表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/13

序章:デスゲームは突然に

短めの序章からはじめますが、このあと続けて第一話も投稿しますので、是非チェックお願い致します。

西の空に、火星の二つの月が浮かぶ。

薄紅の空気の中、風が石畳をなでる。都市の広場には、クエスト掲示板を覗く者、露店を覗く者、そして……訓練場で弓を引く一人の少女。


「おーっし、当たれーッ!」


(ゆう)が放った矢は、かすかに逸れて標的の脇をすり抜けた。

「うぐぅ……惜しい!」と悔しそうに叫ぶ結に、隣でログを見ていたケンタが苦笑する。


「弓道家ってそんなに一喜一憂しちゃダメなんじゃないのか?引く前にまず精神(ソウル)ゲージを意識しようか。ほら、心が乱れると狙いもブレる」


「むっ……あれだよあれ、風だよ! 火星の風ってクセあるから!……ほら、重力も地球と違うし!」


ケンタは肩をすくめ、視線を空へ向けた。

……その時だった。


広場の空間が、一瞬“バグった”。


正確には、空気が乱れ、ノイズが走るような違和感が全身に走った。

周囲のプレイヤーたちが立ち止まり、視線を彷徨わせる。


広場の空気がピシリと裂けた。

風が止み、音が遠のき、空の一点が染みのように黒ずんでいく。


そこに、黒い球体が浮かんでいた。

脈動するように光と影が反転し、見る者の奥に何かが“刺さる”。


名乗られたわけでもない。

言葉も、演出も、メッセージ(ウィンドウ)すらない。


ただ、それを見たすべてのプレイヤーが──

確かに、そう“理解してしまっていた”。


《監視者A》が現れたのだと。


監視者A:全プレイヤーに通達する。

その声は、鼓膜ではなく“脳”に直接響いた。

冷たく、感情を欠き、ただ事実を伝えるだけの人工的な声。


「現在をもって、『Eternal Online Fantasy』は特別運用状態に移行した」

「ログアウト機能は全ての端末において無効化されている」

「ゲーム内での死は、即座にプレイヤーの精神破壊、および脳死をもたらす」

「これは訓練でもテストでもない。本事象は現実における生死を直接左右する」

「なお、目的の詳細は非公開とする。以上」


沈黙。


空間には、誰の声もなかった。


やがて……


「えっ……ちょ、ちょっと、冗談でしょ……?」

「ログアウト……ない!?ボタンが……消えてる!!」


都市に混乱が走る。叫び、暴れる者、試しに高所から飛び降りてHPを削る者……

ガードに縋りついて「戻してください!」「エイプリル・フールイベントですよね!?」と泣き叫ぶ者まで現れ、

人の波は広場の端に向かって押し寄せ始めた。


結は矢を持ったまま硬直し、ケンタの腕をつかんで言った。


「……け、ケンタさん。これ、本当に……?」


ケンタは黙っていた。

ログアウトボタンが、グレーアウトすらしていない。ただ、“存在しない”。


そして、彼の中に旧EOFでのある出来事の記憶がよみがえっていた。

仲間が冗談交じりに言った、「この仕様、やろうと思えばデスゲームにできるよな」という軽口。


……それは、今現実になった。


「……とりあえず、落ち着こうか。まずは、状況を正確に見よう」


そう言って、ケンタは結の矢にそっと手を置いた。


「焦って矢を射るよりも、今は的を見定めるのが先だ。落ち着いて、な」


同時刻。

中央大陸の東都市、妖精島、ダークエルフの神殿、トロールとオーガの洞窟……

すべての主要拠点に、同じように「監視者たち」が出現していた。


その数は9体。

それぞれが「監視者A」から「監視者I」と識別され、

各拠点の空に、淡々とデスゲームの宣告を繰り返していた。

---観測記録:序章完了

ご一読、感謝する。あなたの観測参加は貴重なデータとなる。

読者の皆様の観測は、我々の観測にも影響を与える。

続章(第一話)も地球時間で10分後に自動的に公表される、引き続きの観測を要請する。以上

---監視者A

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ