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モイラ編02-05『魔法書店』

side サト


ドラゴンは二つに大別されるそうです。


ひとつは『竜種』。

蜥蜴(とかげ)を巨大にしたような姿のものや、二足歩行の『レックス』のようなものもいるそうです。

そして空を飛べるものも、地を這うものもいるとのことです。

ファイアドラゴン、アースドラゴンなど、元素系のものが多いようですね。


次に『龍種』。

細長い(うなぎ)のような姿をしており、体長100mを越えるものもいるとか。

翼がないにも関わらず空を駆ける謎の生き物です。

単純な強さならこちらほうが遥かに上だろうとのことです。

(もっと)も、『竜種』でも人族の手には余るようですが。

古龍、黄龍(こうりゅう)などがいるそうですが、ここ400年での討伐報告はないようですね。


これらの情報には主様もご満悦でしたのでサトも幸せです。

主様のことです。いずれはその討伐を試みることでしょう。

その際に足手まといにならないよう精進しなければなりません。

サトはどうすれば戦力として支えることができるでしょう。


冒険者ギルドを出たところで私のささやかな幸せを台無しにしてくれる存在が現れました。


「伊織!遅いのじゃ!」

「主様、メメが、来た、よ?」


なんということでしょう。

私としたことが二人を帰すことを失念していました。


「ん?二人ともどうしたんだ。」

「無事に用件は終わったので帰りなさい。」


早く帰りなさい。可能な限り早く(ASAP)です。


「なんじゃ、一緒に帰れば良かろう。」

「本屋、行こ、ね?」


百々目鬼(メメ)は部屋を覗いていたのでお見通しという訳ですね。

誠に遺憾ですが、供回りを許すしかありません。


「主様、メメも、手繋ぐ。」

「それじゃ、妾も。」

「あっ。」


なんということでしょう(二敗)。

私としたことが出遅れてしまいました。


「こんな格好の宇宙人の写真があったよな。」


グレイです、主様・・・

悲しみを背負う私を無視して三人は先を歩きます。

(くだん)の魔法書店がすぐ近くにあったのが不幸中の幸いでした。


「ふむ、当然だがよくわからんな。」

「よう来んしゃったね。」


店内の奥の方からひどく猫背の老婆が出て参りました。

どうやら人族?のようです。

内包する妖気はなかなかのもので、かなりの術者と見ました。


「恥ずかしながら魔法には疎いものでな。御母堂の手を煩わせるのは恐縮だが、初心者向けの書があれば見繕っては貰えないだろうか。」

「よかよ。適正ば検査してきたとね?」


(レミィ、俺の適正はわかるか?)

[全属性問題なく使用可能です。]


「全部いけるそうだ。」

「ほっほっほ。そりゃ珍しかね。

どれ、ちょい座っとってよ。持って来ちゃるけんね。」


「妾が手伝ってやろう!」

「お~、めんこか嬢ちゃんやね。飴ちゃんば食べんね。」

「うまうま。」


老婆に案内されるまま、備え付けられた長椅子で待ちます。

村雨は餌付けされてついて行ってしまいました。

あの子はどこに行っても(たくま)しく生き残りそうですね。


「主様、幾ばくかの料金をお支払して魔法の実演していただいてはいかがでしょう。」

「素晴らしい提案だ、(サト)

あとで聞いてみよう。ん?どうした、百々目鬼(メメ)。」


百々目鬼(メメ)がぼーっと本棚の片隅を見上げています。

茫洋(ぼうよう)としているのはいつものことですが、主様には違いがわかるようです。

少々妬けますね。


「あの本、なんか、気になる、ね?」

「取ってやろう。」


百々目鬼(メメ)が気になったという本は革張りの古めかしい本でした。

私には普通の本にしか感じられません。


「うん?これ、見たことあるな。あー、有名な未解読の古文書だな。」

「何処でご覧になったのでしょう。」

「地球なんだが、変だな?」

「そりゃ『エルフの薬草図鑑』やんね。」


数冊の本を抱えた村雨と老婆が戻ってきた。


「エルフ、か。もしかしたら、『モイラ』から地球に流れたのかもしれんな。

メメ、欲しいか?」

「ううん。」


「ほれ、初心者向けん本ば持ってきたばい。」


『魔力制御入門』

『初級火属性入門』 『初級水属性入門』

『初級風属性入門』 『初級土属性入門』

『初級光属性入門』 『初級闇属性入門』



皆で思い思い本を手に取って目を通しています。

当然ながら私には文字を認識できないのでここでは手持ち無沙汰です。


(サト)はすまんが少し待っていてくれ。」

「どうぞ、お気になさらず。」


主様のお心遣いが心に()みます。

ちょうど時間ができたことですし、疑問を解消しましょう。


(レミィさん、私達も魔法を使うことは可能ですか?)

[可能です。

魔法の適性検査は『神殿』で行います。

妖の皆様でも検査を受けることはできますので、早いうちに試すべきでしょう。]


(承知しました。戦力増強の為にも主様に上申しましょう。)

[同感です。]


「御母堂、光属性はすでに持っているので他を全部頂きたいのだが。」

「お大尽様やんね。一冊分おまけしちゃるけん。金貨1枚銀貨50枚(150,000円)でよかよ。」


「悪いな。それと紙を100枚と筆記具もお願いする。

「よかよ。紙は1枚で銀貨3枚(3,000円)やけん、全部で金貨3枚(300,000円)やんね。

おまけんペンとインクば負けちゃるよ。」


「随分と値引きしてもらったが、いいのか?」

「若かもんに元気ばもらったけんね、よかとよ。」


「そうか、ありがとう。お言葉に甘えよう。」

「よかけん、飴ちゃんば食べんね。」


「うまうま。

最後にお願いがあるのだが魔法を実演していただけないだろうか。

もちろん幾ばくかの金銭は用意させてもらう。」

「今日はもう寝るしかなかけん、よかよ。なんば見たかとね。」


「ご母堂が考える有用な魔法、というのではどうだろう。」

「なら面白か魔法ば見しちゃるけんね。」


全員が固唾(かたず)を飲んで老婆を見つめています。

老婆はゆっくりと、しっかりとお手本を見せるようにして魔法を発動しました。


「ファイア・・・ウォーター・・・ウィンド・・・ソイル・・・ライト・・・ダーク」


火、水、風、土、光、闇の小さな玉が出現し、空中で制止しています。


「よう見ときんしゃい。」


老婆が軽く指を振ると火玉がゆっくりと動きだし、他の玉が追従します。

くるくると回転したかと思えば、老婆が指を振る度に挙動が変化します。

円を描くように停止したり、円を広げたり、縮めたり。

かと思えば縦に一直線に並んで、まるで棒のように倒れたり。

一通り済んだところで大きく手を振ると、全ての玉は消えてしまいました。


「素晴らしい!なんという精密な制御だ。姉上でもこうはいかんのではないか?」

「ほっほ。次がが本番やけんね。トルネード。」


小さな可愛らしい旋風(つむじかぜ)が発生し続けています。


「よー見ときんしゃいよ。フレイム。」


老婆の指から毛糸のような炎が伸び、竜巻へと吸い込まれます。

と、同時。

竜巻が炎に包まれ、炎が高く舞い上がりました。

その瞬間、主様がさり気無く『真空結界』を貼っています。

素晴らしい速度と精度です。


やがて老婆が指を振るとフレイムの供給が断たれ、元の旋風(つむじかぜ)は戻りました。


「なるほど、魔力を供給し続けるのがポイントなんだな。魔術は妖術よりも繊細かもしれんな。それに火の供給を断ったら元の旋風に戻るのも興味深い。」

「お兄しゃんが使(つこ)たんが妖術ね。」


「やはり気付かれたか。俺が使ったのは熱を遮断する結界だ。」

「お兄しゃんぐらい器用(・・)なら魔法と妖術の融合もでくるかんしらんね。」


「その発想はなかったな。目から鱗だ。」

「さっき見した玉遊びばせんね。お兄しゃんならすぐ上手くなっとよ。」


「精進しよう。改めて礼を。それで、いかほど包めばよろしいか?」

「金はいらんばってん、お兄しゃんな大きか街ん行く予定はなかとね。」


「ああ、すぐにでも領都に行く予定だが?」

「そりゃよか。紹介状ば書いちゃるけん、いつでもよかけん行っといで。」


「これだけ世話になったんだ。行けと言われれば行くのは吝かではないが。一体それは?」

「こいでよか。領都で一番(いっちゃん)大きか図書館ば探さんね。」


「なるほど、図書館の受付で渡せばいいのか?」

「そいでよか。」


「長々と世話になった。またアイリスに立ち寄ることがあれば必ず寄らせてもらう。どうかそれまで息災で。」

「ほっほ。首ば長ごうして待っとーけんね。」


「では、お別れに前に私からおまじないをお一つ。どうぞ、目を閉じていただけますか?皆も私の目を絶対(・・)に見ないで下さい。」

「こいでよかね。」


老婆と皆を確認し、眼帯を引き下ろす。


(肉体解析開始・・・完了。肉体破損率15.43%。

情報体解析開始・・・完了。情報体破損率5.42%。

妖力体解析開始・・・完了。妖力体破損率12.97%

精幽体(せいゆうたい)解析開始・・・完了。精幽体破損率8.8%。

肉体治療開始・・・完了。

情報体治療開始・・・完了。

妖力体治療開始・・・完了。

精幽体治療開始・・・完了。

肉体再解析開始・・・完了。肉体破損率10.51%。

情報体再解析開始・・・完了。情報体破損率4.32%。

妖力体再解析開始・・・完了。妖力体破損率6.66%。

精幽体再解析開始・・・完了。精幽体破損率7.85%。)


さすがに寄る年波には敵いませんね。

残念ながら私ではこの程度が限界です。


おや、目から血が流れてしまいました。

少々気が張ってしまったようですね。

お見苦しいものを主様にお見せする訳には参りません。

綺麗に拭き取りましょう。


「終わりました。」

「ばり魔力ば使(つこ)うたんじゃなかね。」


「私も今日は寝るだけですから。」

「よか女やねえ。お兄しゃんなもったいなかよ。」


「ああ、俺もそう思う。」

「よかよか。」


なんということでしょう。(1勝)

サトは果報者です。

なぜ録音機が無いのでしょうか。

しっかりと心のTodoリストに書き込んでおきましょう。


「では御母堂、今度こそ失礼を。(サト)もご苦労だった。」

「また来んしゃい。」


主様は満足した様子で店から出ました。

ギルドで書店の場所を聞いた私を褒めてあげましょう。


暗くなってきたので露店で夕食を買い漁り、宿へと戻りました。

主様はコッコの串肉がお好みのようです。

宿の受付で主様はチェックアウトを告げていました。

どうやら領都へ出立することを決めたようです。


倉ぼっこ(クラ)と三人娘たちは特に外出することなく過ごしたと聞きました。

互いに打ち解けたようでなによりです。

クラは人見知りしますからね。


伏姫(ふせひめ)様はスウィートルームを満喫していたようです。

彼女は『にこにこ』しているだけで常に一歩引いた位置にいることを心掛けています。

まあ、悪さはしていないでしょう、多分。


百々目鬼(メメ)と村雨は二人で食べ歩いていたところで私からの連絡があり、一緒に冒険者ギルド前までやってきたそうです。


皆それぞれに一日を満喫したようですが、最高の一日を過ごしたのはきっと私でしょう。

ご主人様もそうであったらと切に願います。

頬が緩まないようにしなければなりません。

サトは皆が笑顔なのはよいことだと思います。

そしていつか主様の笑顔を取り戻すことができれば・・・いけませんね、これは僭越でした。


「皆集まったところで、露店で買った夕食を食べながら軽く報告会をしよう。」

______

ちゃむだよ? >_(:3」∠)_

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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