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花めく為に散る、  作者: 苫田 そう
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3.入島

魔王との熱戦を終えてから数週間後、俺たちはとある島に来ていた。


「いやあまさかこんなところに呼ばれるなんてね、手紙を貰った時は何事かと思ったよ」

豊かな木々に囲まれた道すがらスラリとした体躯で甘いマスクの男のロサクが云う。



「ああ、そうだな!それにしても空気が美味しいなここは!これだけで飯三杯はいけちゃうな!ハハハ!」

 ロサクとは対照的な存在で、大柄なロキウが元気よく云う。


「ロキウ、アンタ空気がどうであれ十杯は食べるでしょうが」

「ハハハ!そうだった、そうだったなノレナ!ところで船酔いはもう大丈夫なのか!?」

「ただでさえ、長時間の船酔いで死にそうなのにアンタの声でさらに疲れそうよ……」

ノレナがもううんざり、といった様子で髪をかきあげる。

そんな様子を後ろからぼんやりと眺めながら俺は数週間前のことを思い出していた。

 魔王討伐をして数日後、俺たち[インヴィクタス]のメンバーの元には一件の手紙が届いていた。

 その手紙の内容はこうだ。


『初めまして、私は『勇者システム』を設立した者です。名は『管理人:ハグワ=オルチカ』と申します。先日の『魔王』討伐を祝して、私から勇気ある皆様へ心からおもてなしさせて頂きたく存じます。しかし、『勇者』である御方は『勇者システム』に申請されている時点で大抵のものは簡単に手に入ってしまうでしょう。そこで今回は皆様にまだ見ぬ体験をして頂くために『伝説の楽園島:ヘブンヘイム』にご招待させていただきます。ヘブンヘイムには始まりの勇者や大勇者、名も知れず去っていた勇者などの様々な英雄たちの噂がございます。当日、『伝説の楽園島:ヘブンヘイム』には皆様以外の人間は一人もおらず、建物も島の最奥にある館のみでございます。この島で皆様には『魔王』討伐の疲れを癒して頂きたいと考えております。水も食料も一年分ほど蓄えております。詳細はまた後日お送りさせていただきます。どうか心ゆくまで『伝説の楽園島:ヘブンヘイム』をご堪能ください』


 はじめにこの手紙を受け取ったとき、俺は信じられなかった。なぜなら『勇者システム』を設立した人間が現在も生きているはずがないからだ。


 それなのに『勇者システム』を設立したという者から手紙が届き、しかも招待された場所が『伝説の楽園島:ヘブンヘイム』となればますます疑問が湧く。

 最初はイタズラだと思って、あまり脳の片隅に追いやっていたが、どうやらパーティメンバー全員にこの手紙は届いていて、みんなも最初は無視するつもりでいたが、みんなで話しているうちに『伝説の楽園島:ヘブンヘイム』という言葉に唆られ、どんどん話が盛り上がり、最終的には「イタズラだろうが何だろうが、とにかくいってみようぜ」という意見にまとまり、全員で大人しく招かれることとなった。


 あの時は久々にみんなで盛り上がって流れでそういう決断になってしまったが、冷静に考えてみて、死者を名乗る管理人に謎の島。不気味すぎるな……。と思っていたが実際に島についてみて、今のところは良い雰囲気を醸し出している。

 今歩いている道は色合い豊かな自然に囲まれていて、その道の先に聳え立つ何やらメルヘンなお屋敷。楽園かどうかはわからないが、とにかく悪い雰囲気は感じない。


 みんなで話し合った結果や本土から出ている船の影響などで、最低でも一週間は滞在する予定だし、魔王討伐前にやってしまったミロとのこともここで決着をつけよう……!


 そんなこんな考えているうちに、道の先に見えていてメルヘンなお屋敷に到着していた。


「「「おお……」」」


 実際に館の目の前に立ってみて、思わず何人かがそう溢す。


「すごいな!これは!」


 俺らの中で一番背の高いロキウが館を見上げながたはしゃぐ。

 ロキウが大きな声を上げるのも無理はない。

 巨大な鉄扉に幾本もの石の塔。少し色の落ちた象牙色のレンガが壁となってこの館を形作っていた。館には凄まじい貫禄があり、この位置からではうまく説明ができないほど入り組んだ形をしているように見えた。

 早速俺が入り口と思しき重厚な鉄扉に手をかけようとすると、


「ん?何だいこれは?」


やかましいロキウとは対照的な存在である好青年ロサクが館に入る前に何かに気づく。

俺はロサクの視線を辿ってみる。


「これは、箱……?」

「箱だな」

「箱ね」

「箱ですね」

「箱」


大きな鉄扉の右脇に宝箱のような箱がポツリとおいてあった。

全員がなぜこんなところに箱が置いてあるのかと首を傾げる。

俺も疑問に思う。宝箱が扉の脇に?宝箱ってこんなとこに剥き出しで置いてあるものじゃないよな?

一体なんなんだろう。


「よく見ると何か張り紙もあるね?」


 とロサクが張り紙の存在に気づく。

 ロサクの言う通り、宝箱の上のレンガには何か書かれた紙が貼ってある。


「えーと、『指定の装備品をこちらの箱に入れてからご入館ください。』……?」

「えーなにそれ、なんか怪しくない?」

「でもよぁ、ここにそう書いてあんならそれに従ったほうが良いだろ!えーと、刃物と……」


『指定装備品一覧』と書かれたものを指でなぞりながらロキウが自身の持ち物を次々に入れようとする。


「いやいや、素っ裸でこんな建物に入れって言われてるのも同然なのよ?ちょっとは警戒しなさいよ」

 ほんとばかねとノレナがため息をつく。


 「まあ、良いんじゃないか?」

 俺はそう云う。


 知らない土地とはいえ、いや、知らない土地だからこそその場所のルールに従うべきだと俺は思う。

 ルールを無視して中にいる管理人さんに怒られちゃ、せっかくの遠出も楽しくないしな。

 それに今ある持ち物の全てをここに置いていくわけじゃないし、館の中に入ってからもきっとここには取りに来れる。


 「私も従っても良いと思います」

 小柄でふわふわな少女、カサミラもそれに賛成する。



 結局、全員が指定された物を宝箱らしき箱に入れて、館に入ることになった。


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