あと2日
友人と昼食を食べて帰路に就いた時に、街から公衆電話がなくなっていることに改めて気が付いた。
10年くらい前にはあった公衆電話がなくなっていると知って、「当然よね。」と思いつつ、地震とかでスマホが使えなくなったら、その場合の通信手段で有効なのは「公衆電話」だから、あまりに見かけなくなると、「被災したら困るなぁ。」と思った。
私は自宅から一番近い所の公衆電話、駅から自宅までの路にある公衆電話を覚えておこうと思い、スマホで写真を撮り残した。
ただ、写真で撮った公衆電話も、もしかしたら無くなるかもしれない。
そして、病院の外来に公衆電話が一つもないことに気付いた。
地震だけではない、台風も……そんな日本から公衆電話が消えていくのは、いざという時に困るのではないかと思いつつ、撮った公衆電話の写真を見た。
「被災したら、独り、ね。
誰に一番最初に伝えたら?
今度、親子会議を持たなくっちゃ!」
親子会議についても、娘が来てくれた時に話して決めたいと思った。
友人と会ったから、今日はいつもよりも、あの菓子箱に対してのモヤモヤした気持ちを抱く時間は少なくて助かった。
帰宅してから、独りで夕食を摂っていたら、久し振りに息子から電話が架かって来た。
「どうしたの?」
「どうしたの?って……。お母さん、大丈夫?」
「何が?」
「何が?って……お父さんが残した手紙。 大丈夫?」
「……恵みから聞いたのね。」
「そうだよ。気にしてるって……。」
「見てないのよ。」
「聞いたよ。めぐが読むんだろう。」
「ええ。」
「俺も行くよ。」
「何言ってるの……。貴方が来たら……気を悪くしない?」
「誰が?」
「……誰って……。」
「もしかしたら……うちの奥さんですか?」
「……あまり息子を呼びつけるのは……。」
「めぐは呼びつけてるのに?」
「それは……。ごめんなさい。」
「謝って欲しいわけじゃないよ。俺も居るってこと。」
「そうね。ごめんね。」
「娘の方がいいんだろうね。でも、俺も居るんだよ。俺一人で実家に帰ることを嫌
がらないよ。」
「本当に?」
「うん。本当に! 大丈夫だよ。」
「それなら……いいんだけど……。」
「ねぇ、お母さん、綾と何かあった?」
「何も無いわよ。本当に、本当、よ。」
「分かった。取り敢えず、行くからね。」
「そう……待ってるわね。」
息子が来ることは想定外で……嫁には前に言われたことがあり息子には頼らないと決めていたのだった。
「参ったなぁ。また、綾さんから電話があるかしら?
嫌だなぁ………。
来ないでくれたら……。
あぁ~~っ、恵に言っておけば……、否、駄目だわ。言うってことは、あの話を
しないといけないじゃないの。もぉ――っ!」
息子の嫁とは少し諍いに、一方的に諍いにされてしまったことがあった。
息子と娘が来る日まで、あと2日。




