モイラ編03-04『踏破へ01 B1F~』
翌朝。
皆で朝食を摂り、倉ぼっこを呼んだ。
「どうしたの?」
「昨日の収穫を渡そうと思ってな。精々D+ランクだが、使い道はあるか?」
伊織は昨日収集した魔石をクラに渡した。
「あるある。まだ練習中だからね。色々と試行したからさ。
逆に高ランクのものはまだ持ち腐れだね。」
「そうか。クラは頑張ってるな。」
「えへへ、やっと蓄音機が完成したよ。ほら。」
伊織はクラから蓄音機を三つ受け取った。
「随分と小さくなったな。たいしたものだ。」
しみじみと眺める伊織の前には片手にすっぽりと収まるほどに小型化された蓄音機があった。
「いやー、苦労したけど色々と勉強になったよ。次は記録媒体を入れ替えできるようにしたいね。」
「頼もしいことだ。その調子で頼む。」
「あいあ~い。」
伊織とクラ様子をそわそわと二人の妖が見詰めている。
「百々目鬼、これまでの働きのご褒美という訳ではないが、プレゼントだ。受け取って欲しい。」
「主様、早速、録音、ね?」
「俺の声でいいんだな?」
「も、もちろん。」
「リクエストはあるか?」
「メメが、一番。うふふ。」
「いいだろう。」
伊織は頑張ってくれている一の臣に少しだけサービスしてあげることにした。
「メメ、これまで一の臣として仕えてくれてありがとう。いつまでもお前が一番だ。」
録音を切り、メメに手渡そうと目線を上げたところでメメに抱きつかれた。
「メメは、果報者、ね?」
「それを言うなら俺の方だ。俺は本当に配下に恵まれている。」
「ふ、ふふふ、今なら、神でも、討てる、よ?」
「その機会が訪れない事を祈るとしよう。さて、次はサトだが。」
「私も是非、主様のお声を賜りたく。」
「わかった。内容はどうする?」
「あ、主様のお言葉で、その、お褒めの言葉を頂ければ、サトは100年戦えます。」
「大袈裟だな。しかし、何と言ったものか。
いや、こういうものはありのままがよかろう。」
伊織は録音のスイッチを入れた。
「サト、お前がいなければ今の俺はいなかっただろう。
お前は俺が最も信頼している二の臣であり、俺の右腕だ。
今後も迷惑を掛けると思うが、宜しく頼む。」
「ぐっ、これでサトは1000年戦えます。」
予想した以上の破壊力にサトの涙腺は決壊した。
そんなサトを見て伊織は立ち上がり、サトの肩を抱いた。
「俺は感情が薄くなってしまったが、それでもお前への感謝を忘れたことはないよ。
俺が変わってしまった事はどうしようもないが、受け入れてくれると嬉しく思う。」
「そのような。サトは昔の主様も、今の主様も、変わらず、お、お慕いしております。」
「ありがとう。ならばお前がもっと自慢できる主になれるよう精進せねばなるまいな。」
そんな伊織とメメ、そしてサトの様子をガン見していた舞首と天狐は顔を見合わせる。
そしてひとつ頷くと、部屋を飛び出して一目散に駆けて行った。
しばらくしてクラの悲鳴が物悲しく響き渡った。
犠牲となったクラを背に、B級冒険者パーティ『百鬼夜行』の面々はB1Fに突入した。
「昨日の調子を考慮してB3Fまではノンストップで駆けるぞ。
全員ロクの中で待機してくれ。御者は俺が務める。
なにか感じたらすぐに念話で知らせてくれ。すぐにロクを止める。」
全員を収納し、早速御者台に乗り込んだ伊織は頭の中に地図を思い浮かべ、ロクを走らせた。
オークとハイオークはロクが文字通りの意味で轢き殺し、経験値としての価値がほとんどないスライムは基本的に放置した。
たまに離れたところにいるオーク達は伊織の雷撃で全て始末された。
魔物とはいえ、誰に何をされたかすら理解しないままに世を去るのは憐れみを誘う。
「レミィ、中の連中に経験値は入っているか?」
「イエス、マイマスター。問題ありません。」
「朗報だな。必要ならロクを走らせながらのレベル上げも可能か。
クラ達のような内政要員を鍛えるのに都合がいいな。」
「パワーレベリングに向くダンジョンや階層を解析します。」
「そうだな。いつかやることになるだろう。
その場合、御者は俺でなくてもいいしな。」
「イエス、マイマスター。ロク様さえ居れば可能な場所も多いでしょう。」
「オレサマ ムソウ コウヒョウ ハツバイチュウ」
「ここのように、な!」
伊織は遠くのオークの群れを雷撃で薙ぎ払う。
「B2Fはある程度纏まった数で沸くようだな。」
「もしかしたら偶数フロアはそういった傾向にあるかもしれませんね。」
(主様、メメ、だよ?)
「ロク、止まれ。」
唐突なメメ念話に即座にロクを停車させる。
(メメ、どうした?)
(宝箱、ある、よ?)
(ほう、それは興味深い。誘導できるか?)
(メメに、お任せ、ね?)
伊織はメメの誘導に従いながらまっしぐらにロクを走らせた。
正規の道からは逸れているが、それほど遠い距離ではなかったのは僥倖といえるだろう。
(メメ、全員を降ろしてくれ。)
全員がロクから降りると全員が目をキラキラと輝かせている。
目の前にはよくあるゲームで見かけるようないかにもな宝箱が鎮座していた。
「うわー、ドラゴンファンタジーで見たまんまだよ!」
「ドラゴンファンタジー何かは知らんが、そのテンションは理解できる。
俺の心もぴょんぴょんしているぞ。
それでレミィ、宝箱にも罠はあるのか?」
「宝箱には罠がある事が多いです。」
「ふむ、サトはわかるか?」
「これは面白いですね。宝箱内部に怪しいものはありませんが、宝箱正面の床に感圧式の罠が仕掛けられています。」
「確かに面白い発想だな。人間の心理を見事に突いている。深く考えなかったがダンジョンとはもしかして自我のある生き物なのか?」
「少々異なります、マイマスター。
ダンジョンにはダンジョンマスターなる魔物が棲んでいる考えられています。
その目撃例は極めて少なく、接触することはほぼないとお考え下さい。」
「ではそのダンジョンマスターなる者がせっせと罠を仕掛けている訳か。」
「『西』ではそのように解釈されています。何分情報が少なすぎますから。」
「理解した。詳しいダンジョン談義は後日でいいとして、早速箱を開けよう。
皆の期待がすごいからな。」
興味津々の皆の視線を浴びながら伊織は箱を回り込み、中身を確認した。
「魔石とナイフか。呪いは・・・掛かってないな。」
鞘と柄に見事な意匠が施されたナイフは全員がため息を吐くほどに美しい。
性能はわからないが、少なくとも美術品としては合格らしい。
「抜くぞ。」
伊織は躊躇いなくナイフを引き抜いた。
刃渡り20cmに満たない刃が煌めく。
「これは明らかに鍛造品だな。見事な造りだ。クラがいれば詳細が判るんだがな。
これはマイマイに預けておくが、クラに鑑定して貰うまで使用は控えてくれ。
どんな効果があるか判らんからな。」
「やったー。マイマイわかった。」
「これなら多少離れていても宝箱を開けに行く価値があるか?」
「もちろんじゃ!全部開けるぞ!」
「マイマイが思うに、村雨はガチャで破滅しそうなタイプだよね。」
「がちゃ?」
「知らない方がいいよ。まあ、モイラにあるとは思えないけど。」
金の匂いを敏感に察知したサトはロクの中で詳しく聞いた。
サト自身が金の亡者という訳ではなく、あくまでも主の覇道の礎の為の金策であると、彼女の名誉の為にも追記しておくべきか。
ともあれ、モイラの純朴な民の一部が餌食になる未来がひとつ確定した。
自業自得と言って差し支えないのかもしれないが、被害者には哀悼を捧げよう。
「では、皆は乗り込んでくれ。とっととB3Fに向かおう。」
その後は特に変わった事は無く、順調にオークの群れを轢きながら先へ先へと進んだ。
後日、ダンジョン内で怪死したオークが次々に発見され、大きな噂となる。
そして美しいエルフのギルドマスターが頭を抱える事になるのだ。
そんなことはお構いなしに記録的な踏破速度で一行はB3Fへの階段に到達した。
「さて、ここからは通常進行だ。余裕があるようならまた特急進行するが、当面は油断無く進んで行くぞ。」
ロクの中で暇をもて余していた一行は気力体力共に充実していた。
B3FではEランクのポイズンスライムとCランクのオークスカウトが出現するようになる。
レミィが言うにはポイズンスライムは毒を持つだけで、それさえ警戒すれば脅威ではないとのことだ。
逆にオークスカウトは非常に危険らしい。
弓による不意打ちを受けると当たり所によっては即死しかねないというのが大きな理由だ。
とはいえ伊織の物理結界を抜けるかというと難しいだろう。
という訳で、伊織は早速実験を開始した。
「では、行ってくる。」
遠く視線の先にはこちら気づいていないオークスカウトが弓を持ってアホ面を晒している。
伊織は小石を投げ、前面に物理障壁を展開した。
その音に気づいたオークスカウトは唾を撒き散らしながらこちらに向かって何かを叫ぶ。
そしてその場で弓を射るでもなく走ってきた。
「もう50mを切ったが・・・ようやく構えたか。35mといった所か。
しかし遅いな。」
もたもたと矢を番えるオークスカウトだがそこはオークというべきか。
発射された矢の速度だけは中々のものだった。
が、残念ながら命中率はお察しのようで、明後日の方に飛んで行ってしまった。
「せめて障壁には当てて欲しいものだが。」
伊織は二の矢に備えて物理障壁を大きく広げた。
再びもたもたと矢を番える様子を醒めた目で見詰める。
ようやく放たれた二の矢は障壁に阻まれてあっけなく地に落ちた。
「まあ、こんなものか。十倍の威力でも抜けんだろうな。
ところ矢が無くなったらお前はどうするんだ?」
なんとなく気になった伊織は無駄撃ちするオークスカウトを観察しつつその時を待った。
やがて矢が無くなったことに気づいたオークスカウトは癇癪を起こしたのか弓を叩き折ってしまった。
そして再び血走った目をこちらに向け、伊織に向かって駆け出した。
「この行動ははオークの知能に依るものなのか、それともダンジョンマスターとやらにそう作られたのか。どっちだろうな?」
両手で掴み掛かってきたオークスカウトを危なげなく回避しながら流れるように首を刎ねる。
「矢が発射される前にロクが轢き殺すのが先だな。何十匹沸いた所で脅威足り得んか。
よし、B5Fへの階段まで特急で行こうと思うが反対はあるか?」
「遠距離攻撃持ちは面倒じゃしの。妾は賛成じゃ。」
「どうせ狩るなら最下層のほうが効率が良さそうだし、マイマイ賛成。」
伊織が想像した通り、反対は出なかったのでロク列車は恙無く発車した。
「シュッパツ シンコウ」
その後も思う存分に轢きまくって、ロクは非常に機嫌が良かった。
伊織は伊織でメメから届く情報を元に視界に入るオークスカウトを反応すらさせることなく次々と雷撃で仕留めた。
B4Fに至ると少しづつではあるが魔物の出現数も増え始めた。
とはいえ結果に違いはないのだが。
そして残念ながらB5Fに至るまでに宝箱を見つける事はできなかった。
「ところでレミィ、魔物の死骸が見当たらないが、スライムが始末しているのか?」
「イエス、マイマスター。
ですが基本的には時間を掛けてダンジョンが吸収していると考えられています。」
「ダンジョンが生成してダンジョンが吸収する訳か。」
「魔物が得た経験値を獲得しているのではないかという仮説を見た記憶があります。」
「証明は難しいだろうな。それこそダンジョンマスターにでも聞かない限り。」
B5Fからはオークメイジとアシッドスライムが出現するようになる。
オークメイジはその名の通り、攻撃魔法を使うそうだ。
アシッドスライムは通常のスライムとは比較にならないような強酸をばら蒔くらしく、人体はもちろん、装備品にまで悪影響がある嫌われ者スライムらしい。
「レミィ、アシッドスライムの酸に使い道はあるか?」
「今の所は瓶に入れて投擲するぐらいでしょうか。
将来的に化学や工学に手を出した場合は使い途があるかもしれません。」
「解析するにもその設備すらないしな。」
「イエス、マイマスター。」
皆で歩き進めていると大きな部屋が見えた。
「部屋の中、魔物、いっぱい、よ?」
メメから詳しく聞くとオーク8体、ハイオーク6体、オークスカウト4体、オークメイジ3体の合計21体の大所帯のようだ。
ここまでの規模の魔物パーティは初めてだ。
「モンスターハウスと呼ばれる部屋のようですね。」
「ほう、それは?」
「入室してしばらくすると扉がロックされるようです。その後は魔物を全滅させるまで部屋から出られなくなるとか。但し、全魔物を討伐するとどこからともなく宝箱が出現し、扉のロックが解除されます。」
「よーし、早速やるのじゃ!」
村雨は意気揚々と部屋に突撃しようとする。
「まあ待て。やるのは構わんが作戦を決めてからだ。レミィ、ロックが掛かるまでの時間は?」
「概ね一分前後のようです。」
「では、作戦を決める。
村雨は敵の後衛に突っ込んで撹乱しつつ首を刎ねて回れ。」
「任せるのじゃ。」
「ロクは大集団に突っ込んで暴れろ。」
「オレサマ ミンチ ジョウズ」
「今回、メメは待機だ。異常事態に備えてくれればいい。」
「うん。」
「サト、タマは単体攻撃魔法で敵前衛から順に削れ。マイマイは首を後衛の護衛にして同じく単体魔法で攻撃だ。」
「御意に。」
「マイマイわかった。」
「タマもわかった。」
「折角の集団戦闘の機会だ。相互連携を意識しつつやるように。フレンドリーファイアなど論外だからな?
では、後衛三人の攻撃魔法を合図にしてすぐに室内に突入するぞ。」
それぞれ配置がにつき、合図を待つ。
「マイマイカウント!3,2,1,ふぁいやー!」
サトが覚えたての土魔法による礫を放つ。
マイマイは三大怨霊の首を旋回させつつエレメント四属性の矢を器用に放つ。
圧巻なのはタマだった。
まるでガトリングガンのような速度で赤、青、緑、黄、白、黒の六色の弾丸を急所に的確に当てている。
あわや敵前衛を全滅させるのではないかと思われた所でいつの間にかいなくなっていた村雨が敵後衛の背後から飛び込んだ。
後は流れるように首を刎ねて回り、呆然と立ち竦むスカウトの背後からロクがその脳天にかぶりついて終了だ。
「ふはは、圧倒的ではないか我がパーティは!」
マイマイのテンションが高いのも頷けるというもので、確かに完膚なきまでの圧勝であった。
そうしていると室内の最奥の壁が開き、B2Fのものよりも立派な宝箱が出現した。
「おお、金縁なのじゃ。豪華じゃの!」
「今回のようなモンスターハウスの宝箱に罠は確認されておりません。」
レミィの言葉にサトを見ると、サトは静かに頷いた。
「では村雨、開けていいぞ。」
「やったー!妾がお宝を引き当ててやるから期待して待っておれよ!」
すでに中身は決まっているだろうと言うのはきっと野暮だろう。
いや、魔法が存在する世界ならもしかしたらシュレディンガーの猫が大活躍するようなびっくり要素があるのかもしれないが。
ともあれ、村雨は勢いよく箱を開けた。
「おー・・・お?なんじゃこれは。
箱の中に箱とはこれ如何に。」
「マトリョーシカ?」
村雨が取り出したのは古い木箱だった。
「待て、村雨。まだ開けるなよ。」
「お?それは振りなのか?開けろというんじゃな?」
「阿呆。呪われたければ好きにしろ。」
「いやじゃ!」
村雨に手渡された文箱は中から濃厚な魔力を感じた。
中身はまだ箱の中にあるにも関わらず。
「これは神威か?少なくとも箱は呪われていないようだが。サト、中身は見えるか?」
「恐らく本かと思われますが、詳細までは。申し訳ございません。」
「いや、十分だ。」
伊織は本の少しだけ蓋を上げる。
魔力が吹き出さないの確認して蓋を開けた。
中にはサトが言ったように、一冊のシンプルな本が納められている。
「タイトルが読めないが、モイラは単一言語のはずだよな?」
「イエス、マイマスター。ですが、その本はまだ開かないで下さい。」
「どういう事だ?」
「恐らく神代の書物だと思われます。神々によって書かれた、対象に叡知を授ける書物です。
つまり、異能を得ることができる極めて稀少な品です。
一度使ってしまえば効果が失われてしまう為、まずはクラ様に鑑定してもらいましょう。」
「それは凄いな。」
「最低でも金貨100枚(1,000万円)の価値があります。内容によっては青天井になるでしょう。」
「しばらくおやつには困らんのじゃ。」
「一生分いけるんじゃない?」
「まあ、余程使い途がないものでも無い限り、誰かしらに使わせるがな。」
「ねね、レミィ。ナイフ、書物といい物が多い気がするけどこんなもん?」
「どうでしょう。少なくとも運がいい・・・というかマスターの運が影響している可能性がありますね。」
「だが、開けたのは村雨だぞ?」
「今回のケースですとパーティメンバーの中で最も大きい数値が適用されます。
つまりマスターの運勢の254です。」
「60で人外だったよね。つまり人外四つ分。これもうよくわかんないね。」
「まあ、良い事なら問題ないな。って、村雨。箱の中にまだ何か入って・・・離れろ!」
伊織の警告に箱の中から何かが飛び出し、そのまま扉を駆け抜けて消え去ってしまった。
「え、何、今の。ちょっぱやすぎじゃね?」
「妾の目でも捉えきれなかったのじゃ。」
「小さなスライムのように見えたが・・・ちょっと自信がないな。」
「すみません主様。私にも観えませんでした。」
「サトに観えないというのは非常に不味いな。だが、何故逃げた?」
「マスター。録画記録からの解析が終わりました。」
「うわー、レミィ有能!」
「恐れ入ります。マスターの目が正しかったです。あれは『エーテルスライム』という極めて稀少なスライムです。」
「ほう。どんな性質なんだ?」
「とても臆病で攻撃的な面はないとの情報はありますが、討伐記録はありません。エーテルということなので恐らく幽星体でしょう。」
「エーテルとは?」
「よくわからない魔力のようなものという意味で使われます。
この場合は肉体ではなく、魔力体でもなく、霊体でもない存在という事です。」
「俺の異能『Ex妖ホイホイ』は発動したか?」
「発動していますが弾かれた模様です。」
「なるほど、残念ながらお気に召さなかったか。」
「メメが、捕まえる、よ?」
「何?」
「目で、見える、なら、探して、固める、よ?」
「その手があったか。時間はどれぐらい掛かる?」
「わからない、ね?」
「ふむ、とりあえず始めてくれ。その間はB5Fへの階段まで警戒しつつ通常進行だ。」
パーティの面々は警戒感を滲ませつつ慎重に進んだ。
「これが本来の探索なんじゃろうな。ヒリヒリするわ。」
「確かに、口では警戒と言っても危機感が薄かった事は否めない。
よい教訓を得ただけでもエーテルスライムと遭遇した価値があるな。」
「マイマイは楽な方がいいな。」
「タマも。」
無駄口を叩きながらも緊張感は継続していた。あの村雨でさえも。
そうして何事もなくB5Fの階段に到達する。
「さて、レミィ。魔物は階層を移動するのか?」
「フロア内の魔物が一定数を越えると一斉にダンジョンの外に出ようと行動することがあります。
いわゆるスタンピードと呼ばれる現象ですね。それ以外では確認されていません。
ですが宝箱から発生した魔物という時点で常識が通用するかどうか疑問です。」
伊織は深くため息を吐いた。
「レミィの言う通りだな。ここはメメに一任して先に進もう。
帰還するまでにメメが捉えることができるかが分水嶺だな。」
「任せて、ね。鬼ごっこ、負けた、こと、ない、よ?」
珍しくやる気スイッチが入ったメメを見て伊織は頷いた。
「よし、頼む。今後の戦闘は基本的にはメメ抜きだ。
通常進行でB5Fに向かう。行くぞ。」
一行は真剣な表情で次のフロアへと足を進めた。
アリストロメリアA級ダンジョンの発見から200年。
かつて1日経たずしてB5Fへと到達したパーティはおらず、B級冒険者パーティ『百鬼夜行』は非公式ながらひっそりと金字塔を打ち立てたてていた。
______
ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




