表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/2

全校集会は距離が近すぎる


 新学期恒例の全校集会。体育館で全学年、全クラスが一同に集まったら当然、生徒たちはぎゅうぎゅう詰めになる。


 全生徒を集めておいて、先生が面白くない話をすれば、中には居眠りをする生徒が出てくるのは当たり前の話だ。だから俺の居眠りも許してほしい。

 これだけの人数がいたら居眠りしたってバレはしないだろう。と、俺はいつものように眠ろうとする……のだが、眠れない。


 そう彼女、エリが目の前にいるからだ。


 エリの髪からはいい香りがする。そのせいで眠ろうにも、呼吸をするたびに甘い香りが鼻腔をくすぐる。じゃあ口呼吸をすればいいのでは? と考えたが、それは駄目だ。口呼吸をすると、エリから漂う甘い空気を、口で思いっきり吸い込む変態のようになってしまうからだ。


 でも眠い。昨日なにしていたっけ? そんなに夜遅くまで起きていた記憶はないが。というより俺以外の生徒は眠くないのだろうか? 由梨やら蓮華やら、あんなに成績がいいのだから、夜遅くまで勉強していると思うのだが……というか、あの二人と今年も同じクラスとは思いもしなかったが、俺は二人とは普通に会話できるけど、由梨と蓮華の二人同士は仲がいいというわけじゃなさそうだからな……今年は名局してくれると、俺も気まずい思いをしないんだけどな。まったく女子の世界は分からない。


 壇上の先生の話なんてまったく聞かずに、そんなどうでもいいようなことを考えているうちに――睡魔に負けてしまった。

 

 ***


 突然、ワタシの背中になにかが当たる。


 思わず声を出しそうになるが、今は集会中のため寸前でこらえる。

 今ワタシの背中に現在進行形で当たっているのは、いったい何だろう。


 そう思い、上半身だけで振り返って確認しようとするが、半分、つまり約九十度はほど体をひねったところでその正体に気づく。


 うなだれた陸翔の頭だ。生きてる……?

 耳を立てると、彼の小さないびきが聞こえてくる。よかった。死んでいたらどうしようが、寝ているだけのようだ。ワタシは彼の安否を確認して、ゆっくり上体を前に戻す。


 無意識でやってるんだよね? これ。


 日本人はシャイでスキンシップはあまりないのは知ってるし。


 起こそうかな、寝てるのがバレて怒られるのも陸翔は望んではいないだろうし。でもいびきを立てるくらい熟睡しているようだから、それも悪いかな。


 そのままにしておこう、どうせ前からならワタシの背中で隠れて見えないだろうし。


 ***


 私の目の前でそういうことしないでくれる?


 それ、私の『おもちゃ』なんだけど。


 ついでに、ここ学校内だから。邪推されても知らないわよ。


 私以外にこのことに気づいてる人いるのかしら。

 集会中だから静かにしなければならないのは分かっているけど、意見を伺ってみようかしら。


 さっきから私の背中に、指でなぞって文字を書いて遊んでいる後ろのやつを、大人しくさせるためにも話しを振ってみようか。


「ちょっといいかしら」

「どうしたの蓮華ちゃん」

「これ、どう思う?」

「あー、あたしは校長先生の仕事はこういった集会で、話をすることがメインだと思うんだけど」

 メインの仕事だから長くなるのは必然ということか。


「……私のほっぺたをツンツンしないでくれる?」

「気にしないで、スキンシップは大切でしょ」

「私たち、いつの間にそんな関係になったのかしら」

「やだなー、ずっと前からでしょ―」

「断じて違うわ」

「つれないこと言わないでよー。……それはさておき」

「それは私のセリフよ」

「どうせ前の二人のことでしょ。あたしから見たら、前の前と前の前の前の二人だけどね」

「まあ、その件のことよ」

「確かにあの二人はちょっと……近すぎるよね」


 私が考えてはいるものの、言語化しなかったその言葉を、由梨さんはさらっと言う。

 いざその言葉を聞くと、なんだか胸が締め付けられるような感じがする。


「あれは恣意的にやっているのかしら。『何でも知っている幼馴染』の由梨さんなら分かるはずでしょ」

「うーん多分、無意識にやってると思う」

「あっそう……」


 無意識で悪気がないとしても、あまり褒められた行為ではないわ。

 特に私の前では。


 二人とも……どちらかというと陸翔君に対して、なんだかイライラしてきた。


「由梨さん、話があるのだけど」

「もしかして、蓮華ちゃんもあたしの脳天を感じたいの?」


 脳天を感じるって何?


「違うわ。もっと重要な話よ」


 由梨さんに協力を煽るのは正直、私のプライドが許さない。しかし、陸翔君とあの転校生の距離が近すぎるのはもっと許せない。


「あ、もしかして蓮華ちゃん……あたしと同じこと考えてる?」

「まさか……そんなはずないでしょ」

「……じゃあ、せーので言ってみる?」

 

「「一時休戦にしよう」」


 なんで同じことを考えてるわけ?


「……じゃあそうしよっか、蓮華ちゃん」

「……ええ、そうしましょう由梨さん」


 かくして、いつから始まったかは定かではない『昼坂陸翔争奪戦』は休戦を遂げた。


 由梨さんが私の意見と同じだったしたおかげで、私から由梨さんに対して申し出ることなくプライドも保てたし、由梨さんには少しだけ感謝している。そう、ほんの少しだけ。


 私も由梨さんも、三つ巴よりも二対一にした方が有利だと踏み、この協定が出来たのだ。

 しかし、ついさっきまでいがみ合っていた私たちのことだ。いつこの協定が破綻するかは私にも分からない。


 それでも、まずはあの転校生を対処するのが最優先だ。由梨さんとの一騎打ちは、その後でいい。

 最後に笑うのは私と陸翔君だけでいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ