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第十七話:眠らぬ不死者の館

 『Eternal Online Fantasy』の夜は長い。

 だが、ここは違う。――夜しかない。


 湖のほとり、薄霧に沈む洞窟を抜けた先。

 闇に浮かぶようにして現れたのは、常夜に閉ざされた不気味な洋館だった。


「ここが……『眠らぬ不死者の館』か」

ケンタが洋館を見上げてつぶやく。


「まーた、デロデロ〜アンデッドかぁ……ケンタ、ホント好きだよね」

後ろから結が、からかうように言った。


「好きってわけじゃない。ただ……得意なだけだ」

そう言いながらも、ワクワクが隠せていない。

クレリックに攻略先を選ばせればこうなるのは必然だった。


 会議を終え、ケンタたちは攻略を進めることにした。

 これから先に待つ脅威に備えるには、攻略に参加できる者は、それぞれ力を磨かねばならないと考えた。

 この世界がレベル制MMORPGである以上、レベルを上げ、装備を整える――そのためにダンジョン攻略へと踏み出すのは、避けられない一歩だった。


 今回、攻略に加わったのは計2パーティ。


 第一部隊は、ケンタ、結、シャチョー、タクヤ、それにセレノスに移住してきたばかりのバーバリアンの兄妹──ユメゾウとベルウッド。


 第二部隊は、オオオニ組のビシャモンたちと、獣人族のラオとジン。

 目的は館のどこかに出るというドワーフの幽霊がドロップする『ドワーフの作業靴』。

 ダンジョンで詰まって事故死することが多い大型種族には必須の変身装備である。


「ワシらは正面から入って二階を探索する」

そう伝達してビシャモンたちは玄関に向かう。


「よし、じゃあウチらは裏庭を目指すかね!」

先頭を行くシャチョーが、脇差しムラマサを抜き放つ。その動きに合わせるように、ベルウッドが斧を構えた。彼女は両手に、一本ずつ片手斧を握っている。


「んじゃ、いぐべぇ! ゾンビだろーがカボチャだろーが、叩き潰すだけだべ!」


「カボチャ?」


 結が不思議そうに言った直後──


 館の横の植え込みの向こうに不気味な光がふわりと浮かび上がる。


 現れたのは、燃えさかるカボチャの頭を持つ案山子……『ジャック・オー・ランタン』だった。左右には錆びた剣を構えたスケルトンが数体、ガチャガチャと骨を鳴らしながら迫ってくる。


「よし、軽く一戦目だな。派手にいくでよ!」


 シャチョーが笑い、ケンタがHPバフとAC上昇バフを前衛にかける。


 スケルトンが武器を振り上げた瞬間、ベルウッドが一気に飛び込んだ。


「どりゃああああッ!!」


 片手斧で両側から斬りかかり、骨の兵士を一撃で吹き飛ばす。斧を交差させて、背後から迫ったランタンの一体をはじき飛ばした。


「火ぃついでらカボチャは、コゲくせぇなぁ!」


 結の矢が正確にランタンのコア部分を撃ち抜き、シャチョーが背後から斬り込む。


 戦いは一瞬だった。


 ランタンとスケルトンたちは火花と骨の破片となって崩れ落ちる。


 その先、開けた裏庭に出た一行が、ふと足を止める。


「なんか……空気、変わったね」

結の言葉に、皆が警戒する。


 館の裏口から悠然と現れたのは、朽ちたローブに身を包んだ、ただれた肉体の女。既に死んで久しいはずのその身体が、ゆっくりとこちらを向く。


 『腐った魔女』


 ゾンビのような姿でありながら、火と毒の呪文を操る、高速詠唱のアンデッド魔法使い。


「また……出たか、魔女系ゾンビ……!」

ケンタが身構える。


 腐った魔女は唇のない口を開き、言葉にならない呻きを上げながら、杖を振りかざす。浮かび上がるのは毒のルーン。


「くるぞ!」


* * *


「うわーん、狭いゾー」

屋敷の廊下で大きな盾と剣をアチコチに引っ掛けてしまい、まともに動けない前衛のゾーキン。


「こりゃあかん、ウチも詰まってもうたで!?」

ヒロミも天井に首が変な角度で引っかかり呪術の詠唱もままならない。


 彼らを引っ張り出そうと進んだビシャモンも手足があらぬ方向に引っかかり身動きが取れなくなる。

「うーむ、コイツはピンチだな…」


 そこへ前方から錆びた剣を振りかざしたスケルトンが数体寄ってきてゾーキンに切りかかる。

 幸いな事にフルバフ状態のゾーキンには大したダメージは通っていないが、それでもジリジリとHPは減り続け、他のモンスターも次々と寄ってくる。


「任されよ!」獅子の獣人ラオがヒールを唱える。

 そう、彼は野生味溢れるその姿とは裏腹に、クレリックを生業としているのであった。

 ヒールでゾーキンを癒すと、ラオは続けてアンデット達にもヒールを向ける。アンデットにとってヒールはその効果が反転し、聖属性ダメージを与えるのだ。

 廊下がオーガ達の体でぴっちり塞がれているため、敵味方にどれだけヒールをうってもモンスターがラオに跳ねることはない。


「ラララ♪まさに壁の鏡だね〜♪」

吟遊詩人のジークは『微風のエチュード』でラオのソウルゲージ回復をサポートしつつ唄う。

もちろん、この言葉の方には何の効果もない。


「結果的にわりと効率いいなこれ……」

後方を警戒しながら、ボソッと呟く狼の獣人ジンであった。


* * *


一方、裏庭では、前回と同様にスタンリレーで時間を稼いで結とシャチョーが削り切る作戦を取ろうとするが……。


「ADD!!おかわり来たべさ!」


館の裏口から現れた魔女は一体ではなかった。

さらにもう一体。計ニ体の魔女が死の歌を合唱しながら迫る。


「ケンタ、どうする!?」

タクヤが最初の魔女にスタンを打ち込みながら問う。


「今回は前衛が二枚、回復も二枚だ!正攻法で行く!」

そう宣言してケンタは指示を飛ばす。

「俺とベルさんで右の奴を、タクヤとユメさんは左のを抑えてくれ!」


「「「了解」」」


前衛二人がそれぞれ魔女を抑えたところで結がスキル使用を宣言する。


「『正射必中』発動します!」


 青いソウルゲージが脈動する。

 結の射法の進展につれてゲージは細く収束し、輝きを増して行く。


 ユメゾウが、結の宣言に合わせて、左の魔女に盾をを叩きつけて、間合いを取る。


 やがて、結が矢束いっぱいに引き切って会に達するとゲージの脈動はピタリとおさまり、眩いほどの青い光が一瞬の静寂の後に解き放たれる。

 一条の光が狙い違わず胴体を貫くと、魔女は灰と化して消え去った。


「おりゃああ!!」

ベルウッドが左右の斧を交互に叩きつける。


「…う……あぁ……シネ!」

だが、一瞬の隙をついて、魔女は毒魔法を撒き散らす。


「くっ!?こっちだってレベル上がってるんだ」

脈打つような毒の痛みに顔をしかめながらケンタが範囲ヒールを唱える。

「ワード・オブ・ヒーリング!!」


タクヤも解毒の呪法を重ねる。

「毒返しの呪!!」


 淡い光が周囲を照らし、パーティメンバー全員を癒すとともに範囲内のアンデットに聖属性ダメージを与える。


「ちょ!?」

流れたダメージログの多さにビビるケンタ。


「ヤバい!多分、地下にAEヒールが届いちまった!」

その言葉に青ざめる一同。


 そう、経路が遠く離れた位置のモンスターに攻撃が当たってしまうと、そいつらが大回りしてプレイヤーに向かってくる。その際、経路の同類モンスターを全て引き連れてきてしまうのだ。


 巨大な経路バグトレインがやってくる!!


 ベルウッドが魔女に斧を打ち込んでトドメをさすと、一同はすぐさま出口に向けて撤退を始める。


「TRAIN!!超大型列車が通過します!! ダンジョン全域通過予定、接触即死級、マジで退避してくれえぇ!!」

ケンタがシャウトしつつ前庭を横切って出口の洞窟に駆け込む。


* * *


 なんとか狭い廊下から脱出したオオオニ組と獣人コンビは前庭の隅に退避して巨大トレインを見送っていた。


「ランララ♪おおきな電車、おおきな電車おかえりよ〜♪」

ジークが口ずさみつつモンスター達の様子を見る。


 出口の洞窟までケンタ達を追いかけたモンスター集団は徐々に館に引き上げつつあった。


「おい、あれを見ろ!」

ビシャモンが洞窟の入り口を指し示す。


 そこには、ふわふわと滑るように館を目指す半透明のドワーフがいた。


「目当てのボスに違いねえ!引っ張ってくる!」

ビシャモンは投石でドワ幽霊の注意を引いて他のモンスターと離れる方向に誘導すると、『死んだフリ』スキルを発動する。

ダークナイトはネクロマンサーと剣士のハイブリッドクラスで、ネクロマンサーのスキルが一部だけ使えるのだ。

これを繰り返す事で、ドワ幽霊のみを庭の隅に釣り出す事に成功した。


「コレ、デカすぎちゃう!?」

ヒロミがドワ幽霊を見上げてボヤく。

「コイツの靴でホントに小さくなれるんやろか?」


 半透明のドワ幽霊は等身こそドワーフっぽい三頭身であったが、そのサイズはオーガたちを凌ぐ巨体であった。


 ビシャモンとゾーキンが同時に斬りかかる。


 ブンッ!!――スカッ!

 シュッバッ!――スカッ!


「……まずいなコリャあ」


 ドワ幽霊は当然、物理無効だった…。

効果があるのはラオの召喚ハンマー(魔法属性付き)とヒロミの遅延毒魔法くらいであった。


「ラララ♪ビックリするほどノープラン〜♪」


「うるせえ!お前も同罪だろうが!」

ジークにゲンコツを落とすビシャモン。


 ジークは素早くゲンコツを回避すると、小袋を放って寄越す。

「クミチョー、これ使ってみたら?」


 小袋の中身を検めて、うなづくビシャモン。

「なるほど、目には目を…か」

ビシャモンは小袋から金色の骨片を取り出すと、それを触媒としてスケルトンを召喚する。

 通常、低レベル帯のダークナイトの召喚ペットは大した戦力にはならないものだが、この触媒の効果はテキメンだった。

 オーガサイズの黄金のスケルトンが一体出現し、けたたましい笑い声をあげてドワ幽霊に襲いかかる。

 瞬く間にドワ幽霊のゲージを削ると、最後の一太刀分を残して後退する。


「この子、クミチョーより大分強くて賢いんちゃう?」

ヒロミがもっともな感想を述べると、ラオの召喚ハンマーが最後の一撃を与えて、ドワ幽霊は光の粒子となって消え去った。


 全員に経験値が配分されると共にお目当ての宝箱が出現する。


「誰か、シャチョー呼んでこい。出番だってな」


* * *


 セレノス正門近くの小さな酒場ルーイン・ゴート。


「ドワ!?ここはいつノクタリムになったんドワ?」

酒場に入った途端驚愕の声を上げるガン鉄。


「無事帰ってきたんだがやドワ」

シャチョー似のドワーフが返事をする。


「収穫はバッチリコンプリートだったさドワ」

ケンタ似のドワーフも報告する。


「結局みんなでバーンってドワっちゃったドワ」

結似の…以下略


 当初は大型種族のための攻略だったが、結局全員分のブーツを揃えるまで粘ってしまった一行であった。


「……やれやれドワ」


(おわり)


---第十七話あとがき

ここまで読んでけだみなさん、ほんとありがどな〜。

第十八話は、来週の火曜日、お昼頃に出す予定だべ。


つづきも読んでもらえっと、うれしんだぁ。

おもしぇがったら、ブクマやポイント、ちょこっとでも押してけろな〜。

励みになるはんでよ〜。

---ベルウッド

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