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花めく為に散る、  作者: 苫田 そう
26/27

26. 明かされる、夜

 「一日目の一番初め、この島に来て館に入る前に『指定の装備品をこちらの箱に入れてからご入館ください。』という文言とともに箱が置いてあったのは覚えてるよな?」


 「はい、覚えてます。結局全員指示に従うことにしたんですよね」


 カサミラが応える。


 「そうだ、結果的にそれが悪手だったんだが……。『指定装備品一覧』のところに何が書いてあったか覚えてるか?」


 「えと、刃物とか時計とかゲーム機とかスマホとかだっけ?」


 フレアが応える。


 「そう、主にはそういうものだったな。問題はスマホだ。俺たちは愚かなことに指示にしたがってスマホを箱の中に入れてしまったんだ。その結果、助けを呼ぼうと試みる案さえ出てこなかった。まあおそらく手元にあっても圏外だったろうけどな」


 「それで、スマホが手元になかったらどうして事件が起きるの?」


 「問題は俺たちの手元にスマホがないことじゃない、俺たちは全員の手元にスマホがないと思い込んでしまったんだ」


 「でも実際、全員あの箱の中にスマートフォン含め指定物は入れていましたよね?」


 「そう、全員が全員指定されたものを箱の中に入れるのを確認していた。だから俺たちは誤解していた。でもクルトは管理人なんだよ。管理人のクルトは鍵を所有していて、この館を自由に出入りすることができた。だからあの後、全員が館に入った後、スマホを箱から取り出したんだろうな。もしくは元々どこかに隠していたと言う説もあるが。全員で館を歩き回った後俺たちは解散してバラバラに行動していたし、とにかく全員の隙をつくことはいつでもできた。スマホは無いという思い込みの中一人だけスマホを所持していたんだよ。そして、そのスマホを使って第一の事件を起こした」


 「スマホで……?」


 「ああ、そうだ。まず、ノレナとロサクの密会をロキウに見させるように仕向けた。それを見たロキウは気持ちを落ち着かせるために、塔へ行った。ロキウは塔を真下から眺めるのが好きだと言っていたからそこで気持ちを落ち着かせてたんだろう。クルトは俺と解散した後、塔にいた無抵抗のロキウをハンマーで殺害した。全員寝ていたから塔に近づきようがないし、朝起きて誰かが塔に行く可能性も限りなく低いし、もし塔に近づかれても問題はなかったのかもしれない。だからロキウの死体は被り物を被せてから放置した。それで、武器も血が垂れないように軽く拭いてから武器庫に戻した」


 「今のどこにスマホの関与があったか全くわからないんだけど……それにノレナとロサクの密会を知っていたのも、塔にロキウがいるのを知っていたのも、被り物の意味も、武器を戻した意味も結局わけわからなくない……?」


 フレアが疑問をぶつける。


 「それを今から説明する。そうだな、まず俺たちはロキウの死について勘違いしていることがあった。それは、ロキウが塔から落ちたことだ」


 「塔から、落ちたこと?」


 「ああ」


 「でも、全員ロキウが塔から落ちたのは聞いてたじゃん。この場にいる私たち全員が」


 「そう、『聞いてた』んだよ俺たちは。ロキウが塔から落下するのを『見ていた』わけじゃない。全員あの場で落下音を聞いたから、ロキウが塔から落ちたのは揺るぎない事実であると勘違いしてたんだ。あの音にあの現場だ。勘違いしてもおかしくはなかった」


 「ロキウが落下してないのなら、あの音は一体何?」


 「スマホのSEだろうな」


 「あ、なるほど……」


 「おそらくスマホのSEで人が落下した時に似た音かなんかを入れておいて、タイマーかなんかで鳴るようにしといたんだろうな。ロキウが落下したと思われる時、破裂音がしたわりに館は揺れなかった。普通の一軒家やアパートと違い、館は広いし作りも頑丈だから、ダイニングにまで揺れが伝わらないだけだと思っていた。もしかしたら本当にそうかもしれないが。とにかく、俺らはロキウの落下について、音という情報しかなかった。なのにその音と塔の下にいるロキウの姿を見て、ロキウが落下したと思い込んでしまった。だから俺たちはロキウの落下を事実だと思い込んで、一生答えに辿り着けなかったんだ」


 「なるほど、塔の階段にも塔の上の手すりにも痕も何もなかったのはそもそもロキウさんは塔の上にすら運ばれていないからなんですね。それに、スマホの音と実際の落下音は目の前で聞けば明らかに違いますが、塔の部屋からここまで少し距離があるのと、扉を二枚隔てていたこともあって、スマホから鳴った音だと気づけなかったんですね」


 「ああ、そうだ」


 「ですが、私たちが駆けつけた時、スマホはどこにもなかったと記憶していますが……それに今のところクルトさん以外でもできた殺人だと思いますが……」


 「ここで被り物の謎が解ける。俺たちは一箇所確認していないところがあった」


 「と、言いますと?」


 「被り物の中だ。被り物の中にスマホが隠されていた。ロキウのパジャマにはポッケがなかったしな。もしあっても膨らみでわかってしまったかも知れないしな」


 「ですが被り物の中はロサクさんが確認していたはずです。ロキウさんの顔を確認すると言って、ロサクさんはロキウさんの被り物の中を見ました。その時にスマホが隠されていれば、犯人では無いロサクさんは私たちに報告するのではないでしょうか……」


 「ロサクは確かに被り物の中を確認していた。ただそれはロキウを部屋に運んだ後の話だった。ロキウはガタイが良すぎるが故に、俺たちはロキウの顔を見ずともロキウだと一瞬でわかってしまった。だから、とりあえず周辺を確認した後、部屋に運ぼうということになっていた。下手に被り物を剥がすのもあの場ではするべきじゃなかったしな。それで、俺たちはあの場でロキウの被り物の中を見なかった。これは後でロサクから聞いた話だけど、ロサクが被り物を確認した際、特に何も入ってなかったと言っていた。それにカサミラのいう通り被り物の中に何かあればロサクは伝えていたはず。つまり、俺たちが塔に入ってから、ロキウを部屋に運んでロサクが被り物の中を確認するまでの間に被り物の中のスマホが抜き取られていたんだ。そんなことをできるのはロキウの死体を運んだ男性陣四人だけだ。あの時、俺とクルトが上半身、ロサクとエイダンが下半身を持っていた」


 「でも、いくらスマホを取りやすい位置にいたからと言っても、一つの身体を四人で持つってことは四人が向き合う形になってたんじゃないの?スマホなんてものが見えたら一瞬でアウトだと思うんだけど」


 「女性陣はノレナをケアするために先に部屋から出て行く時だったから知らなかったかもしれないが、あの時、確かにスマホを抜き取る隙が生まれていたんだ」


 クルトは黙って俺の話を聞き続けている。


 俺の推理が正解かどうかわからない。


 ただ俺はほぼほぼ確信して話している。


 「その隙を作ったのがクルトだったんだ。クルトは女性陣が出ていった扉を見て、何か影が見えた気がすると、そう言ったんだ。それに釣られて俺ら全員は扉の方を見た。実際には影なんかなく、クルトが見たのは女性陣の影だったんじゃないかということで話も特に広がらなかったし、俺らもそれ以上何も思わなかった。けど、今思えば、その時だったんだよ。俺ら全員がロキウの死体から視線を逸らしていた時がその時に生まれてたんだ。それをできるのは影を見たと言い出したクルトしかいない。だろ?」


 俺はクルトをみる。


 「ああ、そうだ」


 特に否定せず、あっさり受け入れる。


 「そん、な……」


 クルトの肯定を聞いたカサミラが辛そうな表情をする。


 ずっと自分たち以外を犯人だと思ってきた彼女には辛い現実だろう。


 「第一の事件はこれで終わりだ。次は第二の事件に……」


 「ちょっと待て」


 ここまで口を閉ざしていたエイダンが割って入る。


 「なんだ?」


 「確かにこのチビがスマホを使ったトリックでオレたちを欺きやがったのはわかった。だが第一の事件にはまだ疑問は残りやがる。どうやって状況を把握してデカブツを浮気現場に出向かせたのか、武器を武器庫に戻したのは何故か、だ。それにテメエはずっとそのトリックに気づけなかった癖にどうしてそんなにホイホイ答えがわかったんだァ?」


 「それは第二の事件にも関わってくるからそこでまとめて説明させてくれ」


 エイダンはそれ以上何も言わず、俺の次の言葉を待つ。


 「第二の事件、ロサクが殺害された事件についてだ。まず、第二の事件はロサクの部屋で起きた。ノレナが教えてくれたことからわかるように、ロサクは明け方までずっと、ノレナの元にいた。これは被害者であるノレナの証言から事実であると考えた。ノレナも犯人を見つけたがってたし、わざわざ嘘をつく必要もないしな。この明け方っていうのがかなり曖昧ではあるが、この中で一番早く起きるカサミラの起床まで大して時間がなかったことは考えられる。時計があれば便利だったんだけどな。館には一つもないし、持ってきた腕時計なんかは箱に入れてきたからな。まあ、とにかく犯人は第一の事件に加え、第二の事件でも周りの状況を完璧に把握して立ち回っていた。俺は本当にカサミラが二日目に言ってた転生者が犯人なんじゃないかと一瞬疑ったよ。まあ結局そんなわけはなかったんだけどな。俺がこの事件の犯人をクルトだと思ったのはさっきの第一の事件のスマホの件を思い出したからだけど、それは電子機器の関与に気づけたからこそ、疑うことができたんだよ。それで、俺が電子機器の存在に気づけたのは、ミロに会いに行く直前だった。ミロを救い出すために、何回も何回も塔を往復したり、館中を歩き回った。考えに考え抜いても全くわからなかった。それで、もうダメかもしれないと思って自室に戻ったんだ。その時、運悪く段差に躓いて玄関で転んだんだよ。それで、何もかも嫌になってて俺は自然と仰向けになって天井を見つめていた。けど、仰向けになってはじめて気づいた。よく見ると、天井に小さな穴が空いてたんだよ。ほんの小さな穴だ。多分これは探せばこの館のどこにでもあるかもしれない。俺らが探しても気づけないところにもたくさん。で、その穴をほんの少し見つめて、俺はその穴の中にあるものの正体に気づいた。それは、監視カメラだ」


 「監視、カメラ……?」


 「ああ、そうだ。それでずっと俺たちを見てたんだろうな。小さい穴だけど、いくつかあれば俺たちの状況を把握することくらい簡単だろうな」


 「で、でも、コードも見当たらないですし、もし監視カメラがあるんだとしたら、この部屋、クルトさんの部屋に監視用のモニターか何かあるはずじゃ無いですか?」


 「いや、コードはなくても不思議じゃない。今どきコードレスの監視カメラはいくらでも売ってるし、もしコードがあっても俺らが見えないところだ。天井に線が引かれてたら気づきようがない。それと、モニターもいらない。マンションの警備室とかだったらカサミラのイメージしてる通りかもしれないけど、おそらくスマホとペアリングして見てたんだろうな。まあ、今はそこはどうでもいい」


 「で、俺はミロを助けに行く前、って言ってもついさっきだけど、監視カメラの存在に気づいたんだ。俺は監視カメラの存在に気づいたことを相手に悟られないよう行動した。それでそこから電子機器をこの事件と紐付けて頭の中で考えていた。自分が全くこの事件のトリックに気づいてないように振る舞ってな。それで、俺は解決策を見出し、ミロを助けにいった。牢屋でも監視カメラがある可能性を考慮した。流石にキョロキョロしてたら勘付かれたと思われるかもしれないからな。ミロに事件の全容を話す時には声を潜めた。音声も拾われてたらまずいからな。それで、ミロと協力してクルトを追い詰めることにした。監視カメラは確かに武器になる。だから俺はそれを逆手に取ったんだ。おそらくだが、多くの監視カメラがある以上、それらを全て同時に把握することは不可能だ。だから俺はミロと解散したあと、部屋に戻って寝るふりをした。結構長い間ベッドで目を瞑っていた。ミロには事前にそのことを伝えておいて、しばらくしたら牢屋を出て、何か目立つことをするように言った。多分クルトは牢屋での俺たちのやり取りを見ていたと思う。音声は聞こえないとはいえ、何か企んでいたのは映像を見ても分かったかもしれない。だから、途中まで俺とミロを交互に見ていたんだと思う。で、俺の部屋に監視カメラがどれくらいあったかはわかんないけど、しばらくして、ミロに接触していた俺が部屋で寝たのを確認したはずだ。で、俺が寝てもしばらくはミロと俺の画面を交互に見ていただろうけど、長時間俺に動きは全くなかった。だけどミロの方には動きがあった。ミロは牢屋をゆっくりと出て、何か目立つことをしてくれたんだろうな。詳しくは知らないけど、クルトの目を引くだけの何かはしてくれたと思ってる。ありがとうミロ」


 えっへんとミロはドヤ顔をする。かわいい。


 「それで、俺はクルトがミロを追ってる間にクルトの部屋を目指して、クルトがスマホに釘付けになってるのを見つけた。それで、間違いなくクルトが犯人だと、俺の推理はあっていると確証した」


 「んじゃあ、武器については?」


「第一の事件で武器が武器庫にあったのは持ち物検査をさせないためだと思う。荷物検査をされたらスマホ持ってるのバレちゃうしな。まあもし荷物検査しても上手く隠すんだろうけど。第二、第三の事件は現場に武器を残せばいいとして、第一の事件についてはロキウが塔の上から落ちたように見せたのと同じで、自殺の可能性も視野に入れさせて事件を複雑にさせたかったんだと思う。だから武器庫に置いた。俺が殺害に使った武器を見つけるまでの間に誰かが荷物検査をしようと言い出した可能性もあったけど、その時は自分で武器庫を見に行てみようとか言って逃れただろうな。そうじゃなくても俺は元々武器庫をチェックするつもりだったから俺もまずは武器庫と提案していたかもしれない。だから、第一の事件の時だけ武器は武器庫にわかりやすく置いてあった。結果として自殺の可能性を考えさせるだけじゃなくて、血のついた武器をそのまま武器庫に戻すという意図が全くわかんない状況もできたしな」


 「なるほど、な」


 「あとは第三の事件についてだけど、俺が駆けつけた時、玄関から小廊下に家具が散らばってたことから推察するにおそらくノレナは夜中バリケードを張って自分の身を守っていたんだと思う。それをクルトが無理やり突き破ったとは考えられない。おそらく、ノレナは部屋を出ざるを得ない状況に陥っていた。それはノックが聞こえたからとかじゃなくてもっと単純な話で、トイレに行きたくなってバリケードを自ら剥がしたんだと思う。人間寝てる時はトイレにあんまり行きたくならないけど、起きてるとなぜか寝てる時より行きたくなる。これは寝てる時に抗利尿ホルモンが分泌されてて、尿を作る量が抑えられてるとかなんとかまあそれは今はいいか。ただ、トイレに行かなきゃいけない状況は偶然ではなく、クルトによって意図的に作られたものだと考えられる。三日目の夜、ノレナが閉じこもっていた部屋から出てきて、俺らのいるダイニングに顔を出したが、その時、クルトは焦った風を装ってノレナにコーヒーを飲むことを提案した。結果ノレナは特に断るでもなく、コーヒーを飲むことにした。ノレナは元々コーヒーが好きな方だったしな。それにノレナは水も注文していた。今まで飲んでなかった分を一気に取り戻そうとしたのと、カフェインの効果もあって夜中にトイレに行きたくなったんだろう。いくら部屋の外が怖いとはいえ、部屋でお漏らしはノレナのプライドが許さないだろうしな。それで、戻ってきた時に剣で、ロサクと同じように剣で一突きだ。あと、ミロから聞いた話だと、ミロがあの場にいたのは、ノレナにダイニングでのことを律儀にも謝ろうとしてただけらしい」


 このように俺は監視カメラの存在に気づいてからスマホの存在を事件と絡めてスルスルと事件の謎が解けていった。


 クルトはスマホを使って、ロキウが落下したように見せかけて、捜査を難航にした。


 監視カメラとスマホを使って全員の位置を逐一確認していた。


 それが仇となって俺とミロの作戦に嵌り、俺に現行犯逮捕された。


 これだけの謎がありながらも直接的にクルトに結びついたのは、塔での出来事一つだけだった。それを見落としていたら辿り着けなかったかも知れない。


 もう一つあるにはあるが、いまいち結びつけることができなかった。


 話終えた俺がクルトの方を向くと、


 「ああ、合ってる。完璧と言っていいくらいにな」


 やはり、俺の推理はほとんどあっていたようだ。


 だがまだ謎は残る。


 まだある謎といえば、


 ロサクが書いた『ミロ』というダイイングメッセージ。


 ノレナの死に際の指を指すようなポーズ。


 鍵のある場所(おそらくクルトの部屋にある)


 くらいだろうか。


 「まだ謎が残ってるのはみんなもわかっていると思う。だけどここからは決定的なものがなくて、ほとんど妄想になるんだけどそれでもいいか?」


 「ああ、多分あってるんだろうな」


 「本格的な推理に入る前に、些細な謎の答えを知っておきたいんだが、いいかフレア」


 「わ、私!?」


 「ああそうだ。ロキウの事件の後俺と武器庫であった時、ポケットに何を隠してた?」


 あの時確かにフレアはポケットを意識していた。フレアが犯人では無いことは確定しているが、あの仕草は妙に気になった。


 「ああ〜ええと〜……あれは……チョコ……ですかね……」


 「チョコ……?」


 チョコとは。


 「ほら、初日にみんなでキッチンスペース探検してる時にさ、私とミロとノレナが高級そうなチョコの話してるたの覚えてる?」


 「ああ」


 覚えている。高級そうなチョコにテンションが上がっていた。


 「そのーあれちょうど人数分しかなくてさ。レオ以外のみんなは自分の分をちゃんと食べたの。だから残り一つしかなくて……。で……私がその残りの一つを武器庫に行く前にポケットに入れたの。そしてら武器庫でレオに会って思わず、ポケットを意識しちゃった感じかなー」


 どうやらフレアがポケットを意識していた理由は高級チョコにあったらしい。残りの一つ(俺の分)を盗んで食べようとしていた、と。


 「わかった、じゃあフレアも後で裁判しような」


 「ちょっとー!」


 フレアは泣きそうな目でこちらに縋る。


「小さな謎も解けたことだし、本筋に戻る。ええとじゃあ、まず管理人の名前について振り返りたい。俺らの元に来た手紙の最後には管理人の名前が書いてあった。『管理人:ハグワ=オルチカ』だったな。それで、これは俺らが出会った『勇者システム』の設定に則っていると思った。最初はわかんなかったけど、もしかしてと思ってやってみたらほんの少しだけ見えたんだ。まず、俺達がどハマりしていたフルダイブ型RPGの『勇者システム』についてだが、このゲームは最大十人でパーティを組んで協力して魔王を倒していくゲームだ。あらすじとしてはまあみんな最初に読んでるだろうから省く。このゲームは十余年前に出たゲームで発売当初はあまりにも魔王、魔族が強すぎるってので賛否両論あったんだよな。それでも運営はなんでかわからないが頑なに敵の強さも、人間側の弱さも修正しようとしなかった。しばらくすると今度は逆にそれがゲーマーたちの心に火をつけた。何年経ってもボスを倒せないゲーム。クソゲーだと切り捨てる人もいたが、結果的に『勇者システム』は多くの層の支持を得ることとなった。俺も子供の頃に『勇者システム』に惚れて、今までプレイしてきた。まさか誰も倒せなかった魔王を自分が倒すことになるとは思わなかったけどな。『勇者システム』の初期設定には一つ特殊な項目がある。それが名前設定だ。他のほとんどのゲームが名前を自由に設定できるのに対し、『勇者システム』は、自分の本名をランダムに置き換えて、カタカナにしたものを名前として使用しなければならなかった。例えば、俺の名前は『小笠原 れん』なんだけど、そこから名前がランダム生成されて、『レオ=ガンサラワ』になった。正確に言えばランダム生成された名前は四つあってそこから一つマシなやつを選ぶんだけどな。俺の場合は運が良かったと言える。レオなんて普通にいそうな名前だし、自分の本名の、れんと一文字しか変わらなかったから親しみやすかった。ミロなんかはもっと運が良くて、『香取みろ』からランダム生成して、『ミロ=トリカ』が選択肢にあって迷わず選んだんだよな。みろはミロだったから、俺もみんなの前で平然と呼ぶことができた。ミロは最初の頃、俺の本名を何度もバラしかけてたけどな。まあこういう風に、プレイヤー名からある程度本名を予測することができた。でも、実際はいくつか組み合わせがあるし、芸能人なんかは申請すれば本名じゃなくすることもできるらしくて、プレイヤー名と本名は大してみんな気にせずにプレイしてた。ロキウはロキウだし、ロサクはロサク、ノレナもノレナ。こうしてリアルで会うようになってもみんな本名を推測せずにプレイヤー名で呼び合ってきたしな。それで、何年も倒せなかった魔王を倒したことで当然俺たちのパーティは現実で、世界的に話題になった。ネットニュースに載ったりもしたな。流石に実名報道とか、本人特定されるようなことはなかったけど。で、ツイッター、ああ今はXか。Xの DMにも色んなところから取材させてくれっていうのが届いたよなぁ。まあそれはどうでも良くて、つまり俺は本当に、このゲームで魔王を倒した報酬でそういう館的な場所に招待されてもおかしくはないと思っていた。だから『管理人:ハグワ=オルチカ』がゲーム創設者かなんかでここに招待してくれたのかとも思った。それで、名前の件に戻ると、『ハグワ=オルチカ』について俺は少し考えてみたんだ。いつもは他人のプレイヤー名から本名推測はしないから、その癖で最初はスルーしてたんだけど、さっき、『ハグワ=オルチカ』から何かそれっぽい日本人名に変えられないかと適当に名前を組み替えてみて、一個それっぽいのができたんだ。それが、『カワグチ ハルオ』だ。確かこの名前は『勇者システム』を作った人の名前だったような気がする。創設者はメディア露出が極端に少なかった。確か名前が出たのも亡くなった時とかだけだった気がする。まあとにかく、任天堂やSONYの社長の名前をパッと言えないけど、聞けばなんとなくわからんでもないって現象が『勇者システム』創設者の名前でも俺の中で起きたんだ。流石に漢字はわかんないけど、おそらくカワグチは川口だと思った。だからなんなんだって思うかもしれない。けど、川口だと思うと同時に俺はとんでもないことに気づいたんだ。ロサクの死体、『ミロ』という文字に対して体が斜めになっていたんだ。字は死に際に書いただろうからハネとかトメとかハライとかそういうのを意識できないようなヨレヨレな字だった。『川口』と『ミロ』何か気づくことはないか?」


 おそらく頭の中で想像しても難しいと思うので、俺は引き出しから紙とペンを取り出して書いてみせる。



 ちなみに俺の部屋の引き出しにも紙とペンが入ってたからここにもあるだろうと迷わず取り出した。



 縦に『川口』と書き、首を右に傾けてトメ、ハネ、ハライを無視してみると……




 「『ミロ』だ……!」




 ミロが目を見開く。


 これはまだ妄想の域を出なかったからミロ本人にも詳しくは伝えていなかった。


 「そう、で首の向きを戻すと、」




 「『川口』だ……!」




 ミロはまたしても目をまんまるにして驚きの声をあげる。


 「これは……全く気づきませんでした……」


 「ね……」


 他の面々も意表をつかれているようだった。俺もこれに気づいた時は衝撃だった。


 「ロサクの死体は文字に対して斜めだった。だけど、文字は入り口から見てみると、横書きで『ミロ』だったんだ。縦書きの『川口』に気づくにはみる角度を変えなきゃいけなかった。だから一方向からしか見てなかった俺たちは『川口』気づくことができず、『ミロ』だと断定してしまった。それで、ノレナが指さしていた親子が川にいる絵は川が出てくる口、つまり川口を指してたんじゃないかなと思ってる」


 こればっかりは確証は持てないが、おそらくそうであるはず。


 「それで、レオはその川口がこの事件になんの関係があると思うんだ?」


 クルトは冷静にそう問いかけてくる。


 「次に俺は犯人候補である、クルトのプレイヤー名『クルト=マツナフタ』を本名に置き換えようとしたんだ。けど、すぐにやめたよ。どうやったって川口に繋がらないのは一目瞭然だったからな。だから、ここからは本当に妄想なんだけど、この家にはやたらと親子を強調している絵があった。だから、俺は親がカワグチハルオで息子がクルトなんじゃないかとも思った。クルトは犯人でこの場を整えた人であるから、相当な金持ちだ。この館と島を買えるだけの資産が、『勇者システム』創設者の息子ならあるんじゃないかともおもった。けど結果的に息子じゃないみたいだし、クルトとカワグチハルオの関係性がわからなかった。もしかしたらクルトはカワグチハルオの名前を使っただけなのかもしれないと。でもだとしたら、ロサクやノレナが川口を最後に指した意味がわからなかった。だから、電子機器と事件の関係性を絡めて、クルトを犯人だと推察することはできても、動機や川口との関連性は最後まで見出せなかった。だから捕まえて、聞こうと思った」



 俺はクルトに改めて向き直り、しっかりと目を見る。



「クルト、教えてくれ。お前がなんで、人を殺したのか」


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