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モイラ編 01-05 『2 vs1042』

襲撃は真夜中に行うことにし、レミィが見つけた動物を狩って食べた。

九十九神は食事を摂る必要は特にないのだが、村雨も火車(ロク)も食事を好む。

村雨と会話をしつつ魔法をいくつか試すうちに時間は過ぎた。


そして訪れた丑三つ時。


「それで、どれぐらいいるんだ?」

「ゴブリン1042体です。構成をお知らせします。」


ゴブリンキング    1体

ゴブリンクイーン   1体

ゴブリンジェネラル  3体

ホブゴブリン     83体

ゴブリンメイジ    16体

ゴブリン       938体


「とんでもない量だな。これでは村というよりも町の規模だ。」

「三名の獣人族女性が囚われています。」

「ほぉ、見てみたいと言いたいところだが、碌なことになってないのだろうな。」

「救助されますか?」

「本人達次第ではあるが、まずは隔離しよう。」


伊織は小考し、作戦の大枠を決める。


「では基本方針を伝える。」

「任せるのじゃ!」


真夜中にもかかわらず、村雨は遠足前日の子供のように元気だった。


「まず、俺とレミィで指揮個体を暗殺する。

レミィは全体の指揮を執りながら、指揮個体へのルートを伝えてほしい。

暗殺完了後は速やかに火車と合流し、捕虜を回収する。

終わったら村雨に合図するから目立つように大暴れしてくれ。」

「任せよ!」

「ただし、殺さないこと。」

「なにゆえ!?」


「村雨は既にレベルが29もあるからな。

雑魚とはいえ1000もいれば俺もそこそこ稼げるだろ?」

「でもなんで妾が暴れるのじゃ?」


暇だと碌でもないことしかせんだろう?

などとは口に出さない。

伊織は紳士なのだ。


「鬼ごっこをするには最高の環境じゃないか。」

「鬼ごっこか!小鬼だけにな!確かにそれだけおれば楽しそうじゃな。」


「まぁ、手に負えなくなったら間引いていい。」

「嫌じゃ!こうなったら絶対一匹も死なさんのじゃ!」

「ほお、できたらご褒美を考えてやろう。」

「わーい。」


「方針は以上だ。質問はあるか?」

「ございません。」

「はやくやるのじゃ。」

「オレサマ ステイ」

「では準備するぞ。」


伊織は自身と村雨の体表に《透過式障壁結界》を貼る。

消音・消臭・魔力遮断・気配遮断に加え、対物退魔障壁を付与したものだ。

雑魚程度の攻撃では微塵も揺るがないだろう。


「そうそう攻撃は通らないはずだが、油断はするなよ?」

「わかったのじゃ。」

「合図があるまで動かないようにな。」

「うむ。」

「レミィの指示があったらちゃんと従うんだぞ?」

「妾は子供じゃないのじゃ!」


ほんとかね、と思いながらも火車に《透過式汎用結界》を貼る。

火車に障壁をつけないのは捕虜を回収するからだ。


「では、状況開始。」


伊織は火車の中から軽やかに飛び出した。

そして風のように集落へと駆ける。

月明かりがあるのが幸いした。

遠くまでは見えないが、転ばない程度には視界がとれている。


[異能『夜目』を獲得しました。]

(随分と都合がいいな。だが、有難い。)


異能『夜目』をかくとくしたことで視界が良くなった。

気をよくした伊織はさらに加速する。

全体の指揮はレミィが執るので、自分のことだけを考えればいい。


16歳という年齢の割に伊織の精神は老成しているところがある。

だが人生初の大規模戦闘という事で年相応の興奮を覚えていた。

負けるなどという事は微塵も思っていない。


少しすると集落が見えはじめる。

簡易的な柵すらなく、まばらに見える建物は壁すらないものも多い。

歩哨(ほしょう)はおろか、見張りすら立てていないことに失笑する。

(もっと)も、見張りがいたところで結界を見抜けるとは思えなかったが。


建物の外にはちらほらと雑魚寝しているゴブリンがいる。

無計画に生めや増やせや、とやっているのだろう。

建築が全く追い付いていない。


一応ヒエラルキーの概念はあるようで、壁のある建物にはホブゴブリンと(おぼ)しき個体が混じっていた。


そんな中を駆けるが気付くものは一切いない。

結界が想定どおりに機能している証左だった。

やがてバラックのような、この集落では立派な(・・・)部類の建物が見えた。


(あれか?)

[二時、青屋根。雑魚回避可能。

正面入口入れ。]


レミィの誘導のまま、速度を落とさずスルスルと駆け抜ける。


[右通路進め、二番扉侵入せよ。]


通路の先の扉に施錠はされていなかった。

それ以前にゴブリンに鍵という概念があるのかが疑問ではあるが。


[正面ジェネラル、睡眠。撃破せよ。]


ゴブリンジェネラルと思われる個体は大イビキをかいて眠っている。

ホブゴブリンをさらに一回り屈強にした姿だ。

腹筋も見事に割れており、鍛え上げられていることが伺える。

少なくともその膂力だけは侮れそうにない。


(将軍(ジェネラル)を名乗るからには指揮能力があるんだろうが、暗殺する分には関係ないな。)


まず、室内の音と光を外界と切り離す。


(《消音結界》《遮光結界》)


そして何の感慨もなく練習の成果を試した。


(《電撃》)


バツン(・・・)という音と強烈な光が同時に発生し、ゴブリンジェネラルの背中が跳ね上がる。


[意識なし、生存。]

(ほぉ、さすがは魔物だ。すごい生命力だな。)


伊織が興味深げに観察する様子は実験対象に対するそれであった。

そして躊躇いなく追撃する。


(《電撃》)


[対象死亡、家屋内グリーン、侵入経路で脱出せよ。]


(『無詠唱』ではなく『詠唱省略』ならば一発かもしれんな。)


この調子で残り2体のゴブリンジェネラルも黄泉に送る。

モイラに黄泉があるのかは疑問ではあるが。

ともあれ、伊織の予想通り『詠唱省略』の電撃であれば即死だった。


(さて、お次は?)

[・・・申し訳ございません、マイマスター。]


(うん?どうした?)

[村雨様が暴走しました。]


(状況は?)

[突然のことで原因は把握できておりません。

ただ、|素っ首跳ねてくれるわ!《・・・・・・・・・・・》と叫んでおりましたのでお怒りなのは間違いないでしょう。]


(最初に人質を回収すべきだったか。順番が悪かったな。)

[反省はあとにしましょう。いかがなさいますか?]


(やむを得んな、人質を巻き込みかねん。

作戦を白紙に戻す。

俺と、ついでに火車(ロク)も誘導してくれ。)

[イエス、マイマスター。]


部屋を出て夜空を見上げると雲もないのにしとしと(・・・・)と|雨が降っている。

(村雨のやつ、『玉散叢雨(たまちりのむらさめ)』まで発動させたのか。

これはレミィの言うようにきれっきれ(・・・・・)だろうな。)


面倒なことになった、そう思いながらレミィの誘導に従い疾走する。


[マイマスター、村雨様の直近に救出予定の捕虜が三名います。]

(生きてるか?)


[三名とも生存しております。

村雨様のものと思われる氷の檻に閉じ込められているため、安全は確保されています。]

(なるほどな、暴走のきっかけは捕虜か。

それなら俺はキングとクイーンの始末n)


[マイマスター、村雨様がクイーンと交戦を開始しました。]


伊織は天を仰いだ。


そして学んだ。

村雨は暇だろうが暇でなかろうが、碌でもないことしかやらん、と。


______

ちゃむだよ? >_(:3」∠)_

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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