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モイラ編03-05『踏破へ02 B5F~』

アリストロメリアA級ダンジョンB5F。


一行は警戒しつつも迅速に歩みを進めていた。

時折遭遇するオークの群れやスライムはレミィの指揮の元、(サト)舞首(マイマイ)天狐(タマ)の三人で一方的に蹂躙した。


「皆、疲れはないか?遠慮無く言ってくれ。」

「ございません。」

「楽勝なのじゃ。」

「メメ、お休み、なう。」

「マイマイ元気一杯。」

「大丈夫。」

「トッキュウ マダカ?」


どうやら全員元気一杯のようだ。有り余っている者もいる。


「問題ないようだな。レミィ、そろそろ夕方か?」

「現地時間で4時頃と思われます。」

「ならばB6Fに降りる階段までは頑張ってくれ。そこでキャンプを張って朝まで休もう。」

「随分と早いのじゃな。」


「初日のテンションで疲れが表面化していない可能性もあるからな。

安全マージンは必要以上に取っておくぐらいがよかろう。」

「確かにそうですね。我々が失敗をするとすれば、油断や疲れから来るものである可能性が高そうです。」


「そうならないように早めに休む、と。マイマイ賛成。」

「タマも賛成。」


新人二人も賛成してくれた所でレミィが警戒を促す。


「次の交差点にオークスカウト3体、オークメイジ3体が伏せています。」

「ふーん、マイマイにやらせてよ。」

「いいだろう。」

「やったね。青いおっさん、出番だよ。」


マイマイはぞんざいに青首(まさかど)を召喚した。


「今更だがマイマイの召喚する首には自我があるんだな。」

「んー?普通はないよ?オッサン達が変なだけ。」

「そうなのか?」

「だって魂なんて宿んないよ普通。」


伊織にとっては首を操る事それ自体が普通ではないのだが、それを口にしても栓無い事だろう。


「青おっさん、ゴー!」


将門公の首はダンジョンの壁を突き抜けて(・・・・・)何処かへ行ってしまった。

全員その目的地の想像はついているだろうが。


「サトー、タマー、準備よろー。」


のんびりとした舞首の指示が終わると同時、目の前の交差点にオークスカウトとオークメイジが慌てて飛び出して来た。

彼らの後ろからは将門公に依るものであろう魔法の槍が次々と発射されている。

それらに合わせてサト、マイマイ、タマによる属性弾のシャワー(・・・・)が魔物達に飛び込んだ。


「これはひどいのじゃ。」


魔物たちは三人と一首?の攻撃により原型を留めていない。

無事な部位は一ヶ所として存在しておらず、どころかオーク死骸であることすら判然としない様相だ。


「駄目だな。サト以外は力任せに過ぎる。お前達なら一発で仕留めることができるはずだ。

素材が台無しになってしまうだろう?」

「む、確かにやり過ぎマイマイ。つい気持ちよくなっちった。」

「タマもしょんぼり。」


「別に叱っている訳ではない。何事も経験だ。あれはあれで必要になるシチュエーションもあるだろうしな。」

「マスターも初日は苦労しましたね。」

「確かに。俺の場合は火力を落とすのに四苦八苦したものだ。」

「なになに?kwsk(くわしく)!」


伊織の失敗談を聞きながら一行は進み続け、ようやくB6Fへの階段へとたどり着いた。

階段付近の部屋に伊織が『透過式汎用結界』を張る。


「どんな効果?」


結界術が使えるタマは伊織の張った結界に興味津々の様子で指でつついている。


「消音、消臭、魔力遮断、気配遮断、対物障壁、退魔障壁の六種盛りだ。」

「え?うそ、一発でそんな事できるの?」

「『夜行教育』を卒業すれば嫌でも出来るようになる。」

「それは無理。もうちょっと優しく。」


どうやらタマにもあの(・・)夜行教育の内容が知れているようだ。


「ふむ。とりあえず二種の結界を重ねるところからだな。」

「どうやって?」

「気合で。」

「それでできれば苦労しない。」


もっともである。


「30cmの立方体で対物障壁を2つ張ってみろ。」

「はい。できたよ?」

「展開速度は流石だな。だが質が駄目だ。」

「どうして?」


「右の方は2mmほど大きいし、両方とも強度が不均衡だ。」

「むう。」

「違いがわかるか?」

「うーん。じっくり見れば、わかる、気が、する?」


「まずはそこからだな。」

「てことは、主様は6種の結界を均一にしてる?」

「妖気量、強度、範囲、持続時間、展開速度の全てな。」

「尋常じゃない。」


「少なくとも夜行の歴代当主はできたはずだぞ。

時間が掛かってもいい。まずはゆっくりと丁寧にやってみろ。

タマなら必ずできるようになる。」

「苦手なやつだ。」

「タマほどの魔法のスペシャリストならば避けては通れん道だな。」

「いつもそうやって最後は褒め殺す。」


ぶすっとした顔で言いながら頭の上の狐耳はピコピコと揺れており、巫女服の下の三本の尻尾は外からでもわかるほどに振り回されている。

感情が丸わかりなのも可哀想ではあるが、少なくとも伊織はその様子を好ましく思っていた。


「事実だ。俺は嘘を言わん。」

「誤魔化しはするけどね。でもわかった、やる。」

「うむ、その意気だ。」


細かい事が苦手なマイマイは二人の様子を見守りながらも賢く沈黙していた。

巻き込まれては敵わない。


「さて、次はマイマイだが。」

「ひぃ、マイマイ、結界は専門外だよ?」

「阿呆。できるのにやらない奴があるか。」

「やんやん。」


「俺やタマが側に居る時ならいい。だが一人になったときに自衛で使えるぐらいにはなっておけ。何も結界を重ねろとまでは言わん。」

「う、うーん。それぐらいなら?」

「では30cmの立方体で対物障壁を2つ張ってみろ。」

「嘘つきー!」


「そうじゃない。早まるな。」

「ほんと?」

「うむ。」

「じゃあ、えいえい。」


「不細工だな。」

「ひどっ!だから苦手って言ったじゃん!」

「では、少しはマシな方はどちらだ?」

「え?どっちも同じでしょ。」


「全然違う。じっくりと観察してみろ。

その結果でより良いと思った方に寄せていけばいい。」

「にゃる程。そういうことね。それならマイマイ頑張れる。」

「うむ。そこで目を逸らしている村雨も出来るようになれよ?」

「こっちにまで飛び火したのじゃ!」


そんなこんなで結局はサトとメメまで巻き込んで結界術修行が行われた。

その様子を見ながら、ロクもまたひっそりと練習していた。




ーーーーー

ーーー




翌朝。


「・・・夢の中でまで修行しておったのじゃ。」

「それが普通だろう?」

「普通でないわ!これじゃから夜行は!」

「そうだな。お前も夜行だ。問題ない。」

「ぐぬぬ。」


なんだかんだあったものの、ロクの中で布団を被って眠れた一行はすっかりリフレッシュしていた。

夜営とは無縁な様子を一般の冒険者が見れば、とても羨ましく映ることだろう。


「メメ、やはり簡単には見つからんか?」

「うん、夜通し、探した、けど、いない、ね?」


メメは遠隔操作している98個の『目』を半自動化することができる。

それは自身が眠っていたとしても。


「あまり無理をしないようにな?」

「うん。でも、頑張る、よ?」

「メメはがんばり屋さんだな。」


伊織はメメの頭を撫でた。

メメは喜んでいる。


「さてレミィ、昨日の戦果報告を頼む。

朝食を取りながらでいいから皆も聞いてくれ。」


「イエス、マイマスター。

今回は獲得経験値が多く、皆様のレベルが大幅に上がっています。

マスターはLvが44から47に上がりました。


続いて、サト様はLvが34から42に上がりました。

これに伴い、特殊(Ex)スキル『完全空間解析』のレベルが4から5上がり、『完全空間支配』に変化しました。

以前は構造体、情報体、妖力体、幽星体を解析・修復する能力でしたが、さらに空間を支配することにより対象の動きを制限する事が可能になりました。

これに対抗する手段は極めて限定的です。

また、付随して『空間適正』を獲得しました。

最後に努力の成果により『土属性適正』も獲得しております。」


「・・・よくわからんのじゃ。」

「案ずるより産むが易しという奴だな。サト、俺に試してくれ。」


伊織の言葉にサトは絶望的な表情を浮かべ、打ちひしがれてしまった。


「例え主様の命令であっても主様を束縛することなどサトにはとても・・・不甲斐ないサトをどうかお許し下さい。」

「む、そうか。では、村雨ならどうだ?」

容易(たやす)い事でございます。」


サトは立ち直った。


「なんでじゃ!納得いかんのじゃ!」


サトは村雨に向き直ると『完全空間支配』を発動した。


「くっ、これは、きついです、ね!」

「う、動けぬぅぅ!びくともせんのじゃ!」


傍目には村雨がその場で四苦八苦しているようにしか見えない。

そしてサトは苦しそうにその表情を歪め、額に脂汗を浮かべていた。


「そこまでだ。」


普段は表情の変化が乏しいサトの、彼女らしからぬ様子を察した伊織が止めに入る。


「村雨、どうだった?」

「全力で動こうとしたが全く駄目じゃな。

なんというか、体の形をした箱に閉じ込められた感じじゃの。

これで呼吸ができなければ命の危機を感じるレベルじゃった。」


顔を伏せて肩で呼吸していたサトが落ち着いた所を見計らい、伊織は尋ねた。


「サト、大丈夫か?」

「これは正直に申し上げるとかなり厳しいですね。

持続的に運用するのではなく、状況を覆す数秒を得る為の切り札と心得ます。」

「なるほど。素晴らしい能力だ。」


「今後は一秒でも長く発揮できるよう訓練します。」

「サトは根を詰めすぎる所があるからな。

ただでさえ多くの仕事を抱えているんだ。

命令だと思って無理はしないようにしてくれ。」

「・・・御意に。」


主に気遣われたサトは嬉しそうだ。


「続いて、村雨様はLv37からLv43に上がりました。

これに伴い、特殊(Ex)スキル『玉散叢雨(たまちりのむらさめ)』のレベルが4から5に上がり、『玉散叢雨・聖たまちりのむらさめ・ひじり』に変化しました。

玉散叢雨の効果に神聖属性が追加されます。

これ自体に悪いことはないのですが、マイマイ様の『首』との相性は最悪と言えます。」


「もしかして、首にダメージが入るのか?」

「イエス、マイマスター。」

「となると早急に対策が必要だな。結界は俺が考えるが、首を包む布に何かしらを付与できないものか。」


「神聖属性には呪術属性で拮抗可能です。

幸い玉散叢雨・聖は小さいダメージを継続的に与えるタイプですので製作難易度はそれほど高くないと思われます。

耐神聖属性を付与したアクセサリーも含めて検討すべきでしょう。

呪術に適正のあるサト様とタマ様の協力の元、倉ぼっこ(クラ)様に依頼を出すことをお勧めします。」


「本当にレミィは頼りになるのじゃ。」

「それでいこう。サト、タマ、協力してくれ。」

「御意に。」

「いいよ。」

「みんなありがと、あんなオッサン達の為に。」


「続いてロク様のレベルが36から43に上がりました。

これに伴い、特殊(Ex)スキル『快適車(かいてきぐるま)』のレベルが4から5に上がり、すでにご存じの通り室内の広さが32畳から64畳に増加しました。」


「いきなり部屋が広がった時には飛び上がったのじゃ。」

「輸送量が増えるだけでも有難い話だな。」


「また、えっと、信じがたいことですが、それに付随して特殊(Ex)スキル『空も飛べるはず』を獲得しました。」

「はぁ!?まさか本当に飛ぶのかえ?」

「はい・・・」

「羽もないが・・・という事はまさか、龍族のものと同じなのか?」

「恐らく、としか申せませんが。」


「ロク、心当たりはあるか?」

「オレサマナラ ソラグライ トベルダロウ?」

「マイマイちょっとよくわかんマイ。」

「思い込み?」

「確かに狂おしいほどの渇望が能力を発現させる例はありますが・・・」


「まあ、考えてもしょうがないか。ロク、ダンジョンから出たら試してみよう。」

「ヨシ イクゾ」

「いや、まずは最下層だ。」

「ソウカ マカセロ オレサマ ガマンヅヨイ」

「うむ。後日、思う存分飛んでもらうからな。」


「続いて、マイマイ様ですがLvが36から41に上がりました。

これに伴い、『首塚』のレベルが4から5に上がり、特殊(Ex)スキル『舞首フェスティバル』 が発現しました。

これは概ね10分程度の間ですが全ての首の全能力を超補正します。

クールタイムは24時間です。

また、首塚にストックできる首の数が4から5に増加しました。」


「じゃあ早速。」

「いや待て。どうせなら最終フロアボスに試してみないか?」

「ボス討伐!やるやる!」


「最後に天狐様ですがLvが26から41に上がりました。

これに伴い、特殊(Ex)スキル『三尾の狐(さんびのきつね)』が『五尾の狐(ごびのきつね)』に変化しました。」


「道理で尻の辺りがモコモコじゃと思ったわ。」

「ほら。」


タマがペロンと巫女服をめくると、5本のもっさりとした立派な尻尾がまるで蓮華が開花するようにゆらゆらと揺れていた。


「これはすごい迫力だな。立派になったものだ。」

「そろそろ自慢できる?見せてもいいと思う?」

「俺は自慢に値する立派な尻尾だと思うが、皆はどうだ?」

「妾にも欲しいぐらいじゃ。」

「とても絢爛な尻尾だと思います。」

「メメにも、ちょうだい、ね?」

「マイマイもいいと思いまーす!」


「そう。ならしょうがない。」


タマは澄ました顔をしているが、その耳はピコピコと振動するかのように高速に動き、尻尾達はびたんびたんと盛大に床を叩いている。


「付随しまして特殊(Ex)スキル『狐の嫁入り(きつねのよめいり)』を取得しました。

これは指定対象の側に瞬間移動できるという破格の能力です。

指定対象を決定する際は予め対象に肉体的に接触する必要があります。」


特殊(Ex)スキルがLv5になると化けるな。

ロクに登録するのが無難だと思うが、タマはどうする?」

「握手。」

「うん?」


タマは強引に伊織の手を取った。


「まあ、次点で俺ではあるだろうな。タマ、一旦ロクの中に入って試してくれ。」

「わかった。」


タマがロクの中に入って1分ほど経過すると、伊織の真後ろにタマが転移してきた。


「おおー!マジックじゃ!マジシャンじゃ!」

「ここ、魔法の世界じゃん?」

「そうではないのじゃ!」


「条件はどうだった?」

咄嗟(とっさ)に発動するのは無理。それに私じゃ奇襲も難しい。」

「つまり戦闘向きではないということか。クールタイムはどうだ?」

「ない。」

「まあ、一度転移してしまえば連続使用する機会もそうそうないか。」


「報告は以上です。」

「よし、皆朝食は摂ったな。できれば今日中に最下層まで行くぞ。」

「「「おー!」」」


そうしてB級冒険者パーティ『百鬼夜行』の面々はB6Fへと足を踏み入れた。

______

ちゃむだよ? >_(:3」∠)_

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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