リュース 本選で戸惑う-3
石畳の道を駅に向かって、カイタと歩く。
広い通りに出たが、やたらとコロが引っかかる。その度にカイタは立ち止まり、若干すまなそうに私の顔を覗く。
「なんで申し訳なさそうなの?」
笑いながら下がり眉のカイタをなでる。
道路工事の旗が振られている。歩行者用の通路を歩む。ガツガツと石がクレートがあたる。コロを持ち上げながら、工事現場の横を行く。
パンティングの音が聞こえる。ターンスピットが
ハキハキと滑車を回していた。長く滑車を回し続けられるのはターンスピットは疲れ切る前に交代させたいところだ。と思ったら、工員さんがジャーキーを持ってくる。
「よーし、休憩だ。ター坊、おすわり」
ターンスピットは勢いよく滑車を降り工員さんの目を見てお座りする。
「よし」
耳を大きく揺らしながらジャーキーにかぶりつく。いつ見ても良く食べる獣はかわいい。
クラカケバンバが荷車の前にいた。これからの力仕事を前に、にんじんを食べながら,大きな気持ちで石が積み終わるのを待つ。力強い脚は見ていて惚れ惚れする。
獣と人の関係は本当に不思議だ。言葉は交わせないけど、人も獣もお互いの気持ちを察しあおうとしている。その間に立ち続けることが私はできるのだろうか。
駅前広場でカイタをクレートにしまう。
クレートの上に荷物を乗せ、改札口へ向かう。いよいよ旅が始まる感じがしてきた。
切符を駅員に見せる。切符鋏の音が小気味良い。
シケブカブタの前を通る。
けたたましい鳴き声にびっくりする。
獣と武具は要申告
ポスターの駅員と目が合う。しまった、カイタを連れていることを伝えてなかった。駆け寄る駅員にカイタのことを伝え、謝りながら獣同行切符も見せた。駅員さんも最近厳しくなったので、こちらも協力いただいていると、意外と低姿勢だった。
カイタのクレートに錠がかけられた。
持ち場に戻る駅員さんに改めて頭を下げる。かかとにかじられた跡がある靴。きっと愛玩獣がいるのだろう。
汽車は定刻で到着した。降りる人はそこそこいた。
順序よく乗り込む。自分のカバンを頭上に起き、カイタのクレートを足元に入れる
カイタは静かで落ち着いている。ときどき車窓の先を覗いている。カイタは何度も汽車に乗ったかのような振る舞いで羨ましい。昨日なかなか寝れなかったこっちが恥ずかしい。
汽車がゆっくり動き出す。カイタの耳がくるくる回る。
夕ご飯のお弁当を食べる。煮物の中にある謎の食材がいつも気になる。豆なのか芋なのかいつもわからない。からの容器の裏を見てもやっぱりわからない。むしろ、シュプリイモエキスってなんだろう。
カイタにも夕飯をあげる。カイタは奥歯でゆっくりと腱を味わう。
トイレに行って歯磨きして、席に戻る。カイタはもう寝ていた。毛布に包まる。とにかく寝よう。カイタを見習って寝よう。寝不足はだめだ。
ごうごうと重い風の音がする。岳の雪の冷たさ、力強い手、麝香とチャンダルの香り。もう一度会いたい。
カランカランとカウベルの音がする。白んだ空が霧の中を照らす。川沿いまで出たようだ。さっきのは夢なのか思い出をもう一度見たのか、不思議な気分だ。
ニーダーセントは近い。窓を開けたら牛糞の匂いがしたので、そっと閉めた。
ニーダーセントの駅に着く。会場はここから歩いて30分くらいだ。駅員に鍵を開けてもらい改札を抜ける。カイタは本当に落ち着いている。
広場でカイタを檻から出す。大きく伸びをしたカイタにもう一度頭巾とハーネスをつける。まとめた荷物と一緒に歩き出す。
受験者要項には書いてなかったが、上り坂がきつい。これならポーターサービスを頼めば良かった。
受験者の列と合流した。中小型の獣列に並ぶ。何人かは私と同じように息が上がっている人もいるけど、ほとんどの人がきちんとしている。
準備不足だったのだろうかと不安になる。
受付で受験書類とカイタを見せる。
カイタは簡単な健診を受ける。嫌がるそぶりも見せない。カイタは本当に落ち着いている。
幾つかに手続きを得ると、受験者控室にとおされた。
ようやく一息つけるところまできた。
「緊張するねー、カイタまる」




