表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花めく為に散る、  作者: 苫田 そう
21/27

21. 簡単なこと

 カサミラのおかげで、今後の方針は決まったものの、捜査は相変わらず難航していた。


 カサミラと別れて、館のいろんなところを調べたり、自分の頭の中で一人一人の一日目からの行動を思い返してみたが、特に怪しい点はなかった。 


 いや、逆に言えば、全員が怪しくも見えた。


 いまだに犯人候補を絞り切れていない状態だ。


 やっぱり一番現実味のある推理はカサミラが言っていた管理人説だろうか。


 ロキウの落下に対する推理で、俺たちの中にいる誰かがアリバイを作るためにあのタイミングでロキウが落下するように仕組んだというものもあったが、正直カサミラの言う通りそれも難しいと思っている。


 あの場にいない管理人が落っことしただけの可能性が一番高い。


 だとしたら身内で疑いあっていたのがバカらしくなってくる。


 ただ、管理人が犯人だったとして、それで終わりじゃないしな。


 そんなこんなで色々考えてみても結局見当もつかずにベッドに横たわる。


 こんな調子で大丈夫なのだろうか。

 本当に俺はミロを助けることはできるのだろうか。


 今この瞬間、俺がベッドで寝ている間にもミロはあの気味の悪い人形たちに一人囲まれ、怯えているのだろう。それに一日目あの部屋に少し足を踏み入れただけでも体調を崩していたのに。


 ミロは昔からホラー系とかが苦手だったから牢屋の環境には相当苦しんでいるはずだ。


 確か以前、いきなり横から出てきた魔族にも心臓を飛び出して、逃げていた。

 怖いもの嫌いをクルトやフレアなんかが揶揄ってミロを脅かそうと画策した時もあった。確か俺がそれに加担したら、俺だけバレて強く怒られたっけな。

 それをフレアとクルトが影からニヤニヤして見ていて、ミロに見つかって結局三人まとめて怒られたんだ。


 ミロも怒っていたけど、なんだかんだで楽しそうだった。


 また、あの時に戻りたいな……


 ここから出た時、俺たちはもとの関係に戻れるのだろうか。


 全員で笑っていられるのだろうか……







 あれから二日経った。


 ノレナが殺されて以来、被害者は出ていない。

 それは犯人の目的が成し遂げられたからなのか、それとも単に犯人候補として挙げられているミロが動けない状態だからなのか、わからない。


 どちらにせよ、人が死なないということだけは良いことだ。


 しかし捜査に進展は、ない。新たな手掛かりも何もない。


 カサミラからの報告で、ミロは最低限の食事は摂らせてもらっているらしく、その他も最低限のことは監視のもと許されているらしい。


 監視といっても牢屋に付きっきりではないらしい。

 地下室に数時間いて、何度か状況を確認しに行って、要望を聞いたりしているらしい。


 ただ、精神的にはかなり参ってきているようで、話しかけても応えは曖昧らしい……


 カサミラから、今度内緒でミロに会わせてあげるということを伝えられた。


 俺はあの時以来、ミロへの接触を許されていないからカサミラの話はとてもありがたかった。カサミラはこうして俺とミロを気遣ってくれている。本当に優しい。


 俺はその言葉に甘えて、今すぐにでもミロの状況を確認しにいきたいと思った。


 けれど、ミロに顔向けできるほどあの時から何かが進展したわけじゃない。


 それに接触すること自体にもリスクはある。


 だから結局ミロにはまだ会えていない。


 今日も俺は朝から前と同じ場所を、変わったところはないかと何度も何度も繰り返し念入りにチェックして何度も何度も同じことを考えてはゴミ箱に捨てていた。


 それでも、解決への糸口は見つからない。何度考えてもさっぱりわからないので、犯人は本当に魔法を使えるんじゃないか?なんてことも考え始めていた。


 犯人は隠密スキルか何かを使い、ロキウを殺して魔法で上まで運んで、落っことした。


 そして隠密スキルで、ずっとロサクやノレナを監視していた。


 その上、謎の血文字でミロを犯人にしようとした。


 犯人は『管理人』か『転生者』だ。もしくは両方だ。そうだ、そうに違いない。


 だってこんなこと倫理的にも物理的にも人間にできることじゃない。


 カサミラの話を聞いてから俺はやる気に満ち溢れて必死に考えたが、やる気でどうこうなるものじゃなかった。


 そんな無力な自分に失望して、また俺はどん底に堕ちていた。


 何を考えても全て無駄なような気がして。


 元々俺たちの滞在は七日の予定だった。

 今は六日目の夜だ。


 このままいけば、明日には送迎の船がこの島まで来て、何か異変に気づいて助けてくれるかもしれない。そうなれば鍵もいらない。なんとかして扉をぶち壊してもらうのだ。


 当初は連日降り続けている雨のせいで船がこちらに渡れず、八日目、九日目と滞在が延びるのではとも考えられていたが、流石に雨はそこまで長続きしないようで、次第に弱まってきているのが館に届く雨音でわかった。


 次第に弱まる雨の勢いを見て、この地獄がもうそろそろ終わるかもしれないという安堵と、このままではミロが犯人で幕を閉じてしまう、という焦りが押し寄せていた。


 正直、焦りの方が大きい。


 まだ、この館を出れる保証はないとはいえ、最速で明日の朝には決着がついてしまうかもしれない。


 俺は、もう一度塔の上まで登ってみてロキウが落とされた時のことなどを頭の中でイメージして見たり、管理人の潜む隠し部屋はないかと、壁をコンコン叩いてみたりと動き回ってみたが意味がなかった。


 まずい、このままでは本当に……


 結局実質最終日である今日も何も進展せず、俺は肩を落とし重い脚で自室に戻る。


 俺はミロを守るとかいって、結局何もできていない。つくづく自分が嫌になる。


 ドアを開けて、部屋に入ろうとするとドアにある小さな段差に躓き、うつ伏せに転んでしまう。


 「……ってえ」


 連日何度も塔の上と下を往復したことで、脚がパンパンになってしまったようだ。


 受け身もうまく取れず、おでこを軽くぶつけてしまう。


 ぐるりと身体を回転させて仰向けになる。両手をだらりと広げる。


 「……はぁ」


 どうやら俺は今、本当にどん底にいるようだ。


 俺は、俺はどうすればいいんだろうか。


 このまま俺はミロを助けることができずにこの島から出るのだろうか。


 俺は、魔王を倒す前と倒した後で何も変わっていない。むしろ、調子に乗って以前より退化している。得たのは名誉だけ。そんなアクセサリに、一体なんの意味があるというのだろうか。名誉は時に、人の限界を決める印となる。お前のピークはそこだったんだと、誰かに旗を建てられたような、そんな感じだ。人は大きな偉業を成し遂げると、後は落ちていくだけなのだろうか。


 だとしたら残りの人生になんの意味があるというのか。


 ただ、終わりを待つだけの人生。それしか道はないのだろうか。


 「……たけえなぁ」


 それにしても、この館の天井は普通の家の天井より高いな。


 この部屋の天井も、よくある宿の客室より高い。


 その分広く感じられるからいいんだけど。


 そういえば、天井はしっかり見れていなかったな。


 ただ高い、それだけの感想しか抱いていなかった。


 天井は木でできているようだった。


 「……あれは……?」


 天井の扉沿いの角に違和感を感じる。


 違和感の正体を探るためにじっくりとそこを見つめる。


 その正体に気づいた瞬間、俺はすぐさま目を背ける。



 「そういう、ことか」



 これが、ロキウやノレナやロサク、全員の部屋も同じだとすると。


 ああ、なんということだ。


 俺はとんでもない勘違いをしていたらしい。


 どうりで辿り着けないわけだ。


 こんなにもヒントは散らばっていたというのに。


 気づけなかった自分が本当に情けない。


 全ては、館に入る前から始まっていたというのか。


 となるとロキウの仕掛けも……


 俺はもう一度、初日からの全員の動きを思い出して、今得た手掛かりを元に照合していく。


 俺の頭の中で、全てが繋がっていった。


 こんな簡単で、単純な結末に俺は少し、肩透かしを食らった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ