モイラ編02-12『領都アルストロメリア』
アイリスの街を出てちょうど3日。
アルストロメリア領はバーンガルド王国の南西部一体を広く占める辺境だ。
今なお南西に向けて開拓が進められており、その領地は拡大の一途を辿っている。
王国でも随一の規模を誇るこの地を治めるのは『アルストロメリア辺境伯』であり、その立場は侯爵より下とされてはいるが、経済規模・軍事力共に引けを取るものではなかった。
そんな飛ぶ鳥を落とす勢いのアルストロメリア領の領都『アルストロメリア』へと、ようやく伊織は降り立った。
街をぐるりと取り囲む、高く聳える城壁が見る者を威圧する。
開かれた南門の前には審査待ちの旅人がズラリと並ぶ。
門からずっと先に浮かぶようにして威容を見せるのはアルストロメリア城だ。
「アイリスもアルストロメリアも花の名前だよな。」
「アイリスは確か紫の可愛らしい花ですよね。アヤメでしたか。」
「ああ。アルストロメリアは黄色の、これも可愛らしいユリの花だな。」
「この国では都市に花の名前をつける習慣があるのかもしれませんね。」
「その割にはアイリスの町にアヤメは咲いてなかったけどな。」
「確かにそうですね。」
「花より団子なのじゃ。甘いものが食べたいのう。」
「村雨には難しい話だったか。」
「伊織はすぐ妾を馬鹿にするが、それはあれか?構って欲しいのか?」
「そうだな。村雨との会話は俺にとって一種の清涼剤のようなものだ。」
「にゃはは。涼やかで雅ということじゃな。」
「村雨は素直でいい子だな。」
順番待ち列が遅々として進まないため、一行は火車の中でのんびりと会話を楽しんでいた。
「ねえ主様。」
「うん?どうした倉ぼっこ。」
「二ヶ所目の塒収支報告をしようかと思ってさ。」
「ああ、すっかり忘れていたな。頼む。」
「詳細はあとでリストを渡すから、目ぼしいものを口頭で報告するね。」
「倉ぼっこは優秀だな。いつも助かる。」
「えー、えへへ。報告がんばる。
金貨は1800枚(約1.8億円)だったのが5400枚(約5.4億円)になったよ。すごいね。」
「盗賊は儲かるんだな。小さくてもいいから拠点の購入を検討するか。」
「それでしたら『戦狼団』の拠点を押収していかがですか?」
「なるほど覚はいいことを言う。『盗賊狩り専門の盗賊』に相応しい拠点だな。」
「盗賊狩り専門の盗賊ってすごい字面だね。」
「副首領のカーチスがそこに居たんだったな。
カーチス、その拠点はどの辺りにあるんだ?」
伊織が隅の方に蹲る男に声を掛ける。
「・・・西区にある平民向けの市街地、スラムの入口だな。」
「お前ら二人の情状酌量を陳情する引き換えに、大人しく権利書を渡す気はあるか?」
「どうせ断っても持っていくんだろうが・・・」
「それはそうだが、こちらとしても色々と手間が省けるほうがいい。
まあ、今拠点にいる連中はまとめて黄泉に送るがな。」
感情を乗せることなく淡々と話す伊織にカーチスはぶるっと体を震わせた。
「ちっ、好きにしろ・・・」
そう言い捨てることが彼にできる精一杯の虚勢だった。
「話が逸れた。すまんな、倉ぼっこ。」
「いいのいいの。
金銭的な価値がありそうなのはまず宝石と美術品かな。
どれぐらいの価値があるかわかんないけどね。」
「宝石商や古物商を探してもいいが・・・優先度は低いな。」
「次は魔石だね。レミィにも見てもらったけど、Bランク17個、Cランク40個だね。」
「魔石は全部保管、というか倉ぼっこのオモチャにしていいぞ。」
「あー、それなら魔道具の作り方をなんとかしないとねえ。」
「魔法書店の御母堂が紹介状を書いてくれた図書館を探してみよう。あとは実際に魔道具屋にも行ってみないとな。」
「そだね。楽しみ。」
「あ、おもしろそうな魔道具がいっこあったよ。見て見て。」
倉ぼっこが見せてくれたのは薄い円柱の上にボタンらしきものがついている物だった。
シンプルな形状ではあるのだが、これが一体何なのか予想するのは難しい。
「ふむ、これは?」
「押して押して。」
倉ぼっこが言うなら悪いことはないだろうと、伊織は躊躇いなくボタンを押した。
これが村雨によるものなら小一時間悩んだかもしれないが。
「おお、これは運命の女神が言っていたやつか。」
ボタンを押した瞬間、半透明な画面が浮かび上がり、ステータスのようなものが表示された。
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夜行伊織 レベル補正 43%
素質値 補正値 合計値 基礎値
『筋力』 016 001 017 024
『体力』 022 000 022 031
『知性』 038 006 038 062
『精神』 050 000 050 071
『器用』 022 000 022 031
『敏捷』 016 000 016 022
『幸運』 003 140 143 204
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「これは倉ぼっこにも見えているのか?」
「見えるよー。」
「では書き写す必要もないな。レミィ、解説を頼む。」
「イエス、マイマスター。
その前にご報告を。
今までは基礎値を確認する術がありませんでしたので、祝福や称号の取得を報告する際には省略していましたが、今後はボーナス値についても報告します。」
「わかった。」
「では、筋力以下、七つの項目について説明します。」
レミィの話を要約すると以下のように分類される。
このあたりはざっくりと理解しておけばいいだろう。
筋力 ◎近接攻撃力 △生命力
体力 ◎生命力 ○物理防御力 ○肉体状態異常抵抗
知性 ◎魔法全般 △魔力量
精神 ◎魔力量 ○魔法防御力 ○精神状態異常抵抗
器用 ◎製作全般 ◎命中率
敏捷 ◎移動速度 ◎攻撃速度 ○回避 △命中率
幸運 ◎確率全般
「『素質値』は当人の純粋な能力です。
項目によっては『筋力トレーニング』や『書物で学習』などで上昇します。
これには本人の資質が大きく影響します。
評価基準は次の通りです。
『子供1~5』『一般人6~10』『専門家11~15』『一流16~20 』
『超一流21~25』『英雄26~30』『人外31~』
これを踏まえてマスターの『素質値』を見てみましょう。
運以外が高い水準で纏まっています。
特に知性と精神はすでに人外の領域ですね。
魔法使いや魔法戦士に多いタイプです。」
「精神お化けなのじゃ。魔法使いというより修行僧なのではないか?」
「精神は恐らく治療の影響だろうな。以前は普通だったと思う。」
「普通、のう。」
「『補正値』は『祝福』や『称号』で上昇します。
また、レアな『装備品』、魔法による『バフ・デバフ』、『病気』等で一時的に増減します。
祝福による増加値は『祝福5』『加護20』『恩寵40』『寵愛100』です。」
「運がすごいことになっているが、最大値はあるのか?」
「理論上の最大値は999ですが、到達者は恐らく居ません。」
「『合計値』は『素質値』と『補正値』の合算です。
『基礎値』は『合計値』にレベル補正分を上乗せした値です。
この『基礎値』が最終的な能力ですので、普段はこの数値だけを確認すればいいと思います。
『基礎値』の評価基準は次の通りです。
『子供1~5』『一般人6~12』『専門家13~20』『一流21~232』
『超一流33~45』『英雄46~60』『人外61~』
以上ですが質問はありますか?」
「生命力って、無くなったら死んじゃうやつ?ゲームのHPみたいな。」
「いえ、少々わかりにくいかとは思いますが、死ににくさの指標です。自然治癒力等に影響します。
魔力量はゲームでよくあるMPに近いです。減れば倦怠感を感じ、枯渇すれば気絶します。これも魔力の自然治癒力影響します。」
「何で数値化されてないの?」
「システムの都合と聞いてますが私にも詳細はわかりません。」
「俺は魔力が枯渇する気配がわからないんだが、皆はどうだ?」
「伊織と遊んだときは水場だったとはいえ、結構打ち放題じゃったの。」
「メメも、わかんない、ね?」
「なにか感じることがあったら報告してくれ。
せっかくだし、基礎値を公開していくか。
まずは百々目鬼から頼む。」
「うふ、うふふ、メメが、一番。」
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百々目鬼 レベル補正 89%
素質値 補正値 合計値 基礎値
『筋力』 005 000 005 009
『体力』 010 000 010 018
『知性』 018 000 018 034
『精神』 040 000 040 075
『器用』 006 000 006 011
『敏捷』 011 000 011 020
『幸運』 013 000 013 024
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「伊織に似ておるが、より術師向きかえ?うちには修行僧しかおらんのか?」
「私も色々な基礎値を見てきましたが61を越えることは滅多にないのですがね・・・」
「メメ、人外。だから、落ち込ま、ないで、ね?」
「そう言われれば、皆さんを人族寄りに認識していた節があります。」
「妖といえど、人と同じような者も結構いるしな。次は覚。」
「畏まりました。」
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覚 レベル補正 31%
素質値 補正値 合計値 基礎値
『筋力』 010 000 010 013
『体力』 012 000 012 015
『知性』 028 000 028 036
『精神』 022 000 022 028
『器用』 016 000 016 020
『敏捷』 016 000 016 020
『幸運』 010 000 010 013
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「万能型の術師です。レベルが上がる余地が十分あるのが楽しみですね。」
「確かに綺麗に纏まっているな。」
「綺麗・・・くっ。」
覚は幸せを噛み締めている。
「では次は倉ぼっこ。」
「あいあ~い。」
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倉ぼっこ レベル補正 44%
素質値 補正値 合計値 基礎値
『筋力』 008 000 008 011
『体力』 009 000 009 012
『知性』 017 000 017 024
『精神』 010 000 010 014
『器用』 028 000 028 040
『敏捷』 008 000 008 011
『幸運』 034 000 034 048
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「随分尖っておるのじゃ。」
「物を作るために産まれてきたようなスペックだな。」
「クラは、か弱い子だから、無理はさせないでね?」
「戦闘だけが全てじゃないからな。とはいえ、最低限自衛できるぐらいにはなってくれよ?
弓や弩、あるいは銃が向いてそうだな。」
「が、がんばる。」
「そろそろ門に着きそうだ。最後にしよう。村雨。」
「刮目するのじゃ!」
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村雨 レベル補正 35%
素質値 補正値 合計値 基礎値
『筋力』 016 000 016 021
『体力』 015 000 015 020
『知性』 008 000 008 010
『精神』 005 000 005 006
『器用』 028 000 028 032
『敏捷』 032 000 032 037
『幸運』 021 005 026 035
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「精神・・・」
「あー、精神。」
「子供?」
「そこはいいのじゃ!下三つを見よ!」
「典型的なレンジャータイプです。」
「だが子供にトラップを解除させるのは恐ろしくないか?」
「ぐぬぬ。」
「あとは筋トレとランニングだな。鍛えろ。」
「・・・精神はどうすれば鍛えれるのじゃ?」
「修行僧的なことをすればいいんじゃない?」
「欲を制御する術を身に・・・つけれるようならこうはならんか?」
「おのれぇ、ボロくそ言ってくれおって。」
「まあ、無理はするなよ。お前はそのままでいい。
そんなことより、門に着いたな。行ってくる。」
「そんなことって何じゃ!
・・・楽に精神を鍛える方法はないかのう。」
「うん、変わらなそうでクラは安心したよ。」
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ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
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