8. 失恋?相談
夕食を終えた私たちは、私、ミロの部屋でフレア、ノレナ、カサミラと女子会をしていた。
「ねぇミロ、あんたレオとのことどうするの」
「どうするって言われても……」
うう、考えるだけでも頭が痛くなるよ……
先日、魔王との決戦前私はレオと呼ばれる幼馴染の少年に想いを告げられていた。
私はどうしたら良いかわからず、彼の想いを拒絶するような形でその場から逃げ出してしまったのだ。
「フレアはどうしたら良いと思う?」
「えーでも一回断っちゃってるんでしょー?『ごめーーーーーん!!!!』って。じゃあもう一度、ちゃんと無理だって伝えるべきだよ」
「違うの!」
私はぶんぶんと首を横に振る。
「そういう意味で言ったんじゃなくて、その時私慌てちゃって『(なんか色々)ごめーーーーーん!!!!』って意味で言ったの。だからその、本当にレオの想いを拒絶したわけじゃなくて……」
「ミロはそう考えてても、レオは拒絶されたと思ってるよ多分。レオみたいなタイプには、(なんか色々)なんか絶対伝わらないと思うし」
「うう……」
だとしたら本当に申し訳ないことをしちゃった。
なんとかして、誤解を解かなきゃ……
「このままじゃいけないことくらいわかってるでしょ?」
「わかってるよ……だからこの島にいる間になんとかするよ」
そう絶対に解決する!
私は心の中でグッと拳を握る。
「なんとかすると言いましたが、具体的にはどうするおつもりなんですか?」
と隣から小柄でふわふわした少女カサミラが云う。
「なんとかはなんとかで……具体的に何か策があるとかじゃ……」
自分で言っていて、気合を入れた気持ちがどんどん萎んでいく。
「だから、実際アンタの気持ちはどうなのってことでしょ?」
と若干イライラした感じにノレナが云う。
「私の気持ち……」
「ミロはレオのことが好きじゃないの?」
フレアが云う。
「好きじゃないわけじゃ……」
「じゃあ好きなの?」
「ちがっ、そういわれると……」
「じゃあ、なんなの」
フレアに言われて、私は彼のことを考える。
彼に対する私の気持ち……
幼馴染の男の子で……
いつも守ってくれて……
けど……
「正直にいうと、よくわからない……レオとは昔からずっと一緒で、家族ぐるみの付き合いだったし、友達っていうのもまた違った感じで……それに私、今まで誰かに対して恋愛感情を抱いたことがなかったの……だから、レオに告白された時も、突然のことでどうしたら良いかわかんなくて……それで逃げ出しちゃって…… 告白があってから急にレオのこと意識するようになっちゃって……なんだかうまく話せなくなっちゃって……」
「それ、もう好きなんじゃないの?」
とノレナが云う。
「す、好きって……?」
「だから、アンタはあいつのことをすでに男として見てるってこと」
「そ、そうなのかな……」
男として?わからない、私にはやっぱりわからない。
人を恋愛的に好きになると云うのはどういうことなんだろう。
「ノレナは、どうだったの」
「どうって?」
「ロキウとのこと」
ノレナは一瞬顔が強張った気もしたけど、すぐにいつものように涼しい顔をしていた。
ノレナは大柄な男の子のロキウと付き合っている。
本人は隠しているつもりだけど、もうみんな知っている。
「アタシとロキウもアンタたちみたいな感じだった、かな」
ノレナはゆっくりと話し始める。
「全然意識してなかったし、あっちも意識してると思ってなかった。アイツ、アホだし。けど、ある日アタシが落ち込んでる時、ずっとそばにいてくれたの。いつもはうるさいアイツが、何も聞かずに言わずに。それまではこんなうっさい男と恋仲になるなんて、無理って思ってた。今でも思ってるけどね。けどそれ以来、気がつくとアイツの良いとこばかり目につくようになったの。もしかして、って何度も思ったけど、その度に頭を振って無意識にその感情を排除しようとしてた。けど、ある日あのうっさいロキウが何かに悩んでる時があって、その時はアタシがずっとアイツを支えたの。前のお返しって思ってね。そしたら後日、アイツに告られて付き合ったって感じ」
普段気の強いノレナのこういう乙女の部分を見るのは初めてかもしれない。
ノレナも私と同じで彼と途中まで幼馴染の関係だった。それが、ずっとそういう関係にはならないと思っていた人に突然恋愛感情を抱くことになってしまった。
「恋って確かに相手を意識することだと思うけど、それは無意識に自分たちの中で行ってるの。その無意識の感情がどんどん大きくなって初めて意識する。そうなったらもう、自分の感情をどこかに仕舞おうとしても無駄なのよね。多分その感情は相手にしか受け止めて貰えないから」
「ノレナって意外とポエマーなところあるんだね〜」
とフレアが揶揄うように云うと、
「なんなのよ〜!」
とノレナがフレアのほっぺをつねり出した。「すひまへん〜」とし喋りづらそうにフレアが謝っている。
ノレナの言っていることは難しいけど、さっきまでよりはなんとなくわかってきた気がする……
絡まっていた心がほんの少し解けた気がする。ほんの少しだけ。
きっと私は今、レオに対する感情をうまく意識できていない。ただ、あの日から少しずつ膨らんでいるのはわかる。だからやっぱりレオと話さなきゃ。
それと最後にこの質問だけはしとかなくちゃ……
「ノレナはさ、相手とどういう風になりたいと思ったの?」
「どういうって普通に恋人とかだけど」
「じゃあ、そのあとは?」
「そのあと?」
恋人になることが目標なら、世のカップルは消化試合をしていることになってしまう。
そうじゃないなら一体なんのために恋人同士になるのだろう。
「恋人になることがゴールじゃないでしょ?恋人になって何がしたかったの?」
この気持ちが恋なのかを確かめるために、問う。
「そりゃまあ、普通に恋人同士でするようなこととか?ハグとかキスとかゴニョゴニョとか」
「ご、ゴニョゴニョ!?」
「ミロ、アンタ顔赤いわよ」
そうだったんだ、好きな人にはそういう感情も抱くんだ……まあそれはそうだよね……
自分で聞いといて少し恥ずかしくなる。
「まあでも、『隣にいること』のために恋人になるのかな。隣じゃなくなったら終わりよ」
「隣にいること……」
「身体的にも精神的にもね」
ゴニョゴニョとかはよくわからないけど、隣にいることならイメージはしやすい。
私とレオは昔からずっと隣にいたから……
これからも隣にいたいと私は思っている。
ノレナの話を聞いてもまだ、自分の感情をうまく整理できていない。
でも、ノレナの言うことを信じるならきっとこの感情は彼と話すことでしか整理されないんだろう。
「まあ、とにかく頑張ってね」
とフレアが云う。
「よし!わかった、私頑張るよ!」
気合いを入れて拳を高らかに突き上げる。
「もう寝る時間なんですけどね」
とカサミラが云って一気に力が抜けてしまった。
その後、みんなが自室に戻って私一人の時間がやってくる。
窓の外を見ると、島は街灯もなく真っ暗であるため、まんまるいお月様だけが私を照らしていた。
私はそのお月様をぼんやりと眺める。
お月様の周りには雲が多く、お月様の光もすぐに失われそうだった。