カイタ 本選に進む-1
「緊張するねー、カイタまる」
そういうと、コイツはいつもよりゆっくりとオレの角をさすり、あたまをなでた。
四つ脚で立っていたオレは、くるりと回って丸まった。尻尾で顔お隠し、辺りをうかがう。
これから対戦する召喚士・召喚獣たちの顔はさまざまだ。ふたりそろってその場を歩き回るヤツ、居眠りする主人の横で床をほじくり返すヤツ、前足と両手を合わせてレスリングするヤツ…
でも、全員に隙がない感じは、予選を勝ち抜いてきただけの実力を保証しているようだ。
思い返すと、この3年間はメチャクチャだった。
今でもはっきり覚えているのは、体をまるごと持ってかれた衝撃と真っ暗闇、クソ重い梁、うめき声、埃と煙と血の匂い、息苦しさ、ひとりぼっち、
抜けていく意識、さみしさ、
包み込まれる暖かさ、ミルクと毛の匂い、にぎやかな声、のどかな日差し、舐めとられる頬
オレは、生まれ変わった、召喚獣として…
角を持つ手がかすかに強張った。
俺も体勢を整えておくことにしよう。後ろ脚をじっくり伸ばすのは気持ちいい。人だと感じにくい尻からももの裏の筋肉が一気によくほぐれる。首も回そう。
吸い直した息に、高い床屋の匂いを感じる。ヤツらが来る。
黒いチュニックに貂の毛皮、短刀の紅い鞘、王者の気高さと強さを纏う若さ眩しき召喚士………あれ、ヤツの気配がない。
「この間は、あ、りがとうございました!」
オレの召喚士は、ホントまだまだだよなあ。このタイミングでそんなに動揺してたら、勝てないぞ、と。
「ああ、こちらこそありがとう。あの吹雪は4人だから超えられたんだと思う。」
ホントこの若造は気に食わん。なんだあの涼やかな微笑みは。オマエはその笑顔一つで大体の問題を解決させたような感じに持ってけるじゃねぇか!
「ほんとにありがとうございました!あの、ナイフ、お返ししたくて。…あの晩で傷つけちゃいましたね。」
オイオイオイオイそんなに顔赤めてどうする?!テメェはこれからソイツに挑んで勝つために今日までやってきたんだろが!
オレはアンタのために戦ってんだぞ!アンタのために歯くいしばって、ボロボロになっても休んで、
また戦って!
下手したら戦いで死んじゃうんだぞ、オレ?!