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第1話 転校生、現る


 今日は転校生が来るとの噂だ。


 若干の期待を持ちながら、俺、昼坂陸翔ひるざかりくとは新学年である二年生の教室へ向かう。そして妄想する。


 もし俺のクラスにその転校生が来たら…………どうしようか?


 楽しみではあるが、いざ自分のクラスに来たらどう接ればいいか悩みどころだ。

 そんなことより、気づけばもう遅刻しそうな時間である。

 彼は一人、廊下を走り自分の教室へ向かう。

 恐る恐る、できるだけ静かに教室の後ろの扉を開く。見遣るとどうやら俺以外、全員そろっているようだ。


 教室中の視線が集まる。とても気まずい。


「おはよう陸翔、遅かったね。今年も同じクラスだよ」

 そう笑顔であいさつをしたのは、彼の小学校からの幼馴染である、朝空由梨あさぞらゆりだ。


「おはよう。同じクラスとはな」


 小学校の時から彼女は明るく、活発で、クラスの中心人物だ。運動神経も学力も申し分なく、よく見ると結構かわいく、男子からは人気だ。俺も確かにかわいいとは思うことはある。しかし彼女はあくまで幼馴染の友達だ。

 もうすでに初対面のも多い近くのクラスメイトと談笑しており、今年もその存在感が強そうだ。


 同じクラスに知り合いがいるだけで、内心ほっとする。

 注目も減っていき、ようやく俺は、彼女の前に空いている自分の席に着いてひと息つく。


「おはよう陸翔君。今年も私と同じクラスになるなんて奇遇ね」


 今度は由梨の隣の席にいる、つまりは俺の斜め後ろにいる女子――小夜海蓮華さようみれんげに話しかけられる。

「おはよう。てかお前もか」


 彼女も由梨に勝らず劣らずの、成績優秀の優等生。運動神経も紙一重で由梨に劣る種目があるが、基本的にスポーツ万能。だが、いつもどこか冷めたような目をしているため、他の生徒と会話しているところはあまり見かけない。いわゆる『孤高』のお姫様だ。


 クラスでの立ち位置が正反対の彼女だが、実は二人とも俺と仲良くしてくれる。特に蓮華は、知る限りだと男子の中で面と向かって会話してくれるのは俺だけだ。どういう感情で話してくれているのかまでは分からないが。


 だが……、


「蓮華ちゃん、今日筆箱忘れちゃったからシャーペンと消しゴム、貸してくれない?」


「いいわよ由梨さん、折れた鉛筆の芯と、シャーペンの後ろの消しゴムなら貸せるわ」


「そう、蓮華ちゃんのシャーペンの芯を詰まらせたかったのに、残念」


「由梨さんは、のどに魚の骨を詰まらせるのがお似合いよ」


 というやり取りから分かるように、犬猿の仲である。


 そういえば、と陸翔は隣の席を見遣る。自分以外全員そろっていると思っていたが、隣はまだ来ていないようだ。


「はーい、みんな席に着けー」

 体格がいい男性の先生がやってくる、それと同時に教室が静まる。


「今日この学校に、新しく転校生が来たからー、自己紹介してもらうぞ」

 と見計らっていたかのように、先生がそう言ったタイミングで、転校生が教室に入ってくる。


「クレモー二・薄明碕はくめいさき・エリーゼです。みんなよろしくね」


 金髪で、端正な顔立ち、同じ高校生とは思えないスタイルのよさ、男の心を射抜く笑顔、あまりの美しさに俺は思わず息をのむ。


 当然、教室中がどよめく。その大半は男子なのだが。

「じゃあ、あそこの空いている席を使ってくれ」

 と先生が指さす先は――俺の隣だった。


 まじか。


 彼女が俺の隣の席に向かって歩いてくる。

 俺を含め、教室中が彼女のことを注目する――ついでに俺も見られる。


「ワタシのこと、エリって呼んでいいからね。キミの名前は?」

「あ……俺、昼碕陸翔」


 緊張して、そっけない答えになってしまった。


「陸翔ねー、これからよろしくお願いね」

 彼女は俺に微笑む。――なにやら後ろからトゲのような視線を感じるが、今は放っておこう。


 俺は彼女のあまりに整いすぎた美貌に見とれていて、それから後の担任の先生の話も、クラスメイトの自己紹介も記憶にない。


 ***


 あれ? なんだか陸翔の様子がおかしくない? なんだか……のぼせたような顔になっていないか。

 しかも隣のあの転校生とやらを凝視してるし。


 あたし、陸翔の『幼馴染』なんですけど?


 なんだか胸が締め付けられるような感じがする。誰かに相談してみようかな、でもこの話が伝わるのは蓮華ちゃんだけだしな……。なんだか話しづらいな。

 でも思い切って聞いてみるか。


「ねえねえ蓮華ちゃん」

「なにかしら由梨さん」

「あれ、変だと思わない?」

 あたしは顎で前方をしゃくる。


「由梨さんは、あの黒板の問題の意味が理解できないの? それとも新学期初日だというのに授業があるこの学校の方針が理解できないのかしら?」

「後者の方は確かにおかしいと思ったけど、あの問題はとっくに解き終わってるもん」

「そう、私もこの範囲は予習してあるわ」


「…………じゃなくてさ。目の前の二人のことだよ」


 売り言葉に買い言葉でついつい話が脱線しそうになる。


「あの寝てるのか気絶してるのか死んでるのか不明な陸翔君のこと?」


 あたしは『のぼせてる』って表現したけれど、やはり人によって物の見方は異なるらしい。


「うん、そのことなんだけどさ……今日のあいつの様子、変じゃない?」

「まあ、『幼馴染だから何でも知ってますよ』アピールは置いといて……私の目から見てもあれは完全に、浮かれているわね」


 やはりそう見えるか。

「あれ? 蓮華ちゃんもしかして、あの転校生に『スタイルのよさ』というプライドを折られて、陸翔のこと諦めちゃったのかな?」


 我ながらこれはウザい。


「黙りなさい、声が大きいわよ」

「ごめんなさいね、胸も大きくて」

「言うほど大きくないし、私とあまり大差ないぞ」


「「………………」」


 どんぐりの背比べとはこのことか。


「由梨さん、一つ分かったことがあるわ……」

「あたしもこれ以上お互いを傷つけ合っても、何も生まないことが分かったよ、蓮華ちゃん……」

「あれを見て……」


 と蓮華ちゃんが見る先には——横を向いている転校生だ。

「あの子がどうしたの……」


 言っている途中で気づく。


 蓮華ちゃんが見ているもの、それは――転校生の豊満なバストだった。

 この時ようやく、あたしは理解した――陸翔の心境を。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これからが楽しみと思える題材でした。 楽しみにしています。 [気になる点] 蓮華さんと由梨さんは貧乳ということでいいですか?
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