モイラ編03-11『報告会』
宿に戻ったB級冒険者パーティ『百鬼夜行』の一行は四日ぶりに待機組と合流した。
そして冒険譚に花を咲かせながら仲良く夕飯を摂った。
「さて、待機組も全員集まったところで報告会だ。
先に言っておくが、全員に明日から三連休を与える。
夕食時に色々と聞いたが、お前ら碌に休んでいないだろう?
しっかりと休むのも仕事のうちだと思ってくれ。」
「ふーむ、食べ歩きツアーでもやるかの。お小遣いを所望するのじゃ。」
「色々と入用な物もあるだろうからそのあたりは後でサト相談してくれ。」
「わかったのじゃ。」
「夕食の際に軽く紹介はしたが、シェリーとアシュリー。
身の振りは決まったか?」
「はい。覚さんと鈴鹿御前さんともお話して、ご提案をお受けする事となりました。
末席として今後ともよろしくお願いします。」
「アシュリーだ。よろしく頼む。」
「それは重畳。正式にスズの配下として任命する。励んでくれ。」
「はい。」「任せてくれ。」
「続いてダンジョン組のリザルトから始めよう。レミィ。」
伊織はいつものようにレミィに報告を任せる。
「イエス、マイマスター。
今回は膨大な数の魔物を討伐した事により、記録的な経験値を得ています。
総討伐数3,311体。一人あたりの獲得経験値は652,157です。
ちなみに前日のお試し探索で稼いだ経験値は概ね10,000です。」
「最下層で道真公が丸焼きにしたのが大きかったのだろうな。」
「イエス、マイマスター。
過半数は最下層で得た経験値です。
それによりメメ様を除く全員のレベルが70まで上昇しました。」
「皆40台だった事を考えると一気に伸びたな。」
「ちなみにレベル71に上げるのに必要な経験値は98,304です。」
「さすがに上がりにくくはなるが、まだいけるな。」
「これでも上がらぬメメのレベルに震えるのじゃ。」
「では、個別に報告します。
マスターはLvが47から70に上がりました。
特殊スキル『百鬼夜行』のLvが5から8に上がり、召喚枠が10から16に増えました。
異能『指揮者』が『指導者』に変化し、パーティメンバーへの獲得経験値補正が25%から50%に増加しました。
異能『重力属性適正』を獲得しました。」
「メンバーを増やせるのは嬉しいな。一反木綿と獏を呼ぶか。」
「主様、ユキが泣いてる。」
「そうか、あまり心配を掛け過ぎるのもよくないな。雪女も呼ぼう。」
「百々目鬼様は『水属性適正』と『無属性適正』を獲得しました。
異能『瞳の女王』が『瞳の女帝』に変化し、瞳術成功率、威力、持続時間のそれぞれが中から大に上がりました。」
「頑張ったな、メメ。」
「次は、神聖、ね?」
「ああ、メメならできる。」
「うふふ。」
「メメは何処まで行ってしまうんだろうな。」
「覚様はLvが42から70に上がりました。
特殊スキル『完全空間支配』のLvが5から8に上がりました。
異能『第六感』が『超感覚』に変化し、勘補正が中から大になりました。
異能『看破』が『心眼』に変化し、探知能力補正が中から大になりました。
異能『高速思考』が『超速思考』に変化し、思考速度補正が小から中になりました。
異能『交渉』が『交渉(中)』に変化し、交渉補正が小から中になりました。
異能『無属性適正』を獲得しました。」
「これはまた探知能力全般に磨きがかかったな。
実に頼もしい。パーティの生命線と言っていいな。」
「恐れ入ります。」
サトは無表情で照れている。
「火車様のLvが43から70に上がりました。
特殊スキル『快適車』のLvが5から8に上がりました。
異能『補食』が『悪食』に変化し、消化速度が小から中に上がり、吸収率が小から中に下がりました。元々備わっていた、あらゆる物を吸収する能力に変化はありません。」
「オークの頭を貪り喰っていたのはそういうことか。」
「村雨様のLvが43から70に上がりました。
特殊《Ex》スキル『玉散叢雨・聖』のLvが5から8に上がりました。」
「妙だな。村雨が『無属性適正』を得ていないな?」
「べ、別に結界術をさぼっていた訳ではないのじゃ!
ほれ、ミミーも何か言ってたも。」
「オヤブン ナニモ シテナイ」
「コラー!」
「裏が取れたな。とっとと尻を出せ。」
「イヤじゃー!ちゃんやるから許してたも。」
「しょうがない奴だな。次回までに習得していなかったら百発だな。」
「尻が割れてしまうのじゃ!」
「ちゃんと練習すれば問題ない。」
「舞首様のLvが41から70に上がりました。
特殊スキル『首塚』のLvが5から8に上がりました。
保有、及び操作できる首の数が5から8に増えました。」
「首のストック数が増えても本人があの調子じゃな。」
「ドラゴンを!マイマイは竜の首を所望します!
可愛いのは諦めたからかっこいいのでお願いします!」
「まあ、お三方で十二分の戦力ではあるが、それでも頼りきるのは良くないからな。」
「そこはマイマイ本体が頑張るんだよ!」
「よく言った。お三方にしっかり鍛えてもらうように。」
「えー、そこは主様がいいなあ。」
「いいだろう。夜行教育の真髄を叩き込んでやる。睡眠中も修行ができるようにしてやろう。」
「やっぱやめ。」
「鈴鹿御前、マイマイが暇そうにしていたら拐っていいぞ。」
「任せよ。この腐ったウジ虫を多少はマシなゴミ虫に矯正してやろう。」
「ひぃぃいい。」
「天狐様のLvが41から70に上がりました。
特殊スキル『五尾の狐』が『八尾の狐』に変化しました。」
「ついにリーチか。」
「じゃーん。」
恒例になった尻尾観賞タイムだが、さすがに八本にもなるとその存在感は凄まじい。
八本の立派な尻尾の各々が意思を持ったかのように揺れる様は優美かつ高貴であった。
「これは新しい服を用立てる必要があるな。」
「それでしたら提携先候補に考えていた仕立屋がありますので、明日にでも連れて行きましょう。」
「嬉しい。」
「他に服が欲しい者は覚に一緒に連れて行って貰え。一人一着、好きな物を買っていいぞ。」
「マイマイも行く!」
「折角じゃし、妾も参るとするのじゃ。」
「それは私達もいいのか?」
「アシュリーも行ってこい。シェリーもな。というかもう全員行ってこい。
それとは別に全員に一時金として金貨三枚を支給する。
この際だから色々とまとめて買ってくるといい。」
「メメ、も?」
「そうだな。俺にメメの新しい服を見せてくれないか?」
「主様が、興味、ある。なら、いい、よ?」
「うむ。」
降って沸いたボーナスに全員が盛り上がる。
「報告は終わりか?」
「最後に収集品の報告と依頼を。
ダンジョンで獲得したナイフとスキル書を倉ぼっこ様に鑑定して貰いましょう。」
「そうだった!クラ、このナイフだよ。鑑定お願いね!」
「こっちはスキル書だ。」
「うん、ちょっと待ってね。えーと、どれどれ・・・」
皆の目がクラに集中する。
恥ずかしがり屋のクラだが、集中しているせいか全く視線には気づいていない。
「えっと、『守護の短剣』で等級は『英雄級』だね。
一度だけ所有者の命を守るけど、壊れちゃうみたい。」
「破格の能力だと思うが、それでも『伝説級』や『神話級』には届かないのか。」
「多分一回で壊れちゃうからだと思うよ。」
「なるほど。消耗品でもある訳か。」
「それなら短剣、主様が持ってよ。」
「何故だ?」
「最悪、私達は『一回休み』済むじゃん?」
「マイマイが気に入った物を奪うようで気が引けるんだが。」
「むしろ渡さなくて死なれたら針のむしろじゃ済まないって。
マイマイの首がナイナイになっちゃうよ。」
「わかった。有り難く預かろう。代替品が見つかったら返すよ。」
「あいあい。そんで、本は?」
「『神話級』で『料理人』の異能を得るらしいよ。
タイトルは『料理人への道標』だって。」
「是非とも私に賜りたく。」
「サトは料理に興味があったのか。長い付き合いだが知らなかったな。」
「いえ、主様に手料理を提供できると考えたらつい言葉に出てしまいました。」
「あー、それならマイマイも・・・と思ったけどいいや。よく考えたら食べる方がいいよね。」
「タマいらない。」
「妾も食べ専なのじゃ。」
「他に希望者がいないようだな。サト、早速読んでみてくれ。」
クラはサトに『料理人への道標』を手渡した。
「では、失礼します。」
サトが表紙を開くとあとは勝手にパラパラとページが捲れた。
「マイマイ気づいてしまったよ。今更なんだけど、サトって字が見えないよね。」
「あ。」
ついに最後まで進むと、本は光を纏いながら消失してしまった。
「おー、神秘的だねえ。で、サトはどうなん?」
「これは脳に直接『知識』と『経験』を植え付ける物ですね。
今の一瞬で数年分の料理を経験しました。
とはいえ何故か和食と洋食に限られるようですが。」
「さすがは神話級の品だな。どういう構造なのか一から十まで想像もできん。」
「時間と空間と・・・多分、魂源まで絡んでそう。文字通り神の作品だねえ。」
「ほう、クラにはわかるのか。」
「といっても表面的なものだけだよ。詳細は全然だね。」
「収集品のオーク系の肉と魔石ですが、大半は使い物にならなくなったとはいえ、それでも大量にあります。
後日、整理しましょう。」
「そうだな。ダンジョン組からは以上だが、他に何かあるか?」
「それでは『特許』部門より、私、セバスチャンがご報告申し上げます。」
セバスの報告によると特許関連提携先として武器屋、防具屋、鍛冶屋、木工職人、皮革職人、金属細工師、魔道具屋と契約を結べたそうだ。
娘のメアリーも居たとは言え、わずか四日の成果としては破格である。
「素晴らしい成果だ。セバスとメアリーには今後も期待している。」
「お任せあれ。」「お任せ下さい。」
「『生産』部門の責任者、一本だたらだ。
まだ道具を買い揃えている段階だし、拠点ができるまで碌な物は作れないと思ってくれ。
てな訳であたしもクラも勉強中だな。あたしはせっせとモイラの技術を盗んでる最中だ。」
「ああ、理解している。拠点の進捗はどうだ?」
「残り25日って所だな。工期の短縮は期待しないでくれ。」
「わかった。サトは拠点ができるまで探索の任を解く。
特許の方に集中してくれ。セバスへの引き継ぎまでやれると100点だ。」
「必ずやご期待に応えてみせます。」
「信じている。あとはクラに依頼だ。製作そのものは拠点ができてからでいい。」
「なになに?」
「マイマイの召喚する首三体に耐神聖装備を与えたい。」
「アクセでいいの?」
「あとは布も考えていたんだがどうだ?」
「布は簡単だね。明日、お洋服買うついでにマイマイと布を見てみるよ。柄とか選びたいでしょ?」
「はいはーい!かわいいのにしまーす!」
「お三方の意見も聞いて差し上げろよ?」
「やんやん。」
「あ、でもさ。神聖属性って誰か使えるの?」
「ああ、すぐに取得しよう。『ヒール』」
「マスターが『神聖属性適正』を獲得しました。」
「え、適正ってそんな簡単に得られるものなの?」
「そんな訳があるか。私が何年費やしたと思ってるんだ。」
「悪いな。アシュリーが使ってるのを見て盗んだようなものだ。」
「え?ああ、私がシェリーの使った時か。ってあれ一発で!?」
「こう見えてそれなりに器用でな。」
「なるほど、『これだから夜行は』というのはこういう時に使うんだな。」
誰かがアシュリーに謂れのある誹謗中傷を刷り込んだようだ。
「それじゃ、主様は今度、布を聖別してね。」
「わかった。」
「あとは魔石屋で神聖属性の低級魔石を買って研究しようかな。」
「予算はサトからちゃんと貰えよ?」
「あいあ~い。」
「教育部門の実技担当者、鈴鹿御前だ。
ジェーンドゥ、ジョンドゥ、豆狸達の訓練が始まったばかりだな。
ウジ虫共を立派なクソ虫育て上げるのが我が使命だ。
三月ほど待て。結果を見せる。」
ジョンドゥとジェーンドゥは死んだ魚のような目をしている。
かつての自分を見ているようで伊織はほんの少し胸に痛みを感じた。
「アリストロメリアA級ダンジョンに訓練場所を確保した。
話が長くなるからな。鈴鹿御前には報告会が終わってから説明しよう。」
「ほう、愉快なピクニック先ができるなら大歓迎だ。期待しよう。」
「教育部門の座学担当者メアリーです。
今は教科書を作成するための情報を収集中ですが、率直に申し上げますと人手が足りておりません。
投資部門とどちらを優先いたしましょう。」
「教育は大事だが、それもしばらく先の話だな。まずは投資部門を優先してくれ。」
「御意にございます。」
「諜報部門、責任者予定?のジェーンドゥだ。
訓練しかしていない。以上だ。」
鈴鹿御前をちらりと見ると目で合図が飛んできた。
アレをやるのかと思うと気が重いが、これも部下のためだと思って目線を上げる。
「ほう・・・このウジ虫の教育をしているのはどいつだ。」
「はっ!スズであります!」
スズは即座に立ち上がった。
「お前は口の利き方すら教えずに、夜行の教官を名乗っているのか?」
「ノー、サー!」
「だがこのウジ虫の頭にはまだ大量のクソが詰まっているようだが?」
「私の不徳の致すところであります!」
「そうだな。教官がその体たらくでは育つ者も育たんな?」
「ノー、サー!」
「ほう、貴様のせいではないと言うのか?」
「全ては指導教官である私の責任であります!改善計画を具申致します!」
「よかろう。早急に指導計画書を提出せよ。」
「イエス、サー!」
「座ってよし。」
「イエス、サー!」
この間、伊織はジェーンドゥの顔を一切見ず、直属の教官であるスズのみを叱りつけた。
「よし、報告会は以上だ。質問や意見はないか?」
完全に空気が変わってしまった報告会だが、夜行教育を知る妖勢はともかく、現地人の皆は衝撃を隠しきれないでいた。
「無いようだな。では解散する。」
「あの、すみませんでした。」
居たたまれなくなったのか、ジェーンドゥは伊織に詫びる。
「お前は何を謝っているんだ?」
「報告の態度が相応しくなかったと。」
「そうだな、下の下だ。だがお前は悪くない。
悪いのはお前を正しく指導できなかった教官だ。」
「いや、でも。」
「ジェーンドゥ。お前は生徒だ。今は学び、そして考えろ。
なぜお前は悪くないのか。なぜ教官が悪いのか。
そしてなぜ教官はお前を扱き倒すのか。
別に教官に嗜虐趣味がある訳じゃないぞ?」
「それは・・・」
「同じ教育を受けた先輩としてアドバイスしよう。
無駄な事は何一つない。今日の一幕から何かを学べ。
そして疑問はまず、バディと相談しろ。」
「・・イエス、サー!」
「うむ。三ヶ月後に期待している。」
ジェーンドゥ立ち去り、スズと二人きりになるとお伊織が愚痴を溢した。
「全く、主を顎で使うのはお前と村雨ぐらいのものだ。」
「そう言うな。弟の方はまだましだが、あいつは甘いからな。
一発食らわせておくべきだと思ったんだよ。」
「まあ、自分のせいで他者が叱られるのは効くからな。」
「恐らくそういう機会も無かったのだろうよ。
ところで指導計画書はマジで必要なのか?」
「アリストロメリアA級ダンジョンでの指導という意味では必要だな。」
「ふん、そういう意味だったか。詳しく聞かせて貰おう。」
「ああ。」
二人は夜が更けるまで話し合った。[]
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ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
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