モイラ編幕間03-04『スズの華麗な一日』『いんたびゅーうぃず妖02』『マイマイと竜』
『スズの華麗な一日』side 鈴鹿御前
ーーー蛆虫にも劣る貴様らを立派な糞虫にしてやろう。
我は鈴鹿御前だ。
一応鬼族ではあるが、我ながら異端だとは思うのであまり参考にはしないように。
今日はそんな我の華麗な一日を紹介しよう。
我の朝は早い。
日が出る前に起床し、まずは日課のランニングだ。
走りながら徐々に朝日が覗く光景を見るのは清々しい一日の始まりを予感させてくれる。
そこは地球も『モイラ』も変わらんな。
是非とも試してみる事をお勧めする。
ランニングが終わったら浴室で軽く汗を流して食堂へ向かう。
米がないのが不本意ではあるが、それさえ除けば非常に美味い。
個々に量を調整してくれるのは有難い。
冒頭でも触れたが我は鬼族だ。遺憾ながら大変燃費が悪いのだよ。
まあ、太りにくい体質とのトレードオフと考えれば悪くはないのかもしれんが。
腹一杯飯を食ったらひよっこ共と訓練だ。
最近は専らありちゃむのダンジョンで行っている。
とはいえ我々には冒険者の資格などないからな。
入り口から遠く回り込んだ隠し扉からこっそりとお邪魔して我々専用の訓練場へ向かうのだ。
「軍曹殿にぃ、敬礼!」
伊織からは軍曹などというご身分を頂戴した。
そもそも軍曹以外の階級があるのかという話なのだがな?
鬼族の軍曹で鬼軍曹とでも言いたいのだろう。
まったく、我ほど慈愛に満ちた指導官はおるまいに。
今笑った者はあとで指導室に来るように。
「休め。本日は定期訓練だ。
但しジョンドゥ!ジェーンドゥ!」
「「はっ!」」
「貴様らは残れ。他はとっとと訓練を始めよ!」
入隊時は覇気の無い蛆虫だったが、入隊から三ヶ月を迎えて一端な面構えになった。
ようやく卒業試験を受ける資格を得た訳だが。
残念ながら三ヶ月で卒業できた者など我も含めてほとんどいない。
それすらも理不尽としてグイグイと押し付ける訳だ。
これを考えた奴は性根が捩切れるほどひん曲がっていたことだろうよ。
「さて、貴様らは卒業検定を受ける資格を得た訳だがどうする?別に今からでも構わんぞ?」
「軍曹殿、意見具申を宜しいでしょうか!」
「よかろう。」
「はっ!我々に受験資格は無いと愚考します!」
ほう。愉快な事を言い出したぞ。
「ジェーンドゥ、端的に理由を述べよ。」
「はっ!私は基礎体力試験こそ合格しましたが、何故このような理不尽を強いられるのかが全く理解できておりせん!」
「それで?」
「はっ!一ヶ月の延長を希望します!」
正直、これには驚かされたよ。
こいつらには血反吐を吐くどころか血尿を垂れ流すような訓練を課している。
一刻も早くここを出たいと思わせるのが我の仕事なのだ。
当然こいつもその洗礼を受けている。
「なるほど。貴様の考えはわかった。
三ヶ月で理解できなかった者が四ヶ月で理解できるとは思えんがな。
もしそうなったら貴様はどうするんだ?」
「理解できるまで訓練を希望します!」
「阿呆、訓練もタダではない。
出来の悪いウジ虫を効率よく糞虫に仕立て上げるのが訓練の目的だ。
いつまでもオムツの取れぬウジ虫の相手ばかりをしてはおれんのだよ。
それで、ジョンドゥは納得しているのか?」
「イエス、マム!私が言い出したことであります!」
なるほど二人してイカレている訳だ。
「姉弟仲良くマゾヒスト揃いという訳か。」
「「イエス、マム!」」
まあ、よほどイカレてでもない限り初日合格など有り得んのだがな。
「では重ねて問う。貴様らにとって理不尽とは何だ?」
「今の環境であります!」
「その通りだ。なぜこんな理不尽が罷り通るんだ?」
「わかりません!」
「解っているではないか。だから理不尽なのだ。」
「は、はあ?」
「アホ面を引っ込めろ。」
「イエス、マム!」
「理不尽とは、理解できないからこそ理不尽なのだ。
だが、だからといって屈していい理由にはならない。
それでもと歯を食い縛り、前を向く覚悟のみが試験の評価対象である。」
「・・・」
「ふん、まさか初日で突破するとはな。
合格!ジョンドゥ、ジェーンドゥの『夜行教育』初等訓練過程を修了する!」
「「マム?」」
「まだわからんか?」
「「イ、イエス、マム!」」
「合格要件は『理不尽に折れない覚悟』ただひとつだ。
理由などどうでもいいのだよ。
貴様らの立ち向かう覚悟は伝わった。
今後、貴様らは任務を遂行するにあたり、様々な理不尽と遭遇する。
高温、寒冷、飢餓、渇水、痛み、のみならず大を生かすために小を切り捨てる選択を強いられる事すらあるだろう。
心が折れそうになった時にはこの三ヶ月間の理不尽に耐え、乗り越えることができたことを思い出せ。
お前達は如何なる理不尽も、如何なる困難も乗り越えることができるはずだ。」
「「マム・・・」」
「訓練を終えた以上、お前達はたった今から諜報部門の責任者だ。
部下をもつ身でそんな辛気臭い顔をするな。」
「軍曹殿は『夜行教育』初等訓練過程と仰いましたが、中等訓練過程は如何なるものでしょうか。」
「まだ『モイラ』式に調整している段階だ。
ロープ橋、渡河訓練、山岳機動訓練、体力錬成、そして何かしら魔法的な要素を加える形になるだろう。
なんだ、興味あるのか?」
「「イエス、マム!」」
「ふん、本当に筋金入りのマゾヒストだな。
よかろう、主様に具申してやる。今日は休んでよし。」
「「イエス、マム!」」
ーーーーー
ーーー
ー
夜、伊織の私室にて。
「なんて事があった訳だ。」
「あの初等訓練のおかわりを希望しただと?
追い詰めすぎてイカれたんじゃないだろうな?」
「クク、否定はできんな。我も同じことを思ったよ。」
「想像以上の逸材かもしれんな。
ジェーンドゥとジョンドゥには風属性と無属性に適性があったはずだ。」
「ああ、間違いない。」
「立体機動訓練と降下訓練を組み込んではどうだ?」
「前者はいいだろう、だが後者はなんだ?」
「グリフォンから落ちても死なないようにする訓練だ。」
「お前はまた無茶を言うな。」
「いや、立体機動ができれば楽勝だろう?」
「・・・確かに。魔力さえ保てばいけるか?よし、行くぞ。」
「何?」
「下っ端にできて上官にできないというのでは話にならんだろう。
とっとと立て。」
「やれやれ、やはり巻き込まれるのか。
というかグリフォンは鳥目だったりしないのか?」
「知らんがそのほうが都合がいい。夜間行軍訓練にもなって丁度いいだろう?」
「どっちが無茶を言ってるんだろうな。
気がつけば俺の訓練にすり替わってそうだ。
ところでさっきからずっと気になっていたんだが。」
伊織は鈴鹿御前と連れだって歩きながら不思議そうにその肩を見た。
「どうした?」
「鈴鹿御前の肩に乗っているのはエリーで合っているか?」
「イエス、サー!私は元第二王女、エリーであります!」
伊織の目線の先には鈴鹿御前と似たような軍服を纏った元第二王女がビシッと敬礼している。
ブラちゃむの話ではお花畑から産まれたような少女であったと記憶していたのだが。
「元第一王女が訓練しているところを見たいと言うから見学させたんだが、思うところがあったらしくてな。
妖精の一部を諜報部に所属させたいと言い出して我について回るようになったんだ。」
「そういえば妖精郷の連中は普段何をしてるんだろうな?」
「主がそんな事でどうする。」
「尤もだ。」
「大将閣下!是非ともご検討願います!」
「言われてみれば、確かに俺は大将か。
それよりも、まずそこに至った経緯を聞かせてくれるか?」
「はっ!まず私はマリーに甘えてばかりの自分と決別したく思いました。
その上で主様のお役に立つには諜報部が最も相応しいのではないかと愚考した次第であります!」
「では、相応しいと思った理由を述べよ。」
「はっ!まず我々は小柄です。そして妖精魔法による隠蔽、催眠、魅了が得意であります。
また、飛行することができ、手先が器用であります。
さらには万一見つかってしまっても『フェアリーサークル』で即座に離脱可能であります。
最後に、我々妖精一同は邪神に報いを受けさせねばなりません。
当事者として最前線で戦うことを希望します!」
「邪神に対してどう始末を付けるのかは後日改めて話すとして、だ。
実に見事な模範解答だな、鈴鹿御前もそう思わないか?」
「む、そうだな。悪くないのではないか?うむ。」
明らかに鈴鹿御前の目が泳いでおり、その態度もまた入れ知恵したことを雄弁に自供していた。
とはいえ別にそれ自体に問題はない。
「ところで、『フェアリーサークル』とは?」
「純妖精の特殊スキルであります。
これによっていつでもお友達のいる場所に帰れます。」
「純妖精というのは?」
「迷宮妖精と区分するために他の妖精をそう呼称しております。」
「なるほど。確かに非の打ち所の無い性能だな。鈴鹿御前は賛成なんだろう?」
「う、うむ。差し支えないと思うぞ。」
「諜報部門のトップはジェーンドゥとジョンドゥだ。
彼らと連名で教育計画書と運用計画書を提出せよ。」
「承知致しました!必ず納得いただける計画書を作成して参ります!」
「うむ、期待している。」
後日提出された計画書によると諜報部門は正式名称を『八咫烏』と名乗ることに決めたらしい。
八咫烏とは日本神話に登場する三本足のカラスであり、導きの神として知られている。
妖、人族、妖精族の三本を以て夜行を導くということだった。
恐らく考案者は鈴鹿御前だろう。
そして肝心の運用計画だが、「妖と妖精」あるいは「人族と妖精」のツーマンセルを基本戦術単位にするとのことだ。
妖精の特殊スキル『フェアリーサークル』がレベル5になることで効果範囲が広がり、バディまで含めて転移可能になるらしい。
育成計画の方ではそのために妖精をレベル50まで育て上げると息巻いていた。
アリストロメリアSS級ダンジョンがさらに賑やかになることだろう。
伊織は計画書を読み終えると一息ついて考えた。
これは下手をすると本家の『風間』以上に使い勝手がいい組織になるかもしれない、と。
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『いんたびゅーうぃず妖02』side ヒルメ
えっと、お久しぶりです。
天照大御神こと、ヒルメです。
この間は百々目鬼と覚にお話を聞いたんだけど、なんだか色々と考えさせられました。
ちょっと、かなり、妖って怖いなあって思ったけど。
今日は倉ぼっこだから怖くないと思ったの。
でも、最後に覚が「だといいですね。」って言ってた意味がすぐにわかったよ。
「知っての通り、我は序列第三位の鈴鹿御前だ。
今日は君からの質疑に答えるようにとの主様からの指令で参上したが、相違無いだろうか?」
「え、いや、あ、はい。」
ヒルメはノーと言えない駄女神です。すみません。
でも鈴鹿御前は怖いから仕方ないね。
「序列第四位の倉ぼっこだよ。
私も主様に同じことを言われたんだけど、二人一緒にってことでいいの?」
「えっと、あの、はい。」
クラは物凄く人見知りだったって聞いたけど、最近はそうでもない気がするね。
なんでかな?あとで聞いてみようね。
「よろしい。何でも聞いてくれたまえ。」
「では、肩の上の妖精も紹介していただけますか?」
「む、ついて来ていたのだったか。エリー、挨拶を。」
「はっ!私は『八咫烏』の妖精頭エリーです。お見知り置きください。」
「はい。はじめまして、ヒルメです。」
詳しく聞いてみましたが、『八咫烏』と言うのは忍のような組織みたいだよ。
きっと首を刎ねたりするんだよね?怖いね。
総長がジェーンドゥ、人族頭がジョンドゥ、妖頭が豆狸のタヌ、妖精頭がエリーらしいよ。
食堂でいつも死んだ魚のような目をしている人達だね。やっぱり怖いね。
「あの、色々と聞くけど、答えたくないことは答えなくていいからね。」
「問題ない。」
「うん、わかったよ。」
「では部下になった切っ掛けは何ですか?」
「我は元々夜行家に仕えていたが、お館様の指示で主様の直臣となったのだ。」
「クラは主様と同い年だよ。生まれたときから一緒だったんだ。」
「鈴鹿御前はいつから夜行家に仕えているの?」
「かれこれ500年にはなるな。
我は名前の通り元々は鈴鹿山の鬼であったのだ。
自分で言うのもなんだが、どうにも異端のようででな。
上手くやっていけずに飛び出したところを当時のお館様に拾ってもらったのだ。
軍事指導を始めたのはしばらくしてからだな。」
「そんなに昔からだったんだ。
二人は望んでモイラに来たの?」
「招聘には拒否権があるから嫌なら皆、断っているさ。
我自身はモイラに興味津々だったし、それにお館様にも弟を助けろと尻を叩かれたものでね。」
「クラは主様と一緒がよかったからついてきたよ。」
「ではお二人以外の方も自ら望んで来たのですね。それも伊織の人望なのでしょうか。」
「あいつは幼少の頃から『夜行の鬼子』と呼ばれて異彩を放っていた。
信じられんかも知れんが性格は穏和でいてやんちゃな奴だったよ。
倉ぼっこのほうが伊織とは身近だっただろう?昔はどうだったんだ?」
「クラには優しかったよ。妹みたいに可愛がってくれたんだ。
それで気がつけばすぐどこかの野良を拾って来るんだよ。
クラの『倉』はそんな『はぐれ』達の溜まり場になってたよ。
実際、招聘された妖の半分は『はぐれ』だね。
性格は変わっちゃったけど、いつでも妖達の輪の中心にいるのは変わらないね。
それになんだかんだで妖精達も全部背負いこんでるよね。
結局、根っこは変わってないんじゃないかなあ。」
「私は怖い伊織しか知らないから興味深いな。色んな人に聞いてみようかな。
お二人はどのようなことをしているのですか?」
「我は教育と訓練指導だな。有事の際には一軍を率いることもあるかもしれんが。尤も、今はまだそんな規模ではないがね。」
「私は勉強と製作だね。少しづつだけど納得のいくものを作れるようになってきたんだー。」
「クラは何を作ったのです?」
「一番新しいのだとマイマイの三つ首につける呪属性のブローチだね。
師匠の協力もあってなんとか『英雄級』までこぎ着けたけど、この程度だと宝箱からポンポン出ちゃうんだ。
だからより上の等級を目指してるとこだよ。」
ヒルメはクラと同じ製作部門に所属しているよ。
だからお互いにある程度何を作っているのかは把握してるんだけどさ。
すでに『通常級』の二段階上の『英雄級』まで作れるようになってるとは思わなかったよ。
「えっ?製作経験ほとんどなかったよね?」
「2ヶ月ちょいだねー。」
私ははアイテムを作るのが得意なの。というかそれぐらい?悲しいね。
でもがんばれば神話級も作れるんだよ。
でも私が『英雄級』を作れるようになるまで何年?いや何十年かかったっけ。
というか2ヶ月目の頃なんて完成品を作れていたかすら怪しいんだけど。
みんながクラを天才って言うのがわかった気がするよ。
クラはどこまで作れるようになるかな?
「あの、迷惑でなければ今度一緒に伝説級を作ってみませんか?」
「えっ!?是非、お願いしたいな!」
「千年ぐらいは鍛治をやってないから、鈍ってたらごめんね。」
「全然へーきだよ!嬉しいなあ。」
やっぱりクラはいい子だね。気が合いそうな気がするなあ。合うといいなあ。
「今後の二人の目標は何ですか?」
「どういう形かはわからんが、伊織はいずれ国を持つだろう。
我の使命はその国の軍備を磐石とする事だな。すでにその礎は作り始めている。」
「おお、なんかかっこいいね。
クラは主様の欲しいものを何でも作れるようになりたいな。
だから最終目標は大きく、神話級製作だね。
あとは魔法と科学で現代品を擬似的に再現することかな。」
百々目鬼にも、覚にも、この二人にも、確固たる目標がある事に気づいたよ。
私には、うん、ないね。
そこが一番の違いなのかなあ。
なら、やっぱりクラの目標を手伝いながら私も何か探してみようかな。
やりたいことかあ。
「つきあってくれてありがとう。」
「この程度、どうという事はない。少しでも参考になればよいのだがな。」
「うん、私も色々とお話しできて楽しかったよ。
次は一反木綿とお話しするんでしょ?」
「え?そうなの?」
「我も聞いたが伊織はそつもりのようだぞ?」
「もしかしたら獏も一緒かもね。」
「わかりました。そのつもりでいます。」
お話するのは最初は緊張するけど、終わったらちょっとだけ寂しい気分になるよね。
一反木綿と獏はあまり話したことがないけど、怖い子じゃないといいなあ。
「案ずることはない。一反木綿には我がしっかりと話をしておいてやるからな。」
「えっ、あっ、はい。」
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『マイマイと竜』side マイマイ
マイマイ舞首だよ?
今日はついにドラゴンの首をゲットでアゲアゲの予定なんだよ!
マイマイ大興奮。
「ねーマイマイ。竜ってでっかいんでしょー?首も大きいよねー?」
「あ、確かにそっかも。でっかい人形作んなきゃ。獏も手伝ってね?」
「いいよー。」
「ありっ!」
首はキレイキレイにゲットしなきゃだからね。
獏が眠らせ係で、マイマイがちょんぱ係だよ。
ざっくりと聞いた限りだと色とりどりらしいから人形の色も首に合わせたらニギニギ賑やかだね!
色が被ったらどうしようかな?青いドラゴンとかいそうじゃん?
青のおっさんをピンクにすればいっか。
んでもあのおっさん、すーぐゴネるからなー。反抗期なんかね?
「来たか。すでに用意しているぞ。好きに選べ。」
「あ、主様こんちゃー。どれどれー、って、うわー、かわいいー。」
「やほー主様ー。みんな小さくてかわいいねー。」
「きゅー、るるるる!」
青い幼竜?がいたんだよ。
つぶらな瞳でマイマイ達を見つめながら可愛く喉を鳴らしてまあ、かわいいオブかわいいだよ!
「ほれ、抱っこしてみてはどうだ?」
「噛まない?」
「アリちゃむがちゃんと躾をしているから大丈夫だろう。万一に備えて結界も貼ってあるから安心するといい。」
至れり尽くせりだね!
結界ぐらい自分で貼れってコンコンとお説教されるシチュエーションなんだけど。
まー主様もこいつの可愛さに心が穏やかなのかな?なのかな?
「あはは、ちっちゃくてもカッチカチだね!」
「うわー、ひんやりー。」
「水の子かな?」
ちらっと主様を見ると相変わらずの無表情で、やっぱり何を考えているのかわかんマイ。
昔はコロコロと表情を変えてたんだけどねー。
までも中身はあんまり変わってないんだけど。
「さて、このまま遊んでいてもいいが、どうするんだ?」
「えっ。」
そういえばマイマイは首をゲットしに来たんだったよ。
「ぐ、ぐぬぬ。」
「どうしたマイマイ。かわいい首が欲しかったんだろう?お望み通りだぞ?」
「きゅーん。」
マイマイの足に尻尾を絡み付けて、一生懸命頬を擦り付けてくるんだよ。
「無理!こんな可愛い子、殺せマイ!」
「そうか。せっかく用意したんだが。使い道がないなら処分するしかないな。」
「嘘でしょ!こんなに可愛いんだよ?」
「うむ。マイマイが可愛い首が欲しいと言うから用意したのだからな。」
訂正します。主様はやっぱサイコパスだ。クラがいつも嘆いてる通りだよ、うん。
「マイマイがお母さんになる!」
「ほう。だがとんでもなく大きくなるぞ?」
「むー。あ、ダンジョンで飼えばいいじゃん?」
「だそうだが、アリちゃむ。」
「それは構わないんだよ。でもご飯はどうするの?」
「オークを食べさせて下さい!なんでもしますから!」
この子の命のためなら、マイマイはオークの死骸をいくらでも積み上げるよ!
「わかったんだよ。それじゃ、最下層のB21Fにマイマイのペット部屋を作るね。」
「ありがとアリちゃむ、アリアリちゃむだよ!」
こうしてマイマイはドラゴンの首は手に入らなかったけど可愛いペットを四匹手に入れたんだー。
なんかもう大人の竜の首もいらマイよ。テンションさげさげ。
そんんかことより名前は何にしようかなー?
おっさん三人衆の名前だと縁起悪いし、一人足んマイね?
マスターだったらアカとかアオとかにしそうだよね。
「獏も時々見に来ていいー?」
「うん、一緒に遊びに行こうよ。早速明日にでもさ!」
「わかったー。」
なんだかほっこりした気分で拠点に戻るよ。
それにしても主様の鬼畜ぶりにはびっくらこいたけどねー。
なんか半端な結果でごめんね?
次は超かっこいい首を用意しとくから楽しみにしといてよ。
それじゃ、またね。マイマーイ!
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side アリちゃむ
「ほんとにパパの言う通りになったんだよ。」
「いや、マイマイならそのまま首を刎ねる可能性も十分にあったと思うぞ?」
「そうならなくてよかったんだよ。わざわざ卵から孵化させた甲斐があったね。」
迷宮で生成できるモンスターは成体限定なんだよ。
それにご飯も食べなくて、魔力がないと生きていけないんだよ。
もちろん卵も生成できないんだよ。
「ちょうどレミィから竜の巣を見つけたという報告を受けたからな。
マイマイの情操教育にいい素材になると思ったんだ。
あいつは皆の中でも最も妖寄りだからな。」
「あんなに可愛らしい見た目でキラキラした格好が好きなのに、意外だねえ。」
「反動なのかもしれんな。
あいつはあいつで人族に憧れに似た感情を抱いている。
以前、人になりたくて人を殺し、その皮を被った妖を見たことがある。
ああはなって欲しくないからな。」
「ひー、恐ろしいんだよ。」
「そうだな。悪魔ほどではないにせよ、人と妖の価値観を擦り合わせるのは簡単ではない。
だが、できるだけのことはしてあげたいからな。」
「パパはいい主様なんだよ。」
「マイマイにそうは思われていないだろうな?」
「アリちゃむがわかってるからいいんだよ。」
「そうか。ではそれで満足するとしよう。」
「じゃ、この子達を戻しておうち帰ろ?」
「うむ。しかしまた俺の部屋に迷宮妖精が溢れていそうだな。」
「やっぱりパパがホイホイしてるんじゃないの?」
「遺憾ながら否定できる材料がない。」
その後、幼竜たちはすくすく育ってダンジョンを巣立つことになるんだよ。
きっとマイマイと四竜の冒険はまた語られると思うから、楽しみにしててくれると嬉しいな。
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難産だったよ? >_(:3」∠)_
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