表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/38

第九話:神対応はマフィンと共に

  空の向こう、火星の衛星フォボス。観測室の奥、三つの光球が低く唸るように発光していた。


監視者A「……神性反応、地表に発生」

監視者B「観測地点:セレノス。依代の女神像が素材化……想定外だな」

監視者C「ほえー、素材化された神様が直に降臨って、イベントスクリプトに無かったぞい」


監視者A「依代の変化によって、降臨体のサイズも小型化……精神構造に影響あり」

監視者B「現状、精神年齢はおよそ8歳相当か」

監視者C「わぁ、チビ神様……ちょっと見てみたいかも」


     * * *


 セレネは呆然と、自らの手を見つめていた。


(このちいさな手……まさか、依代の像が素材にされたから、私まで……?)


 心の中で怒りが渦巻いているはずだった。なのに、不思議と怒りきれない。


(落ち着いて……わたしは女神。神々の王座に座す存在。こんな身体に流されるなんて……)


 ふわ、と足元がふらついた。慣れない小さな身体。高かった視点がぐっと下がって、世界が広く見える。


(……怖くなんかない。別に怖くないし!)


健全な精神は健全な肉体に宿る……逆もまた然り、チビな体には、チビな精神が宿る……。


     * * *


 街の広場では、相変わらず《トーチ》の面々が鉱石の山とにらめっこしていた。


「これが素材化の結果……にしても、種類がわからんと始まらんな」

「鑑定スキル、レベル足りなさすぎて全部???やがね」

「うちらのLvじゃしゃーないな……」


 そのとき、足元からちょこん、と影が現れた。


「そ、それは……わたしの……」


泣きそうな声が漏れた。けれど、その直後。


「ん? 子供……って、また迷子か?」

しゃがんだケンタが、反射的にセレネの頭を撫でる。


(――ッ!?)


その瞬間、脳内に花が咲いたような衝撃。


(な、なにこれ……この感覚……ぽかぽか……)


「や、やめなさいっ! 私は神よ!? 不敬もいいとこですのね!?」


そこにふんわりと、バターの香り。


「……あの、おなかすいてる?」


差し出されたのは、ほんのりあたたかい焼きたてマフィン。そして、ピンク色のイチゴオレ。


セレネはきょとんと顔をあげた。目の前には、優しい笑みを浮かべる少女――(ゆう)がしゃがみ込んでいた。


「さっき作ったやつだけど、よかったら……」


ぴらぴらと手を振って、差し出す結。


その匂いに、セレネの中の何かが、くぅ〜……と鳴いた。

 セレネは小さな手でイチゴオレのパックを抱え、ちゅーっと吸った。

「……あま……っ!?」

マフィンを一口齧ると、ふわふわの生地とバターの香りが口いっぱいに広がる。

(ちょ、ちょっと!? なにこれ……おいしい……おいしすぎる……のね!)


口の端にクリームをつけたまま、ふとこちらを見上げる。

(なにこれ、なにこれ…イチゴオレ……マフィン……な、なんでこんなに魅力的なのよぉ……)


 理性が抗議していたが、身体が止まらない。気付けば、彼女はすっかりおやつタイムに夢中だった。

「う……うま…うまうま……」


 すっかり満足したセレネは、ピョコンと立ち上がり、どこか誇らしげに小さな胸を張って名乗った。


「わらわはセレネ・エテルナ。世界を見守る、最後の……いちばんつよい、かみさま、なのね!」


結は笑いをこらえながら頷いた。


「セレネ・エテルナ、かあ。なんかカッコいいけど、ちょっと長いかも?」


ケンタが肩をすくめる。


「じゃあ……セッちゃんでいいか?」


「せっ……セッちゃん!? な、なんでそうなるのよねぇぇっ!」


 セレネはちょこんと立ち上がり、ポーチの奥から小さな木の護符を二つ取り出した。


「これ……マフィンのお礼。ちゃんと神殿で授けてるやつなのね」


 神木の間伐材に繊細な紋が刻まれた護符。セレネはそれを、ケンタと結にそっと手渡す。


「わたしの加護、ほんのちょっとだけ入ってるからねっ」


「お、おう、ありがと」

「わーい、お守りゲット〜♪」


 二人は軽く受け取り、護符をポーチに放り込む。


 セレネは小さく「むぅ……」と唇をとがらせた。


     * * *


「ふ、ふん。しょうがないから……手伝ってあげるのね!」


(誰もわたしだって気づいてないし……まあちょっとだけ、スキル見せるくらいならいいのね……)


 小さな手を掲げ、セレネはそっと光を注ぐ。


「鑑定、発動……!」


 石の山の上にウィンドウが次々と表示された。


《ミスリル銀鉱石》《オリハルコン鉱石》《ヒヒイロカネ鉱石》《マナ鋼鉱石》……


 突然の鑑定成功に、一同が硬直する。


「え、今……誰か鑑定できたんか?」

「いや、こっちはスキル発動してねーし……」

「バグか? 鉱石大漁すぎて未鑑定フラグが、処理落ちしたとか……」


 まさか目の前の幼女が鑑定したとは、誰も思い至らなかった。


 セレネは口をつぐんでそっぽを向いている。

(……ふふん、当然よね。気付かれないなんて、気付かれないなんて……)


 鑑定結果をのぞき込んで一同。

「げっ、マジで!?」

「伝説素材だらけやん……!」


「お、お次は……その、精錬よ! このままじゃ扱いづらいのね!」


 さらに、セレネは小さな手をひらりと振り、インゴット精錬の上に、その鑑定までサービス。


《ミスリルインゴット》:高純度の銀白金属。軽量かつ高耐久。魔力伝導効率に優れ、上位魔道具に最適。

《オリハルコンインゴット》:伝説の金属。全物理属性に高耐性を持ち、魔法反射特性あり。精錬困難。

《ヒヒイロカネインゴット》:神域に届く紅金属。絶対破壊耐性の付与が可能だが、加工難度は最高。

《マナ鋼インゴット》:魔力を帯びた特殊鋼。自動修復効果を持ち、鍛冶師の格に応じて性能が向上する。


「……ふふん。ちゃんと使いこなしなさいなのねっ」


 得意げに胸を張るセッちゃんに、気づく者はいなかった。


(ふふん、見たか……って、ちがう! 私は怒ってるのよね!? 天罰を与えに来たのに、わたし何してるのよねぇぇ……!)


     * * *


 フォボス、再び。


監視者C「ねぇA、これ……“チョロい”って分類でいい?」

監視者B「行動ログを見る限り、神威は維持してるが……情緒に変動大きいですね」

監視者A「精神年齢、確定で8歳。観測続行。記録タグを『#幼女神対応』に変更」

監視者C「わーい、爆笑タグゲットー♪」


監視者B「それにしても……神まで巻き込むとは。彼らはいったい……」


---第九話あとがき

読んでくれてありがと、なの。

つづきは明日の朝、6時30分に奉納される予定なの。


ブクマとかポイントとか、マフィンとかもらえると……ふわっとして……あったかくなるの。

あれ?……これって、まさか……

私にもソウルゲージができちゃった!?

---セッちゃん(セレネ・エテルナ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ