6. 夜間開幕
「「「かんぱ〜い!!」」」
館の探検を終えた俺たちは一度解散して、各々自由時間を過ごすこととなった。
と言っても探検を終えた頃にはすでに日が落ちており、すぐにお風呂だったり夕食の準備に取り掛かって、現在に至る。
十人掛けの円卓のうち一席を余して九人全員で食事をとっている。
円卓の席配置は二階の自室と同じ順番で左回りに、空席、カサミラ、フレア、ミロ、ノレナ、ロキウ、エイダン、クルト、ロサク、俺だ。
夕食はカサミラが自信満々に担当していたこともあり、かなり豪華な印象を受ける。
肉、サラダ、魚など種類も豊富で飽きがこないようなメニューとなっている。
そして、食事のお供にはお酒である。全員がそれぞれ、良いと思ったお酒を適当に飲んでいるといった感じだ。
「いやーそれにしても魔王強かったなぁ!」
とすでに酔っ払っているロキウが云う。
ロキウの寝巻きはポケットが無くて、どこで買ったのかわからないような上下が繋がった変なやつだった。マジで不便そうだけどなんで着てんだこいつ。口には出さないがそう思う。
「ああ、全くだ。あいつ一人倒すのに一体何年、何人かかったんだ」
「年はわからんが、かかった人数は俺たち九人だろ!」
「ははは、間違いじゃないね、ロキウ。だけど、多くの人の積み重ねがあったということをクルトくんは言いたいんだと思うよ」
「そう云うことだ。倒したのはボクたちだけど、色んな人達の成果があってこそだ」
「全く、ロキウはすぐ出しゃばるんだから」
「いいじゃないか、ノレナ。実際魔王を倒したのは僕たち九人なんだから。誰だって胸を張りたくなるさ」
「まぁそうだけど……」
「魔王を倒した上にこんな良いところに招待されるとは勇者システム最高だな!」
「良いところ、ねー」
「なんだよフレア。ここが悪いところだって言いたそうだな!?」
「いやいやいや別に悪いところだとは思ってないよ。食品はたくさんだし、洋服もたくさんあって見てるだけでも楽しいし」
「じゃあいいじゃないか!」
「でもやっぱり、謎は残るよねー」
ロキウと違ってフレアは少し不安を抱えているようだった。
「謎って管理人さんのこと?」
「うん、ミロの言う通りそれもある。けど一番ヤバそうなのは最後に入ったあの部屋」
「あの牢屋のことだね」
「そ、変な人形いっぱい転がってて気味悪かったし」
「確かにあれが夜中に動き出して館をぐるぐる徘徊していたらと考えるとゾッとするな!」
「ちょっとやめてよ!」
「あだっ」
やっぱりノレナはホラー系に弱いらしく、ジョークを言ったつもりのロキウの肩をまあまあ強めに叩く。
お酒がいい感じに回ってきて、全員の口数が昼間より増えている。
確かに管理人や牢屋の部屋など懸念材料はまだまだ残っているが、それを心配し過ぎることはもうできないほど、俺たちはこの館を満喫していた。
「せっかくなんだし、暗い話は一旦忘れて楽しもうぜ」
とか言ってる俺が一番管理人に対して警戒してたんだけどな。
警戒はこれからも引き続きする。けど、全員が全員警戒を表に出しすぎていたら飯が不味くなる。
せっかくだから楽しみたい。俺はそう思っている。
「そうだね、じゃあパーティが結成された時の話でもするかい」
「お、いいなそりゃ!」
「えーとじゃあ、そちらのパーティから聞こうかな」
そういえばそうだった。今ですらこの九人が普通だが、元々俺たちのパーティは一つじゃなかった。
それが統合して、今の九人になっている。
そちらというのは俺が所属していたパーティのことだろう。
「えーと、始まりはクルトと俺の二人だったな」
「そういえばボクとレオの二人だったな。確かレオのやつ、好きな女の子と……」
「だぁァァァ!!!ストップストップ!!!」
「なんだよー聞かせろよー」
危ない危ない。
クルトのやつとんでもない爆弾を投下しようとしたな。
「まあとにかく、ボクに半分弟子入りするような形でレオとは出会ったんだっけ」
「ああ、そうだな」
今でも覚えている。
クルトは剣の技術も、戦闘の知識も、その他あらゆる面において凄まじかった。
それなのに、パーティを組まないという異質な存在だった。
俺にとってはそれが好機だった。
「強いのにパーティを組まない奴がいる。こんなラッキーなことはない。そう思ってクルトと組むことにしたんだ。と言っても最初は断られてたけどな」
「そう、それで最終的にボクがレオの熱に折れてパーティを組んだ」
懐かしいなぁ。あの時はお酒も飲めない年齢だったっけ。
「でその後にレオの紹介でミロがパーティに入ることになったんだ」
「そうだったね。懐かしいね〜」
ミロと俺は幼馴染だったからクルトとパーティを組むずっと前から知り合っていた。
「ミロの薬の知識とかが生きるかと思ってな」
「実際のところ、一から学び直さなきゃいけなかったんだけどね」
クルトを通してだが、今はミロと普通に話すことができている。良い兆候だ。
「実は私も何回か剣を握ってみたんだけどね〜」
「そうなのか!」
とロキウが意外だ、というリアクションをとる。
「もう二度と持たないでほしい、ボクはそう思ったよ」
「クルトひどい!」
「確かにあれは散々だったな」
と笑い合う。
勇者の仕事は全線で戦うことだけじゃない。後方から支援したり、指示を飛ばしたりするのも勇者の仕事だ。
「それで、その後に私の登場だね」
「そうそうミロが入ってから割とすぐにフレアが入ったんだよな」
「今度はミロの紹介だったな」
「そう、私の知り合いに長距離得意な子がいるんだーって感じだったよね」
ミロとフレアもパーティに入る前から知り合っていた。
当然幼馴染の俺もフレアの存在を認識していたから、スムーズに受け入れることができたんだ。
クルトも特に嫌がることもなく、受け入れてくれた。
「『お前の知り合いなら大丈夫だろ』的なことをミロの時もフレアの時も言ってたなクルト」
「ああ、ボクは元々ソロだったから、何処の馬の骨とも知らんやつと組むのは嫌だったんだけど、レオのことは信頼していたからな。そのレオが連れてくる奴なら悪い奴じゃないだろうと思ったんだ」
「おいおい、ちょっと照れるな」
そんなことを思ってくれていたのか。めちゃくちゃ嬉しいな。
「で、四人でしばらく冒険して、その後の流れはオマエたちも知っている通りだ」
「じゃあ、次は僕たちの番だね」
とロサクが云う。
「大体はみんながすでに知っているような流れだけど、まず、僕とロキウとノレナが幼馴染で昔から仲が良かったんだ」
脳筋いロキウ、イケメンのロサク、刺々しいノレナ。一見気の合わなそうな三人に見えるけど、ここまで上手くやってきたと云うことは相当気が合う。
「そう、で私は勇者システムとかこれっぽっちも興味なかったんだけどね」
ノレナのイメージ通りだなぁ。
「俺が誘ったんだよな!」
「そうだね、ロキウに誘われてやることになった。昔から三人仲良かったしね、今更断る理由も見つからなかったんだ」
「こいつ、私が嫌だって言っても『大丈夫!』とか返してきて、会話にならなかったのよね……」
「なっははは!そんなこともあったっけな!」
ロキウは口を大きく開けて笑う。
ノレナが加入のきっかけになったのもロキウの豪快さが故にと云うことか。
なんかロキウのイメージ通りだ。
この三人も昔から変わってないんだろうな。
ロキウがみんなを振り回して、ノレナがキレて、ロサクが宥める。
チグハグなようでしっかりとバランスが取れている。
「それで、三人でしばらく冒険しつづけてて、後にカサミラちゃんとエイダンくんとパーティを組むことになったんだ。と言っても君たち四人とパーティを合併させるほんの少しの前の出来事だったけどね」
「ほんの少し前だったんだな。俺らが合流した時にはきちんと連携も取れていたし、全然気づかなかった」
「相性が良かったのかな。すぐ馴染んでね」
俺たちがロキウやロサクたちのパーティと合併したのは魔王を倒す一年位前だったか。
となると、ロキウやロサクたちパーティがカサミラ、エイダンと合流したのはその少し前で、今から一年半くらい前になるのだろうか。
「エイダンとカサミラたちグループとはどういった形でパーティを組むことになったんだ?」
「ええと、そうだね……。じゃあ僕たちのパーティが合併するまでの流れをカサミラちゃん、エイダンくん視点から話してもらおうか」
全員の視点がエイダンやカサミラの方を向く。
エイダンは相変わらずムスっとしていて口を開きそうになかったため、エイダンを向いていて視線がカサミラを向く。
「えっと、それじゃあ、私から」
その視線の流れを読み取ったカサミラが控えめな声量で話し始める。
「私とエイダンくんも皆さんと同じように幼馴染だったんです」
エイダンとの関わり方をみていて、そんな気はしていた。
「それで、特にどっちが誘ったとかではないんですけど、エイダンくんが先に勇者システムに入って、その流れで私もついていった感じです」
「なるほどね。僕たちとパーティを組む前に、誰かと組もうとは思わなかったのかい?」
「ええと、何度か組む機会はあったんですけど、その、みんなエイダンくんについていけなくて……」
ああ、なるほどな…
エイダンは完全に自分本位で動いてる人間だからな、置いてかれる人が出るのは仕方ない。
エイダンのようについていけない人容赦なく突っぱねるようなスタンスは好きじゃないが、エイダンの実力を利用して良いところまで行こうとして、その結果自分の実力が足りなくて置いて行かれてしまったのなら、それはそいつが未熟だったにすぎないともいえる。
エイダンの口や態度は悪いが、基本的にはパーティ全体が勝てるように動けている。
エイダンの実力のもとで冒険していれば結構良いところまで行けそうだからな、それに肖る人が出てもおかしくはない。
実際俺もクルトという実力者に肖った一人だしな。
結果的に足を引っ張らないレベルまで到達して活躍もしたんだから結果オーライってことにしてほしい。
「じゃあ、僕たちは本当にうまくやれていたってことだね」
とロサクが云う。
確かにそう云うことになる。
ここにいる全員が戦闘の速度を相手に合わせないエイダンについていけていたのだから。
ロサクの言葉に、ふん、とエイダンは鼻を鳴らす。
あながち間違いじゃないってことだろうか。ツンデレなのかこいつは。
「それで、しばらく他の人たちとパーティを組まないで二人で冒険を続けたあと、ロキウさんたちに誘っていただいて、パーティを組むことにしたんです」
「そうだったね」
そして、その後に二つのパーティが合体して魔王討伐に向けて本格的に動くことになったという流れである。
「それじゃあ今度は僕たちが合流してから魔王討伐までの話をしようか」
と今度は全員が合流してからの話をすることになった。
いくら話しても話し足りない話がたくさんある。
夜はまだまだ長い。
思う存分語り合おう。




