介護
息子・晴貴がやって来るのは困ると思っている私。
晴貴の妻・綾と折り合いが悪いからだ。
何が原因か分からない。
あまり会わないようにしていたのに、夫の葬儀の時に言われてしまったのだ。
「これから、お義母さんも大変だと思いますが、晴貴に頼らないでくださいね。
度々、呼びだされると困ります。
これからも、今まで通りにお願いします。
何かあっても連絡しないでくださいね。
介護などしませんので、私はしませんからね。
私は私の親の介護をしますから……。」
「分かったわ。連絡しないようにしますから……。」
「お願いします。お義母さん、今のご自分の言葉、忘れないでくださいね。」
「忘れないわ。安心して。」
「分かりました。」
介護は実子がすることだと私も思っていた。
凄く良く分かるのだ。
私は舅、姑の介護をしたことはない。
役所への手続きなどは手伝ったが、実際に介護したのは夫とその兄弟だった。
嫁はあくまでも手伝いだった。
それを願ったのは姑だった。
「今は、子どもが少ない。
少ないから、嫁というだけで介護だと私の頃より負担が大きいわ。
だって、義理の両親だけでなく、自分の両親の介護も担わなくてはいけなくなる
かもしれないでしょう。
昔は8人兄弟とか居て、私たち夫婦もお互いに兄弟が多かったから……
誰かは介護の経験をせずに済んで、長男の嫁だけ貧乏くじを引いたのよ。
だから、自分の親の介護はしなくても良かったわ。
でもね、介護は嫁の仕事じゃないわ。
だから、私とお父さんの介護は、私が産んだ子ども達だけでしてください。
お願いよ。私は私と同じ苦労を嫁だというだけでさせたくないのよ。
それをさせたら、私を虐めた姑と同じになってしまうわ。
お願いね。私のたった一つの願いだと受け取って!」
姑の言葉を受け取った夫は兄弟と介護をすると決めてくれた。
だから、私は市役所やケアマネージャーとの連絡に徹していた。
そう出来たのは姑のお陰である。
だから、嫁に何かして欲しいと願ったことは一度も無い。
それなのに……
連絡をしないでくれと言われてしまったのだ。
だから、あの菓子箱の手紙で晴貴に連絡したくなかった。
困る。困るのだ。
このことが晴貴の妻・綾の気持ちを逆撫でしないか、不安だ。
あの菓子箱を恨めしそうに見てしまう。
「ねぇ、お父さん、どうしてこんな物、残したのよ。」
亡き夫に恨み言の一つ……出てしまった。