モイラ編03-17『キヌ、スヤ、ユキ』
新拠点にて。
三連休を満喫した伊織は早速アリちゃむから報告を受けていた。
だが残念ながら妖精郷からの折り返しの連絡は無かったとの事だ。
反応の鈍さが気になるところではあるが、今のところこちらにできる事はない。
アリちゃむの親友ブラちゃむことは説得の必要すらなく二つ返事で了承をもらったそうで、こちらは特に意外でもなかった。
「では、クリちゃむも説得に応じたのか?」
「うん、やっぱりクリちゃむもずっと恐怖に怯えていたんだよ。
そしてお外に出たいって。
利点を説明したら簡単にこっちについたんだよ。」
「そうか、それは朗報だな。」
「では、サトは早速冒険者ギルドへ行って参ります。」
「うむ、あまり虐めるなよ?」
「御意に。」
覚は軽やかな足取りで去っていった。
「後先になってしまったが、クリちゃむのダンジョンの特徴を教えてくれるか?」
「わかったんだよ。
クリちゃむのダンジョンはアリストロメリアから200kmぐらい離れたのA+級ダンジョンなんだよ。
獣系の魔物ばかりで、猪、鹿、熊がいるんだよ。」
「俺の祖国では猪、鹿と来たら蝶なんだがな。」
「なんで蝶なの?」
「なんでだろうな?」
「普段はA級なんだけど、緊急用にいっぱいパンダを隠してるんだよ。」
「ほう、パンダか。つまりそのパンダがA+の実力を持っているんだな?」
「うん。」
「ふむ。鈴鹿御前もずっとありちゃむに張り付いている訳ではないからな。
S級程度の護衛をつけたいところだが・・・」
「S級はさすがに難しいんだよ。」
「いや、そうでもない。ちょうど連休も明けた事だ。
幻妖界から俺の配下を招聘しよう。」
「おー、ちょうど立ち会えて嬉しいんだよ。」
「うむ。すぐに喚ぶからな。」
来い。『一反木綿』『獏』『雪女』」
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『妖招聘』(13/16)
火車 『六焔号』牛車の九十九神
村雨 『村雨』 刀の九十九神
百々目鬼 『メメ』鬼族
覚 『サト』陰妖族
倉ぼっこ 『クラ』倉の九十九神
一本だたら 『タラ』陽妖族
豆狸 『タヌ』古狸族
鈴鹿御前 『スズ』鬼族
舞首 『マイ』陰妖族
天狐 『テン』妖狐族
一反木綿 『キヌ』布の九十九神★
獏 『スヤ』陽妖族★
雪女 『ユキ』陰妖族★
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「序列第五位『一反木綿』来てやったけんね。」
「序列第六位『獏』おはよー、主様。」
「序列第十位『雪女』ようやくお会いすることがが叶いました、坊っちゃま。」
「迷宮妖精のアリちゃむなんだよ。よろしくね。」
「一反木綿のキヌばい。かわいかね。よろしく。」
「獏のスヤだよー。よろしくー。」
「雪女のユキと申します。坊っちゃまがお世話になっているようで。今後ともよろしくお願いしますわね。」
「ユキ、俺はいつまで坊っちゃまなんだ?」
「私の年齢を抜いて頂くまでですわ、坊っちゃま。」
「是非ともその方法を伺いたいものだ。」
「簡単な話ですわ。私の心労を止めていただければ私は若返るはずですから。」
「苦労を掛ける。」
「まあ。」
コロコロと笑うユキは俺の元乳母で今でも頭が上がらない存在だ。
青と白を基調とした着物がよく似合う純和風美人だ。
「キヌもよく来てくれた。」
「喚ぶのが遅かったい。待ちくたびれとったとよ。」
「色々と上手く行かなくてな。すまん。」
「よかよ。こうして呼んでくれたけんね。これからはキヌが引っ張ちゃるけんね。」
「ああ、頼りにしている。」
俺と倉ぼっこを幼馴染みとするなら、キヌとスヤは姉のような存在だ。
そんな二人が『妖羽化』までして尽くしてくれると聞いた時には涙腺が緩まない自分を軽く呪ったものだ。
「獏は起きているか?」
スヤは自身が作り出した雲の揺り籠に揺られながら、中空でウトウトとしている。
羊のようにぐるりと回った太い両角とふわふわとした淡い薄緑色の髪が特徴的だ。
「待ちくたびれてー、ずっと寝てたからねー。」
「そうか、ならばしばらく寝なくても大丈夫だな。」
「うふふ、それはそれだよー。」
「睡眠は獏のアイデンティティだからな。」
「そうそう。それ便利な言葉だねー。スヤも使おうかなー。」
「さて、早速だが皆に役割を割り振る。
スヤは幻妖界と同じでいずれは農業をやってもらうが、残念な事に今は畑がない。
なので倉ぼっこ達と合流して品種調査などに従事して欲しい。」
「あい。任されたー。」
「ユキは各部門のマネージャーを任せる。今後は現地代表のセバスチャンと妖代表のユキとで色々と調整して貰う事になるだろう。」
「あら、大役ですわね。ですが私の一番のお仕事は坊っちゃまの側仕えですわよ?」
「俺が拠点にいて仕事が滞ってなければそれでいい。」
「承知いたしましたわ。」
「一反木綿はその姿でも飛べるのか?」
「『妖羽化』を解けば飛べるっちゃけど・・・」
「そういえば『妖羽化』を解除した際のデメリットを聞いていなかったな。」
「丸一日は元に戻れんようになっとよ。」
「それは問題か?」
「大問題に決まっとろーもん。」
「そうか。少々予定が狂ったが、まあいい。キヌはこのアリちゃむの護衛についてくれ。」
「それはよかけど、また離れっと?」
「アリちゃむには基本的にこの拠点に待機か俺と行動を共にして貰う予定だ。
護衛が必要なのは2、3日に一度、2時間程度ダンジョンに戻る際だな。
幻妖界にいた頃より一緒にいる時間は多いと思うぞ?」
「ふーん、ならよか。キヌに任せんね。」
「とはいえ戦力の確認は必要だな。キヌ、ステータスオープンと口にしてくれ。」
「よかよ。ステータスオープン。おお、これはなんね?」
「キヌの能力を表示したものだ。」
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種族:|一反木綿・布の九十九神
名前:|キヌ 396歳(6歳)
レベル:41 EXP:(3,963/11,727)
特殊スキル:『布縛術』レベル5
『布縛結界』
異能:『繊維操作』『器用』『努力家』『あほの子』
『風の才』『光適正』『雷の才』『電撃無効』
祝福:なし
称号:なし
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「ほう、想像以上にレベルが高いな。
これからレミィを紹介する。天界から色々とアドバイスをしてくれる俺の相棒だ。レミィ。」
「ご紹介に預かりましたレミィです。よろしくお願いします。」
「おお、見えんばってん、よろしゅうね。」
「早速だがレミィ、解説を頼む。」
「イエス、マイマスター。
特殊スキル『布縛術』はあらゆる布を操作する能力です。
ほぼ全て人族は何かしらの布を身に付けているので、対人戦闘で無類の強さを誇るでしょう。
『布縛結界』は展開した結界内に大量の魔力の布を生成してそれを操ります。」
「キヌと鬼ごっこをするときは素っ裸で逃げ回るのがセオリーだったが、隙がなくなったな?」
「ふふん。鬼ごっこ界隈やと負け無しやけんね。」
「続いて異能ですが、『繊維操作』は糸や繊維を自在に操作できるというものです。
『器用』は基礎値の器用に25%の補正が掛かります。
『努力家』は集中力がより持続するようになります。
『あほの子』は少々斜め上の行動をとる事があるかもしれません。」
「前々からそうではないかと疑ってはいたが・・・」
「誰があほの子ね!こんステータスを作った奴ば出さんね!ぶっ飛ばしちゃるけんね!」
「・・・続いて魔法適正ですが」
「何が阿呆適正ね!キヌはもうオコやけんね!布縛けっ」
突如、キヌの正面に『目』が現れ、キヌの動きが止まる。
その『目』は伊織に危害が及ぶ可能性を僅かも許容しない。
「よくやった、百々目鬼。」
伊織はメメが『緊縛』を発動した目を優しく撫でる。
『目』は心なしか嬉しそうだ。
「キヌ、見境無く暴れる者を阿呆と言うのだ。
お前は阿呆では無いのだろう?ならば理性無く暴れてはならない。」
キヌはしょんぼりとしている。
「メメ、解いてやってくれ。キヌも反省したら今後気を付けるようにすればいい。」
「・・・わかったばい。」
「悪いなレミィ、続けてくれ。」
「イエス、マイマスター。
それでは魔法適正ですが、風、光、特に雷に大きな適正があります。
電撃無効と糸の相性も極めて良いと言えるでしょう。」
「能力的には十分に護衛が務まるはずだが・・・少々不安が残るな。」
「もう大丈夫やけん!」
「そうだな。まずは大丈夫である事を証明して貰おう。
少々厳しいとは思うが、護衛の話はその後だ。」
「むー、わかった!キヌは何ばすればよかと?」
「こういう時、我々がどうするかは決まっているだろう?」
「え、まさか。嘘やろ?」
「鈴鹿御前、キヌを3ヶ月預ける。」
「イエス、サー!」
「あーれー。」
遠くから状況を察したスズがにこやかに駆け寄ってキヌを連れ去ってしまった。
アリちゃむは状況に付いていけず、口をぽかんと開いている。
「さて、大幅に予定が狂った訳だが、招聘枠をもうひとつ使ったとして誰を喚んだものか。」
すでに伊織の直臣は全て招聘済みだ。
「坊っちゃま、お館様より伝言がございますわ。」
「聞こう。」
「『次の招聘は酒呑と茨城で』、とのことですわ。」
「・・・それは本気で国を獲れと言っているのか?
『大妖』を2体も送り込んでくるのは過剰戦力だと思うが。」
酒呑童子と茨城童子は幻妖界を代表する『大妖』だ。
たった二人を相手に『夜行』の総戦力を以て当たったとしても簡単に勝てる相手ではない。
といっても夜刀神や伏姫神のような神族は除外しての話ではあるが。
「いえ、条件が付いておりますわ。
ひとつ、酒呑童子と茨城童子は百鬼夜行による招聘には必ず応える事。
但し、百鬼夜行時を除いての命令は拒否権を有するものとする。
ふたつ、夜行伊織の所属する国では暴れないこと。」
「随分ふんわりとした条件だが、鬼が小細工を弄することは有り得ないか。」
この条件では百鬼夜行に応じた後に戦わないという選択肢も存在する事になる。
だが相手がこと『鬼』に限ってはこれで全く問題ないのだ。
それは鬼の生き様、そして死に様にある。
彼らは平地に乱を起こすことを生き甲斐とし、争いがあるという理由だけで嬉々として突っ込んでいく。無くても突っ込んでいく。
そして敵味方問わず小細工を唾棄し、正面衝突をこそ華とする。
逃亡は死を意味し、背中に傷を受けようものなら村八分どころか仲間から苛め殺されてしまう。
そんな脳にまで筋肉が詰まっている彼らが生存を許されているのは偏にタフだからだ。
そして鬼は争いを好みこそするが相手を殺害することには頓着しない。
倒れた相手に追撃することすら潔しとはしないのだ
鬼同士の争いで意外と死人が出にくいのはそういった理由に尽きる。
「坊っちゃまが鬼を相手にする際は如何様に応じますか?」
「殺すだけならメメをぶつける。戦後を考慮する余裕があれば正面衝突だな。
恐らく彩葉は正面からぶつかったのではないか?
でなければ鬼と盟を結ぶなど有り得んよな。」
「ご明察ですわ。」
「俺を試す遣り取りも懐かしいな。」
「私は坊っちゃまの乳母でございますれば。」
「俺には母の記憶がない。俺にとって雪女は乳母というよりは母に近いがな。」
「まあ。では母上とお呼びくださいまし。」
「そう揶揄ってくれるな。」
「ご両名の招聘はいかがなさいますか?」
「もう少し情勢が落ち着いてからにしよう。妖精郷の動き次第だな。
そもそも鬼を護衛にするなど正気の沙汰ではない。
それよりもアリちゃむの護衛が手詰まりになってしまったが。
しばらくは俺から離れないようにするか。」
「マイマスター、ひとつ試していただきたい事が。」
「レミィか。何をすればいい?」
「エーテルスライムを増やしましょう。」
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ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
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