表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋文  作者: yukko
2/20

手紙とアラン・ドロン

暑い中、片づけを続けて一旦、片づけを終えたのは夕方だった。

急な雷雨で外は土砂降りだった。

大急ぎで洗濯物を取り込んだが、洗濯物は少し濡れてしまった。


「あ~ぁ、濡れちゃったわ。家の中で干さなくっちゃ……。」


独りだからか、それとも年齢を重ねたからか、独り言が増えたように思う。

家事の時など一々言葉に出してしまっている。

それに気づいて恥ずかしくなる時がある。


片付けた後で「これは何だろう?」と思った物は、菓子箱以外何もなかった。

あの菓子箱だけが一抹の不安を掻き立てていた。

娘が来てくれる土曜日を指折り数えて待っている。

夫の何が……何かが……私の知らない何か……それを知りたいけれども、知るのが怖いのだ。


夫とは職場恋愛だった。

同期入社で、初めて会ったのは同期会だった。

同期で宴会をした時に、私の隣だったのが夫。

夫とはその同期会が付き合うきっかけになった。

家の電話に夫から電話が架かってきて、初めて二人だけで会った。

デートと呼べるような時間ではなかったように思う。

私の頭の中には夫が居なかったから……。

私のその時の頭の中は「今日の洋画、絶対に見ないと! アラン・ドロンだもの。」と、テレビで放映される洋画のことばかり考えていた。

そして、そのことを覚えているのは、夫に長い間、言われ続けたからだった。


「お前、初めてのデートだと、俺は気負って行ったのに……

 お前ときたら、アラン・ドロンしか言わなかったよな。」

「そうだった?」

「そうだよ。『今日、アラン・ドロンの映画、テレビでやるの ♡ 』って……。

 俺と一緒に居るのに、お前はアラン・ドロンばっかりだったぞ。」

「そうだったけ?」

「忘れたとは言わせないぞ!」

「許してよ。」

「いや、俺は傷ついたんだから、な。」

「もう、何十年も前のこと言わないでよ。」

「許して欲しかったら……今夜、ビール1本、な。」

「ビールが飲みたかったからなの?」

「ビール1本だ!」

「もぉ~、いいわよ。ビール1本ね。」

「おう。」


夫との会話を思い出す度に、「あんなこと言っておいたくせに、こんな手紙、大切にして!」と亡き夫に対して腹立ちが募った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ