第十二話:ピザフット祭り大作戦
セレノスの冒険者通り──その外れにある、いつもの酒場ルーイン・ゴート。
黄金街道の開通とFAQバグ通信によって、各拠点に散らばっていた仲間たちとの連絡がつきはじめていた。
「連絡は通じるようになってきた……けど」
ふと、ケンタが声を潜めた。
「現実の状況が、まるでわからない。……俺たち、どうなってるんだ?」
周囲のざわめきが一瞬、静まり返る。
デスゲーム宣言から、ゲーム内時間で三日。
EOFは時間加速率5倍なので現実ではおそらく半日以上が経過しているはずだった。
「……最悪、誰にも気づかれずに餓死するプレイヤーが出るんじゃないか、って意見もある」
結がぽつりとつぶやく。
その目に、一瞬の不安がよぎった。
「……それ、わたしも思った。だってさ、ログイン中だと通知も音も全部切れるでしょ?一人暮らしの人とか、やばくない?」
「俺も、それを一番警戒してた」
ケンタが頷き、立ち上がる。
「そこで俺のソリューションだ!その名も、ピザフット祭り大作戦!」
「……ピザ?」
「……フット?」(※ガン鉄と結のハモり)
ケンタはテーブルに愛用のメモ帳を叩きつける。
「/pizzaだ」
全員がぽかんとした。
「……なんだって?」
「旧EOFの時代にあった、お遊びコマンドさ。/pizzaって打つと、ピザ屋の公式サイトが外部ブラウザで開くだけのやつ」
「そんなの、ただのネタじゃないの?」
「そう。だけどな──今回の新EOFでは違う」
ケンタの声が、酒場の天井まで響くように高まっていく。
「新EOFでは、リリース記念のタイアップ企画で、ゲーム内UIから直接ピザが注文できるようになってるんだ!」
その瞬間、酒場の空気が変わった。
「マジで?」
「それ、生きてるのかの? 今も?」
「ログイン前に読んだ月刊バグ活の特集号に載ってた。新EOFの/pizzaコマンドは、ユニバーサルイーツ注文に進化してる。課金に含めて決済も出来る」
「じゃあ……?」
「全員にピザを注文させる。どんなピザでもいい。そうすれば、配達が届かない場合、ピザ屋側のオペレーションが止まる。異常に気づく。外の世界と接点が生まれる」
ケンタの指は天井を指した。
「そして、ピザ屋のサーバーに記録される注文データは──全プレイヤーの“まだ生きているログイン中の人間”のリストになる!」
「……なるほど。さらに現実の捜査当局も異常に気づいて、プレイヤーたちのリアルな体も保護される……」
ログ爺が頷きながらつぶやく。
「ケンタ、それ……最強のチートドワ。命を繋ぐ、最終手段ドワ!」
「ああ、そうだろ?」
ケンタが力強く頷く。
「ゲームの中の俺たちにできる、現実への最大のSOSだ。全員に呼びかけよう。……今こそ──ピザ=フット祭りの開催だ!」
「よーし、ワシゃ小倉クリームピザいっとくがや!」
かくして、《トーチ》から発せられた作戦は、全拠点へと広まっていった。
* * *
アシダリアの酒場ノクターナル・チャリス──
「おいカグラ、マジでピザ頼むのか?」
「うん、まあ。指示だし」
カグラは無表情で/pizzaとチャット欄に打ち込み、メニュー窓を開いていた。
「何にすんの?」
「……悪魔風。トッピングはアンチョビ、オリーブ、あとジョロキア増し増し」
「うわ、絶対口内炎なるやつ……」
「ふふ。いいのよ、食べるわけじゃない。“届けてほしい”って気持ちだけで、今は充分」
カグラは言って、小さくつぶやいた。
「……誰か、気づいてくれるといいわね」
* * *
その夜、世界中のプレイヤーたちは、ゲームの中でピザを選んだ。
ミート、マルゲリータ、照り焼き、シーフード、マヨコーン、悪魔風。
誰もそれを食べることはできない。
それでも、誰かが気づくことを信じて──。
それでも、届けと願って──。
静かな、だけど確かな、命の注文が投げられた夜だった。
* * *
兄妹三人でミックストリオピザを注文したナツキ。
「/cakeはないのかな?」
ピコちゃんが耳をぴょこんと立てて飛び回る。
「ナツキちゃん天才ですか!?要件定義ゴリ押し決定ですー(は〜と)」
* * *
「明太もちチーズピザとやら食べてみたいわのね……」
ひとり、注文窓が出せず。しょぼんと涙が溢れそうなセレネであった。
---第十二話あとがき
ピンポーン! ピザフット祭り、Lサイズお届けにあがりましたー!
……あれ、誰も出ない……?
読んでくださってありがとうございます!
第十三話は来週火曜06:30に配達予定ッス!
ブクマやポイントもらえると、めっちゃ励みになります!
じゃ、次のご注文でまた!
---ピザフット配達員
作者追加コメント:
閑話の予定が本編に組み込みになってしまいました。
ピザ〇ットにも注文してしまいました。
後悔はしていない。むしろありがとう/pizza




