カイタ 本選に進む-2
「柄をずっと齧ってたからね、その子が」
涼しい顔で若造はオレを見る。ヤツの目に少しの慎重さが混じる。コイツ、オレがイラついてるの察したな。
「あ、ええ。カイタはいつもこんなことしないんですけど、ごめんなさい。」
「いいえ、気にしないでください。みんな無事でよかった。」
下を向いたアイツの顔を若造は不安そうにのぞく。
「あの日、あなたがいなかったら、私もどうなってたかわからなかった。だから、こうしてまた会えたのは、本当に良かった。」
アイツの張り詰めた緊張が少し緩んだ。
「ナイフ、お返しします。ありがとうございました。」
「ありがとう。」
ウサギ皮の上の刃こぼれのないナイフを若造は慎重に取り上げた。揃いの鞘に音もなく収まる。
「それじゃあ、本戦で。」
「はい。」
若い召喚士は颯爽と部屋を出る。ヤツの相棒に会いに行くのだろう。
オレは耳の後ろを後脚で掻く。
オレもアイツと1対1で話がしたい。そのためには勝ち上がる必要がある。
オレの相棒は、対戦表を広げ始めた。
オレが今いる世界は、明らかに生まれ変わる前の世界と違う。陶器はある。金属製品もある。電気は都市に行けばある。鉄道はある。自動車やジェット機、プラスチック製品がないということは、おそらく石油は使われていないのだろう。ネットはないが、通信手段はある。電信と獣による通信。
この世界は人間と獣との距離感が違う。獣が動力、労働力の一部であり、社会インフラの一つとなっている。獣は種類も数も沢山いる。召喚士は求められている獣を見つけ出し、活躍できる環境を整え、獣の力を社会に繋げる役割を担っている。
給料はピンキリだが、超一流になれれば、豪邸暮らしも目じゃないらしい。それと、魔法みたいな生物はいるが、魔法使いはいない。
これは、アイツから聞いた話だが。
オレの相棒は、熱心に対戦表を見ている。
社会インフラを担う獣どうしが戦わなきゃいけない理由。それは、召喚士を守るためだ。召喚士は獣との距離がかなり近い。どんなに家畜化されても獣は獣。人間の道理が通じる相手じゃない。獣の方が人間より優れた能力を持っている。毒をもって毒を制す。透っ波には透っ波。獣には獣。
この召喚士を守る獣のことを、召喚獣とこの世界ではいう。管理できなくなった力の強い獣や数が多い獣が最初に牙を向けられるのは身近な召喚士だ。複雑な召喚ができる、熟練の召喚士には熟練の獣が必要だ。わざわざ大切な獣どおしを戦わせる大会があるのもこのためだ。