モイラ編03-21『竜種召喚と超越妖精アリちゃむ』
アリストロメリアSS級ダンジョン最下層にて。
進化を控えたアリちゃむはサトが連れ帰った。
そして伊織はブラちゃむを伴い、ダンジョンコアの前に立った。
「何はともあれ、まずは魔力補給だな。」
ダンジョンコアに触れ、少しづつ魔力を流す。
アリちゃむは支配権を失っても構わないと言っていたがやはりそれは避けるべきだろう。
「一応、ブラちゃむもコアに異変がないか見ておいてくれ。」
「ああ、わかった。」
少しづつ出力を上げるが特に違和感はない。
しばらくその調子で続けているとブラちゃむがダンジョンコアの操作を始めた。
「さすがの魔力量やね。もう1フロア分貯まってんよ。」
「追加は1フロアでいいのか?」
「まずは1フロアを竜で埋めるのが先やね。」
「確かにそれもそうだな。いつ攻めてくるか知れたものではないしな。
いや、もう1フロアだけ追加してくれ。」
「その心は?」
「俺がラスボスだ。」
ブラちゃむは天を仰いだ。
「相手に同情するぜ。」
「期待に応えよう。」
「はは。」
伊織の回りには気安く話ができる相手があまり居ない。
そういう意味ではブラちゃむと伊織の相性は良好といえた。
「よし、迷宮デザインは私が決めていいん?」
「俺の祖国に『餅は餅屋』という言葉がある。難しい事は専門家に放り投げろと言う意味だ。」
「いい言葉やね。なら超大部屋にして竜を並べるか。うはは、楽しくなってきたわ。」
「うむ、どんどん追加してくれ。」
「まずは超大部屋を作って、と。次に階段の設定を変えて・・・よし。」
「なるほど、別次元にあるからこんな事ができるのか。」
「そそ。現実やとB10FとB11F間に部屋を作るとか無理やけどね。
次元を繋ぎ変えっとフロアの入れ換えができるんよ。
ただ、フロア内に侵入者がおったら無理やったり、制限も結構あるんやけどね。」
「便利なものだ。話は変わるが、壁で塞いでは駄目なのか?」
「壁で囲めばええやん、とか誰でも考えるやろうけど一定のマナの通り道がないと駄目なんよ。
あと、変な話なんやけど地面が続いてないと迷宮と認識されんくなって修正するまで使い物にならんくなるんよね。」
「断崖絶壁にはできない訳だな。」
「そそ。幅1mぐらいの道が必要。」
「悪さできるな?」
「この情報だけで『崖上迷路』を発想できるなら主様はダンマスのセンスあんよ。」
「そうか?飛行種でつつき回して崖から落とすぐらいは誰でも考えそうなものだが。」
「どうやろね。まあ、私のダンジョンの最下層一歩手前はまさにそれなんやけどね。
グリフォンでつつき回したり風魔法でなぶったりするんよ。」
「やられる方は堪ったものではないな。」
「って話をしとる間にもどんどん魔力が貯まってんな。まじ迷宮革命。
んじゃまずはS級を並べて、と。」
この調子で新B11Fは文字通り竜の巣窟になった。
Sランクの火竜、水竜、風竜の群れが空を駆け、息吹で薙ぎ払う。
そして地上には同じくSランクの地竜が現代戦車も真っ青の対地戦闘を繰り広げる。
竜種はその全身が竜鱗に被われており、物理魔法ともに非常に高い防御性能を誇る。
地竜はそんな竜種の中でもさらに頭ふたつ分ほど耐久性能が高く、空から降り注ぐブレスですら物ともしない。
空を飛べず鈍足であることだけが欠点ではあるが、そんな欠点を帳消しにできるほどの耐久力を誇る、まさに移動する城塞だ。
そして最奥にSS級のバジリスクを追加したところでさすがに疲れを自覚した伊織は一旦拠点に戻る事にした。
「ブラちゃむ、君も来るか?」
「せやね。アリちゃむについたげようかね。それに極力主様の側におったほうがいいやろうし。」
「うむ。アリちゃむも心細く思っている事だろう。」
伊織とブラちゃむはB13Fとなったダンジョンコアの小部屋を後にし、拠点へと帰還した。
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翌朝。
伊織が目を覚ますと、その様子に気づいた妖精がパタパタと羽をはためかせながら飛んで来た。
ブラちゃむかと思ったが、それは進化の眠りについたはずのアリちゃむだった。
アリちゃむは伊織の鼻に向かって飛び付き鼻先にキスした。
「パパ!」
「アリちゃむだったか。しかし、パパとは?」
「アリちゃむは気づいたんだよ。主様はパパなんだよ。」
「要領を得んな。俺に娘は居ないはずだが?」
「昨日のありちゃむとパパの娘なんだよ!」
「ちょっと待ってくれ、頭を整理したい。」
昨日ありちゃむは進化の眠りについた。
原因は恐らく伊織がマナを過剰投与したせいだろう。
そして進化したありちゃむは伊織の娘だと言う。
昨日のありちゃむと目の前のありちゃむを別人とするなら、目の前のありちゃむは伊織の娘と言っても。
「過言だな。やはりよくわからん。だが、最優先で確認したいのは無事に進化が終わったのかという事だ。」
「うん、もう終わっちゃったんだよ。でも、なんだかステータスが変なんだよ。」
「どれ、まずは覚とブラちゃむを呼ぼう。
娘云々についてもそこで話をしよう。」
伊織はアリちゃむの様子を見て朝食を後回しにする事にした。
昨日作成したメモに更新されたステータスを書き加え終わったところでちょうどサトとブラちゃむが姿を表した。
「お待たせいたしました、主様。」
「アリちゃむ、進化もう終わったってマジなん?」
「うん、おめめパッチリなんだよ。」
「よく来てくれた。進化が終わったアリちゃむについて話がしたい。まずは座ってくれ。」
二人が座ったところで伊織はまずレミィに訪ねる。
「レミィ。ステータス上は確かに進化が終わっているようだが、その点で何か問題は?」
「マスター、進化の速度は異例ではありますが、マスターによる十二分の魔力で満たされていた事を鑑みるとそれほどおかしい事ではないのかもしれません。
サト様が確認した際には肉体の変異が終わっていたのでしょう。
進化の際に時間がかかるのはその肉体の変異のためと言われています。」
「なるほど、そういうものか。サトから診てどうだ?」
「魔力体の質は昨日同様に主様と酷似しており、これといった変化は見受けられません。
レミィの説を否定する材料はありませんね。」
「他に何かしら気になるところはないか?」
「ございません。健康面では極めて良好と言って差し支えないかと。」
「よろしい。では、更新されたステータスを見て欲しい。」
(右側の★は更新されたステータス)
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種族:超越妖精★・妖精種
名前:|アリちゃむ 20歳(0歳)★
レベル:1 EXP:(0/5)
特殊スキル:『超越妖精魔法』★レベル1
異能:『迷宮支配』★『飛行』『短距離転移』★
『基本七属性の才』★『空間の申し子』★『無詠唱』
『豪運』★
『♨♡☏♫℘』『超越体』★『マナジェネレータ』★
祝福:なし
称号:『SS級ダンジョンの支配者(全能30)』『根源接続者(知能40)』
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「うへ、尋常じゃないなった。」
「これは・・・色々と興味深いですね。」
「アリちゃむが言うには彼女は俺の娘になったとの事なんだが皆の意見を聞きたい。」
「アリちゃむ様はなぜそう思ったのですか?」
「ありちゃむは生まれ変わったんだよ。昨日のありちゃむとパパの娘なんだよ。」
「なるほど。一理ありますね。」
「レミィ?」
「遺伝子学上の話ではありません。ですが年齢が初期化して0歳に戻るとシステムが判断している以上、それは生まれ変わり、すなわち転生と言い換える事が出来るのではないでしょうか。
ではその父親と母親は誰なのか。誰が最も近しいのか。そう考えるとあながち間違いとは言えないのではないでしょうか。」
「確かに遺伝子学から離れた新たな親子の形とも言えるのかもしれません。
さらに異能『超越体』と『マナジェネレータ』は主様の資質を受け継いだと考える方が自然です。
サトもレミィさんの考えを支持します。」
「面白いんで私も支持しようかね。」
「確かにそう言われればそんな気もしてきたな。新たな親子の形か。アリちゃむはそれで納得しているのか?」
「主様がパパなんだよ!嬉しいに決まってるよ!」
「そうか、ならば応えよう。だが娘だからといって特別扱いはせんぞ。
むしろ俺の娘になるという事は夜行の名を背負うという事だ。
今後はそのつもりで鍛え上げるからな?」
「パパが鍛えてくれるなら頑張れるんだよ!でも、ご褒美も欲しいな。」
「信賞必罰は親子ともなれば必ず為されねばならん。」
「やったー。魔力が欲しいんだよ!」
「うむ。・・・うむ?また進化したりせんよな?」
その疑問に答えられる者はいなかった。
「まあいい、何度でも進化すればよかろう。
では次にステータスを検証しよう。レミィ。」
「イエス、マイマスター。上から解説していきます。
種族『超越妖精』は新種です。
アリちゃむ様の年齢は0歳に戻りました。
特殊スキル『超越妖精魔法』ですが・・・
アリちゃむ様、まずは妖精魔法について説明願います。」
「『妖精魔法』はね、アリちゃむのお気に入りを抜粋するとこんな感じなんだよ。
『みにまむ』一時的に小さくする。
『はっぴー』幸せな気分にする。
『おすそわけ』元気をおすそわけする。
『ようせいむ』夢見がよくなる。
『げんきいっぱい』血行がよくなる。
すごいでしょ?」
「素晴らしい魔法だ。特に『おすそわけ』で能動的に苔を育てることが出来る訳だな?」
「そこに気づくとはさすがはパパなんだよ!」
「火を飛ばしたりと殺伐とした魔法より、なんとも魔法らしい魔法ですね。」
「レベル1の割には随分と自在にサイズを変えていたが、レベルが上がるとどうなるんだ?」
「『みにまむ』は消費魔力が減るんだよ。でも効果は特に変わらないんだよ。
でもその他は効果が上がるんだよ。」
「なるほど、童話の世界の魔法のようだ。確かにサトがいう魔法らしいというのも頷けるものがあるな。」
「ではありちゃむ様、『超越妖精魔法』になる事で何が変わりましたか?」
「もちろん効果が上がるんだよ。もっと幸せな気分になれるんだよ。」
「魔力を通すときに自分に掛けてはいまいな?」
「妖精魔法は自分に使えないんだよ。」
「ほう、それは意外だな。」
「では、続きまして異能を解説します。
『迷宮運営』が『迷宮支配』に進化しました。
ダンジョンコアを使用するだけでなく、自身のダンジョン等級未満のダンジョンコアを支配できるようになります。」
「相手ダンジョンのコアに触れる必要はあるのか?」
「そのようです。」
「それやべーわ。SS級迷宮支配者に持たせちゃ駄目なやつだ。」
確かに、と全員は頷いた。
「『飛行』は飛行を補助します。
『短距離転移』を習得しました。視界内に転移できるようになります。
この異能は『転移』に進化しますので積極的に使用しましょう。」
「あい。ぴゅんぴゅんするんだよ。」
アリちゃむはぴゅんぴゅん転移している。
「『基本七属性適正』が『基本七属性の才』に進化しました。
『空間の才』が『空間の申し子』に進化しました。
『虚弱』が削除され、体力補正が-25%から0%に上がりました。
『幸運』が『豪運』に進化しました。運勢補正が25%から50%に上がりました。」
「全体的にランクアップした感じか。」
「『♨♡☏♫℘』を獲得しました。詳細ついては不明です。
『超越体』を獲得しました。
これによって全能力が上昇します。魔力体以上、神性体未満とご理解ください。
『マナジェネレータ』を獲得しました。
これら三つの異能は恐らくマスターに関係しているのではと推察します。」
「主様から魔力を下賜されれば我々にも進化の可能性があるのでしょうか?」
眼帯の下の覚の瞳が紅く輝く。
「可能性はあるでしょう。しかしながら一度に大量に接種する必要があるのか、少量でも継続すればいいのか、など、条件が不明瞭です。
また、トリガーとなる条件が他にもある可能性も否定できません。」
「十分です。総当たりで全て試行するだけの話ですから。」
伊織はなぜか背筋が冷たくなった。
「称号『SS級ダンジョン支配者(全能30)』を獲得しました。
これはダンジョンがSS級に進化した事で獲得しました。
称号『根源接続者(知能40)』を獲得しました。
こちらはマスターの影響で根源へのアクセス権を取得したと考えるべきでしょう。
根源へのアクセスとは魔力を無尽蔵に使える事と同義です。
不埒な輩が寄ってくる可能性も考えられます。
アリちゃむ様は秘匿する方がよいでしょう。」
「根源への接続についてレミィの言う通りだ。
アリちゃむは不用意に口にしないようにな。」
「わかったんだよ、パパ。」
やはりパパと呼ばれる事には違和感しかない。
「さて、とりあえずアリちゃむについては片付いたが妖精郷の反応がないのが少々不気味だな。」
「妖精郷も少なからず混乱してんのよ。
あ、そういやアリちゃむが復帰したなら私は戻っていいな。」
「えー、転移ですぐに戻れるんだし、たまにはお外で遊ぼうよ。」
「うむ、なんなら部屋を用意するぞ。」
「そうなあ。確かに一人で穴蔵に引き篭るのも正直うんざりなんよね。
そんじゃ、お言葉に甘えてしばらく厄介になるよ。」
「よろしい。まずは拠点を色々と見て回るといい。」
「ご飯食べに行こ?」
「んじゃ、ついていくわ。主様、動きがあったら呼んでな?」
「うむ、まだ蟹が残っていたはずだ。試してみるといい。」
「サンキュー、んじゃまたのー。」
「サトも朝食はまだだろう?一緒に行こう。」
「その前にサトはご褒美を賜りたく。」
「魔力は飯を食ってからでよかろう。行くぞ。」
「・・・サトは成し遂げました。」
伊織は娘が量産されたらどうしようか考えたが、そうなってから考えればいいと問題を棚上げにする事にした。
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ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
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