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モイラ編幕間02-01『震源地にて』『苦労人ヨーゼフ』『神々の宴02』『神々の宴03』

『震源地にて』side 世界最高の大賢者(自称)


「街中で大魔法ぶっ()なした大馬鹿野郎は何処のどいつじゃ!」

「『筆頭』殿、まずは被害状況の確認をですな・・・」

「わかっとるわ!とっとと報告させんか!」


(わし)はアルストロメリア辺境伯の筆頭魔法師にして世界最高の大賢者を自称(・・)するウォーレン・ウィズダム子爵じゃ。

つい先程、魔力炉が爆発したかと思うほどの魔力反応があってじゃの。

おったまげて危うくチビ、兎も角凄かったんじゃ。

しかしあれだけ魔法じゃ。

恐らく西区は壊滅しておるじゃろう。

帝国のテロか、魔族の跳梁か、くそったれウォルナットの暗躍か。

何にせよ頭痛が痛いわい。


「報告します!魔力発生地点の特定が完了しました!被害報告ありません!損害、皆無です!」

「なんじゃと!?」


あれだけの魔力を破壊以外の用途で運用したというのか?ありえぬ。

被害が皆無なのは喜ばしいことじゃが、調査は必要じゃ。


「また、調査をしようにも見たことのない結界のようなものが張られていまして。

中には入れないのが現状です。」

「ふん。情けない連中じゃな。

どれ、筆頭たるこの儂がその小賢しい結界など粉砕してくれるわ。」


早速儂が現地に向かおうとするのに、内務官の奴がまたしても邪魔をしおる。


「まあ待たれよ、筆頭殿。まずはその所有者を確認するのが先決ですぞ。」

「そちらにつきましては間も無く報告が・・・来たか、直ぐに報告せよ!」


ぜぇぜぇと息を吐きながら、今にも倒れそうなほどに疲れ果てた兵士が入室する。


「ほ、報告します!魔力発生源の建物及びその土地の名義がつい先程、移転しております。

移転前の持ち主は『戦狼団』団長ですが、今は『イオリ・ヤコウ』なる者が所有しております。

また『戦狼団』はかの(・・)盗賊集団『洞窟団』であり、『イオリ・ヤコウ』の手により壊滅したとの報告を受けています。

団長、いえ首領と副首領が守衛へ引き渡されておりますので目下調査中です。」


情報量が多すぎて場が静まってしもうたわ。


「それで、その『イオリ・ヤコウ』はどこにおるのじゃ。」

「『虹色の瞳亭』に宿泊中です。」


「すぐに出頭させるのじゃ。しかし、そんな貴族おったかの?ヤコウ?」

「筆頭殿、我が国の貴族ではありませんな。」


「まあ、引っ捕らえればわかるじゃろ。」

「さすがに他国の貴族を捕えては後々面倒ですぞ。」


ふん、大国たるバーンガルド王国がなぜ他国の顔を伺わねばならぬと言うのじゃ。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

『苦労人ヨーゼフ』


俺はヨーゼフ。アイリスの町の冒険者ギルドを預かっているギルマスだ。

心底憂鬱な案件でここ、アリストロメリアの冒険者ギルドに顔を出しに来たんだ。

根回しだよ、根回し。面倒(めんど)くせぇ話だぜ。

ったく、なんで俺がこんな目に・・・ああ、胃が痛てぇ。






目の前にいる一見して小娘に見える女は齢200を越えた化物BBA(ババア)だ。

エルフってのは見た目だけは綺麗なもんだが変人しかいやしねぇ。


なんで領都なんかにいるのかって?

面倒ごとに決まってんだろーが。お前に押し付けに来たんだよ。


実はアイリスにやべー奴がやって来てだな。

死ぬ思いで交渉して何とかギルド(うち)に所属してもらうことになったんだよ。


あ?放置して万一敵対関係になったらどうすんだって話だよ。

あいつはやべえ。

下手したら竜種よりもな。あ?笑い事じゃねーんだよ。

悪いことは言わねえから、顔を会わせる前に(かわや)行っとけよ?

セクハラ?笑わせんじゃねえ、年をっ、いてっ、魔法はっ、やめろっ、悪かった。


兎に角、数日中に俺の紹介状持って来るからな。

いいか、間違っても敵対なんてするなよ?

冗談でもなんでもなく建物ごと消し飛びかねんぞ。

あ?西区で建物が消し飛んだ?今朝?

いや、まさかな。


は?イオリ・ヤコウ?

なんてこった、もうやらかしてやがるじゃねーか。

ああ、そいつが俺の連れてきたやつだ。

一体何がどうなったら建物が消し飛ぶんだよ。


『戦狼団』のアジトを潰して回ってるって、なんでそんな真似を?

逆?ああ、『洞窟団』を潰したらその先に『戦狼団』がいたってか。

ていうか、大戦果じゃねーか。な?俺が言った通りやべーやつだろ?

あ?今から連れて来いって、無茶言うんじゃねーよ。

心証を損ねたらどーしてくれんだ。俺は死にたくねぇ。


あー、クソ。だったら力を認めたら必ず便宜を図ってやってくれ。

は?お前が試験する?

お前のその神経の図太さどうなってんだよ。

死ぬぞ、まじで。

あーあー、もう知らねーからな。


『虹色の瞳亭』?へぇ、こじゃれた宿に泊まってんだな。

へいへい、今から行ってきますよ。

居なかったら伝言残しとくぞ。あとは知らん。

いや、ざけんなよ。試験の審判なんぞ絶対やらねーからな。


そんなことより、胃薬くれよ。

心労で胃に穴が空いたかもしれん。

髪は元々だっつーの、ぶっ飛ばすぞ。

毛生え薬?効くのか?いくらだ?

あ?審判?お前ほんと嫌な奴だな。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

『神々の宴02』


とある『妖穴(ようけつ)』にて。

先日の宴から僅か数日で三人の男が席を囲んでいた。

普段はあまり顔を会わせない面々だけに、今回の宴は彼らにとって特別なものだった。


「おい、伏姫がまたやらかしやがったぞ?」

「そんな一言で片付けてよい問題ではないぞ!

熱エネルギーが魔力に転換されることが実証されたんだぞ?

文字通りの意味で常識をひっくり返しおった!

しかも存在すら疑われていた『魔力の根源』の存在を確定させただけでなく、そのアクセス権まで得るとは!

この俺ですら為し得なかった大偉業だ!

革命だ!妖術の夜明けが来たぞ!ヨーソロー!」

「飛梅殿、気持ちはわかるでおじゃる。だが、ちと落ち着くでおじゃるよ。」


飛梅は妖術、ひいては学問(・・)の第一人者として自他共に認められている。

そんな男が充血した目で唾を飛ばしながら熱演する姿は異様だった。


「偉業はわかった。

しかし、妖術に疎い儂からすれば飛梅が何故そこまで熱を入れるのかがわからん。」

「ふぅ。熱エネルギーとは、あらゆる物が内包している力だ。

これがいつでもどこでも魔力に転換される。

起動コストこそ自力で必要だが、あとは転換された魔力を使い放題だ。

これでわからんか?」

「つまり、そこに地面でもあれば妖術を撃ち放題ということでおじゃろう?」


「おう、そりゃやべえな?」

「ああ、やばい。

とはいえ汎用性がない。俺にすら不可能だ。

夜行伊織の考えではマナジェネレータの資質とやらが関係しているらしいが。」

「じゃが、実際はジェネレータというより『魔力の根源』へ至り、それを開く鍵のようなものでおじゃろう?」


「それがどうしたんだ?」

「つまり、熱エネルギーを魔力に転換するには『魔力の根源』そのものが関係している可能性が高いということだ。

もっと言うなら『魔力の根源』の何か(・・)を利用している・・・?」

「まあ、アクセス権を持たぬことには話にならんでおじゃろ?」


「まあ、なんかすげーことやったみてーだからよ、祝福ぐらいはしてやったぜ。」

「俺もそのつもりだったんだが、興奮の余り、つい『加護』を送ってしまった。なんか恥ずかしいな。」

「普段は冷静な飛梅殿にしては大興奮でおじゃるなあ。麿も敬意を表して祝福してやったでおじゃる。ほほほ。」


「まあ、凄げぇは凄げぇんだがよ。

儂としてはもっとだな。国を獲るだとか、軍を屠るぐらいド派手なもんを見たいところだな。」

「それについてはどうやら夜行本家が裏で支援しているようだぞ。

何やら企んでおるとは思ったが、異界への橋渡しであったとはな。」

「しかし、物質的な()の往来は不可能でおじゃろう?」


「つまり資源が目的じゃねーってことか。よくわからんな。」

「『虎』にとってはひとつだけはっきりすれば問題なかろう。

面白そうなことになりそうだ、と。」

「ほほほ、然り然り。伏姫はようもやってくれたでおじゃる。

麿は少し若返った気がするでおじゃるよ。」


「・・・つまらんな。」

「ほう、『虎』には物足りんか。」

「いやいや、求めすぎは酷でおじゃるぞ、『虎』殿。」


「そうじゃねえ。

指を咥えて観ておるだけで満足か?何故、俺は数百年のこの安穏に違和感を覚えなかったんだ?」

「はあ、当てられたか。我ら怨霊にて祀りあげられし者なれば。『虎』の安穏は下々の祈りの賜物よ。」

「『虎』殿の呪怨の根源は麿達とは毛色が違うでおじゃるからな。一筋縄ではなかなか。」


「儂は往くぞ。」

「そうか。それもまた一興。」

「夜行には同情するでおじゃるが、確かに『虎』殿の活躍を観るのも一興でおじゃるな、ほほほ。」


「ふん、言ってろ。断言してやる。

お前らのような輩は退屈で死ぬことなどできぬ。すぐに根を上げるだろうよ。」

「・・・」

「・・・これは手厳しいでおじゃるなあ。」


『坂東の虎』が燃え上がる決意を秘めると同時、庭に咲き誇る梅が静かに散りる。






そして誰もいなくなった。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

『神々の宴03』


私は天照大御神。

高天原(たかまがはら)を統べる主宰神にして天より(あまね)く地を照らす太陽神です。

偉いのです。


「戯れ言は結構ですので、伏姫の玉ばかり見ていないでいい加減出て(・・)来てください。もう充分に充電した(ひこもった)でしょう?」

()。もう外には出たくないです。」


「太陽神がいつまでも岩戸に引き篭ってどうするのです。伏姫の玉に映る彼らもお外で頑張っているでしょう?」

「だって・・・」

「いい年こいて、だってではありません。そんなに玉の様子が気になるならリハビリをされてはいかがですか?」

「リハビリ?」


「ええ、彼らの元に分体を送り込んでお日様の光を浴びましょう。」

「無理よそんなの。だって恥ずかしいじゃない。」

「そんなクソみたいな理由は投げ捨てましょう。むしろ現状を恥じて下さい。」

菊理媛神(きくり)、あんまりな言い様ではなくて?」


「あんまりなのは天照大御神(あまてらす)様の行動と頭の中です。」

「ひどい・・・でも、受け入れてくれるかしら?」

「そこを何とかするのもリハビリの一環ですよ。」

菊理媛神(きくり)はスパルタすぎるわ。私には荷が重いわよ。」


「はあ、駄々を()ねるのが目に見えてましたから、このキクリも暇をいだたいで参りました。

私も分体で共に参りますから、ね?」

菊理媛神(きくり)が交渉してくれる?」

「それではリハビリになりません。いい加減にしないと思兼神(じい)天児屋命(ばあ)がやって来てまた叩き出されますよ?また家なき()になりますか?」

「それは嫌・・・」


「さあ、参りましょう。これ以上ゴネるとぶっ飛ばしますよ。」

「ねえ、明日にしましょ?明日から本気だすから。」

「はいはい、戯れ言は置いて行きましょうねー。」

「いやー、引っ張らないでー。」

______

ちゃむだよ? >_(:3」∠)_

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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