モイラ編03-20『SS級迷宮の誕生』
side ありちゃむ
アリストロメリアSS級ダンジョン最下層にて。
アリちゃむはもうダメかもしれないんだよ。
主様の魔力がアリちゃむの体の隅々を蹂躙するんだよ。
何度も何度も蹂躙される度に、アリちゃむはもう逆らえなくなったんだよ。
アリちゃむは堕ちてしまったんだよ。
「はう。はう。はう。」
「ようやく終わったが、本当に大丈夫なのか?」
「しゃいこう、らったん、らよ。もっと、ちょうらい。」
「麻薬のような常習性はないだろうな?」
「イエス、マイマスター。典型的な一過性の魔力中毒です。」
「酔っぱらいのようなものか。癖にならないならいい。」
もう手遅れなんだよ。
ありちゃむは一杯頑張って、ご褒美に主様の魔力をいっぱい注いで貰うんだよ。
「さて、めでたくSS級に到達した訳だが。まさかSSS級なんて代物はあるまいな?」
「とても、心底、残念な事に、SSS級は無いんだよ。」
「そうか、三日間頑張った甲斐があればいいな。」
アリちゃむと主様は三日三晩、碌に休憩もとらずにぶっ通しで魔力を注ぎ続けたんだよ。
主様の無尽蔵の体力と魔力にはアリちゃむはもうメロメロなんだよ。
「あ、種族を追加できるようになったんだよ。」
「ほう、それはめでたいな。
今回はちょっと視点を変えてみるか。
レミィ、SS級の魔物でもっとも脅威なのは何だ?」
「まず最初に思い浮かぶのは竜種でしょう。次いで悪魔種、精霊種あたりでしょうか。」
「天使や人族あとは機械や妖なんてものはないのか?」
「はい、それらはダンジョンのカテゴリそのものが存在しないはずです。
千年以上前に存在した唯一のSS級ダンジョンは竜種ですね。」
「ほんとだ!竜種が出てるんだよ!
S級の段階までは竜種は選択肢に無かったんだよ。」
「ほう、俺は竜種でいいと思うが、二人はどうだ?」
「イエス、マイマスター。」
「うわー、憧れの竜種なんだよ!大賛成なんだよ!」
「では、早速試してはどうだ?」
「うん!やってみるんだよ!」
アリちゃむはもうウキウキでダンジョンコアを操作したんだよ。
「できたんだよ!結果発表するよ?」
「うむ、謹んで拝聴しようではないか。」
「うふふ。まずオークはやっぱり該当なしなんだよ。
また消費魔力が減ったけど、あんまり嬉しくないんだよ。」
「予想通りだな。」
「スライムはなんという事でしょう。エーテルスライムなんだよ。」
「ああ、あいつらはSS級だったな。すっかり抜け落ちていたが。」
「悪魔はSS級悪魔君主だね。」
「これもオークの例から想像はできるな。」
「ドラゴンは下から発表するんだよ。
B級 火蛇
B+級 飛竜
A級 海蛇
S級 火竜、水竜、風竜地竜
S+級 氷竜、雷竜、聖竜、邪竜
SS級 バジリスク
なんだよ。いっぱいなんだよ!」
もしかしたら、もしかしたら?
「竜種そのものは見たことがないが、字面だけで胸がぴょんぴょんするな。
よし、召喚するぞ。
おっと、アリちゃむは大丈夫か?後日でも構わんぞ。」
やったー!
「アリちゃむはすぐに欲しいんだよ。主様のが一杯欲しいんだよ。」
「本当に常習性は無いんだな?」
「・・・そのはずです。あ。」
「おい?」
「いえ、想像でしかないのですが。
妖精に関しては報告例が少ないため、人族とは違う反応を示すことがあったとしても周知されていない可能性は有り得ます。」
「そういう事か。やはり念のため数日置くことにするか?」
「しょんな。アリちゃむは辛抱たまらないんだよ。」
「すまんな。もっと早く気づくべきだった。俺の失態だ。」
「マスター、覚様に診ていただいてはいかがでしょう。」
「素晴らしい。早急に診せよう。」
主様はサトと念話で交信して、一旦ダンジョンの外でサトを招聘したんだよ。
サトは私をじーっと見て首をかしげたんだよ。
「レミィの所見通り、一過性の魔力中毒症状で間違いないでしょう。
ですが、魔力体が変質していますね。」
「なんだと。それはまずいのか?」
「いえ、安定しており、健康上の問題は見受けられません。
ですが極めて主様に近しいものに変質しています。
もしかしたら新しい異能が発現しているかもしれません。
ステータスを確認して下さい。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
種族:迷宮妖精・妖精種
名前:|アリちゃむ 20歳 (状態:『進化中』)
レベル:1 EXP:(0/5)
特殊スキル:『妖精魔法』レベル1
異能:『迷宮運営』『飛行』
『基本七属性適性』『空間の才』『無詠唱』
『虚弱』『幸運』
『♨♡☏♫℘』
祝福:なし
称号:『SS級ダンジョン支配者(全能30)』
______________________________
ステータスを確認して愕然としたんだよ。
見たこと無い文字が生えてるんだよ。
アリちゃむは震える手でステータスを書きました。
助けて、主様。
「明らかに異常事態だな。」
「あ、あ、アリちゃむはどうなってしまうのですか?」
「レミィさん、何かわかりますか?」
「まずは落ち着いて下さい。
アリちゃむ様、神経が昂っていてわかりにくいかもしれませんが貴女は間も無く眠りにつきます。
そして新しい種族に進化します。」
「状態:進化中というやつか。」
「はい。進化にかかる時間は種族にもよりますが、こちらには妖精種に関する情報がありません。
アリちゃむ様には心当たりがありませんか?」
「妖精が妖精王女とか妖精女王に進化する事はあるけど、迷宮妖精が進化するという話は聞いたことがないんだよ。」
「進化する際にはどれぐらいの時間がかかるかご存じですか?」
「わからないんだよ・・・滅多にある事じゃないから。」
「ならばやるべき事はひとつだ。
アリちゃむは拠点で進化に備えるように。
案ずるな。アリストロメリアSS級ダンジョンは俺達で必ずなんとかする。
お前は安静にして元気に戻ってきてくれればいい。」
「うう、こんな時にごめんなんだよ。」
「阿呆、めでたいではないか。
部下の門出だ。無事に進化を終えたら盛大に祝ってやるからな。」
「うえーん。ありがとうなんだよお。」
アリちゃむは感極まって主様の鼻に抱きついたんだよ。
そしたら覚が呟いたんだ。
「ブラちゃむさん、異常事態につき協力を要請します。」
振り返ったら覚は虚空を見つめながら見えない何かに話しかけたんだよ。
多分ブラちゃむなんじゃないかな。この間も覗いてたみたいだし。
あ、ブラちゃむが転移してきたんだよ。
「ま、バレてたわな。私はブラちゃむだ。コンタクトをとるには最適のタイミングだわな。
色々と驚いたが、状況は理解してんよ。
条件次第じゃ全面的に協力してもいい。」
「伺いましょう。」
「ひとつ、私をアリちゃむ直下の配下にする事。
ふたつ、妖精郷と決着するまでは水面下での協力に留める事。
以上だ。飲んでくれるなら、向こうの情報を垂れ流しにしてやんよ。」
「いいだろう。ブラちゃむ、君には序列第五十二位を与える。」
「拝命する。私は序列第五十二位の迷宮妖精ブラちゃむだ。
クソったれな迷宮界隈に風穴を空けてくれて感謝する。
今後ともよろしく頼むよ。」
「アリちゃむにも言ったが俺の役に立て。その限りにおいて、俺はお前を全霊を以て守護すると誓う。」
「ああ、すでに三名ほど調略済みだ。あとで紹介すんよ。
だが水面下で進めるからには今後はペースが落ちるかな。」
「グリフォンも含め、それらの土産にも改めて応えよう。
まずは問題を解決してからだな。サト。」
「ブラちゃむに改めて伺います。
アリちゃむが復帰するまで保たせる事ができれば充分です。可能でしょうか?」
「妖精郷の出方次第だな。いきなりコアを制圧しようとする可能性がある。
防衛戦力を常駐させるか、転移陣を一旦潰すべきだろうな。」
「なるほど、早速のアドバイスをありがとうございます。
いかがいたしましょう、主様。」
「ブラちゃむ、まずは協力に感謝する。
防衛についてだが、まずは転移陣を改変してアリちゃむが復帰するまでは妖精郷とのルートだけを塞ぐ。
その上で防衛だが・・・最大に見積もった場合の相手戦力はどの程度だろうか?」
「最大か・・・S級を筆頭に数百体規模で雪崩れ込んでくるぐらいか?」
「進攻ルートは?」
「アリちゃむ、妖精女王はどこまで入ってきたことがある?」
「B1Fでお出迎えした事があるけど、すぐに帰ったんだよ。」
「妖精女王は集団転移能力を持ってんのよ。
んでも一度行ったことがあるところにしか飛べん上に、一日に一回しか使えんのよね。
とりまB1Fに大群を送り込まれるのを想定すべきやろね。」
「なるほど、ギルドマスターに情報を流しておくべきだろうな。
我々は一応冒険者のいないB7F以降に網を張ろう。
竜族のお目見えができないの残念ではあるが。」
「SS級まで上がったダンジョンコアなら上書きの心配はないんじゃね?
直接魔力を注いでも問題ないと思うがね。」
「ふむ。ブラちゃむはこう言っているがアリちゃむはどう思う?」
「ありちゃむに主様の魔力を注いで貰いたいなあ。」
「それについては無事に進化を終えての褒美としてやろう。
とりあえず今直面している緊急事態の話だ。」
「それなら構わないんだよ。
よくよく考えたら主様に迷宮を乗っ取られてもいい気がしてきたんだよ。
いやでもそれだと魔力を注いで貰えなくなっちゃむ。」
「ひょっとしたら迷宮への執着が薄くなる事が進化の条件かもしれんね。」
「そうなのか?」
「迷宮妖精にとっちゃ、迷宮を管理するって事はアイデンティティなんよ。
そうそう失われるような代物じゃないさ。
やから進化条件を満たす者が現れなかったんじゃないか、とね。
仮説に過ぎんよ?」
「なるほど。
ともあれ、コアへの補給はいいとして魔物の召喚はどうすればいい?」
「アリちゃむがいない間は私がやろう。アリちゃむ、代理キーをくれ。」
「わかったんだよ。」
アリちゃむはすぐに代理キーを作って渡したんだよ。
「まずはダンジョンを拡張する必要がある。竜種はでかいからな。」
「わかった、だがそれはアリちゃむを帰してからにしよう。
随分と眠そうだ。」
気が抜けたら眠くなってきたんだよ。
目が覚めて主様がいなかったりしたら嫌だなあ、悲しいなあ。
もうアリちゃむは主様の魔力なしでは生きていけないんだよ。
______
ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄