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第十四話:堕ちた聖堂でオチる(前編)

「……で、また俺を呼んだわけね」


不機嫌そうに声を漏らしながら、タクヤはゆっくりと茂みの影から姿を現した。

とはいえ、いつもの巨体トロールの姿ではない。

身長は二十センチほど、掌に乗るサイズ。背丈の割にやたらと存在感のあるその姿は――


「小型化も覚えた。元のサイズだとあちこち詰まるからな」


本人曰く、セレノスの中には入れないため、街の手前で待機していたとのこと。

セレノス騎士団の屯所が点在する街道沿いを避けて来たようだ。

「しかも途中、ケンタウロスに絡まれたし、動く木にも枝で叩かれた…。害虫扱いマジやめてくれないかな……」

「いや、どう見てもマスコットだからな?」

シャチョーがにやにや笑いながらつまみあげる。

「おい、触るな撫でるな運ぶな! 俺は呪術の使い手だぞ!?」


そんな小トロールの姿に、結は思わず微笑む。

「なんか……かわいい」


「やめろ。そういうのが一番こたえる……」


「カグラは?」


「…カグラの奴は“腐り切ったチーズの匂いがする”とか言って、どっか行っちまったよ」


というわけで、タクヤがパーティに合流した。

早足、小型化、浮遊、鈍重化、霧歩き、回復も強化も出来る。

その上、種族特性でHPもSPも超回復。

明らかに攻略向きというか、便利屋全開である。

パーティ全員が期待の目を向ける。


「なんでこう、俺だけ保護者枠なんだろうな……やれやれだぜ」


* * *


今回は装備も整い、資金も素材も潤沢。となれば次はレベリング。

だが、ここで問題がひとつ。


「ガード狩り? それ、無理ですから! 無理なんですから!」

結が両手を振って全力拒否。


そう、オーダー陣営の面々にとって、人型NPCとの戦闘は精神的ハードルが高すぎた。

いくら効率が良くても、ガードに矢を射つのはダメ。絶対ダメ。


「だったら、草原のモンスターでも狩れば?」と誰かが言ったが、効率が悪すぎる。

この期に及んでスライムでチマチマ稼ぐのはもはや時間の無駄だった。


そこでケンタがソリューションを提案した。

「ダンジョンに行こう。『堕ちた聖堂』だ」


アンデッド系のモンスターが巣食う初級者向けのダンジョン。

クレリックの攻撃魔法が活躍し、シーフの鍵開けもスキルが伸びる。まさに理想的な訓練場だ。


「草原じゃスキルも腕も錆びる。今のうちに、しっかり戦闘感覚を取り戻したいんだ」

ケンタは静かに言った。「リハビリって意味もあるしな。俺自身、まだこの世界の戦い方に慣れてない」

クールな振りしてワクワクが隠しきれないケンタであった。


* * *


 『ルーイン・ゴート』での作戦会議を経て、ガン鉄が装備を打ち直してくれていた。

 今回は結とログ爺、タクヤ、そしてガン鉄自身の分を、各人の特性に合わせてカスタマイズしてある。


「はい、世界にひとつだけのヤツだドワ!」

ガン鉄が出張銀行バグ窓口から装備品を取り出してみなに配る。


結には、《金糸縫いの弓装束》。

萌黄色の上衣に桜が舞い、真っ白なタスキと黒い袴が凛々しい、弓道スタイルの戦闘用装備だ。

構えやすく、集中しやすい一着である。


「……すご。シュルシュル、サラサラで引きやすい」

袖を整えながら、結は静かに微笑んだ。


ログ爺には、『絶縁灰ローブ』。

灰色の地味な見た目だが、雷や魔力干渉を防ぐ絶縁素材で仕立てられており、内部にはマナ導線が織り込まれている。


「ふむ……裁縫スキルまで上げとるのか?今度10スロットバッグも作ってくれんかの?」

ログ爺は上機嫌に袖をなびかせていた。


タクヤには、『黒と銀のローブ』。

伸縮性と浮遊適性を備えた最新素材に、極上のモフモフ加工が施された一品で、銀の裏地仕様。

着た瞬間、全身がふわふわに包まれ、小型化した彼のシルエットはまさに某北欧ファンタジーのキャラっぽい見た目に。


「なんか……あったかいけど……これ、俺の威厳どこ行った?」


「ふわふわしてて、かわいい」と結。


「やめろォ!」


ガン鉄自身は、『黒鉄の鎧』に『黒鉄の槌斧』

無骨に、ただただ重厚な装甲に覆われた鎧の背中に身体全体を覆うような分厚い鉄板状の盾を背負う。

槌斧はハンマーと斧が一体となった金属の塊であった。

「良い素材はシンプルに使うのが一番ドワ」


「え?オレたちのは? なんでないの?」

 指を咥えてみなの装備を眺めるケンタとシャチョーであった。


「クレリックは、魔法のハンマーが召喚出来るドワん。 ソレ使ってればいいドワん!」

まだ魔法属性付与が出来ないのが不満なのか、ちょっとスネ気味なガン鉄であった。


* * *


 こうしてギルド『トーチ』のパーティは、『堕ちた聖堂』の入り口にたどり着いた。

それは岩山に穿たれた巨大な洞窟内に築かれた、聖堂の廃墟であり、地面も天井も黒ずんだ岩盤で覆われている。


シャチョーがご機嫌でピッキングスキルを連打し、扉が開くと、その先に広がるのはほの暗い中庭――


そして中央には、岩床を穿って作られた異様に大きな井戸が、ぽっかりと口を開けていた。


「またか……また井戸かよ……」とタクヤが呻く。


「覗いたらダメだよ! 絶対落ちるからね!」と結が叫んだが、もう遅い。


「おお、深っ……って、あ」ケンタ、滑落。


「ちょ、ケンタ!? 今ので……わぁああああっ!」結、滑って落下。


「お水はあるんドワ……?」

ガン鉄、井戸の石縁を踏み抜いて落下。


「井戸は罠の象徴じゃて、気をつけんと…」

ログ爺、ふらりと覗いて、つるんと滑って落下。


「待ってちょーよ、ひゃっほー!」

シャチョーも面白がって井戸に飛び込んだ。


「やれやれだぜ……」

タクヤはふうっとため息をつき、自身に浮遊術を付与。

そのままゆっくりと井戸の中へと降りていった。


* * *


井戸の底は『堕ちた聖堂』の最下層となっていた。


「よし、俺のレビ+スタンで脱出させてやる」

タクヤがシャチョーに浮遊術をかけ、続けてグレートスタンを発動する。


「うお、ちょっ…!」


ドンッ!!────しゅぽーん!──ガンっ!ゴンっ!ガラガラガッシャン!ぱたり……。


井戸を砲身として打ち出されたシャチョーは何故か再び井戸の底で目を回している。


「おかしいな…失敗か? じゃあもう一度…スタン!」


ドンッ!!────しゅぽーん!──ガンっ!ゴンっ!ガラガラガッシャン!ぱたり……。


「また失敗か?じゃあもう一度……」


「……やめてあげて…、彼のHPはもうすぐゼロよ!」


打ち上げられたシャチョーの黄金鎧は、今やドラム缶のようにベコベコに凹み、本人はボロ雑巾のようにのびていた。


ログ爺が上を見上げて一言。

「天井じゃな…井戸の上にも岩盤がある」


井戸バズーカ砲での脱出は断念するしかなかった。


* * *


地下の構造は想像以上に複雑だった。上層への階段を探し回るも、どこをどう進んだかも分からず、完全に迷子。


そんな中、スケルトンの群れと遭遇。


結の矢は骨の隙間をすり抜け、あまり効果が出ない。


「うーっ、スッカスカで当たらない〜(泣)」

役に立ててない感じでストレスの溜まる結。

ユニークスキルの使用が頭をよぎる。


『正射必中』――発動すれば必ず命中する神業の矢

『破邪顕正』――邪悪を砕き、正しき道を照らす矢

『一射絶命』――命と引き換えに放つ一撃必殺の矢


(いや無理無理無理! ドーンとメガ⚪︎テ系に決まってる!ゼーったい使わない)と頭をブンブン振る。


「みんな下がるドワ!少し数を減らすドワん!」


ガン鉄がベルトポーチをごそごそと漁り――


「出すドワよ……『通り抜けペンキ』〜〜ッ!!」


取り出したガラス容器を、敵の中心に投げつける。

床に黒いシミが広がり、何故かスケルトンの一部が消失する。


「見たか!透明色染料で床を上書きしてテクスチャーの隙間から敵を葬るひみつ兵器ドワん!」


「ドラ◯もんじゃん……」


さらにタクヤが鈍重化で残りのスケルトンを足止め。


ケンタが前に出て、ターンアンデッドを詠唱する。

聖なる光がスケルトンを包み、消し去る。


「あの〜……、全く経験値が入っとらんがね……」

ボヤくシャチョー。


「ターンアンデットはアンデットに成仏願う魔法で倒してないからな…」


「通り抜けペンキも地面の底に落としてるだけで倒してないドワん……」


「あのスケルトン共が中心核に溜まっとったら、ワシのワープが通れんようになるではないか……」

ログ爺もまた違った意味でボヤく。


「まー、スパーンと切り替えて、次からガンガン行きましょうー!」


* * *


 薄暗い通路をしばらく進むと、奥に、ふわふわと緑色の光球が浮かんでいた。


「ウィル=オー=ウィスプ……?」結が首をかしげる。


 緩やかに明滅するその光は、どこか見覚えがあった。


「……これ、色は違うが監視者たちに似てないか?」ケンタが呟く。


 その瞬間、光球が突進し、雷のような魔力がシャチョーを直撃。


「ぐおっ!?」


 結が矢を放つが、すり抜ける。ガン鉄の一撃も、シャチョーの脇差しも通らない。


「物理、まったく効かんドワ!」


「完全魔法生物のウィスプには、魔法属性の武器しか効かないのが定番だからな…やれやれだぜ」


 タクヤが鈍重化と毒霧の呪法を試すが、物理的な身体を持たないウィスプには効果がない。


 そこでケンタがハンマーを召喚して応戦。わずかに手応えがあるが、削りきれない。まだレベルが低すぎるのだ。


「適正レベルでマジック武器があれば美味しい敵なんじゃがのお……」


 そしてこのウィスプが脈動する度にケンタのHPがごっそり減る。

タクヤが遅延ヒール『生命の讚歌』で支援するが、レベルが上の彼とてSPが無限にあるわけではない。


「結! 『一射絶命』は絶対使うな!でも『正射必中』か『破邪顕正』なら……」


「で、でも、物理攻撃無効じゃ……」


「きっと通じる! あの時のスキル表記が青かったろ? ソウルゲージと同じ色だ……ぐあっ!」


 結は一瞬迷ったが、ケンタがウィスプに吹き飛ばされたのを見て、覚悟を決める。


「――『正射必中』発動します!」


結のソウルゲージが青白く輝き始め、脈動を始める。


 そして、弓が引き絞られて矢束いっぱいの会に到達すると、ゲージが細く眩しく収束し、脈動がピタリと止まった。


 しんっ……


 それは刹那であったか、那由多の間であったか、石火の花が咲いた。


 青白い糸のような光の尾を空間に残して、結の矢はウィスプに吸い込まれるように的中した。


 バシュ!!


 ウィスプが揺れた。

 一瞬、波のように表面がざわついたかと思うと――


 キュウゥ……ッ!?


 ウィスプは光球の中心にすべてが吸い込まれるように、一滴の音もなく消えた。


 まるで、最初から何もなかったかのように。


「……消えた……?」

結がそっと弓を下ろす。


「通ったな。君の矢……ちゃんと“届いた”よ」

ケンタが、壁に寄りかかりながら微笑んだ。


* * *


 ──火星の衛星・フォボス、観測室。


 中央に浮かぶスクリーンに『堕ちた聖堂』の映像が映し出されている。

 緑の光球が、音もなく「キュッ」と爆縮し、映像が一瞬乱れる。

 映像にほぼ同期して、キュッとなる監視者たち。


 (沈黙)


監視者A「……現時点をもって、セレノス担当を監視者Cに移管。以上」


監視者C「ちょ、なんでやねん! ワイもうキャパ越えとるて!」


 監視者Aはいつのまにかその姿を消していた。


監視者B「移管登録、完了。ご武運を」


監視者C「なんでみんな他人事やねん……」


監視者D「せ、先輩……がんばってください……」


監視者C「ほな、代わってくれや」


監視者D「……それはやです」



---第十四話あとがき

うう……まさか井戸から二回も打ち出されるとは思わなんだがね……。

読んでくれてありがとさん、ほんと助かるて!


第十五話は来週火曜の朝6:30に投稿予定やで!

つづきも読んでくれたら、ワシの傷も報われるがね……。


よかったらブクマやポイント、置いてってちょーよな!


ではでは、ほいじゃあまた〜!

---シャチョー

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