カイタ 本選で緊張する-1
なんでこんなに待ちぼうけの時間が長いのか。
とっとと本選を始めればいいのに。
「カイタ、行くよ。」
と言われて歩いているが、一向に試験が始まらない。タイル張りの床は鳥だの花だの明るい雰囲気で、なんだか気持ちの落ち着けどころがなくてスカした気分になる。どーせ、獣の気持ちなんて人には伝わらないんでしょうねぇ。あくびしかでねぇわ。
ふと、潮の香りが鼻をくすぐる。駅からここまで海の匂いはしなかったのに、なぜ急にするんだ。ここは川は近かったが、海は遠いはず。なのに、なぜだ…。
まさか、シャチとかサメとかとも当たるのか?いやいや、いくら海の仕事に当たる獣がいても、俺は関係ないはず。俺の身体能力は陸でしか行かせない。というか、俺はこの身体で泳げるのか?クロールの動かし方はわかるけど、いぬかきはどうすればいいんだ?息継ぎは?潜水は?
いや、今まで泳がされたことがないことを考えると、水の中で泳ぐシャチやサメとは対戦しないだろう。今までの訓練や扱いを思い出すと水の中はなさそうだ。
…いや、アシカとかアザラシだったらどうする?一気に水の中に引き摺り込まれたら、おしまいだ。トドもやばい。あの巨体にのしかかられたら、抜け出せる気がしない。素早く上に跳ぶしかないな。待てよ、シャチとトドのミックスみたいなやつだったら、お手上げじゃないか。そうなったらリュースを引っ張って尻尾巻いて逃げよう。
想定外なことはいろいろあって当然だ。こっちは知りたいことが山ほどあったのに、全部伝えられなかったんだから。「試験の仕組みを詳しく教えろ」なんて身振り手振りと鳴き声だけで伝えられなかった。獣になってわかったが、人間の可動域とは全く違う。あんなに指が器用に動かない。言葉でないと説明できないことを相手に伝え切るのは到底無理で、その度に歯痒い思いをした。人が羨ましい。人に戻りたい。




