24. 咲くために咲く、
夜中、館の中。
一人の男が地下にある牢屋で女性との再会を果たした。
その後、男は自室に戻り、布団に入り、目を閉じた。
女性の方はというと、男性が牢屋に差しっぱなしにしていた鍵を格子の隙間から手を伸ばして、ガチャリと開錠する。
これで、彼女は長い眠りから解き放たれた。
現在、地下を監視していた女性は別の部屋で、読み物に熱中しており、彼女の脱獄に気づく気配はない。
彼女はただ一人、武器庫へと入っていく。
彼女は武器庫にあった、大勇者ヘレネの使用していた、【神級武器 ユーピテルの剣】をじっと見つめる。
彼女は一体何をしているのか、何をするつもりなのか。
彼女は壁にかけてあった、剣を手に取り、再びじっと眺める。
近くに並んでいた、洋服をスパりと斬って、切れ味を確認しているようだった。
次は鉄製の防具を斬り刻もうとする。
しかし、書庫に監視の女性がいるのを危惧してか、彼女は振り上げた剣をゆっくり降ろす。
彼女は武器庫を出て、地下から一階に上がるハシゴに手をかける。
大きな剣を持ったままでは上手く登れないようで、手こずっているようだった。
しかし、最終的にはなんとか登り切ることに成功していた。
彼女の足はこれからどこを目指すのだろうか。
彼女のつま先が指し示す方向は、浴場だ。
彼女の足はゆっくりと浴場へ向かう。
浴場には現在人が一人いる。
こちらも女性だ。
一人の女性が大浴場を広々と堪能していた。
彼女の足は、ゆっくりと、ゆっくりと、浴場へと向かう。
彼女はまず、浴場の手前にある脱衣所に足を踏み入れる。
脱衣所を進む際にも、足音を立てないよう、ゆっくりと歩いていった。
そして、浴場の扉の前まできて、彼女の歩はぴたりと止まった。
彼女はゆっくりと右を向き、扉の隣に置いてあるカゴの中身を眺める。
女性ものの下着、部屋着。
今この浴場に入っているのが女性であることを確認する。
彼女はまた、ゆっくりと向きをかえ、浴場の扉の前に方向を定める。
彼女はゆっくりと、左手を取っ手にかける。
右手には、剣を持ったまま。
そして────
ガチャリ、と扉が開かれた。
中に入っていた者は、突然の来訪にびくりと大きく肩を跳ね上がらせる。
「ああ、やっぱりお前だったんだな」
「違っ、これは……!」
「いや、もういい、もう、確信した。ロキウとロサクとノレナを殺したのはお前だな
─────クルト」
「な、何言ってんだレオ、ボクが犯人だって?一旦、落ち着けよ」
椅子に座って、それを後ろに隠したキノコ頭のクルトが平静を装う。
「いいから、何も後ろめたいことがないなら今隠したものを見せろ」
俺はズカズカとクルトの方へと向かっていく。
「い、今隠したもの?ボクはただ、この椅子に座ってただけだ」
「いいから!」
「あっ!」
俺は半ば強引にクルトが後ろのポケットに隠したものを奪い取る。
「なんでこれを持ってるんだ」
俺はクルトの目の前にそれを突き出す。
「なんで、ってその、館の中は暇だろ、だから、その……」
「暇だからこれを触ってただけだと?」
「あ、ああそうだ、だからボクは何も………」
「さっきから言ってることがめちゃくちゃだぞ」
「っ……」
何もしてないと言っていたのにそれを突き出すと今度はそれを触っていたと言い出す。
明らかに焦っている人間の言動だ。
クルトと俺の間にしばらく沈黙が流れる。
重く、張り詰めた沈黙。
「いや、」
その沈黙を割いたのはクルトだった。
もっと言い訳をするかと思ったが、クルトはあっさり認めたような表情をする。
「もういいか。多分もう、全部気づいてるんだもんな。このまま隠し通そうとすればきっと全てが無駄になってしまうな」
開き直ったように、クルトは話し続ける。
「タイミング的に、ミロもグルだろうな。わかった。認める。全員この部屋に集めてくれ」
クルトがやけになって自爆する可能性も考えたが、クルトの表情から見るにそれはなさそうだった。
俺はクルトが逃げないよう、クルトの部屋を気にしつつ、エイダンの部屋にいき、エイダンを起こした。
ミロは元々役割を終えたら、二階に向かってくる予定だったから、フレアとカサミラを連れてミロが階段を上がってきた。
全員が部屋に集まったことを確認し、クルトが話し始める。
「それじゃあ、レオの話を聞かせてくれ」
客室には椅子が一つしかないため、裁かれるクルトがそこに座り、俺たちはベッドや床に座っていた。
「ああ。まず、カサミラ、フレア、エイダンはまだ何も状況がわかっていないだろうから簡単に説明すると、俺はクルトが犯人ではないかと考えた。それをみんなの前で証明する確実な証拠がなかったから、ミロに協力してもらって、証拠を掴むことに成功した」
三人は少し驚いたような表情をした。
「それで、俺が今からクルトを疑うに値する根拠を話すから、クルト、あってたら正直に言ってくれ」
「ああ、わかった」
クルトは特に否定するでもなく、受け入れる。
その姿勢に全員困惑しているようだった。
確かに自分が怪しまれてここまで冷静でいられるとはすごいことだ。
俺は一呼吸おいてから話し始める。




