モイラ編02-06『クラのお宝』
ーーー『あなたのお宝もクラが磨いてあげる。』
side クラ
何か忘れてる気がするんだよね。うーん、もやもやするなあ。
「では、明日の予定だが朝一で領都『アリストロメリア』に向かう。
馬車では5日らしいが火車の足なら2~3日といったところだろう。
急ぐ必要もないし、景色を楽しみながらのんびり行こう。」
うーん、エビの脱け殻はちゃんと仕舞ったし。
「ああ、もう話してもいいな。今使っている馬車だが、あれは馬も馬車も含めて火車という1体の妖なんだ。」
「え、1体ですか!?妖って何でもありですね。」
魔法とかあって、魔物がいたとしても、火車は変だとクラも思う。
まあ、変というなら主様も十分・・・
「続けよう。まずは食料と水を・・・しまった。先に確認しておくべきだったな。倉ぼっこ。」
「ひうっ。ごめんなさい。」
「うん?どうした?」
「あう、なんでもない。」
「そうか。『宝蔵』の中身はどうなっている?」
「あ。ごめん、言うの忘れてた。中身満載だよ!幻妖界から色々持ってきた!」
忘れてたのこれだった!あー、すっきりしたー。
「いや、俺もすっかり失念していた。目録を作る。とりあえず中身を出してくれ。」
「あいあ~い。」
『宝蔵』はクラの能力だよ。
倉を持ち運べるって言うとみんな???ってなるんだよね。
どっかにある蔵をいつでも、どこでも、開け閉めできるだけなんだけどなー。
まー、そんなに広くないんだけどね。
精々、押し入れ一つ分?
でも色々持ってきたから褒めてくれてもいいと思うんだー。
「全部だしたー。」
「では、手分けして目録を作るか。っと、筆記用具が一つしかないな。」
「お昼に買ってきたのがあるよ?」
「でかした。皆で進めよう。」
えへへ、クラはでかしました。
「この箱は、蛇の脱け殻、蝉の脱け殻、海老の脱け殻。
こっちは三味線にリコーダー。
クラは音楽が趣味だったか?」
「ううん、今は『楽器』と『抜け殻』集めがマイブームなんだよ。特に海老の抜け殻がね、透明で綺麗なんだー。」
「ほう、これはヤマトヌマエビだな。大蝦蟇沼でよく見かけたものだ。」
「こっちでも探してみようよ。」
透明な海老を初めて見たときはテンションが有頂天だったなー。
モイラでもいろんな脱け殻が集まるといいなあ。
「そうだな。だが海にはもっと大きいのがいるんじゃないか?」
「伊勢海老!でも、伊勢ないよ?」
「エビの魔物を見つければ問題ないだろう。」
「主様天才!」
魔物狩りはちょっと怖いけど、主様と一緒なら大丈夫かなあ。
でも、大きな海老の脱け殻のためなら・・・
「主様、そろそろ話を戻しましょう。」
「む、つい熱中してしまったな。」
「あとでクラのコレクションを見せてあげるね。おすすめは『夜刀神』様の脱け殻だよ。」
「それは大丈夫なのか?」
夜刀神様はクラに優しいから大丈夫だよ?
「鉄、鉛、銅のインゴットがあるのは姉上の指示か?」
「うん、そだよ。ポンプとか、水車とかの図面もあった。」
難しい絵が沢山書いてあったからポンプと水車以外はよくわかんないけど。
主様は天才だからきっと大丈夫。
「なるほどな。領都で鍛冶屋、木工職人、金属細工師あたりを探す必要があるな。」
「科学と魔法の融合も考えたいね。」
「レミィ、心当たりはあるか?」
「『魔道具技師』と『錬金術師』が候補でしょうか。
魔道具技師は魔物から採取できる『魔石』を動力とした魔道具を作成します。
錬金術師はポーションなどの『魔法薬』や魔石を使わない魔道具を作成します。」
楽しそうだなー。
クラも自分でお宝作ってみたいなー。
でも、クラには難しいかな?
「夢のある素晴らしい職業だな。是非とも見てみたいものだ。」
「クラは魔物と切った張ったよりそっちがいいなー。」
「適材適所だな。クラは製作方面をやってみるか?」
「いいの!?やるやるー。」
わーい。
「私達も戦闘経験はありませんので、そちらでよろしいでしょうか?」
「ナナ、ネネ、ノノの三人は元々戦闘要員にするつもりはないから安心していい。
今はそうだな、クラと四人グループでいいだろう。
いずれどんどん増えると思う。
将来的にやってみたいことができたら言ってくれ。
こちらから依頼することもあるかもしれんが。」
「お気遣いありがとうございます。」
ナナとネネとノノはクラに優しくしてくれるから好きなんだー。
一緒にお仕事できるの嬉しいなあ。
「しまった。紙が結構な量あるな。タイミング悪く買ってしまったな。」
「まあ、紙なんぞすぐなくなるじゃろ。」
「それもそうか。まあ、こちら購入したのはパピルスモドキだからな。
現代の紙は補給の目処がないし、無駄遣いは避けよう。
『符術』を使う際には現代の紙を使いたいしな。
あとは各種技術書、家庭の医学、教科書類、化学系専門書、他にも色々持たせてくれたな。
有用に使えそうだ。皆も興味があれば好きに読んでくれ。」
「綺麗なご本です。」
「ノノにはまずは義務教育の教科書がいいだろう。解らないことがあればいつでも聞いてくれ。」
「はい。お借りします。」
クラは難しいことはよくわからないからね。
他の人に聞こうね。
「あとは・・・おお、これは俺の武具と着替えか。」
「伊織、まさか妾というものがありながら浮気するんじゃなかろうな?」
「村雨はずっと人化しているだろう?」
「ぐぬぬ。」
主様が手にしているのは一見すると只の棒なんだよ?
でも魔力をばびっと通したら魔法の刃が出て薙刀みたいになるんだー。
超かっこいいんだよ。ダンガムみたい。
それと、棒を二つに分けることもできるから二倍強くなるんだよ!
両方で刃を出して二刀流じゃなくて二槍流?だっけ?
そんな感じ。
主様は『鞍馬飛天流』とかいうかっこいい道場で天狗と遊んでたよ。
入院して腕が落ちたーとか言ってたけど、元気なご主人様ならすぐに上手になるよね。
だって天才だし。
「とりあえず一通りの目録はできたか。
ほら、クラのお宝の目録も作っておいたから目を通しておけ。」
「わー、ありがとー。」
「それから『夜刀神』様の抜け殻には目立たない場所に『符』を貼っておいたから剥がさないように。」
「え?危ないの?」
「最古の祟り神だからな。そんじょそこらの呪いとは訳が違う。
妖術の媒体にでもしようものなら国がひっくり返りかねんぞ。」
「でも、クラのお友達だよ?」
「少々語弊があるが分かりやすく説明するとだな。
夜刀神様は祟り神として生れ坐した。
つまり存在そのものが呪いなんだ。そしてそれ自体に善悪はない。
だから倉ぼっこが友達であることと呪いの間には何の関係もないんだ。」
「お友達でいいの?」
「もちろんだ。友達を選ぶ権利は倉ぼっこにしかないのだから。
それに夜刀神様が御自ら脱け殻を託されたのであれば、それは倉ぼっこにならば託しても良いと信用されたに違いない。
尤も、取り扱いについては伝えて欲しかった所ではあるが、それも下々の都合に過ぎんか。」
「そっかー、なら大切にしないとね!」
「本来ならば御神体として丁重に供養するための神社を建立したいぐらいだ。
俺からも大切にするように願う。」
「はーい。」
こう見えて主様とクラは同じ16歳なんだよ?
どうしてこんなに出来が違うんだろね?
でも、そんなことより、新しい脱け殻探したいなー。
「まだ寝るには早いし、能力の確認をしよう。
クラ、『ステータスオープン』っ口にしてみてくれ。」
「うん、ステータスオープン。うひっ。
なんかかっこいいの出た!」
透明な板のようなものが宙に浮いてるよ。
透明?海老か?お前は海老なのか?
「表示されている内容を全部書き出してくれ。
皆もクラと同じようにやってくれ。」
「「「はーい。」」」
よくわからないけど、とりあえず書いてみたよ。
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種族:倉ぼっこ
名前:|クラ 16歳
レベル:1 EXP:(0/5)
特殊スキル:『お宝蔵』レベル1
異能:『Ex九十九ホイホイ』『鑑定』『馬鹿と天才』
『土適正』『空間の才』『重力の才』
祝福:『夜刀神の祝福』
称号:なし
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ねえ、馬鹿と天才って失礼じゃない?
「皆、書きながらで構わないが意識はこちら向けておいてくれ。
能力の共有はパーティの生命線と言ってもいい。
最初に終わった倉ぼっこから見ていこう。」
あー・・・主様に残念な子扱いされると悲しくなっちゃうなあ。
クラ、呼ばなきゃよかったとか言われないかなあ。
うー、涙でそう。
「上から見る限り、特殊スキルの『お宝蔵』まで問題ないな。
だが・・・」
(レミィ。三姉妹に君の存在を知られるのは不味いか?)
[・・・どうしてそう考えたのですか?]
(勘としか言いようがない。)
[私のことは開示して頂いて構いません。]
(嘘だな。)
[私は嘘が言えないように作られております。]
(はい、いいえ、どちらかで答えてみろ。)
[・・・申し訳ございません]
(いや、追い詰めるような真似をしてすまなかった。
話せないならそれでいい。その程度でレミィへの信頼は揺るがんよ。)
[いえ、余り時間もありませんし簡潔にお伝えします。
私はマスターと接触した時点で『西』を離反しました。
今は捕捉されておりませんが、『モイラ』の住人と接触することでその可能性が高まります。
それを恐れていましたが、マスターのサポートを自負しておきながら十全に全うできないようでは鼎の軽重が問われます。
私は職務を全うし、そして逃げ切る所存です。]
(一つだけ確認したい。
レミィが『西』を離反した原因は俺にも関係するんだな?)
[・・・イエス、マイマスター。]
(ならば話は簡単だ。
逃げ切るのが難しいと判断したらこっちに降りてこい。
俺の目の前でお前に手出しをするようなら、そいつは俺の敵だ。)
[マスター・・・]
(いいか、俺の心の平穏のために己の身を守れ。)
「イエス、マイマスター。」
「ナナ、ネネ、ノノ。君たちに打ち明けたいことがある。
実は君達と知り合った時からもう一人仲間がいたんだが改めて紹介したい。
こちらの事情で今まで説明できなかったことを許して欲しい。」
「え、あ、はい。」
え、どゆこと。クラも聞いてないんですけど。
って言えない空気?
「ご紹介に預かりましたレミィです。
天界からマスターをサポートする役割の者とご理解下さい。
先程マスターが仰った事情というものは偏に私の問題です。
申し訳ございませんでした。」
「えっと、よろしく?」
「天界からってすごいな。」
「お空?よろしくー。」
え、もしかして天使?なにそれすごい。
天界から届く念話ってなにそれすごい。
衛星電話的なやつかな?
「では、改めて倉ぼっこのステータスを見てくれ。
レミィ、特殊スキル『お宝蔵』のレベルが上がるとどうなる?」
「確実に言えるのは貯蔵量が増えることです。
そしてこの手の特殊スキルはレベルが上がることで別の効果が付与されることがあります。」
「なるほど、できればレベルを上げておきたいが・・・大きく経験値を稼げそうな時にこっそりついて来させればいいか。」
パワーレベリングだ!
座敷童子が言ってたやつだ!
あとなんだっけ姫プレイ?
なんで姫なんだろね。
「異能の『Ex九十九ホイホイ』は心当たりがあるな。現世の九十九神が時折、幻妖界の倉ぼっこの元に流れてきていたが、恐らくはそれだろう。村雨もそれで流れてきたんだよな。」
「うむ、今の妾があるのは倉ぼっこのおかげじゃな。感謝しておるぞ!」
「あっ、はい。」
「なんじゃ、この溢れる感謝が伝わっておらぬようじゃな。」
ひぃ~。伝わってます~。
村雨は圧が強くて苦手なんだよー。
「マイマスター、異能『Ex九十九ホイホイ』については『モイラ』での挙動について解析が進み次第、改めて報告します。」
「頼む。以降の解説は任せる。」
「承りました。
『鑑定』は『モイラ』では一般的に重宝される希少な異能で、アイテムの性能を直感的に理解できるようになります。倉ぼっこ様の種族的に取得しやすかったと推測されます。」
脱け殻の良し悪しには一家言あるぼっこ。
「異能『馬鹿と天才』は特定の行動の向き不向きが極めて片寄りやすい性質を持ちます。失礼ながら、倉ぼっこ様には心当たりはありませんか?」
「あ、あるます。得意と苦手が極端かも、です。」
「そう言われれば、倉ぼっこはアスペルガー症候群と似た傾向があるな。」
「遺伝子とは無関係ですので厳密には異なりますが、似ているというのは同意します。」
主様と覚がドイツっぽいかっこいいことを言ってるね。
でも、クラは病気?
「あの、クラはダメな子ですか?」
「『偉人』と呼ばれる者の中には結構な数のアスペルガー症候群持ちが含まれる。
特殊相対性理論で知られるアルバート・アインシュタイン、発明王トーマス・エジソン、ヒマワリに代表される絵画の巨匠フィンセント・ファン・ゴッホなどだな。
得意分野が明確というのはとても大きな強みだ。
そして得意は好きと直結する。好きこそ物の上手なれというやつだな。
倉ぼっこは好きなことを好きなようにやるといい。そして苦手とすることは周囲を頼れ。」
「え、えへへ。よかったあ。」
「先にも述べた通り、魔道具製作には期待している。鑑定のとシナジーも期待できるし、案外倉ぼっこには天職かもしれんな。是非とも『妖界のエジソン』と呼ばれるぐらいになってくれ。」
エジぼっこ?
語呂があまりよくないね。
「最後の『土適正』は土を扱うあらゆる事象に補正が掛かります。『空間の才』『重力の才』も同様ですが適正より一段階上です。」
「同系統のものを村雨も習得しているな。」
「では最後に総括を。
特殊スキル『お宝蔵』や異能『鑑定』により縁の下の力持ち的な役割が期待されます。異能『馬鹿と天才』は本人と周囲がきちんと理解することで極めて強力な有用性を発揮します。
ここはパーティ全員のスキルであると認識しましょう。
異能『土適正』により戦闘に支障はありませんが、倉ぼっこ様の気質的にも無理に戦闘をされるより、やはり後方支援に適正があると言えます。
『空間の才』『重力の才』を生かしましょう。」
「なるほど、大いに参考になった。」
なんだか沢山褒められた?
やりたいことやれるって幸せだなー。
それでクラも主様に貢献できるようになるといいなあ。
「では、次は百々目鬼だな。」
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ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
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