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花めく為に散る、  作者: 苫田 そう
17/27

17. 当たり前の真実




「『ミロ』……?」


 「これは一体……」


 ありえない。


 ロサクが殺されたことも、ダイイングメッセージに『ミロ』と書かれていることも。


 何かの間違いじゃないか?


 いや、何度瞬きしてもここは現実だ。


 「……オ!」


 だめだ。状況を飲み込めない。


 俺は自分の息が遠く、荒くなっていくのを感じる。


 ロサクを殺したのはミロ?いや、そんなはずはない。動機もないし、そもそもミロはそんなことをするような人じゃないってのは俺が一番知っているはずだ。


 じゃあなんで『ミロ』なんて書いてある?どうしてロサクはそう書いた?


 「レオ!」 


 クルトに肩を強く揺さぶられて俺は我に戻る。


 「ひとまず、ボクがここまで女性陣を呼んでくる!オマエはとりあえずロサクの脈と状況をしっかり確認しろ!」

 「わ、わかった!」


 そうだ、まずはしっかり内より外に目を向けなければ……


 ロサクのダイイングメッセージを書いている手とは反対の左手の手首を触るも、すでにひんやりとしていて、脈もない。専門的な知識が無くてもわかる。ロサクは死んでいた。


 少し経つと、クルトがみんなを部屋の入り口まで連れてくる。


 そこにフレアの姿もあった。フレアは単に寝坊していて、特に怪我もなさそうだった。


 そこでざっくりと事態の説明をして、見たくない者は見なくても良いと言ったが、結局この場にいないノレナ以外の全員がロサクの死体を目撃することとなった。


 「え……?これ、『ミロ』って……」


 全員の視線が名前の持ち主であるミロの方を向く。


 「違う違う、私何も知らないよ!」


 視線を一気に向けられたミロは狼狽し、必死に自分は何も知らないことを主張する。


 「本当だよ!私、昨日の夜は部屋に戻ってずっと寝てたよ!誰とも喋ってない!」


 「ミロ……」


 ミロの必死の弁明も虚しく、全員がミロから気まずそうに視線をズラす。


 「そん、な……」


 部屋には張り詰めた空気が充満する。誰かが口を開けば破裂してしまいそうなほど。


 それゆえ誰も声を上げることができなかった。


 ミロは目を麗せて思わず泣き出してしまいそうになる。


 それでも、泣かないように必死に下唇を噛んで、ふるふると震えている。


 ダイイングメッセージに名前を書かれるということはすなわち犯人だと指名されたようなもの。やってもいない残虐非道な仲間殺しの罪をいきなり着せられたミロの心情はどんなものだろうか。


 俺にはわからない。わからないけど、想像はできる。ミロがどんなに辛いか。


 だから、


 「みんな、一旦部屋を出よう。それで、ノレナを呼んで落ち着いたらみんなで話し合おう」


 俺が声を上げてミロを救わなければならない。


 今ここでミロに死体の状態を確認させるのは流石に酷だろう。


 俺がさっき触った死体の感覚を元に、昨日のロキウの死体の状況との差を意識して大体の死亡推定時刻を割り出すことはできるかもしれない。


 とりあえず今はこの張り詰めた部屋から出ないといけない。


 「ほら、みんな一旦出よう」


 パンと手を叩いて部屋から出るように促す。


 渋々みんなは重い足を部屋の外まで運んでいく。


 ミロの背中からは未だかつてないほど落ち込んでいることが察せられた。


 部屋を出て、ノレナのいる部屋へと向かい、ノレナにも同じようにノックをすると、


 「何?」 


 とやや棘のある返事が扉の向こうから返ってくる。


 どうやら前までの棘を出せるくらいには昨日よりは元気を取り戻しているようだった。


 おそらくは昨日ロサクが付き添ってくれたことが大きな要因だろう。


 となると……


 今から話す内容はノレナにとって酷になる。


 話すべきか話さないべきか一瞬逡巡するも、今ここで隠しても意味がないと俺は思う。


 遅かれ早かれ知るなら早い方がいい。

 ロサクの死は揺るがない事実なのだから。


 わずか二日間で幼馴染を二人失うということは普通だったら耐えられない。


 精神が弱っている今のノレナだったら尚のこと。


 でも、告げるしかない。


 俺は重く閉した口をゆっくりと開く。


 「ノレナ、その、落ち着いて、聞いてほしいことがある……」

 「……」


 返事はない。


 けど俺は話すことをやめない。

 一度深呼吸をして、言わなければいけない言葉を吐き出す。


 「ロサクが部屋で殺されていた」


 ゴトっと扉の向こうで何かを落とす音が聞こえた。


 「それ、ほんと……?」


 震えた声でノレナが聞き返す。


 「ああ、本当だ……」


 しばらくすると、扉の向こうからは叫び声や泣き声が混ざった声が響き渡ってきた。


 怒り、憎しみ、哀しみ、どの感情とも言い難いようなものをひたすらに爆発させているようだった。


 それを聞いて、全員の胸がギュッと締め付けられる。


 扉の向こうを見なくてもノレナがどれだけ辛い思いをしているか察せられる。


 俺たちはノレナの状況を察することができただけで、ノレナを落ちつかせられるような言葉をかけることができなかった。


 何度かミロが口を開きかけたが、自分が犯人と疑われてる今、うまく言葉を紡げないようだった。


 こんな時、ロサクがいれば状況は大きく違っただろう。

 いつも冷静で、優しく語りかけてくれて、みんなをまとめてくれていた。


 昨日だって自分も辛いはずなのに、必死にロキウの死を解明しようと冷静に振る舞って一緒に推理をしてくれた。今のように我を失ったノレナも落ち着かせてくれた。




 ただもう、ロサクは居ない。

 






 ロサクの死からしばらく時間が経った。


 それぞれ部屋に篭ったり、ダイニングで椅子に座ってただただ沈黙の時間を過ごすものもいた。


 俺はダイニングにいて、口を開こうとしては閉じるを繰り返していた。カサミラが一度みんなに昼食をとるか尋ねたが、断ることにした。今はどうにも食欲が湧かない。


 ずっと頭の中にさっきの光景が浮かんでいる。


 力の抜け切った血だらけのロサク、その腕が伸びた先には……


 『ミロ』あれは確かにそう書かれていたはず。


 ミロが事件に関わっているのか?でもミロは事件への関与を否定していた。


 だから、ミロが犯人なはずはない……犯人なはずがないんだ……


 「テメエらずっとこうしてるつもりか?」


 ぶっきらぼうに口を開いたのはエイダンだった。


 「どういう意味だよ」

 「そのまんまの意味だ。このまま黙ってても何にも解決しねぇってことだよ」

 「……んなのわかってるよ」


 わかってる。俺だってわかってる。このまま黙り込んでいても何も解決しないってことくらい。俺は苛立ちを隠せずに、やや強めに返事をする。


 「わかってんならさっさと考えんぞチキン野郎」 


 「わかってるわかってるから……」


 「じゃあ早速テメエの幼馴染が犯人だった件についてだが───」


 「なに言ってんだてめえ!」


 ガタン、と俺は椅子から乱暴に立ち、エイダンの胸ぐらを掴む。


 「ミロは犯人じゃない!少し考えればわかんだろっ!」


 「なんだテメエは……」


 「お前こそなんなんだよ!いつも俺に突っかかってきて!こんな時にも他人を挑発するような発言して!少しは他人に気使えよ!」


 「ハッ……!生まれつきなもんでなぁ悪かったなぁ。そういうテメエは他人のこと気遣ってるって言えんのか?」

 「少なくともお前よりはな!」


 「へぇ……じゃあ今、テメエはなんでピーピー喚いてんだ?」


 こいつは何を言っているんだ?自分の発言が俺の神経を逆撫でしてることに気づいてないのか?こいつが他人のことを全く考えられないから俺がこうしてイラついてんだろ?


 「そんなの、お前の発言に───」


 「ちげぇな、女だろ?」


 は?女?ミロのことか?何を言ってるんだこいつは。なんでいきなりミロが出てくる。


 でも確かに、こいつがミロを犯人だと決めつけたような発言をしたからムカついてるのは間違いじゃない。


 そうだ、だから怒ってんだよ俺は。


 「結局テメエは女のことしか頭にねぇんだよ猿が」


 「はぁ!?」


 俺が猿だって?大概にしろよこいつ。なりふり構わず敵意を撒き散らす猿はどっちだ。


 「見たところテメエ、あのイケメンが殺されたことに対してはちっとも怒ってねぇじゃねぇか。仲間が死んだことより、自分の女の心配しかしてねぇじゃねぇか」


 「……ッ」


 「いっつも女の尻ばっか追いかけて、昨日は人が死んでもケロッとしてたくせに今日は自分の女が関わってると知ってひどく狼狽してやがる。他人は平気で疑ってかかる癖にいざ自分の女が犯人の線が濃くなったら喚いて、こんなの猿以外のなんでもねぇだろーが」


 エイダンの言葉に、俺は何も返すことができなかった。


 エイダンの胸ぐらを強く掴んでいた手を緩め、俺はゆっくりとエイダンから身を引く。


 違う。別に俺がミロを贔屓しているから怒ったんじゃない。

 俺はただ、ミロが関わってるわけないと思って、なのにあいつが───


 いや、同じことか……ただ別にロキウとロサクがどうでもよかったなんてことはない。 


 本当にあの二人のことは心の底から悲しいと思っているし、二人を殺したやつを許せないと思っている。そのために犯人を見つけようとみんなで推理をしていた。


 俺はここまで意見らしい意見を言っていなかったそれは客観的に物事を見ているつもりだったけど、ただ怖かっただけなのかもしれない。自分の好きな人が犯人になることが。


 それを指摘されてなお認めたくないんだ。

 それくらい俺にとってミロという存在は大きかった。


 「レオもエイダンも一旦落ち着こう、な?」


 とクルトが間に入って場を取りもとうとする。


 俺はこのパーティのリーダーなのにリーダーらしいことが全くできていない。結局いつもこの場を落ち着かせるのはクルトだったり、もういないロサクだったりした。


 俺は本当に何も見えていない。


 「今はここにいない人もいるし、一旦落ち着いてから夕食の時にみんなでゆっくり話し合おう。それでいいな?」

 「……ああ」


 俺は力無く返事をして自室に戻る。 


 自室に戻ってからも、どうしたらみんなのミロへの疑いを晴らせるか、なんてことをふと考えては自分が嫌になっていた。







 そして気持ちの整理がつかないまま夕食の時間が来た。


 結局ダイニングにはノレナ以外の全員が集まることとなった。


 カサミラの用意してくれた食事は栄養重視の料理がずらりと並んでいた。

 カサミラの料理の腕は全く悪くないが、正直のところ全く味がしなかった。


 「それじゃあ、話し合おう。頼むから、冷静にな」


 おそらくこの場で一番冷静に、客観的に物事を見れているクルトが場を仕切る。


 「まずはそうだな……レオ、あの時のロサクの死体の状況を説明してくれ」


 「……部屋に入ったら、床で倒れているロサクを見つけた。……ロサクは血溜まりにいて、何箇所かを剣で刺されたような跡があった。剣だと思う理由はうつ伏せになっているロサクの右の方に神級武器の剣が雑に置かれていたからだ。血も付いてたし、間違い無いと思う。それで、死体を触ってみて、ロキウの時と比べたら死後硬直は言うほど進んでなかったように感じた。ロサクが殺されたのは明け方だと思う。ただ、こればっかりは当てにしないでほしい。あくまでも昨日ロキウの死体を触った時との比較をしてなんとなくで言っているだけだ。全く違う可能性もある」


 これだけは本当に当てにならないただの素人の勘でしかない。


 それと、あとひとつ……


「……それと、ロサクの右腕の斜め上には、血文字で、『ミロ』と書かれていた……」


 声を震わせながら俺はなんとかそのセリフを発する。


「ありがとう、レオ。ダイイングメッセージについて話す前に、まずは全員の昨日の行動を確認したい。一人一人聞いていくと長くなるから、昨日夜解散したあと、どこかに寄ったり、部屋に戻った後に部屋の外に出たという人は手をあげてほしい」


 クルトが全員の顔を見渡す。


 クルトの問いかけに対して誰も手を上げることはなかった。


「それじゃあつまり、犯人はこの中にはいないってことになるな」


 この場の誰も、昨日解散したあと自室を出ていないと言っているのだから、それを間に受ければこの中に犯人はいないことになる。


 クルトの発言に対して誰も何も言おうとしない。


 それはみんながこの中に犯人がいないと思いたいからなのか、それと下手に発言してボロを出して自分が犯人であることをバレたく無いからなのか。腹の内はわからない。


 ただ確かなのはこの島に殺人鬼が潜んでいるということ。


 そいつは誰にも気取られないように息を潜め、夜になると動き出す。そいつの狙いはわからない。人を殺すことを快楽として俺たちをじわじわ嬲り殺すことが目的なのか、それとも何か明確な動機があってやっているのか。


 わからない。


 「じゃあ、次だ。『ミロ』と書かれたダイイングメッセージについて話し合おう。くれぐれも感情的にならないように、冷静にな」


 クルトはオマエらに言ってるんだぞ、といった風にチラリと俺とエイダンの方を見る。

 それに対して俺は目を伏せる。俺は感情的にならずに話し合いを進められるだろうか。


 「まず、ダイイングメッセージっていうのは誰かが殺害された時に、殺された人が犯人特定の鍵となるメッセージを死に際になんらかの形で記すというものだ。それを踏まえて、聞く。ミロ、本当にオマエはこの事件に関係がないんだな?」


 「ないよ!絶対に!」


 ミロは身を乗り出して、強めに返事をする。早速感情的になってるが無理もない。


 「何かロサクと人に言えないような関係があったとかは?」


 念には念をとクルトはかなり攻めた質問をミロに投げかける。


 「ない。誓って、ない!だって私、ロサクとは私たちのパーティがロサクたちのパーティと合流して初めて知り合ったんだもん。その後も特にプライベートで会ったりとかは一度もなかったよ」


 そうだ、ミロの発言は俺の記憶と合致している。俺の知る限りミロはロサクとそれほど親しくしているようには見えなかった。だから殺す動機が全く無い。


 「わかった。信じよう」


 とクルトがあっさり返事をするとミロはひとまずホッと胸を撫で下ろす。


 「それじゃあ、ダイイングメッセージについて何か考えのある奴はいるか?」


 再びクルトが全員をぐるりと見渡しながら問いかける。


 考えはあるにはあるが、これは俺がミロを贔屓しているから思いついた考えなんじゃないかと思うと少し怖い。バイアスにかかっているのではないかと考えてしまう。


 俺が尻込みしていると、


 「あのー……」


 とカサミラがゆっくり手を上げる。


 「私の考えだと、やっぱりミロさんは犯人じゃ無いと思います」


 「それは一体どうしてだ?」


 「ミロさんが犯人だとしたら、わざわざ血文字を残さないと思うんです。ミロさんが犯人だったら、ロサクさんが亡くなる直前に書いたあの文字を消してから部屋を出ると思います。自分が犯人であるという決定的な証拠を残して去るとは考えられません」


 カサミラの考えは俺と全く同じものだった。


 もし、ミロが犯人だったとしたらロサクが死に際に書いたあの文字を何かで拭き取ったりして、とにかく文字を書くことを阻止できたはずだ。


 それなのに、血文字は綺麗に残っていた。 

 だから、ミロは犯人では無いと考えるのは普通のことだ。


 これはきっと犯人がミロが犯人になるような流れを作りたかったのではないかと。


 「時間がなかったんじゃねぇのか?」


 とエイダンが反論をぶつける。


 「それは無いと思います」


 カサミラはあっさりとその意見を否定する。


 「犯人が時間がないという状況はかなり限られていると思います。おそらくロサクさんが殺害されたのは明け方ですが、それでもまだ誰かが起きるような時間ではありません。また、当然ですが犯人は誰かが起きる可能性を頭に入れていながら犯行に臨んだのです。早くしなきゃという思いはあったかもしれませんが、血文字を消すのにかかる時間はおそらく数秒です。そんな数秒も惜しいくらい時間に追われていたとは考えられません」


 「他の誰かの足音がしたとかは?」


 次はフレアが疑問をぶつける。


 「それもないと思います。先ほどクルトさんが皆さんに聞いた通り、私たちの中には夜中に自室を出た方々は私を含めていません。仮にどなたかが嘘をついていて、夜中に出歩いていたとしても最低一人です。そしてその一人は犯人です。つまり犯人以外に自室をでたという方がいないので、フレアさんの言う誰かの足音というのはありえないこととなります」


 「なるほどねー」


 俺らの中の誰かが本当は部屋を出ていたとしても、それは犯人しかいない。


 犯人しかいないなら誰かが廊下を歩く音など聞こえてくるはずがない。


 「んじゃあ上にいるヒステリック女が夜中に廊下を徘徊してて、それにビビった殺人野郎が急いだって可能性はねぇのか?」


 「あ……。すみません、それは考えていませんでした」


 エイダンの言うヒステリック女とはおそらく傷心中で二階の自室に篭りっきりのノレナのことだろう。


 カサミラの言う通り、俺たち全員が夜中に自室から出ていないと言っているため、犯人からすれば、誰かの足音は聞こえるわけがない。


 しかし、ノレナが夜中に自室を出て、廊下を歩いたという可能性がある。


 犯人がノレナの足音を聞いて焦って、血文字を消し忘れたという可能性もある。


 「これで、どっちの可能性も残るな」


 エイダンの云うどっちはおそらくミロもしくは別人の二択だろう。一瞬エイダンがミロを犯人候補として残したいように見えてしまって俺は膝をつねり自制する。


 「それでも私はミロさんではなく、管理人さんが犯人だと考えてます」


 「なんでだ?」


 「管理人さんが、ロサクさんが亡くなった後に血文字で『ミロ』と書いたんですよきっと。私たちの仲を険悪にさせるつもりだと思うんです」


 カサミラは昨日話した通り、未だ姿を現さない管理人が犯人だと思っているようだ。


 「それはどうだろうなァ。どうも現実的じゃねぇ。俺には誰かがいもしねぇ管理人作り上げて好き勝手やってるようにしか見えねぇな」


 みんなエイダンのように口には出さないが、頭の中での犯人候補は管理人とミロの二択になっているに違いない。

 管理人説を否定するエイダンの言葉を聞いて、ミロの表情がまた少し陰る。


 クソッ!


 俺は本当にダメだ。

 何も考えられていない。


 ヒントはある。充分あるはずなんだ。謎がそのままヒントになっているはずなのに……


 全く見えてこない。謎は謎のままで答えに辿り着く気が全くしない。 


 この中に犯人がいるのか、それとも管理人が犯人なのかもわからない。


 ただ確かなことは仲間が二人殺され、犯人がこの島にいるということだけ。


 それだけが事実として残っている。


 ここから先、また誰かが殺されるかもしれない。


 俺はどうすればいいんだ……


 様々な思考が頭を駆け巡る中、ガチャ、という扉の音が耳に届く。


 ダイニングの入り口の方を見ると疲れ切ったノレナが入ってきた。


 「ノ、ノレナ……?」


 絶対に顔を出さないと思っていたが、先ほど、一応ドアの外から夜に集まってみんなで話し合いをするということをノレナにも伝えていた。


 まさか、本当に来るとは……


 ノレナはおそらく一日目の夜から何も食べていない。つまり二日近く食事をしていないということ。ノレナは無言で空いている椅子に座る。


 表情からは何も読み取れない。ただ、絶望していることは窺える。

 ノレナの登場に全員が動揺を隠しきれずにいた。


 「こ、コーヒーでも飲むか?」


 この場を取り仕切っていたクルトが慌てながら飲み物の提案をする。


 「……この時間にコーヒーはよくないだろ」


 と俺は小声でクルトに囁く。


 「あ、そうだな……じゃあとりあえず───」


 「コーヒーで良い。それと水と食事も」


 ノレナは特に否定するでもなく、どこか吹っ切れたような淡々とした口調でそう云う。


 「は、はい、わかりました!」


 カサミラは慌てて隣のキッチンスペースへと向かう。


 ノレナは夕食を摂りに来たのだろうか。

 流石に二日間も何も食べれなかったから限界が来て降りてきた……?


 いや、それならわざわざ俺たちのいる時間に来る必要はない。


 恐らくノレナは明確にこの討論に参加する意思を持ってここに来たということだ。


 「まずは来てくれてありがとう……。いくつか聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいいか?」


 クルトが刺激しないようにあくまでノレナの意志を尊重するといった風に語りかける。


 それに対し、ノレナは───



 「ロキウはアタシが殺した」



 「……は?」


 「いま、なんて?」


 ノレナの発言に全員の頭の中が真っ白になる。


 聞き取れなかったわけじゃない。聞き取った上で理解が追いつかないのだ。


 はぁ、と一度大きくため息をしてからノレナは再び言葉を紡ぎ始める。



 「だから、」





 「ロキウはアタシが殺した」


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