恋文
長男が古い手紙の束を見て言いました。
「これ、何の紐で括ってあるんだろう?」
「見せて。………これ、着物の帯締め……だわ。」
「大切な男性からの手紙。もしかしたら、自分の身に着けていた物で括ったのか
な?」
「きっと、そうね……。」
「どうして、お父さん、お母さんに言わなかったのかな? この手紙のこと。」
「分からないね。あちらに行って聞かないと、分からないよ。」
「お父さん、読んだのかしら? 晴臣さんってお父さんの大伯父でしょう。
読むことに勇気が要ったのかしら?」
「さぁ……?」
「読んでいいかな? 俺、知りたいよ。大内晴臣さんのこと……。」
「いいんじゃないの。声に出して読んでね。お兄ちゃん!」
「いい? お母さん。」
「いいわよ。読んで! 私も知りたいわ。大内晴臣さん……。」
「じゃあ、読むよ。」
「ええ。」
晴貴は大切な手紙を優しく封筒から取り出しました。
「愛子へ
僕の人生でたった一人愛した女性。
僕はあす逝くことになった。
特攻機に乗る。
君には何もしてあげられなかった。
僕と結婚したいと言ってくれたこと、僕の子どもを欲してくれたこと。
僕は嬉しかった。
そう君が思ってくれたことが幸せだった。
ありがとう。
君からは貰ってばかりだった。
素敵な大切な想い出を、僕にいっぱい君は与えてくれた。
大切な愛する君が幸せになることだけを願っている。
僕の子どもをもし身籠ったら、君は新しい別の人生を生きられない。
僕はそれだけは避けたかった。
君の想いを無下にしたこと心よりお詫びする。
君の幸せを祈っている。
君だけを心から愛している。
君には不幸になって欲しくない。
どうか、幸せでいてください。
この想いを胸にあすは逝く。
愛してくれてありがとう。
さようなら。
晴臣 」
三人とも泣いていた。
これは死に行く大内晴臣さんが愛する女性に出した恋文だった。




