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モイラ編02-24『コリンナ師の手紙/モイライ神殿』

翌朝。

朝食を摂ろうと部屋から出ようとした所で、念話が飛んできた。


(主様、バティムでございます。)

(バティムかどうした?)

(手紙の返事をお渡ししたいのですが、如何いたしましょう?)

(宿の多目的室に向かう。)


その足で多目的室に向かうとすでにバティムが居り、すでに(ひざまず)いていた。

随分と態度が変わったものだ。

手紙を受け取りその場で目を通すとそれは納得のいく内容だった。


コリンナ師は占星術の大家で、己の寿命が間もなく尽きる事を知っていたらしい。

彼女は所有する財産をどうしたものかと考えた結果、占いに委ねることにしたそうだ。

そしてその結果に導かれるように現れたのが俺だった。

これを偶然というのか、必然というのか、それとも運命というのかは俺にはわからない。

ともあれ、バティムは暴れることなく調伏(ちょうぶく)され、(ルシファー)に関わる悪魔が配下になり、彼女の財産は俺に与えられた。


そして(サト)のExスキル『完全解析』によってコリンナ師は一命を取り留め、寿命が尽きるという占いも解消されたそうだ。

これでめでたし、めでたし、となれば良かったのだが、なんと彼女はすでに書店を処分してしまっていたという。

本人は笑い飛ばしているようだが、これは伊織にとっては奇貨(きか)と成り得ると判断した。


「バティム、悪いが返事を書いたからもう一度渡してきてくれ。」

「委細承知致しました。すぐに参ります。」


恭しく頭を垂れてバティムの姿は掻き消えた。




ーーーーー

ーーー




朝食後、ジェーンドゥとジョンドゥも招いて全員で顔合わせをした。

昨日だけで七名も加入したこともあり、室内の熱気も高まっていた。


「さて自己紹介も落ち着いたところで、人事を発表したいと思う。

だが最終確認が必要な者が居るため、まずは幾つか確認したい。

ジェーンドゥ、ジョンドゥ。お前達の年齢は?」

「俺が18で弟が16だ。」


「そうか、ではナナ、ネネ、ノノはどうだ?」

「上から12、9、6です。」


これを聞いて最初に反応したのは村雨だった。


「はぁ!?ナナは12じゃったのか?」

「そうだな、見た目も雰囲気ももっと上だと俺も思っていた。

ナナ、君もネネやノノ同様に扱う。

今は多いに学び、遊んでくれ。」

「え・・・」


「不満か?」

「えっと、本当によろしいのでしょうか。」

「俺のいた国では15までは教育を受ける義務があるんだ。

もちろん王国では事情が異なることは理解している。

それでも君の年齢ではまだまだ子供だ。

君の将来のためにも従ってはくれないか?」


「私に否はありません。

許していただけるなら嬉しいです。」

「そうか、ならばそのように。

では6部門の人事を発表する。まずは確認してくれ。」


『冒険』責任者:伊織

 伊織、メメ、サト、村雨、マイ、テン、ヒルメ

 レミィ、火車

『特許』責任者:(サト)

  部下 セバスチャン・スチュワート、メアリー・スチュワート

『生産』責任者:一本だたら(タラ)

  製薬 伏姫、村雨

  錬金・魔道具 クラ、ベリト

  鍛冶 タラ

『教育』責任者:鈴鹿御前(スズ)

  教師 スズ・セバスチャン・スチュワート、メアリー・スチュワート

  生徒 ナナ、ネネ、ノノ、ジェーンドゥ、ジョンドゥ

『諜報』責任者(仮):ジェーンドゥ

  諜報 ジェーンドゥ・ジョンドゥ

『探索』責任者:なし

  グリモワール バティム

  精霊 パイモン


まずレミィは実体がないこともあり、少々特殊だ。

『冒険』部門に所属しているが、あらゆる部門に情報を投げてもらうことになるだろう。


『冒険』部門は伊織をリーダーとするB級冒険者パーティ『百鬼夜行』の面々だ。

今後しばらくは領都のA級ダンジョンを中心に各地のダンジョンを攻略することになるだろう。

サトが『特許』部門の責任者であるため、遠征の際にどちらを優先させるかが課題だ。

サト本人としては伊織と離れたくない一心で是が非でもスチュワート父娘を育て上げるつもりのようだが。


『特許』部門は(サト)を責任者とする金策の大黒柱だ。

現代知識を座敷童子達の悪知恵で調理した成果が並べられることになる。

内外の調整を含めて様々な舵取りが必要となるため、誰にでもできるとは言えない難しい仕事だ。


『生産』部門は一本だたら(タラ)を責任者として製薬、魔道具、錬金、鍛冶に細分化される。

今後は様々な分野が追加され、どんどん増員されていくことだろう。


『教育』部門は鈴鹿御前(スズ)を責任者として育成を担当する。

現状には教師役と生徒とが曖昧な関係で互いに教え合う事になる。

現代技術を効率よく落とし込むためにも、生産部門並に人を入れたい所だ。


『諜報』部門は情報収集や工作を担当する。

サトやメメの手が届かない所サポートするところから初める。

サトとしては国内上層部へ食い込む事や最終的には国外も視野に入れている。

また彼女は夜行家の分家である『風間家』のように陰日向から主を警護する人材を育成するつもりだ。

現状は持て余し気味ではあるが将来のために育てておく必要があるだろう。


『探索』部門は偶然入手した悪魔2人がグリモワールと精霊を収集している。

正直なところ伊織自身もどう評価したものか理解できていない所もある。

ランニングコストが掛かるわけでもないので、成果が出ればラッキーという程度でしか意識していないというのが現状か。


伊織が各部門を解説することで皆の表情は徐々に納得するよう変化する。


「さて、質問や要望はあるか?」

「はい。」

「ヒルメか。どうした?」

「私も戦っていいのですか?」


「一度や二度ならともかく、継続的な戦闘は無理だろうな。『天部』が許さないだろう?」

「天部なら追い払うよ?」

「さすがにそこまでするほどの事ではないな。」

「じゃあ私は何もしないの?伏姫はお薬を作るのでしょう?」


「なるほど。自身でやれること探すなら別部門に移るのは問題ないぞ?」

「お外に出るのはまだ怖いので、『生産』か『教育』かな?」

「どちらも人との関わりがあるし、よいのではないか?」

(じんぎ)を作るのは得意だし、『生産』にしようかな。」


「何か不穏な言葉が聞こえた気がしたが。」

普通の剣(くさなぎ)とか普通の装飾品(まがたま)とかだから大丈夫。」

「俺の勘がしきりに何かを訴えているんだが、まあいい。

一応所属は鍛冶部門にしておくが、鍛冶に関わらず好きなことをやってくれ。」

「わかった。私も菊理媛神きくりに怒られないように役に立つよ。」


「うむ、やりすぎないようにな?

他に何かある者はいないか?」


皆、納得した表情を見せている。


「問題なさそうだな。

最後になるが、コリンナ師から譲られた本を全員に解放する。好きに読んで構わない。

今から神殿で魔法の適性検査を実施するが希望者は火車(ロク)に乗り込んでくれ。『冒険』部門は全員参加だ。

他の者は本日は自由行動で構わない。では一旦解散する。」


結局馬車にはスチュワート父娘以外の全員が乗り込んだ。

貴族は6歳で適性検査を行う習慣があるらしく、元男爵家である父娘も例に漏れず検査済みとのことだ。

ちなみに父子の共々、風属性に適正があるらしい。


西区から東区の神殿に向かうには南区を経由してぐるっと回り込む形になる為、それなりに時間が掛かる。

といっても精々数十分程度ではあるが。


やがて神殿が近づくと大きな女神像が目に飛び込んでくる。

第一印象は俺を『モイラ』へと放り込んだ運命の女神(ノルン)だ。

それもそのはずで、惑星モイラ主神である三柱こと『モイライ三姉妹』はノルンの血を分けた存在であり、眷属でもある。

似ているのも頷けるというものだ。

だが似ているということは、もしかしたら三柱が降臨した際の姿を偶像化したというのが自然な予想かもしれない。


せっかく彼女達の神殿へと足を運んだ事であるし、すこしばかり解説するなら彼女達三人もまた『運命の女神』である。

とはいえその権能はノルンには及ばないようで、三人の権能を合わせてノルンの権能と同じになるらしい。

すなわち長女『紡ぐ者(クロト)』が運命を紡ぎ、『計る者(ラケシス)』が運命を計り、『断つ者(アトロポス)』が運命を断つ。

この紡ぐ対象は人々の運命であるとされ、それは寿命であるともされる。


伊織はなんとなくいずれ会うことになりそうな気がしたが、それはその時に考えればいいと心の奥にしまった。

全員が馬車を降り、早速神殿の中に入る。

中は閑散としており、伊織はなんとも表現しにくいイメージを抱いた。


「儲かってなさそうじゃな。」


台無しである。

気を取り直して回廊をどんどん進むと祭壇があり、その脇に看板と箱が設置してあった。


『お一人様 銀貨一枚』


案内人の一人もいない状況に少しだけ伊織は哀しみを覚えた。


総勢14名で銀貨14枚(14,000円)の計算になるが、これから長くお世話になるお礼と、万が一、恐らく、多分、きっと迷惑を掛けることになりそうなので、未来へのお詫びも兼ねて金貨1枚(100,000円)を寄贈した。


「まあ、運命の女神ならねじ曲げることもできよう。」

「どういう意味じゃ?」

「いや、戯れ言だ。忘れてくれ。さあ、皆で祈るぞ。」


伊織本人は全属性すなわち、火、水、風、土、光、闇、無の七属性に適正があるとレミィから言われている。

さて、祈るとどうなるのだろうかと目を瞑る。

暫くすると赤、青、緑、茶、黄、黒、白の小さな玉が目蓋の裏に焼き付くように見えた。


「なるほど、玉の色が基本七属性の各々に対応しているのか。」


目を開くと数人が既に祈りを終えていた。

一人づつ確認した結果、レミィが作成した『基本七属性』の適正リストが以下のようになる。


百々目鬼(メメ) 水、光、無、(神聖)

(サト)    土、闇、無、(呪術)

村雨        水、光、無、(神聖)

鈴鹿御前(スズ) 火、風、無、(爆発)

舞首(マイ)   火、水、風、土、無、(爆発)、(氷結)、(空間)

天狐(タマ)   火、水、風、土、光、闇、無、(全魔法)

倉ぼっこ(クラ) 土、無、(空間)、(重力)

一本だたら(タラ)火、土、無、(爆発)

豆狸(タヌ)   風、光、無、(電撃)

ナナ        水

ネネ        火

ノノ        土

ジェーンドゥ    風、無

ジョンドゥ     風、無


括弧内はレミィが予想する中位以上の魔法適正とのことだ。


『中位五属性』適正

爆発 火風

氷結 火水

電撃 風光

神聖 水光

呪術 土闇


例えば火と風に適正があれば中位属性『爆発』の適正を得る可能性が高いらしい。

(もっと)も、例え適正がなくても努力次第では使えるようになる。


妖全員が無属性適正を持っているようだ。

目を引くのはやはり全属性に適正を持つタマだろう。さすがは九尾の血脈と言ったところか。

次いで多いのがマイマイのエレメント四属性+無属性だろう。

マイマイに空間魔法の適正があるのはExスキル影響によるものだそうだ。

なんでも、首を亜空間に収納して出し入れしているらしい。


「レミィ、無属性とはなんだ?念動以外にできることはあるか?」

「イエス、マイマスター。

まず、魔力は個体化することができます。『モイラ』に降りてすぐにマスターが使用されたように。

ですがそれを熱する事はできません。」


「ああ、断熱結界にはその作用を一部流用している。・・・ああ、振動しないのか?」

「魔力は分子運動しないのではないかと言われています。

そもそも分子構成をしていないのではないか、とも。」


「では、気圧も魔力に作用しないのではないか?質量すら無いのかもしれん。」

「イエス、マイマスター。何故そう思われたのですか?」


「単純に物質の三態が成立しないのではないかと疑っただけだ。前々から疑ってはいたが、やはり完全に物質とは別物なのだな。つまり物理法則は通用しない。

ならば何が作用してるのか。思念か?」

「イエス、マイマスター。」


「だがそれだけなら空を飛ぶことができるはずだ。もしかして可能なのか?」

「今のところ飛行の魔法は確認されていません。」


「だが以前アイリスのギルマスが語っていた龍種は翼もないのに空を駆けると聞いたが?」

「失礼しました。人族において、と付け加えるべきでした。

改めて訂正しますと、龍種の飛行メカニズムは解明されておりません。」


「それは心踊るな。だが大分話が逸れてしまった。

魔力の固体化か。

『モイラ』で初日に試した皿だな。試してみよう。」


伊織は三センチほどの立方体を手のひらの上に想像した。


(『キューブ』)


すると手のひらの上に魔力の塊を知覚できた。


「目に見えず、熱も移動せず、重さもなく、浮いたままだ。だが僅かに弾力がある。

考えるほどわからんな。どうなっているんだこれは?

正確には物理法則の一部しか作用しない、ということか?」


次に伊織は魔力のコップを想像し、さらにその中に魔力の液体を想像し、実行した。


「ふーむ、液体化するのか。そして何故か液体なると重力が作用する。

本当にどうなっているんだ?違和感しか感じないな。」


ぶつぶつと呟く伊織の思考を邪魔しないよう、レミィは沈黙を保つ。


「だが長くは持たんようだな。もう揮発してしまった。

気体といって良いのかわからんが、元に戻ろうとする性質がある、か。

研究者に話を聞いてみたいものだ。何かに利用できそうだが。

液体化して容器に保存すれば動力に使えたりしないか?」


「簡単に固体化、液体化させる事ができるほどの魔力保有者はそうそう居りません。」

ひもじく(・・・・)なったら魔力を切り売りすることにしよう。」

「それも『夜行ジョーク』ですか?」

「レミィもわかるようになったじゃないか。」


「無属性魔法については以上です。」


「あとひとつ聞きたいことがあるんだが、身体を強化する魔法はあるか?」

「あるとされています。ですが使えるものは存在しないようです。」

「妖術は魔法に含まれるんだよな?」

「イエス、マイマスター。」


「身体強化と思われる妖術を使う鬼がいる。」

「魔法ではなくExスキルである可能性はありませんか?」


「わからん。幻妖界にいる『大嶽丸』という大妖だからな。システムの管理外だ。

だが、Exスキルもまた魔法の一種ではないのか?」

「魔力を使用するという点ではそうとも言えますが、原理が全く違います。

その個体特有の魔法回路を使うので、唯一無二(ユニーク)なのです。」


「ちまり百鬼夜行は俺にしか使えんという訳か。理解した。

倉ぼっこ(クラ)、話は聞いていたか?」

「うぇ!?蟹の脱け殻ならまだだよ?」


「それはまた後日、一緒に獲りに行こう。

それとは別にわかったことが二つある。

ひとつ、妖は無属性魔法を確実に保有する。

ふたつ、無属性魔法は魔力の状態変化と念動を司る。

無属性魔法はクラにも使える。

色々と試してくれ。

特に魔力の液体化は動力と相性がいい可能性がある。」


「うん。よさそうな川を探しとくね。ついでに無属性も調べとくよ。」

「頼む。」


周囲の皆は生暖かい目で二人を見守っていた。

______

ちゃむだよ? >_(:3」∠)_

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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