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花めく為に散る、  作者: 苫田 そう
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2. 勇者システム

そして物語はここから始まる。



 ここは魔の森林『ヘルヘイム』ここでは陽の光が一切当たらない、いや正確に言えば陽の光は当たっている、当たっているのにも関わらず、暗澹たる霧と鬱蒼とした森林のせいで、陽の光は一切の意味を成さない。


 この地に根付く木々や魔獣たちは全て凶暴化しており、ここを人間が一度歩いたならば、すなわちそれは死を意味する。人間が口にできる食料は愚か、純粋な水さえ形をなすことができない。ここにあるのは魔を帯びた、『魔王』にとって都合の良いものだけである。


 そんな中、人類は『魔王』討伐作戦を決行し、戦いは現在一つの『パーティ』によって終盤戦に差し掛かっていた。

パーティ名[インヴィクタス]のリーダーである『勇者:レオ=ガンサラワ』は魔の荒野『ヘルヘイム』の舞台で『魔王:メフィストフェレス』の右腕を切り落とすことに成功する。『勇者:レオ=ガンサラワ』は黒い髪をした好漢といった青年である。


 彼はそんな好印象である顔を崩すことも厭わず、必死の形相で相手と対峙する。すでに彼の黒い髪の半分は血で赤く染め上げられ、骨の幾本かも折れていた。


「レオ!いつまで前線にいる!一旦下がって、ミロに診てもらえ!」


とパーティメンバーのきのこ頭をしたやや背の低い青年、『勇者:クルト=マツナフタ』がそんな彼の姿を見て、後方から支持を飛ばす。小柄な彼だが、誰よりも物事を大局的に見ることができる。


 「オレの活躍を後ろで指咥えて見てろよ、ヘボカスが!今度は俺様がもう片方の腕へし折ってやるぜ!」

 「俺もいるからな!安心して休んでこい!」

 「ああ、この場は一旦任せたぞ!」


『勇者:レオ=ガンサラワ』はやたら口の悪く、ガタイの良い金髪で短髪の『勇者:エイダン=イウロチカ』とそれよりも一回り大きい体躯に、赤髪を上に整えたヘアの『勇者:ロキウ=シスズ』の気迫に託し、大人しく後衛に回る。二人とも自分に引けを取らない実力者であるため、指示通り彼は後退する。


 「レオ!こっちこっち!」


紫色の木々に隠れていた、白髪ロングヘアで、この殺伐とした場に似つかわしくない透明感を持った『勇者:ミロ=トリカ』が彼に手を振る。


 「ミロ!無事だったか!」

 「うん、レオたちが『魔王』から生まれた『魔物』も前線で処理してくれてるから、私たちの所は全然問題なし!」

 「よかった!」

 「それより私はレオのが心配だよ………こんなボロボロになって……大丈夫なの?」

 彼女は傷だらけの彼の顔に両手を当て、彼の顔をじっと覗き込む。

 「だ、大丈夫だよほら!」

 その他の何にも例えることの出来ない美しい双眸に吸い込まれる前に、彼は力瘤を作って彼女に無事をアピールする。


(魔王と戦ってる最中だぞ!あのことは一旦忘れろ、俺!)

 彼はブンブンと首を横に振り、邪念を打ち払う。


 「僕たちもいるんだから、あんまりイチャイチャしないで貰おうか」


 と横から好青年の声が聞こえてくる。先ほどの前衛にいる二人とそう変わらないほどの上背を持ち合わせていながらも細身であるため、威圧感は少なく、誰からも好かれるような見た目だ。

 さらさらとした黄金色のヘアとやたらと白い肌を持った彼の名は『勇者:ロサク=ヒテルダ』。このパーティの中で一番の勇者は誰かと問われたら誰もが彼と即答してしまいそうな容姿だ。


 「イチャイチャはしてない!」

 と彼は慌てて返す。


 「はいはいわかったよ。後ろからのアドバイスとしては、後ろには僕とノレナもいるんだからミロちゃんの心配はしないで、『魔物』もこっちに任せちゃって大丈夫だよ。なんてったって僕は勇者の中でも騎士だからね、守ることは得意なんだ。君たちには思う存分前衛で暴れてほしい」

 「…助かる。なるべく任せるように、する」

 と彼は目を逸らして返事をする。


 すると、

 「まだ不満がありそうね?」

 またしても横から声がかかる。彼女は『勇者:ノレナ=クラハス』。

 深紅の髪を長く伸ばした美女である。『大勇者』と同じような見た目をしていながらも、普段の言葉遣いや行動はおおよそ『大勇者』のそれからはかけ離れている。


 「不満があるってわけじゃ……」

 「いいから黙って任せなさいよ。まだ出会って日の浅い私たちにアンタの可愛い幼馴染を任せるのは抵抗があるのかもしれないけれど、今はそんなこと考えてる場合じゃないのはアンタもわかってるでしょ?」

 彼は小さく頷く。

 「それに騎士のロサクが役立たずでも問題ないわ。私が敵をこっちに近づけさせる前にこの銃で撃ち抜くの。そうすれば奴らはアンタの彼女に指一本触れることが出来ないでしょ。わかったならさっさと彼女に傷の具合を診てもらって、問題なければさっさと前線に戻って『魔王』だけに集中しな。結局アンタは死なないんだし」


 「「彼女⁉︎」」

 それを聞いた二人は驚いて、湯だった顔を見合わせてお互いにぷいとそっぽを向く。


 「レオのやつ遅えな!あいつ再起不能か⁉︎」

 と前の方から声が聞こえてきたので、直ちに様子を見てもらって、軽く治療を済ませ、前方に戻る。


 数分後彼が前線に戻ると『魔王』のもう片方の腕も落ちていた。

 「今がチャンスだ!一気に畳み掛けるぞ!」

 戻るやいなや彼は仲間に発破をかけ、ぐんぐんと進軍していく。


 「そう簡単に終わらせると思うなよ、小僧共が!」

 「ハアアアッッッ!」


 魔王もここで終わるつもりは無いらしく、最後の足掻きをする。両腕がなくなったとは思えないほど鋭い蹴りを繰り出し、復帰した彼を狙う。それを『勇者:ロキウ=シスズ』が鋼鉄の防具を身に纏ったその身体で思い切り受け止める。他の人間にこのような人間離れした技は到底できるわけもなく、これは日頃の身体への絶え間ない研鑽と怖気づかない胆力による賜物だ。


 「今だ!」

 と『勇者:レオ=ガンサラワ』が叫ぶ。


 すると中衛からオレンジ色の長髪を結んだ『勇者:フレア=スジミカ』の矢と、ふわふわした緑色の髪を持つ小柄な少女『勇者:カサミラ=ノイム』の弾丸が『魔王:メフィストフェレス』の腰を射抜く。


 「ガァッッ……!」


『魔王:メフィストフェレス』は思わずよろけて態勢を大きく崩し、その瞬間大きな隙が生まれる。

その隙を見逃さず、『勇者:レオ=ガンサラワ』と『勇者:エイダン=イウロチカ』が『魔王』に制裁の剣を振り翳す。長年の思いを全て込めて。


「「ハアアアッッッ!!!」」


 凄まじい剣圧と勇者の剣幕に『魔王』は、自分の首が切断される未来を見る。

 それを見たところで、この状況を打開する一手を『魔王』は持っていなかった。

 『魔王』は死に際、自分の身体を流れる全ての『魔』を全身から放出させて、叫ぶ。


 「貴様ら、これで終わると思うなよッ!!人間ごときが儂に楯突いたこと、必ず後悔させてやる!!この首が分断されようと、身体の一部分もこの世に残らずとも、必ず貴様らを死へ導くッ!!いいか、これは『呪い』だ!!全ての人間を呪ってやるからな!!いつか必ず、どんな手を使おうとも貴様ら全員を殺してやるからなァァァッッッ!!!」


 『魔王』の首がごろりと落ち、それに伴い体もパラパラと崩れ落ちていった。

 首を切断された『魔王』が口を開くことはその後二度となく、天から陽の光が勇者たちを讃え、大地が息を吹き返した。


 『魔王』の消滅により、この世に蔓延る魔が全て吹き飛んだのだ。

 これにて、人類と『魔王』による長きに亘る戦いは終焉を迎えた。


 ───そして、魔王が死に際に放った言葉の意味を、彼らは後に知ることになる。


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