……下水のヌシかよ」
腐臭を放ちつつ、粘液のかたまりが狭い通路を塞ぐように蠢いていた。
戦えば勝てるかもしれないが、現状のレベルでは安全とは言い切れない。
だが、タクヤには“珍妙なバグ情報”があった。
「たしか、この下水スライム……旧タグのせいで、食材扱いになんのよ」
彼はインベントリから“簡易調理器具”を取り出し、スライムに向かって使用する。
通常なら「対象が食材ではありません」と表示されるはずだが、特定のスライム系モンスターには「旧バージョンの分類タグ」が残っており、まれに“ゼラチン素材”扱いになることがあった。
《下水スライムを素材にして調理を開始しますか?》
「マジで出た!? ……よし、《料理:下水ゼリー》実行」
スライムはもこもこと縮み、バグ挙動によって強制的に“素材化”され、アイテムになってしまう。
《ナル=ゼリー》を手にしたタクヤは眉をひそめた。
「……なんか、名前ちがくね? 調理しただけなのにソウルゲージがすっからかんじゃねーか……バグったか?」
ぽつりと呟いたが、すぐにかぶりを振る。
「これ、カグラに見せたら、ぜってー毒味するってきかんやつだ……隠しとこ」
そうぼやきながらも、そのアイテムはバッグの奥深くにしまわれた。
そして数時間後──タクヤは、アシダリアに向かう街道沿いの井戸の底に到達した。
「なんでゲームの井戸って、決まって下水に通じてんだ……カオスは下水でも飲んどけってか?」
丸く切り取られた空を見上げるタクヤ。
「どうしたもんかね……? ……アレしかないか」
道中、砂漠地帯を抜ける際に立ち寄った商人から買い込んだ二枚のスクロールを取り出す。
一枚は浮遊術のスクロール。
浮遊術を使うと、体が少し浮き上がる。
しかし、井戸の上まで登れるほどの浮力はない。
「そこで、お次はこいつの出番ってか」
もう一枚は詠唱妨害魔法。
気絶とノックバックの複合効果で確実に敵の魔法を止める。
タクヤはためらいなくそれを自分に向けて発動させた。
ドンッ!!────しゅぽーん!
丸い井戸の壁が砲身のような効果をもたらしたのか、タクヤの身体が想定外に高く打ち上げられる。
なんとか、街道脇の草むらに落下したタクヤは目を回しながらぼやいた。
「……やれやれだぜ」
---観測報告:第五話、完了やで!
誰が名シェフやねん……ほんま、なめたらあかんで。
しかもやな、ワイの宣告シーン?……まるっと全部カットて、マジで? うん、まぁ……ええけどな(遠い目)
せやけど、ここまで読んでくれてほんまありがとうやで!
第六話は明日の朝6時半に投稿予定やさかい、また観に来てな!
もし「おもろかったわ〜」とか「続き気になるやん!」って思てくれたら、
感想やポイント、ちょこっとでももらえると……ワイ、めっちゃ元気になるんや!
……せやから、頼んまっせ?
ほな、また明日な〜!
---監視者C