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モイラ編幕間02-03『三分クッキング』『いんたびゅーうぃず妖01』

『三分クッキング』side ベリト


儂はソロモン72柱序列第28位ベリトじゃ。

『モイラ』で実験をさせて貰えると聞いて小僧の配下となったまではいいが、肝心の実験室は建築中で何もできん。

仕方ないのでド素人の倉ぼっこ(じょしゅ)を鍛えてやろうと悪魔心(・・・)を出したんじゃが、これが思った以上に筋がいい。


儂は錬金術が専門じゃが、無論それに近しい知識には精通しておる。

魔法学、魔方陣学、薬草学、鉱物学、魔法薬学などを叩き込んでやったら真綿が水を吸うようにモノにしおったわ。

僅か半月程度でそれなりに会話ができるようになったのには魂消(たまげ)たものじゃ。

無論、儂の教え方が上手かったのであろうがな。


そんな折、伊織(こぞう)が山ほど薬草を持ち帰った。

それほど希少な物はなかったが、小娘(クラ)に練習させるには具合のいい素材じゃ。


倉ぼっこ(クラ)、庭で授業じゃ。」

「うん、わかった。」


宿の庭に夜営用の道具を出して準備をする。

倉ぼっこ(クラ)の異能『お宝蔵』からどんどん道具が出てくる。

よい能力じゃ。どうにか再現できないものかと頭を悩ませていると、準備が終わった。


「まずは一般的なポーションを作るぞ。」

「はい、師匠。」


うむ、師匠という響きは悪くない。


「ポーションに適した薬草を選んでみよ。」

「じゃあ、これと、これ。」

「うむ、悪くない。次は乾燥じゃ。火属性は使えるか?」

「むり。」


「お前は苦手なものはとことん駄目じゃからな。どれ、乾燥は儂がやろう。」


儂ぐらいになると乾燥など10秒でちょちょいのぱーじゃ。


「では次は加工じゃ。今回は時間短縮のために根は使わずにやるぞい。」

「あい。」


クラは手際よく不要な部分を切り飛ばし、素材をみじん切りにした。


「最後に水に魔力を込める。無属性は使えるか?」

「ねえ、それ液体化した魔力でやるどうなるの?」

「魔力の液体化など聞いたこともないわ。」

「え?ほらこれ。」


クラは液体の魔力を注ぎ込んだ。

ボウルの中で七色の液体が揺れている。


「なんじゃこれはああああ!」

「お爺ちゃん、余り驚くとまた腰をやっちゃうよ。」

「それどころじゃないわい。なんという濃密な魔力じゃ。じゃが徐々に揮発しておるのか?

急いでやるぞ!ほれ、薬草を放り込んで混ぜてみよ。」

「うん!」


クラがぐるぐるとかき混ぜていくとやがて全ての魔力が蒸発した。

ボウルの中に残ったのは七色に輝くみじん切りにした薬草だった。


「鑑定してみよ。」

「駄目みたい。粉末にしてみる。」


クラは中身をすり鉢へと移し、すりこぎでゴリゴリと磨り潰した。


「あ、『全属性薬草粉』だって。」

「ほう、面白い効果じゃな。色々と使えそうじゃ。」

「このままポーションにする?」

「そうじゃな。まずは予定通りにやってみよ。」


クラは水と粉末の分量を量り、それぞれを混ぜ合わせた。

次に粗布(あらぬの)で濾し取り、手動の遠心分離機にいれた。

この遠心分離機は伊織とレミィにアドバイスを貰いながらクラが手作りしたものだ。

取っ手をぐるぐると回し、頃合いをみて確認する。


「どう?」

「よかろう、上澄みを取り除けば完成じゃ。」

「スポイトがないよ?」

「傾斜法じゃと具合が悪いな。布で吸い取ればよかろう。」

「お爺ちゃん天才!」

「そうじゃろう、そうじゃろう。終わったら鑑定してみよ。」


クラは手際よく作業を進める。

永く生きたベリトだが、弟子のような相手に師事されるのは初めての事だった。

ベリトは得もいわれぬ感覚を奇妙に思いながらも現状を楽しんでいた。


「できた。えーっと、『中級ポーション』だって。」

「本来なら『低級ポーション』になるはずじゃったが。

『全属性薬草粉』のとりあえずの仮説としては、レアリティが一段階上がるといったところかの。」

「それってさ。『魔力回復ポーション』で同じことをやったら高効率で主様の魔力をばら蒔けるんじゃないの?」

「できるじゃろうな。とはいえその素材が潤沢にあればじゃが。」


確かにクラの言う通りではあるが、『魔力回復ポーション』の素材となる薬草はそれなりに希少だ。


「まいいや、全属性なんちゃらは後で主様に報告するとして、色々作って遊ぼ。」

「遊びでもなんでもよい。研究室が完成するまでに一通りは作れるようになるんじゃぞ?」

「えー、研究より主様の役に立つのが先だよ。」

「ふん、そんなものはすぐにでも終わらせてやるわい。」


「お爺ちゃんって意外と律儀だよね。」

「人族と違って悪魔は必ず契約を守るでな。」

「ふーん。あ、それ取って。」

「何じゃ、興味なさそうにしおって。ほれ。」


悪魔と妖の凸凹師弟ではあるが、意外と二人の相性は良かったようで、拠点完成後には表に裏にと八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍を見せる事となる。






「あ、やば、入れすぎちゃった。爆発するかも。」

「コラー!」






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


『いんたびゅーうぃず妖01』side ヒルメ


えっと、こんにちわ、天照大御神(あまてらす)こと、ヒルメです。

私は引き篭りを改善するために夜行伊織のもとに降臨させれたよ。

えっと、菊理媛神きくりに無理やり。

ちょっと先走ったのは私だけど、大体きくりのせいだからね?


今日は伊織の部下に話を聞くよ。

知見を広げるのと仲好くなるためって言ってたけど緊張するよ。






「ごめんね、(サト)は忙しいのに。」

「構いません。主様より貴女に協力するよう仰せつかっておりますから。」


サトは(さとり)という妖です。

彼女は相手の心が読めるようです。怖いね?


「いえ、ご想像頂いているほど正確には読めません。大丈夫ですよ。」

「えー・・・わかってるじゃない。」

「ヒルメ様は、失礼。ヒルメは少々わかりやすいですから。」


私だけ大丈夫じゃないみたいです。


「あの、色々と聞くけど、答えたくないことは答えなくていいからね。」

「承知しました。」

「いい、よ?」


今日はサトとお話するだけの予定でしたが、何故か百々目鬼(メメ)も同席しています。


「一の臣、だから、一番、ね?」

「最初はメメに聞くべきだったかな?じゃあ、一緒にお願いね?」

「うん、いい、よ?」


「早速だけど、伊織の最初の部下はメメなの?」

「うん、そう、だよ?メメが、一番、うふふ。」

「サトが二番目?」

「はい。」


「部下になった切っ掛けは?」

「私、彷徨った、400年。なにも、ない。

主様にね、拾われた、よ?」

「私もメメも『はぐれ』でした。

はぐれとは、どこかに所属するでもなく幻妖界を彷徨(さまよ)い続けるだけの妖です。

気の向くまま、永く永く、生きて、消える、そんな存在です。

それが紆余曲折(うよきょくせつ)を経て主様に拾われる事になりました。」


「紆余曲折?」

「メッ、された、ね?」

「恥ずかしながら、このメメと大喧嘩をしてしまいまして。

今はもう、その理由すら記憶していないのですが。

そこで仲裁して下さったのが、齢6才の主様です。」


「6歳って、まだ小さな子供だよね。」

「可愛い、かった、よ?」

「そんなに暴れたいなら僕が遊んでやる、そう言いながら三つ巴で戦いました、六歳児と。」

「強かった、ね。」

「ええ、完膚なきまでに叩きのめされました。」


「ええ?・・・いくら二人が戦闘向きじゃないとしても、それはすごいね。」

「目をね、合わせて、くれなかった、よ?」

「思考を読んで先読みしようにも選択肢の数が膨大で、しかも肝心の選択が行動の直前でしたね。

あれはメメと私の特性を完全に把握したうえで適切に対策した動きでした。」


「その後はすぐに部下になったの?」

「ううん。」

「『夜行家』の教育方針として、成人するまでに妖と自力で直接契約するというものがあります。

主様の目的はそれかと思ったのですが、結局最後までお声掛けはありませんでした。」


「という事はサトは自分から部下になったんだ。もしかしてメメも?」

「メメから、だよ?」

「私もそうです。

『風祭家』という夜行の分家の『倉』が主様の遊びの場でした。

その倉に棲んでいた『倉ぼっこ(クラ)』と主様は同い年で、生まれた頃からの関係と聞いています。


特に示し合わせた訳ではないのですが、主様に惹かれた妖達はその倉で顔を会わせるようになりました。

最初はあの小僧は何者だろうという興味からでしたね。

私たちの後には村雨、マイ、タマ、キヌ、スヤ、他にも多くの妖が入り浸っていましたね。」

「メメは、目を、食べたかった、よ?」


「ええ?今でも食べたいの?」

「主様、いらなくなったら、くれる、よ?」

「馬鹿馬鹿しい約束ですが、当人同士は納得しているようです。」

「でも、もう、食べない、よ?

ずっと、ずーっと、眺めるんだ、えへへ。」

「では、時間を止めて固定する術を見つける必要がありますね。」


「ええ?・・・サイコパスだよ。」

「『我ら妖にて候』というのは使い古された言葉ですが、妖とはこのようなものですよ。」

「うん、うん。」


「私の価値観は人族寄りかも。サトもそうなの?」

「私は主様と共にあればそれだけで。ですが二人きりだと尚良いですね。

邪魔者は排除したくなりますが、主様はそれを望まないでしょうから。

でも少しぐらいは・・・ああ、いけませんね。

主様のことを考えるとつい、()が乗ってしまいます。」


妖は怖いな、とヒルメは思った。

話を逸ら、進めよう。


「それからはずっと『倉』で?」

「ううん。」

「騒がしくも穏やかな日々が続いたのは2年ほどでしょうか。

主様が病で倒れてしまわれた事で日常は崩壊しました。」


「確か、伊織は8歳の時に倒れたのよね?」

「はい、我々が共に過ごしたのは主様が6歳から8歳の2年間に過ぎません。

ですがその間に頂いたものは・・・言葉にする事が難しいですね。

ともあれ、400年の生を根底からひっくり返すほどに幸せでした。

ゆえに私は、いえ私達は誓ったのです。

主様が快復された際に、必ずやお役に立つと。」


「『妖羽化(よううか)』、した、ね?」

「『妖羽化(よううか)』って何?」


「それを説明する前に主様のその後について簡単にお話しましょう。

8歳で倒れてから16歳で『モイラ』に降り立つまでの間の8年間はほぼ病床にありました。

意識のない時間のほうが遥かに長かったと聞いています。


主様が倒れてからというもの、一向に快復しないので私達は思ったのです。

よもや、このまま快復しないのではないか、と。

私達は話し合いました。

そして治癒するための方法を探すことにしたのです。

ですが元はぐれの妖達にそのような知識はありません。


よって、遠回りではありますが、まずは人の姿を得ることにしました。

元々人の姿の倉ぼっこ(クラ)と産まれながら人化を持つ村雨は別ですが。

妖羽化(よううか)』は『人化の法』と呼ばれることもあります。

簡単に説明すると儀式的に『一回休み』することで変異し、人化を得るのです。」


「とても、辛い、よ?

でも、同じに、なりたかった、ね?」

「もちろんそれもありますが、やはり主様のお役に立つのに人の姿は色々と都合がいいですからね。

それにかつての我々は醜い姿を恥じて居りました。

主様の隣に在るのに相応しくないのではないか、と。

それぞれに様々な理由があって、『妖羽化(よううか)』への抵抗はありませんでした。

ここにいないキヌやスヤも似たような想いだったでしょう。」


ヒルメはサトとメメを見るが、客観的に見て彼女達の容姿はとても整っている。

メメはちょっと痩せすぎとは思うが。

とはいえかつては醜い妖だったなどとは全く想像できない。


「すぐ、復活、するし、ね?」

「ええ、たった4年程度と予想できましたから。

400年も生きていればあっという間です。

と、悠久を生きるヒルメ相手に口にするのはお恥ずかしい限りですが。」


「私はずっと引き篭ってたからよくわかんない。

私こそ長生きしてるだけで恥ずかしくなってきたよ。

生きててすみません。」

「がんばれ、ヒルメ、ね?」

「主様と共にあればきっと何かを見つける事ができるでしょう。

主様の元には何かしら心に傷のある妖が集まる傾向にあるようですし、皆が主様のおかげで前を向いています。」


「気を遣わせてごめん。

それで、『妖羽化(よううか)』した後はどうだったの?」

「まだ、寝てた、ね?」

「はい。主様は快復する傾向すらありませんでした。

どころか日に日に衰弱していきました。

そして私達なりに知識を得て、手を尽くして津々浦々を探しましたが、手掛かりを得る事すら叶いませんでした。」


「では、自然に快復したのですか?」

「ううん。」

「ツヴェルフという座敷童子が寄与することで快復したと聞いています。

私も詳しくは知らされて居りませんが、ツヴェルフが神々を盛大に巻き込んで奇跡を引き起こした、と。」


「神々を・・・菊理媛神きくりなら何か知ってるかしら。」

「つべるふ、会いたい、な。お礼、言う、よ?」

「ええ、彼女が『風祭家』の座敷童子と聞いた時は驚きました。『風祭家』の『倉』にいたメメが彼女の存在に気付かなかった位ですから。」

「興味、なくて、見過ごした、かな?」

「なるほど、そんな理由でしたか。」


「それで、神々の力で快復して、伊織は『モイラ』に降り立ったのよね?」

「うん。」

「施術は『西』で行われました。

実は『西』が主様を拉致しようとして、それを防いだのが彩葉(いろは)様だったのですが、尋問する際に私が招聘されたのです。」


「え、初耳、だよ?」

「そういえば主様の病室に『目』を送ることは禁止されていましたね。

事が事だけに、箝口令が敷かれていたのですよ。もう時効でしょう。」

「誰?」

「実行犯はレシエルという第八位階の天使です。教唆したのは運命の女神ノルンですね。」


ふわりとメメの髪が浮かび上がり、金色に輝き出す。


「処す?」

「結果的に主様の命を救って下さいました。許してあげても宜しいのではないでしょうか。」

「そう・・・じゃ、許す。」


メメの髪はもとに戻った。

ヒルメは躊躇いなく神を(しい)そうとするメメが怖くなった。

彼女ならばそれが可能であるという事を知っているだけに。


「話が逸れてしまいましたね。

尋問の場で『西』の目的を聞き出しました。

それは主様を快復させ、惑星『モイラ』へと送る計画でした。

これは彩葉(いろは)様も苦渋の決断だったようですが、受け入れざるを得ないものでした。

夜行では快復させることは叶いませんから。

そこで私は主様が『モイラ』へ招聘して下さる事に賭け、彩葉(いろは)様と共に色々と準備をしました。

そして現在へと至ります。」


「そんな背景があったのですね。今後の二人の目標は何ですか?」


「『瞳術』、沢山、ね。

目ッ、する、よ?」


「滅ッ」じゃなければいいなぁ、とヒルメは思った。


「メメはまず、邪眼や魔眼を収集する必要がありますね。

私は与えられた職務を粛々とこなすことが主様の覇道を支えることになると考えます。

あとは魔法の習得でしょうね。

ダンジョン探索から外されると考えただけで震えます。

戦力外にならないようにしなければなりません。」

「メメも、魔法、やる、よ?」


「やはり全ては伊織に紐付けられるのですね。」

「そう、だよ?」

「そのために『モイラ』へと参りましたから。後は成すべきことを為すだけです。」


「とても参考になりました。ありがとうございます。」

「次は、クラ、だよ?」

「ええ、主様より次のインタビューは倉ぼっこ(クラ)にするよう伝言を受けております。」


「あ、はい。わかりました。」


クラは穏やかだから、今日ほどは緊張しないかな?






「だといいですね。」

「えっ?」

______

ちゃむだよ? >_(:3」∠)_

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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