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モイラ編03-10『踏破と捕獲』

『アリストロメリアA級ダンジョン』


「家に帰るまでが遠足ですよ。」


遠い昔、誰かにそう言い聞かされた気がする。

それはきっとダンジョン探索にも言えるだろう。

それともとりとめなくこんな事を考えている時点で失格だろうか。

などと考えているとレミィからのお知らせ(アラーム)が聞こえた。


「マイマスター、間も無く17時です。」

「ちょうどいいな。ここで野営するぞ。

ところで百々目鬼(メメ)、エーテルスライムの行方はどうだ?」

「B4F、間違い、ない、ね?」

「という事は階段で挟み込んでいるのか?」

「うん、逃がさ、ない、よ?」

「とはいえそれも明日だな。」






それぞれで魔法の練習をしながら、ロクの中で夜を明かした。

青の首(まさかどこう)の魔法が強烈なインパクトを与えたのか、修行嫌いを自他ともに認める村雨さえも「あーでもない、こーでもない。」と唸りながらも真面目に取り組んでいた。





「ヨーソロー!ミジップ!」


そして翌朝、ロクは無尽蔵の体力で元気に掛ける。


「そろそろB4F階段だな。」


アリちゃむが気を利かせてくれたのか、帰りは魔物と遭遇していない。

伊織はロクを止め、馬車内に入る。


「メメ、どの辺りにいるのか絞り込めているか?」

「ここ、怪しい、よ?」


メメが示した一帯には小部屋が六個並んでいる。

皆も地図の周囲に集まってきた。


「メメの情報を基にエーテルスライムを包囲する。都合のいい事に袋小路だ。

通路に追い出してメメの100の目を以て無力化する。

メメ、できるか?」

「やる。」


メメはできるとは言わなかった。


「他に足止めできる者はいるか?」

「申し訳ございません。いまだ呪術の習得には至っておりません。」

「謝る必要はない。むしろこの短期間で習得していたら驚きだ。」

「黄色のオッサンは手伝ってくれないって。この程度では手出ししたくないってさ。

わがままオッサンめ。」


「さもありなん。では俺がメメに合わせる形で参加しよう。」

「え、主様って脳筋のくせに状態異常までいけんの?」

「俺がいけるというより、そういう神々の力をお借りするという話だな。」

「にゃるほど。」


「メメ、どの異常でいくつもりだ?」

「『緊縛』が、一番、手応え、あった、よ?」

「わかった。俺は初手だけ『緊縛』を重ねる。

あとは魔力の箱に閉じ込める事に集中するつもりだ。

それでいいか?」

「うふふ、共同作業、ね?ね?」


「そうだな。是非とも成功させよう。」

「うん。」


打ち合わせを終え、再度ロクで目的地に移動する。

近かったこともあり10分ほどで彼の地へと到着した。

全員を降ろし、改めて周囲を見る。


袋小路の通路の左右にはそれぞれ3つの小部屋がある。

通路には何も見えないが、そこかしこにメメの『目』が浮いているのだろう。


「皆の役目は『勢子(せこ)』、つまりエーテルスライムを追い立てる役だ。

俺の詠唱が終わり次第、サトをリーダーとして一丸で部屋に侵入してくれ。

サトなら部屋に入ったら察知できるはずだ。」

「御意に。」

「マイマイわかった。」

「タマもわかった。」

「殺してしまっても構わんのじゃろう?」


「お前が俺の話を全く聞いていなかったのはわかった。」

「なんかぞわっ(・・・)としたのじゃ!よもや妾の尻を叩く回数が増えたのではあるまいの?」

「その心配は不要だ。すでに上限だからな。帰還次第即座に回収する。」

「なぜじゃー!」


「それが理解できるようになれば尻を叩かれる事もあるまい。

ともかく直接的な攻撃は禁止だ。捕縛が無理なら逃がしてしまっても構わん。

では、始めるぞ。」


『モイラ』に渡ってからというもの、妖術による呪法を使うのは初めてだ。

普段はメメがその役を不足なく担っているという理由が大きいが、伊織自身が搦め手よりも力業を好むという理由も多分にある。

だからといって苦手意識を持っている訳でもないが。


「《我、夜行の血を以て『月読命(ツクヨミノミコト)』に畏み畏み願い奉る者なり》

《神意ありてこそ人成るは 人ありての神になり》」


もはや定番となった神名と真言に続くのは原初の呪いだ。


「《我、神世七代(かみよのななよ)が末妹にして黄泉津大神(よもつおおかみ)こと『伊邪那美命(いざなみのみこと)』に畏み畏み願い奉る者なり》

《我は(こいねが)う。御身に宿る呪いの一片(ひとひら)()めんことを》」


伊織はトリガーに指を掛け、目でサトに合図した。

サトは静かに頷き、皆を伴いつつ部屋へと突入した。

10秒ほど経過するがエーテルスライムは飛び出さない。

伊織とメメはサト達の動きを意識の外に追いやり、ただエーテルスライムの挙動にのみ神経を集中させていた。


そうして四つ目の部屋に入った瞬間。


「いました!二時の方向距離、7m。」


皆の前には銀色をベースに虹色に美しく輝くスライムがいた。


「うわー、綺麗だなー。首があればちょんぱしてお持ち帰りするのになー。」

「発言が完全にホラーじゃの。」

「動きませんね。」

「腰、抜けた?」


「どこに腰があるんじゃ。ちとつついてみるかの?」

「キュイィ。」


「作戦変更!来て!転移する!」


エーテルスライムの挙動を鋭敏に察知したのは魔法に最も造詣が深いタマだった。


部屋の外で待ち構えていた伊織の反応は劇的だった。

即座にメメの襟首を掴んで抱えあげると、『瞬歩』と無属性の足場を利用しながら最速で部屋に飛び込んだ。


メメはただ抱えられているだけでなく98に及ぶ全ての『目』を部屋に殺到させ、一斉に『緊縛』を発動させる。

緊縛発動時には『目』の隠行が強制的に解けるため、視覚的にも室内は『目』で埋め尽くされた。


「んひゃぁあああ!!」


その叫びはエーテルスライムのものではなく、集合体恐怖症のマイマイのものだった。

思わぬ流れ弾に被弾したマイマイは固く目を閉じ、ぷるぷると体を震わせながら戦線を離脱した。

メメに勝てない理由がひとつ追加された瞬間であった。


マイマイの様子を気にも留めず、伊織はエーテルスライムを視認すると即座にメメをエーテルスライムに向けた。

メメは待ってましたとばかりに全力で両眼による『緊縛』を発動する。

これにより異能『白眼(びゃくがん)』により全ての『目』に貫通効果がもたらされ、神をも殺すメメの能力が遺憾なく発揮された。


そして止めを刺すべく伊織も最後のトリガーを引く。


「《一片の呪言(ひとひらのじゅごん)》」


状態異常のエキスパートたるメメと、伊織による原初の呪いたる伊邪那美命(いざなみ)による『緊縛』にはエーテルスライムも耐えられなかった。


「転移発動停止!」

「皆、よくやった。」


「《我、夜行の血を以て『月読命(ツクヨミノミコト)』に畏み畏み願い奉る者なり》

《神意ありてこそ人成るは 人ありての神になり》

《妖気遮断結界》《物理障壁結界》」


伊織はエーテルスライムの周囲に魔力を遮断する結界と移動を阻害する結界を展開した。


「封印完了だ。持ち運びも出来るし、あとはのんびりと説得しよう。」

「そもそも伊織はなぜエーテルスライム(こやつ)を捕まえようと思ったのじゃ。」

「そんなのは・・・何でだ?」

「おい、呆けたか?」


「いや、最初は逃げられたからつい(・・)追いかけたくなったんだが。

言われてみれば明確な理由はないな?」

「この阿呆。随分な大捕物(おおとりもの)になったのじゃ。ちゃんとメメに詫びておけよ?」

「そうだな。すまなかった、メメ。」

「メメは、お礼が、いいな、ね?」


「そうか。ありがとう。助かった。」

「うふふ、お礼、いただき、ね?」


メメは喜んだ。


「こじつけかもしれませんが、仮説をひとつ披露してもよろしいでしょうか?」

「レミィか。言ってくれ。」


「マスターは魔力、つまりエーテルにも高い親和性をお持ちです。

もしかしたら本能的にエーテルスライムに強い興味を持たれたのかもしれません。

そしてダンジョンマスターの思惑とは関係なく宝箱からエーテルスライムが出現した。

これにもマスターが影響を与えた可能性があると推察します。

以上です。」


「ふむ、つまりは俺の一方的な片想いという訳か。

こいつに気に入られるにはどうすればいいんだろうな?」

「おやつをあればいいのじゃ。」

「村雨じゃあるまいし・・・いや、意外とその線はあり得るのか?」


結界に小さな穴を空けて魔力を注ぎ込むと、エーテルスライムはそれを貪欲に吸収した。

(きょう)が乗った伊織はどんどんと魔力を注ぎ込む。


「おい、食い過ぎて破裂せんじゃろうな?」

「結界内の魔力濃度を見ながら調節しているから大丈夫だと思うがな。

っと、腹一杯になったようだな。

アリちゃむの渡した魔力の10倍は持っていかれたんだが、大丈夫か?」

「阿呆。お主がわからんのなら誰にもわからんじゃろ。」


歯に衣を着せない村雨の言葉ではあるがその場の全員は内心で首肯した。

サトまでもが。


エーテルスライム触手のようなものを作り出し、ペタペタと結界に触れる。

その様子は伊織に近づこうとしているようにも見えた。


「可愛い・・・はっ。」


五本の尻尾をゆらゆらと揺らしていたタマが我に返って顔を赤くする。


「さて、契約してくれるなら腹一杯食わせてやるぞ?」

「おめでとうございます、マイマスター!

『妖牧場』にエーテルスライムが追加されました。

システムがエーテルスライムをSSランク設定しました。

解析が進み次第、詳細をお知らせします。」


「頼む。『妖牧場』出でよ、エーテルスライム。」


『妖牧場』に追加された瞬間に消えたエーテルスライムを再召喚した。

白銀色で緩やかに波打つ七色の薄い光がとても美しい。


「ほんと綺麗だよね。液体の宝石みたい。」

「なんかこう、高貴な感じがするのじゃ。」


「主様、ずっと出す?」

「いや、特に考えていなかったな。どうするか。」

「私が育ててもいい。」


タマの尻尾大きく振り回され、ダンジョンの床を磨いている。


「いいだろう。レミィの精査が済むまでは預ける。その後はまた考えよう。」

「わかった。名前は?」

「タマがつけていいぞ。」

「じゃ、ニジタマ。」


「自分の物にする気満々じゃないか。」

「や、ち、違うの。タマは、そう、いい名前だから。」

「いや、正式にタマに与える。可愛がってやれよ。

そのサイズなら、連れ歩いてもよかろう。」

「いいの!?やったー!」


タマの尻尾はついにダンジョンの床を削る勢いで叩き付け始めた。


「これで心置きなくダンジョンを後にできるな。

あと宿に戻って報告会だ。もうひと踏ん張りだ。」


こうしてB級冒険者パーティ『百鬼夜行』初めてのダンジョン攻略は幕を下ろした。

そしてそれは新たな物語の幕を上げる下準備でもあった。






そしてアリストロメリアA級ダンジョンに落とされた爆弾は遠く離れた『妖精郷』に激震をもたらす。

______

ちゃむだよ? >_(:3」∠)_

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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