第三話:新たなる灯火
夕暮れのセレノス広場。
喧騒の中、地面にめり込むようにして出現した小さな影がひとつ。
「……まあ、想定通りだな」
ノームの老人──ログ爺こと後藤真人は、土埃を払いながらつぶやいた。
床抜けバグによるワープで西の都市に到達した彼は、目的のログを探して視線を走らせる。
「いたか、ケンタ……」
ログを確認するまでもなく、感覚が告げていた。
* * *
「結、焚き火のそばにいて」
ケンタが立ち上がり、広場を見渡す。
「誰か来るの?」と結。
「……来る。あのじいさんが」
その瞬間、声が響いた。
「……ケンタ!」
振り返ると、灰をまとったノームが、ゆっくりと歩いてくる。
「ログ爺!」
駆け寄り、力強く肩を叩き合う。
「やれやれ、まだGMちゃんが伝言板になるとはな」
「おかげで集合できた。まだチャンスはある」
「ほんと、お前らは変わらん」
そこへ、別方向からさらに声が飛んだ。
「おーい、揃っとるがや!」
振り返れば、名古屋弁の男──《シャチョー》が笑いながら近づいてくる。
「レベル1で走破した甲斐があったがや」
「シャチョー、お前……来てたのか」
ケンタは目を細めて問いかける。
「ていうか、最初にセレノスで見なかったけど……どこスタートだったんだ?」
「中央大陸の東の人間都市──ヘスペリアや。セレノスとは大陸挟んだ反対側やったがや」
「うそだろ、そこから来たのか?」
「そや、ログアウト不能になる前に、敵を全部避けて、大陸横断やったったわ」
「待て待て待て、それ本気で言ってるのか?」
「マジやがや。峠越えのとこなんて、スニーク二度掛けバグでなんとかギリギリ崖沿いまで抜けたんやて」
「いや、崖沿いもスニーク見破る即死級モンスターがわんさか出るエリアだろ?」
「せやで? だから全部オクトパスダンスで避けて抜けたわ」
「エモート踊り連打かよ!腱鞘炎になんぞ……
その手前の夜間にレベル帯が凶悪になる森はどうしたんだよ?昼の間に抜けられたのか?」
「……さすがのわてもあそこは朝まで寝たわ。ヒューマンは夜目が1ミリも効かないままでよ(号泣)」
「わかる……画面真っ黒で、グラボバグってるかと思ったら、マゾ仕様だったあれか……(号泣)」
お互い背中を叩きあう二人。
「でも無茶苦茶すぎる……さすがだよ、シャチョー」
「まさかこっちにケンタがおるとはな。運命やな、これ」
視線をふと横に向けて、結の存在に気づく。
「ん? その子は……?」
「新入りだ。弓使いで、なかなか筋がいい」
「おお、それは頼もしいな」
ログ爺も頷きながら微笑む。
「しかし、3人揃ったのはデカい。これで《トーチ》も再点火ってとこだな」
「結、紹介しよう。この二人が、俺の古巣……ギルド《トーチ》の仲間だ」
彼女は少し緊張しながらも、頭を下げる。
「よろしくお願いします」
炎のゆらめきの中に、確かにそれはあった。
ログアウト不能。
通信遮断。
死の恐怖が色濃く差すこの世界で。
それでも、彼らの間に燃えるものは──
《Torch(松明)》と呼ぶにふさわしい、熱だった。
「よっしゃ、再点火や。ギルド《トーチ》、このセレノスで再結成するで!」
シャチョーが画面を操作し、ギルド作成のコマンド窓を呼び出す。
「ギルド《トーチ》を再作成──っと。はい、ケンタ、ログ爺、/guildinvite送ったがや」
「来た……懐かしいな、この窓」
「受諾した。ふふ、またやるのか……」
三つの名前が、再びギルドリストに並ぶ。
かつての火が、もう一度灯された瞬間だった。
「……あの、私も」
結が、おずおずと声を上げる。
「ん?」
「わたしも、その、入れてもらっていいですか……?」
しばし沈黙。そしてシャチョーが破顔する。
「もちろんやがや!うちは来る者は拒まず、去る者にはおみやをつけるだがや」
「よし、/guildinvite送るぞ……っと」
結の名がギルドリストに加わる。
その瞬間、炎の輪は、確かにひとつ、広がった。
---第三話あとがき
第三話まで読んでくれて、ありがとさんな〜!
ほいでな、第四話は明日の朝に投稿する予定だで、また見てちょーよ。
おもろかったな〜って思ったら、感想とかポイントとか、ちょこっとでもくれたら、めちゃんこ嬉しいがね!
ほんでもって、それがワシらの励みになるんだわ〜!
---シャチョー