カイタ 本選で緊張する-2
面接の控室のような部屋に通された。ほんの僅かに血の匂いがするが、見た感じ血のシミはない。獣の温かみと匂いは強いので、ここで喧嘩があったというよりは、せいぜい爪切りに失敗した程度の話だろう。
いったん落ち着いて、リュースのそばで待とう。
扉が開いて、別の受験者がやってきた。ヒラヒラ襟をつけたブタと、その主人か。よく見ると主人の男の靴下、リボンとレースが付いていて、ずいぶんファンシーだ。外套や脚絆は地味なのに、人目につきにくいそういうところでおしゃれというか自分の趣味を出すのか。校則の厳しい高校生みたいだな。
ああ、だから豚の襟もヒラヒラしてるのか。
この世界にもトレンドとか高級ブランドとかあるのだろう。リュースはそういうのが疎そうだが、街を歩く人を見るとそう思う。大量生産の既製品に囲まれてるわけではないけれど、完全に手作りというわけでもない。ある程度のクオリティーのものが商店に並んでいるところを見ると、小売りやメーカーのような業態はあるのだろう。それに、この世界でも明らかに上等そうな服がわかることが、どの文化でも変わらない価値があるようで面白い。
全く違うと思っていたものに共通項があるとわかると、急に身近に思えて興味が湧き上がる。そして、誰かと話がしたい。
ヒトがいてもこんなにさみしいなんて思ってもみなかった。前脚を静かに齧り、声にならない声が出ないよう必死で誤魔化した。




