大仕事②
手の甲についた血を舐めてみる。
やっぱりエンジェルの血は甘いな。
突如として地響きが足元から伝わってくる。
バキバキバキ、っと遠くから聞こえてきたので振り返ると背後には大きなトゲの生えた生き物が立っていた。
恐らくあの大きさだとクラスE災害レベル。
······逃げるしかないな。
ちらと見えた横顔はハリネズミで、そう言えば背中のトゲも見覚えがある。
······さっき渡ってきたあのトゲはハリネズミのものだった可能性が高まってきた。
関係ない、後ろの対策課に任せよう。
ちょこちょこ後ろを振り返りつつ走ること6時間、やっと港町までたどり着くことが出来た。
「干潟通りの丸太号か」
まさかの船に運ぶことになるとは。
「『デリバリー』でーす」
「おかえりレル」
「おかえり〜!」
「······」
なんでいるんだ、と思っても口にしない。
イルさんとは数時間前に顔を合わせている。
多分亜人なんてみんなそんなもんだろう。
でもただのヒューマンにはもう少し気遣いが欲しい。
「船長室にラーメン置いてはやく帰ろっ?」
「はい······」
正直疲れた。
つーか普通に休ませて欲しい。
足元にある死体を踏みつつ船長室へと向かう。
一番豪華な扉を開けると、恐らく船長と思われる人物が気絶していたのでラーメンを置いて入口付近へと向かった。
「終わったの?」
「はい」
「じゃあとっとと帰ろー!」
帰りはどうすんだろ······。
徒歩じゃないならもうなんでもいい。
「レル、カレン乗って」
気付けば目の前には大きな鳥がこちらを見ていた。
「ひゃっはー!」
カレンさんが飛び乗っているので多分イルさんだろう。
身体を持ち上げてその巨体に跨る。
するとイルさんは翼を動かして飛び上がり始めた。
「俺、寝るんで着いたら起こしてください」
「えぇ······寝不足?」
「疲労です」
「いいよ、ロープ貸したげる」
ロープで自分の身体とイルさんの胴体を結び、尾の部分に仰向けで寝っ転がる。
目を瞑ってゆっくりと身体を休める。
ふと声をかけられ覚醒する。
数十分程、寝ていたようだ。
「レルレル、めっちゃでかいハリネズミいるんだけど!!!」
「へぇ······」
ハリネズミかぁ、あれじゃん。
今日逃げた奴じゃん。
500メートル程のハリネズミに対し災害対策課が苦戦しているのが遠目で窺える。
「もっかい寝ます」
「おやすみ〜」
あのハリネズミ、知性があるなら和平交渉でもすんのかなぁ。
まぁいっか。
次に起こされたのはおよそ1時間後で、そこはお店の前だった。
「おう、遅かったな。何かあったのか?」
「エンジェル殺してたら遅れました」
「そりゃあ大変だったな」
8時間走る方が大変でしたけど。
「じゃあ今日はもう上がっていいぞ」
「はーい」
その後家に着いてベッドに倒れ込んだ瞬間、僕は泥のように眠ったのだった。