表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花めく為に散る、  作者: 苫田 そう
22/27

22. 幸せな時間


 寒い……体がだるい……


 もう、あれから何日経ったんだろう……


 私が地下の牢屋に閉じ込められてかなりの時間が経った。どれくらい経ったかは相変わらずわからない。


 正直なところ、私にはわからないことだらけだ。


 ロキウの事件についてみんなの色んな意見が飛び交っていたけれど、私は一つもそれらしい意見を言うことができなかった。


 みんなロキウを失った悲しみを抱えながら、必死に考えて、発言していたんだ。


 なのに、私は、ただただ悲しんでいただけ。何も、言えなかった。


 何も思いつかなかった。


 ロサクがどうしてか私の名前を死の直前に書いたことも、わからない。


 一体どうしてなんだろう。私は本当に、何も知らないというのに。


 ただ、みんなから私が怪しいと思われているのだけはわかっていた。


 一つ目の事件は全員が怪しかった。

 二つ目の事件は私が一番怪しまれる立場だった。

 三つ目の事件も第一発見者かつ直前にノレナと揉めたことで一番怪しまれる立場だった。


 だから、これ以上殺人が起きないために、一番怪しい私がここに閉じ込められているんだ。エイダンは少し言い方がきついけど、何も間違っちゃいない。


 私が傷ついて人が死ななくなるならそれでいいと思った。


 現に私がこの牢屋に入ってからは殺人事件が起きていないらしい。


 一人の犠牲で人が死ななくなるなら安いものだ。


 食事は摂らせてもらっているものの、最低限だ。

 エイダンの指示であるらしい。


 あんまり待遇を良くすると、もし私が犯人だった時、常に冷静でいられてしまうから。

 だから生きていける最低限の食事などを提供しているらしい。


 このまま私がここにいて、これ以上誰も死なないのなら、良い流れだ。


 良い流れのはずなのに……


 「はぁ……」


 ここに来てから、息を吐く時は必ず、ため息になってしまっている。


 もう、疲れたよ……


 身体は何より精神的に。


 狭い牢屋に気味の悪い人形がいくつも転がっていて、ちょっと動くだけで気味の悪い人形の妙に人間じみた感触を感じてしまう。


 寝る時も、人形たちが私の方をじっと見つめていて、私が目を閉じると眼前まで迫ってきているのではないかと、怖くて眠れない。


 そのせいで睡眠もうまく取れていない。


 でもこれはきっと私のせいなんだ。


 もちろん、三人を殺した犯人は許せない。


 けど、私はみんなのようにうまく推理に参加できなくて……

 自分が怪しまれてる立場だってわかっていたのに傷心中のノレナへの対応を間違えて…


 私がもっとうまく立ち回れるような人間だったら、きっとこんなことにはなっていない。


 そういう自分の弱さが今の状況を招いている。だから全部私のせいだ。


 魔王を倒すまでだって、私はちっとも役に立てていない。


 ただ彼の幼馴染ってだけで同行を許可されていたも同然。


 変な宝箱に捕まったり、いきなり出てきた魔族に驚いて薬をぶちまけてしまったり。


 私はいつもみんなの足を引っ張っている。 


 特に、彼には散々迷惑をかけている。


 なのに彼はそんな私のことを好きだと言ってくれた。


 私はそれすらも無碍にしてしまって。


 どうしてなんだろう。

 どうしてこんな私のことなんか好きになるんだろう。


 わからない、私は彼に守られてばっかで何の役にも立っていないのに。


 いつだったか、友達が「まっすぐで優しいね」そんな言葉をかけてくれた。


 いや、その友達だけじゃなかったかもしれない。


 色んな人に、まっすぐで正直だと言われてきた。


 まるでそれが褒め言葉みたいに。


 前しか見れない人とあらゆる方向を見れる人。


 どちらが良いかは言うまでもないこと。


 まっすぐだという言葉は同時に視野が狭い人間だと言われているようなものだ。


 私はまっすぐなんかじゃなく、そこしか見れていないただただ視野の狭い人だ。


 人を好きになるってどういうことなんだろう。


 視野が狭い私にはそれすらも理解できていない。


 もう今は全てがどうでもいい。


 ただ、今はみんなで笑い合いたい。


 彼に会いたい。


 この地獄がとにかく早く終わってほしい。


 私は、どうすれば私は……


 薄暗く、ぼやけた視界の中、扉から一筋の光が差し込んできた。


 私はすかさずその光を掴もうと手を伸ばす。


 これは夢なのか、現実なのか……

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ